妻を残して、夫婦で、定年退職後に…心豊かに、自転車で世界に飛び出そう チャリダー5人が語った赤裸々「チャリ旅トーク」

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 自転車で旅に出る─。自転車乗りなら、誰もが一度は思いを巡らせたことがあるだろう。インターネットなどを通じて、世界一周の自転車旅に挑戦する人を知る機会も増えてきた。しかし、いざ自分が挑戦するとなると、体力、お金、周囲の理解…といったさまざまな現実的課題が立ちはだかる。先人たちはどうやって乗り越え、夢を果たしたのか? 東京・渋谷のモンベル渋谷店で4月26日に開かれたトークイベント「チャリ旅トーク」では、それぞれのライフステージをもって自転車世界旅行を果たした5人が、「自転車旅」をめぐるちょっと変わった“赤裸々”トークを繰り広げた。

トークイベント「チャリ旅トーク」の様子 =4月26日、東京・渋谷のモンベル渋谷店トークイベント「チャリ旅トーク」の様子 =4月26日、東京・渋谷のモンベル渋谷店

嫁、両親、体力 それぞれのハードル

トークショーに登場した(左から)木村雄志さん・彩さん夫妻、高島実さん、森林悠生さん、司会を務めた遠藤隼さんトークショーに登場した(左から)木村雄志さん・彩さん夫妻、高島実さん、森林悠生さん、司会を務めた遠藤隼さん

 この日のトークイベントにパネリストとして登場したのは、夫婦で挑戦した木村雄志さん(30)・彩さん(30)、高島実さん(62)、森林悠生さん(30)の4人と、司会を務めた遠藤隼さん(30)。当日のイベントは、共通の質問に対して各パネリストが回答するという流れで進んだ。

 1つ目の質問は「旅に出るまでのハードル」について。まず、一言「嫁」と回答したのは、2013年7月からユーラシア大陸を横断し、ポルトガルまでを旅した森林さん。大学時代に自転車で日本を一周し、卒業後に世界旅に出たいと考えていた森林さんは、目標資金を決め、それに向けて仕事をかけもちしながら準備を進めていた。

森林悠生さん森林悠生さん

 しかしその間に東日本大震災が発生。社会が揺れ動くなか、単身で旅に出ることに葛藤を抱えていた。熟慮の末、「どうしても旅に出たい」という思いを当時交際していた女性に打ち明けたところ、「結婚してから旅に出て」という驚きの展開に。新婚早々妻を残し、「最長で3年半」という制限付きで旅に出ることになった。

 「ハードル」というお題に「嫁」と回答しつつも、最終的には大きな支えとなり、「感謝してもしきれない」と話す森林さん。“帰る場所がある”という環境は、旅を続ける上で力になったようだ。

木村雄志さん、彩さん木村雄志さん、彩さん

 一方、夫婦ともに連れ立って旅に出た木村さん夫妻。学生時代、初の海外旅行が自転車ユーラシア横断だったという雄志さんが、結婚後に妻の彩さんを世界一周の旅へと誘った。当時の彩さんは自転車旅の経験はおろか、それほど頻繁に自転車に乗っているわけでもなかった。そんな木村夫妻にとってのハードルは、彩さんの「両親をどう説得するか」だった。

 出発に先立つこと2年前。お金を貯め、会社を辞めて旅に出たいという雄志さんに、彩さんの父親は「夢があっていい」と理解を示したものの、母親からはなかなか理解が得られなかった。そこで雄志さんがとった行動は、盗難、病気、事故など旅中で起こりうるリスクを箇条書きにし、その対策を明示すること。粘り強く説得した結果、3度目でようやく承諾を得ることができた。

 「約束したからには絶対無事に彩さんを日本に返す」。そう誓った雄志さんは、旅行中、とにかく彩さんの安全を守ることで頭がいっぱいだったという。そして2013年9月から世界旅行を開始し、南米、欧州を経てユーラシア大陸を東進。ネパールから2015年2月に無事帰国を果たした。

高島実さん高島実さん

 最後は、世界旅が定年退職後の夢だったという高島さん。当初、バックパッカーとしての旅を計画していたが、あるとき目にしたユーラシア大陸自転車横断について書かれていたブログに影響を受け、自転車旅に切り替えた。

 高島さんは当時57歳。最大の不安要素は体力だった。「自転車に乗り始める以前からランニングをしていたが、日々体力の衰えは感じていた」という高島さんは、即自転車を購入。自宅がある神奈川県藤沢市から横浜の職場までの往復50kmの通勤に自転車を取り入れた。

 その後、同年に台湾を走行。3年後の2013年、定年退職後にユーラシア大陸横断、欧州を経て南米を走破し、2015年2月に帰国を果たした。長年目標として世界旅を掲げ、準備をしてきた高島さんを家族の方も応援してくれたという。

親切で前に進めないイラン

天気予報が外れ、最低気温-22℃の極寒になったウズベキスタン。ペットボトルの水が凍り、路面も凍結して滑って転ぶほどに。内緒で1週間ほど助けてくれたタシケントの一家と森林さん天気予報が外れ、最低気温-22℃の極寒になったウズベキスタン。ペットボトルの水が凍り、路面も凍結して滑って転ぶほどに。内緒で1週間ほど助けてくれたタシケントの一家と森林さん

