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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<107>ドーピング問題の最新動向 ライセンスを維持したアスタナと裁定を待つヴァンアーヴルマート

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 春のクラシックレースが終了し、サイクルロードレースシーズンはステージレース中心のスケジュールに移っていきます。5月9日には、2015年最初のグランツールであるジロ・デ・イタリアが開幕します。そんなシーズンの節目にあたる今回は、これまでに起こった今季のドーピング関連ニュースをまとめてみます。

2015年シーズン序盤の薬物違反者は1人

 薬物違反に関するニュースをピックアップすることは、レースが盛り上がったところに水を差すようで、筆者個人にとって望ましいとは言えない。しかし、過去から現在にいたるまでのサイクルスポーツの歴史において、ドーピングは切っても切り離せない問題で、いまだこのスポーツに根深く残っている“負”の部分であることは、否めない事実だ。

 一方で、競技関係者の多くが口にしているように、他のスポーツと比較してもクリーン化を目指す動きは大きい。「自転車競技ほど厳しくドーピングを取り締まろうとしているスポーツは存在しない」とまで言われるほどでもある。だからこそ、ドーピングに関する事象から目を背けず、起こった出来事を把握しておくべきだと筆者は考えている。

(ツアー・オブ・カタール2014)(ツアー・オブ・カタール2014)

 そうしたなかで、2015年シーズンで薬物違反が発覚しているのは、2月17日の検査結果でEPO(赤血球産生促進ホルモン)使用が疑われているロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)のみとなっている(4月2日現在)。昨年のこの時期に意図的、または偶発的な禁止薬物摂取が発覚した選手が5人だったことを考えると、数字上ではクリーン化を目指す動きが良い方に向かっていると言えるのかもしれない。

 国際自転車競技連合(UCI)は例年、グランツール直前に薬物違反に関する発表を行うケースが多く、ジロ開幕までの間に数件発表される可能性も否定はできない。もちろんゼロであることが望ましく、ここまでクリーンな戦いが繰り広げられていたと信じたい。

 なおアージェードゥーゼールは、アンチドーピング団体「M.P.C.C.(信頼ある自転車競技のための運動)」の会員でもあり、モンドリーの違反が確定すると相応の罰則を受ける必要性がある。入会後の違反者が1人目であれば警告、2人目は1週間のレース活動停止、3人目では4週間のレース活動停止となる。2012、13年に違反者を出しているため、3人目となれば今後のレース出場に大きく影響する不安が残っている。

ニバリのツール連覇への挑戦が可能に

 マキシムとワレンティンのイグリンスキー兄弟(カザフスタン)によるEPO使用など、昨シーズン所属選手による数件の禁止薬物使用があったアスタナ プロチーム。UCIからワールドツアーライセンス剥奪を求められていたが、条件付きでライセンスをキープできることが4月23日に発表された。

ヴィンチェンツォ・ニバリはツール連覇への挑戦が可能になった(ツール・ド・フランス2014)ヴィンチェンツォ・ニバリはツール連覇への挑戦が可能になった(ツール・ド・フランス2014)

 ライセンス委員会は同日、アスタナとUCI、ローザンヌ大学スポーツ科学研究所(ISSUL)の代表者を召喚し、ヒアリングを実施した。そこでは、ライセンス委員会がISSULに対し、今シーズン残り期間を対象にアスタナへの特別な対策を実施するよう指示。これをISSUL、アスタナ双方が合意したことで、ライセンス剥奪の手続きが中止されることが決定した。これにより、アスタナのUCIワールドツアーへの継続参戦、さらにはエースであるヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)のツール・ド・フランス総合2連覇への挑戦が可能となった。

 今後、アスタナはISSULの厳しい監視下に置かれ、アンチドーピングに関する取り組みや内部調査を強化していく。ISSULからライセンス委員会へは定期的にレポートが提出されることとなり、アスタナが合意内容に反する事実を1つでも起こした場合や、所属選手の薬物違反が発覚すれば、すぐにライセンス剥奪の手続きが再開される。この決定についてアスタナは、寛大な措置への感謝と今後の取り組みへの強化を約束している。

 一部では、所属選手のドーピング違反そのものよりも、チームの倫理上ならびに組織上の問題点が多かったとの見方もなされており、この点がISSULの重点監視対象となるものと思われる。

禁止行為「オゾン療法」の疑惑

 禁止行為である血液ドーピングの1つ、オゾン療法を行っていたベルギーのクリス・メルテンス医師とのかかわりが指摘されているフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)。同国自転車競技連盟のアンチドーピング委員会は、ヴァンアーヴルマートに対し2年間の出場停止処分を要求しており、その裁定が5月7日に行われる見通しだ。

