title banner

アシスト陣にもやりきった達成感遅れても諦めなかったコンタドールとアール 宮澤崇史さんのジロ現地レポート<3>

  • 一覧

 ジロ・デ・イタリア終盤戦を視察・取材した元プロロードレーサー、宮澤崇史さんによる現地レポート。最終回は、個人総合優勝を決めたアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)と、総合2位に入ったファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム)の粘り強い戦いぶりに注目しました。また、宮澤さんの古巣ティンコフ・サクソで、コンタドールを支え続けたアシスト陣の奮闘ぶりについても、温かい視点でとらえています。

宮澤現地レポート<2>ダンシングに表れるコンタドールの好調ぶり

◇      ◇

チームを信じ、自分を信じた力勝負

ジロ・デ・イタリア2015 第16ステージで、コンタドールと2分13秒差でゴールしたファビオ・アール。この日、総合2位から3位に後退した (写真・砂田弓弦)ジロ・デ・イタリア2015 第16ステージで、コンタドールと2分13秒差でゴールしたファビオ・アール。この日、総合2位から3位に後退した (写真・砂田弓弦)

 5月26日の第16ステージで遅れたアールは、残り40kmを単独で前を追いかける展開の中、コンタドールと2分13秒差でゴールした。

 そして30日の第20ステージ、今大会最高峰(チーマコッピ)のコッレ・デッレ・フィネストレで、コンタドールがまさかの失速。ゴールまで残り30kmほどを残して単独で前を追い、2分25秒差でのゴールとなった。

ジロ・デ・イタリア2015 第20ステージで、ファビオ・アールの集団を追うアルベルト・コンタドール (写真・砂田弓弦)ジロ・デ・イタリア2015 第20ステージで、ファビオ・アールの集団を追うアルベルト・コンタドール (写真・砂田弓弦)

 この2つのステージ、地形も非常に似ている中、この2人の走りに共通して言えるのは、最後まで諦めずに自分のペースで走り続けたという事だ。

 少なからず自転車レースを走った事がある人は、集団から遅れたらどれだけのスピードで前が離れていくかを知っている。その後、小集団で前を追いかけても、なかなか追いつかないどころか、どんどん前が離れていくのが常だ。

 そんな中、アールとコンタドールは、集団とほぼ変わらないスピードで前を追い続けた。それができたのは、苦しみに耐える忍耐力、諦めない思考の強さがあればこそ。なにより、チームを信じ、自分自身を信じる事が出来なければ成し得ることではない。

 そして、無線の不要論が取りざたされる現在のロードレースシーンで、私はこんな時こそ監督からの言葉が選手にとって本当に必要な言葉だと思う。選手は自分がチームで戦っている事を感じる瞬間なのだ。

 2005年のジロ第14ステージ、パオロ・サボルデッリがマリアローザを着て、この年のチーマコッピ「ステルビオ峠」で遅れたことがある。

ジロ・デ・イタリア2005 第14ステージ、チーマコッピのステルビオ峠で、先頭から遅れてしまったマリアローザのパオロ・サボルデッリ (写真・砂田弓弦)ジロ・デ・イタリア2005 第14ステージ、チーマコッピのステルビオ峠で、先頭から遅れてしまったマリアローザのパオロ・サボルデッリ (写真・砂田弓弦)

 その時は後方の集団と合流し、グループのほぼ全員で前を追いかけた。「周りの選手を買ったのでは?」なんて噂が立ったものだ。サボルデッリはこの年のジロで総合優勝を果たしたが、気持ちの良い終わり方ではなかった事を覚えている。

 今年のジロ・デ・イタリアが本当の意味で良いレースだと思えたのは、この2人の力勝負によって決したからだろう。

レースで強くなれる選手こそ結果を出していく

 長い戦いを終えた選手たちは5月31日、ミラノへ向かう最終ステージに臨んだ。

アルベルト・コンタドール(ティンコフ・サクソ)の脚とコンパニオンの脚、どちらがセクシー?アルベルト・コンタドール(ティンコフ・サクソ)の脚とコンパニオンの脚、どちらがセクシー?