 続いてのお題は「旅での忘れられない○○」。印象深かったのが「いろいろあるけどイラン」と答えた森林さん。他人を泊めてはいけない文化をもつウズベキスタンで、極寒の中現地の人に助けてもらったり、セルビア人とウォッカ飲み比べをして急性アル中になり、搬送先の病院が日本のODAで建てられたという理由で医療費が無料になったり、イラン以外にも各国の人の愛に支えられた旅だったようだが、それを圧しても印象的だったというのがイラン。森林さんいわく、「とにかく人が親切で前に進めない」のだそう。

 例えば、人が寄ってきて飲料水をくれたり、さらには車が自分の前で突然停車したので何かと思ったら「困ったことがあったらいつでも連絡しろ」といって連絡先を渡してくれるというエピソードも。コーラを買おうとしたら、「ようこそイランへ!」とコーラをプレゼントしてくれた店もあるなど、とにかく街全体が歓迎ムードで、人々の下心のない純粋な親切心が伝わってきたという。

必ずといっていいほど追ってくる犬。噛まれたら狂犬病の恐れもあるため、海外の自転車旅では切実な問題。大声で威嚇、無視、石を投げるなどの対策に加え、万が一に備え、警棒を携帯、催涙スプレーを持参した人も。写真は南米チリで高島さん撮影必ずといっていいほど追ってくる犬。噛まれたら狂犬病の恐れもあるため、海外の自転車旅では切実な問題。大声で威嚇、無視、石を投げるなどの対策に加え、万が一に備え、警棒を携帯、催涙スプレーを持参した人も。写真は南米チリで高島さん撮影

夫婦で互いに支えながら

 一方、木村夫妻があげたのはボリビアとチリの国境沿いにある「ラグナーズルート」の景色。標高4000m以上のアンデス山脈の山々や、点在する湖などが絶景をなすことから、「宝石の道」とも呼ばれている。

 しかし、そこは全行程オフロード。砂に前後輪が埋まり、自転車を押して進むと砂が盛り上がるため、勢いをつけて乗り越える。それを繰り返すため1日わずか15kmしか進めず、走破するのに3日間を要した。補給所もないため食料もままならない道。彩さんは「自転車を何度も捨てたいと思った」というが、この過酷な体験が旅の初めにあったことで、その後の行程が頑張れたと振り返る。

ボリビアとチリの国境沿いにある「ラグナーズルート」。別名「宝石の道」。木村雄志さん撮影ボリビアとチリの国境沿いにある「ラグナーズルート」。別名「宝石の道」。木村雄志さん撮影

 それよりも彩さんが印象深かったのは、各国のトイレ事情だ。現地の人にトイレの場所を訪ねても、指示される方向にトイレらしきものは何もない。「え?草むら…?」。覚悟はしていたものの、日本でのトイレの感覚が通用せず、日常的にトイレがない文化が多いことに驚いた。最初は抵抗があったが次第に慣れ、道中「草むらや物影があったら用を足しておこう」と考えるようになったという。

パネリストの(左から)木村雄志さん・彩さん夫妻、森林悠生さん、高島実さんパネリストの(左から)木村雄志さん・彩さん夫妻、森林悠生さん、高島実さん

 さらに彩さんの話で興味深かったのが、体力的に常に雄志さんが彩さんを上回っていたわけではないということ。彩さんは高地に強い体質で、高山エリアを走ることが多かった旅では、ときに彩さんがぐいぐい引いていくこともあったそう。

 会場から「旦那さんについていく上で体力的に大変ではなかったか」という質問が寄せられた彩さんは、「海外を自転車で走ることを想像できず、最初は自分が走れるのかさえ心配だったが、実際に走り始めるとお互いに強いところ弱いところがあって、支えながら良いバランスで旅を進めることができた」と答えた。

世界は想像以上に「ウェルカム!!」

司会を務めた遠藤隼さんも、ユーラシア大陸横断などの経験がある旅サイクリスト司会を務めた遠藤隼さんも、ユーラシア大陸横断などの経験がある旅サイクリスト

 今年帰国したばかりの彩さんは、約1年半にわたる旅を振り返り、「きれいな景色が見られるんだろうと思っていた。もちろんそれも素晴らしかったが、それ以上に国境を超えて、人や道路の違い、国の力の違い、文化の違いを感じて、日本がどれほど行き届いた国なのかを改めて知った。それは良いことだけれど、反面、少し生真面目すぎるとも感じた。日本人にはもっと心を豊かに、自然を求める気持ちをもってほしいと思った」と話す。

 高島さんは、「日本は経済の低迷やらなんやらで、社会が色々と窮屈で視野が狭くなってしまうが、世界を見ているとどんな生活でも生きていけるのだと感じた。ツアーなどでは見ることのできない世界を、自転車旅では感じることができる。世界はけっこうウェルカム。怖くはない。やってみたいと思ったら、その気持をもってぜひ挑戦してほしい」と、続く人たちへエールを送った。

 今回のイベントを主催した雄志さんは、「一歩、旅に出る選択肢を示せたらと思い、開催した。人によってさまざまなハードルがあると思うが一人で思い悩まず、チャレンジしたい方がいたら相談してほしい」と話している。

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