 オゾン療法はヨーロッパの医療現場で主に用いられている。100~200ccの血液を脱血し、そこにオゾンガスを混合した血液を体内に戻す方法。日本では「血液クレンジング療法」とも呼ばれる。肝炎やHIVウイルス増殖を抑えるためなど、あらゆる症状や疾患に効果があるとされる(※)。オゾンは3つの酸素原子からなる気体なので、体内に取り込むことで血液中の酸素濃度が向上し、競技への効果も大いに考えられる。日本では、2013年から薬剤師向けのドーピングガイドブックにもオゾン療法の禁止を明記している。

今シーズンは安定して好成績を残しているフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ツール・デ・フランドル2015)今シーズンは安定して好成績を残しているフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ツール・デ・フランドル2015)

 メルテンス医師は、ヴァンアーヴルマートのほか18選手にオゾン療法を行っていたとされる。1月にはシクロクロスのトップ選手であるトム・メーウセン、バルト・ウェレンス、ローレンス・スウィーク(いずれもベルギー)がヴァンアーヴルマートと同様の指摘がなされ、一度はシクロクロス世界選手権ベルギー代表から選考漏れするという事態に発展していた(その後裁判を行い、代表資格を回復)。

 ヴァンアーヴルマートは4月16日、ベルギー自転車競技連盟によるヒアリングに出席し、潔白を主張。しかし、オゾン療法だけでなくステロイド系抗炎症薬「ディプロフォス(Diprophos)」、禁止薬物であるアミノ酸注射薬「ヴァミノラクト(Vaminolact)」の使用も指摘されている。ディプロフォスについては、書類を提出すれば治療目的での使用がUCIに認められているが、申請がなかったとして問題視された。これに対しヴァンアーヴルマートは、申請を行ったうえでかかとの治療に1度使ったことを主張している。

 今シーズンはティレーノ~アドリアティコ第3ステージ優勝など、出場レースは上位に食い込む安定感を見せてきた。得意とする北のクラシックでは、ツール・デ・フランドル、パリ~ルーベともに3位。アルデンヌクラシックにも参戦し、アムステルゴールドレースで5位に入っている。裁定により違反が確定すれば、2年間の出場停止だけでなく2012年シーズンの成績もすべて剥奪される。さらに、26万2500ユーロ(約3400万円)の罰金が科される見込みだ。

※参考記事
日本酸化療法研究会「オゾン療法(血液クレンジング療法)とは

今週の爆走ライダー-ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 アルデンヌクラシックではコンディション調整途上のエース、ニバリに代わって再三見せ場を作った。ラ・フレーシュ・ワロンヌ8位、リエージュ~バストーニュ~リエージュ9位と自己最高位でフィニッシュ。展開次第では、表彰台も夢ではない位置を走った。

ヤコブ・フルサング(先頭)はアルデンヌクラシックで自身最高の成績を残した(アムステルゴールドレース2015)ヤコブ・フルサング(先頭)はアルデンヌクラシックで自身最高の成績を残した(アムステルゴールドレース2015)

 どんな時でも強気だ。昨年のツール第5ステージでは、雨中のパヴェ(石畳)でニバリの快走を導いた男でもある。エースに自信を与え、攻めの走りを貫いたのは、かつてマウンテンバイクで北京五輪に出場した経験をもち、悪路への適応力があったから。その後のステージでは落車もあり精彩を欠くシーンもあったが、シーズンを通した働きでニバリ、そしてチームからの信頼を勝ち取った。

 そんな姿勢は、言動にも表れる。アスタナがライセンス問題で揺れに揺れるなか「UCIは所属選手の身の保障をすべきだ」と主張し続けた。もし、チームがライセンスを失うようなことがあれば、自らが法的措置に出るとまで口にした。かつては、アスタナの倫理観を強く指摘したマルセル・キッテル(ドイツ、チーム ジャイアント・アルペシン)に応戦するなど、歯に衣着せぬ物言いも彼の持ち味なのだ。

 それもこれも、自らの居場所を現チームに見いだしたから。チーム サクソバンク、レオパード・トレック、レイディオシャック・レオパードに所属した間は、フランクとアンディのシュレク兄弟(ルクセンブルク)らの存在が大きく、なかなか望んだレースに出場ができなかった。しかしアスタナでは、移籍加入が決定した時から明確な役割が約束されていたとあって、チームを思う気持ちは過去とは全く違うはずだ。

 春のクラシックシーズンを終え、これからは昨年同様にツールを目指す日々となる。ニバリを総合2連覇に導くことができるか。そして今年は、自らも上位を狙うチャレンジをしたい。ツールの最高成績は2年前の総合7位。まずは、4月28日開幕のツール・ド・ロマンディでその足掛かりをつかむこととなる。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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