 コンタドールの足は、マリアローザに寄り添うコンパニオンの女性と比べても引けをとらない。スラッとして、それでいて絞り過ぎていない綺麗な足をしている。また、コンタドールは山岳系の選手の中でも群を抜いて上半身の厚みがある。

 ヨーロピアンは樽型の体型をしている選手が多いが、コンタドールは胸回りと肩甲骨周りの筋肉のボリュームがある。ダンシングを得意としている選手にとって一番ストレスがかかる場所に必要な筋肉がついていると感じた。

ファビオ・アール(アスタナ プロチーム)の、絞れていていかにも軽量クライマーらしい脚ファビオ・アール(アスタナ プロチーム)の、絞れていていかにも軽量クライマーらしい脚

 ファビオ・アールはこの後ツールにも出場するのでは?という噂が飛び交っているが、チーム監督のアレクサンドル・ビノクロフ氏と話してから決めると言葉を濁した。

 アールは、かつての名選手マリオ・チポッリー二氏に「馬の足首」とあだ名で呼ばれるほど、非常に細い足をしている。もしもツール・ド・フランスにでるとしたら、アールはその軽量な体を生かした戦略を練り、山岳が得意なチームメイトを生かした戦い方で挑まなければ勝つ事は難しいだろう。

 ジロを戦い抜いた選手たちは、1週間ほどの軽いトレーニングの後、次のレースに向けまたハードなトレーニングを始めなければならない。このレースで何かをつかんだ選手は、今後のレースでさらなる結果を出していく事だろう。

 ロードレーサーはトレーニングで強くなるのではない。レースで多くを学び、強くなれる選手こそ、さらに上のレースで結果を出していくのだと改めて感じた2015年のジロ・デ・イタリアだった。

万感をかみ締めゴールしたクロイツィゲル

 このメンバーをしてステージ後半に集団に残れないとは、ティンコフ・サクソのアシスト陣は一体どんなハードレースをしているのか。

 連日、スタート地点で最前列に並ぶコンタドールのアシストたち。こちらがカメラを向けると、悟ったかのようにポーズを決めるのは、マイケル・ロジャース(オーストラリア)、マッテーオ・トザット(イタリア)、ロマン・クロイツィゲル(チェコ)―いずれも経験豊富な選手たちだ。そんなシーンは慣れているはずなのに、疲れ切った様子は隠しきれない。若い選手はさらに余裕がなく、リラックスしている表情の中にも、足の痛みに耐える緊張感が漂う。

 彼らの仕事は、ラスト1時間まで、コンタドールを安全に力勝負出来る場所まで導く事。もし「今日はダメだ…」と言ってしまったら、全ての重荷がコンタドールにのしかかる事を知っているのだ。

 そんなアシストたちがゴールラインを通過する時、喜びを表す選手もいる。しかし私が心を打たれたのは、クロイツィゲルがゴールした時だった。唇を噛み締め、今にも泣き出しそうな表情でジロ・デ・イタリアを走り終えたのだった。

涙をこらえながらゴールするロマン・クロイツィゲル(ティンコフ・サクソ)涙をこらえながらゴールするロマン・クロイツィゲル(ティンコフ・サクソ)

 クロイツィゲルの中で、この長いステージレースの中で我慢に我慢を重ねて駆け抜けてきた想いや、やりきった達成感がこみ上げてきたのだろう。

 成し遂げた男のゴール。今夜のスプマンテが全てを癒してくれそうだ。

宮澤崇史宮澤崇史(みやざわ・たかし)

1978年2月27日生まれ、長野県出身。元プロロードレーサー。18歳よりフランス、イタリアを拠点に活動。23歳で生体肝移植で母に肝臓の一部を提供するが、その後レースに復帰し、全日本チャンピオン、アジアチャンピオン、2008北京五輪日本代表など日本を代表する選手として活躍。2012年、34歳で世界のトップカテゴリーのチーム「サクソバンク・ティンコフバンク(現ティンコフ・サクソ)」に加入し、2シーズンを走った。2014年引退。オフィシャルサイト「bravo

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

ジロ・デ・イタリア2015 ジロ2015・コラム 宮澤崇史

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載