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ツアー・オブ・ジャパンを席巻したイラン勢笑顔に秘めた闘志と“ミステリアス”な集中力 タブリーズとピシュガマンの強さの理由

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個人総合2連覇を濃厚とし喜びを爆発させるミルサマ・ポルセイェディゴラコール第6ステージ(伊豆)の表彰式でリーダージャージを着るミルサマ・ポルセイェディゴラコール。個人総合2連覇を濃厚とし、喜びを爆発させた

 日本最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」(TOJ)は、5月24日にいよいよ最終・第7ステージ(東京ステージ)を迎え、個人総合優勝者が決まる。この日は平坦コースで差がつきにくいため、集団ゴールとなる可能性が高く、第6ステージ(伊豆)までの個人総合成績でトップのミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリーズ ペトロケミカルチーム)による総合2連覇がほぼ確実な情勢だ。彼を含め、今大会では2チーム出場しているイラン勢が大活躍し、最終日を前に総合トップ4を独占している。そこで、イランから来日したタブリーズ ペトロケミカルチームとピシュガマン ジャイアントチームに迫り、選手たちの素顔と、強さの理由を探った。(文・写真 福光俊介)

ゴール後の第一声はいつも「ありがとう」

 22日の第5ステージ(富士山)。個人総合2連覇を目指しスタートしたポルセイェディゴラコールを、ピシュガマンの4選手が徹底マークし、攻撃の隙を与えない。最後はピシュガマンのラヒーム・エマミがラスト1kmでポルセイェディゴラコールを引き離し、38分27秒のコースレコードをマーク。激坂で知られるふじあざみラインを平均17.4km/hのハイペースで駆け上ってみせた。前記録保持者のポルセイェディゴラコールも、昨年出した記録を2秒更新する38分49秒でフィニッシュし、霊峰富士はイラン勢の独壇場と化した。

富士山ステージで優勝したラヒーム・エマミ富士山ステージで優勝したラヒーム・エマミ

 続く第6ステージ(伊豆)。前日に個人総合首位のグリーンジャージを獲得したポルセイェディゴラコールと、富士山を制したエマミとの総合タイム差は19秒。ピシュガマン勢が総合2~4位を占めており、攻撃に出ることは確実だった。実際、最大で11人の逃げ集団へ3選手を送り込むことに成功。ここには総合3位につけていたアミール・ザルガリが入り、タブリーズにプレッシャーを与えた。

 結果的にポルセイェディゴラコールからリーダージャージを奪うことはできなかったが、終盤、タブリーズのアシストをメーン集団から全員脱落させるまで消耗させ、総合成績での逆転へあと一歩のところまで攻めた。その証拠に、ポルセイェディゴラコールはフィニッシュ直後、バイクもろとも地面へと落ちるように倒れ込み、しばらく動くことができなかったのだ。それくらい、タブリーズとピシュガマンはすさまじい攻防を繰り広げたのである。

第6ステージ、タブリーズ ペトロケミカルチームがメーン集団をコントロールした第6ステージ、タブリーズ ペトロケミカルチームがメーン集団をコントロールした
チーム一丸となって攻めたピシュガマン ジャイアントチームだったが、エマミを個人総合首位に送り込むことはできなかったチーム一丸となって攻めたピシュガマン ジャイアントチームだったが、エマミを個人総合首位に送り込むことはできなかった

 両チームの選手たちに共通して言えるのは、どれだけ激しい戦いを繰り広げても、観戦したファンや、取材するジャーナリストたちへの感謝の気持ちを忘れないこと。インタビューや記者会見の第一声は決まって「ありがとうございます」。ポルセイェディゴラコールは、富士山でリーダージャージを獲得したときも、伊豆で守り抜いたときも、決まって「ファンのみなさんの応援のおかげで良い結果を出せた」と口にした。イランチームは決して自分たちだけで戦っているのではなく、いつだって周りの人たちに感謝する思いを秘めているのだ。

カラーの異なる両チーム

 タブリーズ ペトロケミカルチームのメーンスポンサーは、ポリエチレンやポリスチレンといったプラスチック素材を製造する「タブリーズ ペトロケミカルカンパニー」。391ヘクタールの大規模製油所を持ち、世界各国へ製品を輸出する、イラン国内における大企業の1つだ。

 一方のピシュガマン ジャイアントチームは、イラン北西部のアルダビール州を拠点とするチーム。タブリーズ ペトロケミカルチームの本拠地・タブリーズからは約300km南東に位置し、所属選手の多くがタブリーズでトレーニングを積んでいるという。

 TOJの取材で両チームを追いかけていると、まったく色合いの異なるチームであることに気付いた。

 タブリーズの選手たちはスタート直前までチームテントで談笑している。カメラを向ければ必ず笑顔を見せてくれるし、いつ覚えたのか「オハヨウゴザイマ~ス!」とあいさつしてくるような、とても気さくな人たちだ。日本語はもちろん英語でのコミュニケーションも難しい選手がほとんどで、一言二言しかやり取りができないが、声をかければ必ずニコリと微笑み返してくれる。

