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プロトンで落車が多い理由も分析コンタドールを中心に奮い立つティンコフ・サクソ 宮澤崇史さんのジロ現地レポート<1>

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 3週間の戦いも最終週に突入し、いよいよクライマックスへと向かうジロ・デ・イタリア。各チームや選手たちは、どんな思いや戦略で走っているのか? ジロ終盤戦を視察・取材するために現地入りした元プロロードレーサーの宮澤崇史さんが、Cyclistで数回に分けてレポートします。ティンコフ・サクソ、ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザなどで昨年まで活躍した宮澤さんならではの視点で、大会終盤のプロトンの動きを追っていきます。

第16ステージ、エドロの街を通過するプロトン。今大会のクライマックスの一つであるモルティローロへ向け、コンタドール(ピンクのヘルメット)を守るティンコフ・サクソが集団をコントロールする第16ステージ、エドロの街を通過するプロトン。今大会のクライマックスの一つであるモルティローロへ向け、コンタドール(ピンクのヘルメット)を守るティンコフ・サクソが集団をコントロールする

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アシストも総力戦のティンコフ・サクソ

 今年のジロ・デ・イタリアは、獲得標高だけでは量れないキツい戦いが続いている。私は日本で第11~13ステージのテレビ中継の解説をしたが、辛さを我慢するプロトンの選手たちの顔つきが印象的だった。この先の山岳ステージでどんな展開が繰り広げられるのか、期待よりもむしろ心配になりながらイタリアへと渡った。

 ジロの一団と合流した私は、まず2年前まで所属していた古巣のティンコフ・サクソを訪れた。第5ステージでマリアローザを獲得したコンタドールは、個人TTを前に1日だけ手放したものの、それ以外は長い間首位に立ち続けている。一方、最小で2秒というアドバンテージを守るために、大会前半から多くのアシストの力を必要とし、チームとして総力戦を展開してきた。

 このため、ライバルチームのアスタナは山岳ステージ終盤になっても4~5人の選手を残す中、ティンコフ・サクソは連日レース序盤からアシストの力を使い、サブエース格のマイケル・ロジャース、ロマン・クロイツィゲルの力も使い始めるなど、体力的に厳しい展開が続いている。

 アシスト陣に話を聞いても、「(逃げを狙うアタックがかかるため)常にレース開始後1時間は全力で走っている。それが終わった後も自分たちの仕事(集団のコントロール)が始まるから、精神的にも肉体的にもキツいレースが続いている」と口を揃えて語っていた。

コンタドールが見せる並外れた精神力

長い間、リーダージャージのマリアローザを守っているアルベルト・コンタドール(ティンコフ・サクソ)長い間、リーダージャージのマリアローザを守っているアルベルト・コンタドール(ティンコフ・サクソ)

 今年のジロは雨の日が多く、そうした環境が与える負担も選手には重くのしかかっているのだろう。コンタドールも幾度かの落車に見舞われ、一度は肩が外れてしまう(脱臼)大落車があった。「本能的に自分で入れた」というコンタドールだが、その日のポディウム裏でも外れてしまい、再び自分で入れ直したという。

 その後、今は手が上がるまでに回復しているように見えるが、レース後、カメラマンに囲まれたときには、スタッフが必ず「肩には触らないように!」と注意している。私も過去に肩を外し、あまりの痛さに気を失った経験があるだけに、彼の気持ちの強さと精神力の凄さを感じる。

 そしてコンタドールのその強い気持ちが、疲れているアシスト陣には、とても良い影響を与えているようだ。私が注目している25歳のデンマーク選手、クリス・ユールイェンセンは、「自分はクラシックを得意としている選手なのに、こんなにも山が上れることにびっくりしている、これもコンタドールのおかげだね」と話す。こうやって若い選手が育っていくのだな、と感じる瞬間だ。

