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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<106>若き世界王者・クフィアトコフスキーの的確な読み 激戦の勝敗を分けた戦術

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 熱戦が繰り広げられている春のクラシックシーズンは後半戦の“アルデンヌクラシック”へ。初戦のアムステルゴールドレースは、若き世界チャンピオンのミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、エティックス・クイックステップ)が王者の走りを披露して初優勝。スプリントで勝負が決するという、この大会の新たな一面を見ることとなりました。そこで今回は、レースデータや選手のコメントから大激戦を振り返ってみます。併せて残る2戦、ラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュも展望します。

スプリントの最高時速は67.7km

道幅いっぱいに広がってカウベルグを上るメーン集団(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>道幅いっぱいに広がってカウベルグを上るメーン集団(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>

 オランダ南部の丘陵地を舞台に行われたアムステルゴールドレース。今年は258kmで争われ、おなじみの上り「カウベルグ(登坂距離1.2km、平均勾配5.8%、最大勾配12%)」を含む登坂区間は34カ所。“1000のカーブ”と呼ばれるコーナーの多さと、“獲得標高4000m”と称される上りの過酷さがこのレースの難しさを物語る。今大会の実際の獲得標高は約3700mで、優勝のゴールタイムは6時間31分49秒。おおよそ40km/h平均で走ったこととなり、上りの数や勾配を考えると高速レースだったと言えるだろう。

 圧巻のスプリントでレースを制したクフィアトコフスキー。走行データを保存、共有できるウェブサービス「Strava」で彼が公開しているデータによれば、スプリント時の最高スピードはなんと67.7km/h。パワーにして608Wを記録している(レース平均369W、カウベルグ4回目には686Wの数値も)。最後の上りとなった4回目のカウベルグからゴールまでの平坦路(1.8km)は向かい風だったようだが、そんな中でピュアスプリンターさながらの加速を見せている。

スプリント勝負を見越して脚を溜め、激戦をものにしたミハウ・クフィアトコフスキー(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>スプリント勝負を見越して脚を溜め、激戦をものにしたミハウ・クフィアトコフスキー(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>

 本人が口にした勝因は、「カウベルグで無理をしなかったこと」。昨年は優勝したフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)の決定的なアタックに食らいつくべくリスク覚悟で脚を使ったが、それがゴール前での失速(結果は5位)につながったとし、今回は脚を残して上ることを心掛けたという。もっとも、「ジルベールが昨年と同様の戦術(最後のカウベルグでアシストを発射台にアタック)を講じる」「優勝争いはスプリント勝負になる」との2点を読んでいたことも明かしており、若くして抜群の勝負勘を誇る彼ならではの見方がピッタリとハマった。

 昨年の世界選手権ロードを制し、王者の証であるマイヨ・アルカンシエルを着るクフィアトコフスキー。今シーズンは3月のパリ~ニースのプロローグの1勝にとどまっており、それも個人TTであったことから「アルカンシエルを着ての勝利ではない」との厳しい評価もあった。しかし、大一番にしっかりと調子を合わせ、「アルカンシエルを着ての勝利」を決めてみせたあたりはさすが。今シーズンがチームとの契約最終年にあたり、この活躍で早くもストーブリーグでの争奪戦を予想する声が上がり始めている。

封じ込められたジルベール

ベン・ヘルマンス(左)を先行させ、アタックを仕掛けたフィリップ・ジルベール(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>ベン・ヘルマンス(左)を先行させ、アタックを仕掛けたフィリップ・ジルベール(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>

 4回目のカウベルグの上り、頂上を目前に満を持して仕掛けたジルベール。BMCレーシングチームは終始レースをコントロールし、最後の上りでも今シーズン好調のベン・ヘルマンス(ベルギー)を先行させ、ライバルの追走を誘発。そしてジルベールを発射する狙いだった。アシストを先に動かし、ジルベールが続く流れは、昨年のサムエル・サンチェス(スペイン)とのコンビプレーで勝利したときと同じシナリオだった。

 しかし、結果は失敗。クフィアトコフスキーに読まれていただけでなく、マイケル・マシューズ(オーストラリア)も「ジルベールのアタックをチェックすることがすべてだと思っていた」とレース後に述べている。実績豊富なベルギーのコメンテーターでさえ、「ジルベールの攻撃は、もはや誰も驚かない」と口にするほど。