スタート前も笑顔を絶やさないタブリーズ ペトロケミカルチームの選手たちスタート前も笑顔を絶やさないタブリーズ ペトロケミカルチームの選手たち

 ピシュガマンはというと、スタート前に決まってチームカーから大音量の音楽が聞こえてくる。イランでヒットしている曲なのだろうか、独特のメロディーだ。選手たちはチームカーにこもっていたり、集中力を高めるべく精神統一を図っていたり。正直なところ、ミステリアスな印象は否めない。

 実は、今大会を取材するジャーナリストの間では、「タブリーズとピシュガマンは仲が悪い」との噂が広がっていた。事実、レース前後に両チームの選手たちが会話をするような場面はほとんどなく、レース中もどちらかのチームが勝負をかければもう一方が潰しにかかるシーンが多く見られた。第4ステージ(南信州)では、終盤に先頭を走りながらパンクで後退したホセイン・アスカリ(ピシュガマン ジャイアントチーム)をメーン集団と同タイムフィニッシュと扱う救済措置が取られたが、これにタブリーズ側が猛抗議した。両チームが互いを意識している様子は誰の目にも明らかだった。

第2ステージスタート前、集中した姿を見せるピシュガマン サイクリングチームの選手たち第2ステージスタート前、集中した姿を見せるピシュガマン サイクリングチームの選手たち

 そこで、筆者は思い切ってポルセイェディゴラコールに両チームの“不仲説”について質問をぶつけてみた。すると、彼は苦笑い。

 「サイクルロードレースはスポンサーあってのスポーツ。どちらのチームにも大切なスポンサーがあって、彼らのために走っている側面もある。だから、互いに手を取り合ってレースをするなんてことはあり得ないし、当然ライバル意識だって強くなる」と真相を話してくれた。もっとも、若い頃からともに戦ってきた選手が多いことから、みんな仲が良く、ライバル意識を燃やすのはレースのときだけなのだとか。

イラン人選手の強さの理由とは?

 両チームの選手がトレーニングを行うタブリーズは、イランにおけるサイクルロードレースの中心地だ。毎年5月から6月に、同国最大のステージレースであるツアー・オブ・イラン(UCI2.1)が開催される(今年は5月28日~6月2日)。

第6ステージフィニッシュ後、グリーンジャージのキープを決めて称え合うガーデル・ミズバニ・イラナグ(左)とポルセイェディゴラコール第6ステージフィニッシュ後、グリーンジャージのキープを決めて称え合うガーデル・ミズバニ・イラナグ(左)とポルセイェディゴラコール

 タブリーズは急峻な山々が連なる地域に位置し、街の標高が1350mと高いうえ、少し足を延ばせば3000m級の山岳コースでトレーニングができる環境なのだという。そこで過ごすだけで高地トレーニングになっているわけだ。トレーニングの内容は選手によって異なり、ほぼ毎日のように山岳地帯を走る選手もいれば、普段はタブリーズ周辺で走り、週2~3回山岳へ行く選手もいるという。

 また、同国はアジアにおけるサッカーの強豪国だが、タブリーズを含むイラン北西部のアザールバーイジャーン(アゼルバイジャン共和国とルーツが同じとされる地域)では、自転車人気はサッカーに匹敵するレベルだとか。ジュニアからの育成にも力を入れており、若い選手たちは将来の活躍を夢見てトレーニングに励んでいる。

 彼らの食生活はというと、ピスタチオやアーモンドをよく食べるという。カロリーが高く、エネルギーになるものを積極的に摂るよう努めているそうだ。また、アザールバーイジャーンの特産品でもあるハチミツを水に溶かしたものをレース後の補給に飲んでいることも教えてくれた。できる限り自然なものを選び、加工品は口にしないように心掛けている。

本当はヨーロッパで走りたい

 イラン勢は伝統的にUCI(国際自転車競技連合)アジアツアーを主戦場としている。ここ数年はアジアで圧倒的な力を誇っており、その走りはすでにワールドクラスといってもいいだろう。しかし、なぜアジアの枠にとどまっているのか?

 2012年には、アミール・ザルガリ(現ピシュガマン ジャイアントチーム)がアージェードゥーゼール ラモンディアルに、メヒディ・ソラビ(現タブリーズ ペトロケミカルチーム)がロット・ベリソルにそれぞれ加入し、ヨーロッパでプロとして活動した。しかし、チームになじむことができず、数レース走ったのみで翌年には古巣へ戻ってしまった。当時は、彼らがアジアツアーで稼いだUCIポイント欲しさに欧州プロチームがオファーを出したという事情もあった。

第6ステージ直前、カメラに笑顔を向けるポルセイェディゴラコール第6ステージ直前、カメラに笑顔を向けるポルセイェディゴラコール

 だが、やはりこれだけの力があれば、アジアから世界へと目を向けても良いのではないか。質問をぶつけてみると、ポルセイェディゴラコールから思わぬ答えが返ってきた。

 「本当はヨーロッパで走りたいんだ。でもオファーがない。だから走ることができない。もし声がかかれば絶対にヨーロッパへ行くし、そこで戦う自信だってあるんだ」

 アジアで大活躍する彼らの視線が、さらなる高みに向けられていることは確かなようだ。しかし言葉や宗教など、乗り越えなければいけない壁が多いのも実情なのだ。それらをクリアできるかどうかが、今後世界で活躍するうえでのキーポイントとなってくるだろう。

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