 コンタドールはアシスト陣の働きに応えるように、モルティローロ峠では53秒のビハインドから先頭集団に追いつき、頂上では総合2位のファビオ・アールに逆に1分以上の差をつける走りで世界中を魅了した。 モルティローロでのスペクタクルに、イタリアでは皆興奮が冷めやらない一日だった。

 今大会ではセストリエールに山頂ゴールするステージも残っており、今後もコンタドールとアシスト陣の走りには注目だ。

クリス・ユールイェンセン 1989年生まれの25歳。平地からアップダウンのあるクラシックを得意とし、2014、15年とストラーダビアンケで、アシストとして後半の重要な役割を果たしている。果敢にアタックをし逃げ切りを得意としている選手だが、今年のジロでは苦手な山岳ステージでも集団を牽引する走りでチームに貢献している。ロックが好きで、レース遠征中の彼の部屋からは、常にロックが聞こえる。チームのムードメーカーとして彼の周りには常に笑顔があふれているクリス・ユールイェンセン 1989年生まれの25歳。平地からアップダウンのあるクラシックを得意とし、2014、15年とストラーダビアンケで、アシストとして後半の重要な役割を果たしている。果敢にアタックをし逃げ切りを得意としている選手だが、今年のジロでは苦手な山岳ステージでも集団を牽引する走りでチームに貢献している。ロックが好きで、レース遠征中の彼の部屋からは、常にロックが聞こえる。チームのムードメーカーとして彼の周りには常に笑顔があふれている

秩序なきプロトン 望まれる力勝負

 今年のジロ・デ・イタリアでは、ヒヤヒヤする落車が非常に多い。そして、その状況を作っている2つの可能性について耳にした。

 1つ目は、最新の自転車の特性についてだ。

 フレームはカーボンファイバーが主流になり、軽量で強度の高いフレームが増えた。昔はタイヤが滑り始めても自転車のたわみを使って、滑らせながらの走りができたが、いまの自転車は強度が高いため、タイヤのグリップ限界を超えたところで一気に滑ってしまう。このため、速度の高いダウンヒルでは、コーナーでのスピードコントロールなどにかなりのテクニックを必要とする。

 加えて、シート角が立った自転車が主流になったことで、以前と比べサドルの位置をより高く、より前方にセットして乗る選手が多くなった。このことで自転車の後輪に荷重をかけることが難しくなり、コントロールを失いやすく、落車が発生しやすい状態になっているというのだ

 2つ目は、チャンピオンに対してのリスペクトが、昔よりも薄くなっていることだ。

 2000年代初頭は、総合1位、あるいはポイント賞や山岳賞のジャージを着ている選手には、周りの選手が居場所を作ってくれた。そして、その日のステージでエースになり得る選手も、同じようにプロトンの中で自分たちの居場所を安全に確保できた。

 今はクリーンな選手が多く、個々の力の差がほとんどなくなっているため、反対にちょっとしたアクシデントが大きな差を生んでしまう。それを回避するために、多くの選手がプロトンの中でリスクの少ない前へ前へとポジションを上げようとし、洗濯機の中のように秩序のない状況に陥り、そこで落車が起きてしまっているというのだ。

 力勝負以外のアクシデントでレースの行方が左右することは、誰も望んでいない。過去に落車による死亡事故も起こっているだけに、選手にはリスクの少ない状況での力勝負を期待したい。

<2>ダンシングに表れるコンタドールの好調ぶり

宮澤崇史宮澤崇史(みやざわ・たかし)

1978年2月27日生まれ、長野県出身。元プロロードレーサー。18歳よりフランス、イタリアを拠点に活動。23歳で生体肝移植で母に肝臓の一部を提供するが、その後レースに復帰し、全日本チャンピオン、アジアチャンピオン、2008北京五輪日本代表など日本を代表する選手として活躍。2012年、34歳で世界のトップカテゴリーのチーム「サクソバンク・ティンコフバンク(現ティンコフ・サクソ)」に加入し、2シーズンを走った。2014年引退。オフィシャルサイト「bravo

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