 また、残り8kmでヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム)のアタックに続いたフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー)の動きが失敗だったという意見もある。スポーツディレクターのヴァレリオ・ピーヴァ監督がヴァンアーヴルマートを名指しで非難。「ジルベールのために働かなければいけなかった」と述べ、戦術ミスがあったことを示唆。ジルベール2連覇の夢は潰えた。

表彰式での(左2人目から)アレハンドロ・バルベルデ、ミハウ・クフィアトコフスキー、マイケル・マシューズ(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>表彰式での(左2人目から)アレハンドロ・バルベルデ、ミハウ・クフィアトコフスキー、マイケル・マシューズ(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>

 一方、表彰台を確保した2位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)、3位のマシューズは結果を前向きに受け止める。

 バルベルデは、ラスト1.8kmの平坦路でジルベールらに合流し、ゴールスプリントに参戦できたことが最大の満足点だとした。最終局面では早めの加速を試みたが、向かい風が強く伸びなかったと振り返る。また、カウベルグ4回目の上りで前方への位置取りができなかったことも挙げ、そこから持ち直しての2位は十分な結果だとも。すでに次戦のラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュを見据えている。

 上れるスプリンターのマシューズは大健闘の3位。とはいえ、ここ最近の登坂力を考えると上位進出は順当な結果と言えるかもしれない。大会前の下馬評が高く、優勝候補に推す声も多いなかで、見事に実力を発揮。カウベルグでのジルベールへのマークでは、スプリンターらしからぬ上りっぷり。スプリント勝負で力尽きてしまったが、2013年大会から採用されるゴール前レイアウトが、さまざまな脚質の選手にチャンスがあるものだと証明する好例となったのではないだろうか。なお、マシューズはラ・フレーシュ・ワロンヌにも参戦予定。おなじみの激坂“ユイの壁”が、今年のツール・ド・フランス第3ステージのゴール地であることを見据え、試走を兼ねて出場するつもりだ。

残るアルデンヌクラシックは2戦

 春のクラシックシーズンは残り2戦。4月22日のラ・フレーシュ・ワロンヌと、26日のリエージュ~バストーニュ~リエージュ(ともにベルギー)となった。

■ラ・フレーシュ・ワロンヌ(205.5km)

ラ・フレーシュ・ワロンヌ2015のコースプロフィール ©A.S.O.ラ・フレーシュ・ワロンヌ2015のコースプロフィール ©A.S.O.

 ベルギー中東部、ワロン地域のワレムをスタートし、南に進路をとる。前回(199km)から距離が長くなったほか、登坂ポイントは11と前回と同じながら場所が少しずつ変化している。最大の注目は、もちろんミュール・ド・ユイ(ユイの壁)だ。

 登坂距離1.3km、平均勾配9.6%、上りの後半には最大勾配26%にまで達する激坂での勝負となる。レース中盤から後半にかけて3回通過するが、頂上ゴールとなる3回目の上りで勝負が決するのは確実。ラスト10kmは各チームがトレインを形成し、ゴールスプリントさながらの位置取り争いが見られるはずだ。前回は、優勝したバルベルデがラスト1kmを2分41秒で走破する驚異のスピードをマーク。トップライダーによるパワーとスピード勝負を楽しみにしよう。

 なお、男子に先駆けて女子レース(121km)も開催される。こちらもユイの壁での好勝負に期待がかかる。

■リエージュ~バストーニュ~リエージュ(253km)

リエージュ~バストーニュ~リエージュ2015のコースプロフィール ©A.S.O.リエージュ~バストーニュ~リエージュ2015のコースプロフィール ©A.S.O.

 1892年創設、“ドワイエンヌ”と呼ばれる世界最古のクラシックレース。アルデンヌクラシックはもちろん、クラシックレースの中でも歴史と格式の高い「モニュメント」の1つだ。前回からレース距離が10km短縮されるが、アップダウンに富んだコースは変わらず、獲得標高は4000mを超える。

 主催者が発表している10カ所の登坂区間の中でも、残り34.5kmのコート・ド・ラ・ルドゥット(登坂距離2km、平均勾配8.9%)、残り19kmのコート・ド・ラ・ロッシュ・オウ・フォーコーン(1.5km、9.3%)が終盤のポイントになる。アタック合戦で、メーン集団の人数が減っていくはずだ。

 そして、残り5kmのコート・ド・サン・ニコラ(1.2km、8.6%)で優勝を狙う選手たちが勝負に出る。その後はゴールへの緩やかな上りとなることから、サン・ニコラで決定的な動きが起きなければ、優勝争いはゴールスプリントに委ねられる可能性もある。

別府と新城がそろってビッグレース参戦

驚異的なスピードでユイの壁を攻略したアレハンドロ・バルベルデ(ラ・フレーシュ・ワロンヌ2014)<写真・砂田弓弦>驚異的なスピードでユイの壁を攻略したアレハンドロ・バルベルデ(ラ・フレーシュ・ワロンヌ2014)<写真・砂田弓弦>

 バルベルデ、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)が軸になると予想される。アムステルではバルベルデが2位、ロドリゲスはアシストに回ったが、ともにこの2レースにコンディションを合わせている。バルベルデがラ・フレーシュ・ワロンヌ2連覇となれば、モレノ・アルゼンティン(イタリア)以来24年ぶり4人目の快挙達成となる。

 アムステルを制し勢いに乗るクフィアトコフスキーは、2011年のジルベール以来となるアルデンヌクラシックの「グランドスラム(3連勝)」に挑戦する。一方のジルベールもアムステルは不発だったが、さすがに黙ってはいないだろう。

 前回のリエージュでは最終コーナーで落車し涙を飲んだダニエル・マーティン(アイルランド、チーム キャノンデール・ガーミン)も、調子が上向き。同じく好調のルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)、アムステルで見せ場を作ったヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)も勝機をうかがう。リエージュ2連覇がかかるサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)は、落車負傷からの回復途上。今回はサイモン・イェーツ(イギリス)がエースとなる公算だ。

アルデンヌクラシックで3連戦に挑む別府史之(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>アルデンヌクラシックで3連戦に挑む別府史之(アムステルゴールドレース2015)<写真・砂田弓弦>

 日本勢では、別府史之(トレック ファクトリーレーシング)、新城幸也(チーム ヨーロッパカー)が両レースへの参戦が決定している。別府はバウケ・モレマ(オランダ)、新城はピエール・ローラン(フランス)のアシストを務める。また、ラ・フレーシュ・ワロンヌ・ファムス(女子レース)には、萩原麻由子(ウイグル・ホンダ)がエントリーしている。

今週の爆走ライダー-アレクサンドル・ジェニエス(フランス、エフデジ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 例年アルデンヌクラシックの裏側で開催される、トロ・ブロ・レオン(フランス、UCI1.1)というレースをご存じだろうか。「ブルターニュのパリ~ルーベ」との異名を持つ。石畳、砂利、泥といったコース状況はもとより、ケルト海から吹き付ける強風や、トロフィー代わりに仔豚が勝者に授与されるなど、そのユニークさもウリ。とはいえ、ビッグレースのような派手さはなく、広報のキャラバンカーがあるわけでもない。地元では「フランスの人だけが知るレース」などといわれることもある。

 エフデジは伝統的にこのレースを得意としており、19日のレースではジェニエスが優勝。チーム史上6人目の勝者となった。

ユニークなレース「トロ・ブロ・レオン」を制したアレクサンドル・ジェニエス © FDJユニークなレース「トロ・ブロ・レオン」を制したアレクサンドル・ジェニエス © FDJ

 本来はクライマーで、2013年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ1勝。昨年のジロ・デ・イタリアでは総合13位。グランツールレーサーとしての実績を積んでいる段階だが、ネックはよく体調を崩すこと。戦線離脱する期間が多く、思うような結果を残せないことも。今年は意気込んで臨んだヴォルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(カタルーニャ一周)で、毎ステージグルペット走行。さすがに落ち込んだ。

 ゼネラルマネージャーのマルク・マディオ氏との話し合いの末、3日間のピレネー山脈キャンプを実施。これが奏功した。ひたすら乗り込み体調を上げると、4日間で3レースをこなし、今回の優勝につなげた。失っていた自信も回復した。

 今シーズンはグランツールに2つ出場する予定。まずはジロで総合成績を狙うつもりだ。現在26歳。早くからフレンチオールラウンダーとして期待を集めてきたが、ここでトップ10を目指したいところだ。

 次々と若手有望株が誕生するフランス勢。ここにまた1人飛躍を誓う選手が現れた。彼の台頭で選手層に厚みが増せば、王国復権を手繰り寄せる可能性が一気に高まることだろう。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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