“サイクリングの聖地”で新しい楽しみ方サイクルトレーラーで「しまなみ海道」ゆとり旅 瀬戸田レモンのスイーツ食べ比べ

広島県尾道市~愛媛県今治市間の「しまなみ海道」では、大小7つの島々をつなぎ、瀬戸内海の穏やかで美しい風景を楽めるサイクリングコースが国内外で人気だ。サイクリングジャージとロードバイクでばっちりコーディネートしたサイクリストや、各所に設置されたレンタサイクルに乗って気軽に走る海外観光客など、スタイルは様々。Cyclistでは、尾道側のスタート拠点「ONOMICHI U2」から生口島・瀬戸田までを往復する「サイクルトレーラー」に自転車を載せて、レモンの国内生産量トップの地で「レモンケーキ」を食べ比べる旅へ出かけた。
巨大なトレーラー
サイクルトレーラーは、33人乗りの大型バスと最大30台の自転車を積載できるトレーラーを組み合わせて、ONOMICHI U2から「瀬戸田サンセットビーチ」の間で運行される。ONOMICHI U2内の「ホテルサイクル」の利用者向け“送迎車”サービスだ。ONOMICHI U2が「長距離を走ることができない初心者や団体で島のサイクリングを楽しみたいというサイクリストのためにつくった」という。
驚くべきはその大きさ! 全長17mのサイクルトレーラーは、国内ではあまり目にすることがない規模感だ。実はそのサイズ故に、道路走行の許可を取得するのには苦労したのだとか。2014年秋から、要請があった場合にのみ稼働している。運行は平日のみ。ワンウェイ、往復のどちらも可能で、最小催行人数は15人となっている。料金や日程の問い合わせは0848-21-0550(ホテルサイクル)。
マイペースで味わう自転車旅

目的地の近くまでサイクルトレーラーで移動できるので、朝はゆっくりスタートできる。とあれば、まずは腹ごしらえ。ONOMICHI U2から900mほど離れた場所に海を眺めながら食事ができるカフェがあると聞き、訪れた。「フルール」は、2014年12月オープン。地元の素材を使ったフレッシュジュース「スムージー」や、ボリュームたっぷりのサンドイッチがメニューに並ぶ。今回は、店長の福田宏宣(ひろのり)さんおすすめのBLTサンド(750円)をチョイス。プラス400円でスープとスムージーが付くランチセット(11時~14時)を注文した。
対岸の向島との間に広がる「尾道水道」を行き来する船を眺めながら待っていると、ハムを焼くいい香りが漂ってきた。生ケールとバナナのスムージー(単品500円)は、「地元農家のケールにバナナとハチミツを加えて飲みやすくアレンジしています」と福田宏宣(ひろのり)店長。濃厚な素材な味が身体に染み渡っていく。分厚いハムが挟まれたサンドイッチに添えられたサラダは、レモンを効かせた爽やかな風味のドレッシングとともに味わった。
ONOMICHI U2に戻り、サイクルトレーラーでさぁ出発。向島、因島と西瀬戸自動車道を走り抜け、およそ50分で生口島に到着した。自転車で走ってくることに比べれば、あっという間だ。体力と時間を温存できたので、その分、生口島を起点に観光スポットをじっくり巡るプランを立てやすい。旅行者、地元の双方にとってメリットが大きいと実感した。
レモンケーキは十人十色

今回、食べ比べのターゲットとしたレモンケーキは、レモン畑が広がる瀬戸田ならではのお菓子。クッキー、ドーナツ、最中、レモンブラン(モンブランのレモン版)、レモンプリン、レモンチーズケーキ…枚挙にいとまがないレモンのスイーツを和・洋菓子店が販売する中、そろってラインナップされるのがレモンケーキだ。各店がオリジナルテイストで作り、大きさは手のひらサイズ。サイクリングの合間のおやつとしてもちょうどいいボリュームだ。レモンはクエン酸が豊富で疲労回復に効果があるので、サイクリングの補給食としてもポイントが高い。

記者が食べたレモンケーキは、全部で5種。価格は108円~220円、どれもタイプが異なるデザイン・風味で飽きずに食べることができた。
まずは、瀬戸田港から商店街に入ってすぐの「向栄堂」の「レモンケーキ」(1個130円)。開封前からふわりとレモンの香りが漂う。小ぶりなレモン型がかわいらしいケーキ全体が、レモンチョコでコーティングされている。果汁が入った甘~いケーキで、レモンピールが味のアクセントになっていた。
商店街をさらに中ほどへ進んだ場所にある「ル・ブラン」の「レモン」(1個140円)は、珍しいパウンドケーキ型。果汁に加えホワイトキュラソー入りのケーキは、苦味が際立つ大人の味。ブランデーなどお酒のお供にもなりそうだ。

同じ通りをさらに進み、耕三寺の向かいに構える「梅月堂」では、「レモンケーキ」(1個108円)と「すっぱいレモンケーキ」(1個162円)の2種類が用意されている。どちらも生地にはピール入りで、前者は中央にごろっとマロングラッセが入り、洋酒感は強め。後者は中央にレモンのジェル入りと変わり種。
3代目の夫を支える高下(こうげ)治美さんは、「もともとのレモンケーキに対して『なんでクリ?』という疑問の声が多かったので、新作を今年2月から販売しました」と笑いながら教えてくれた。試作を重ねて製品化したという新作は、インパクトがある濃厚ですっぱいレモンジェルがクセになりそうだ。

「瀬戸田檸檬菓子工房 パティスリー オクモト」は、イートインスペースを備える大きな店構えで、入口横にはサイクルラックも常設されている。アウトドアのデッキスペースもあり、サイクリストが立ち寄りやすいのが魅力的だ。店内に一歩入れば、広がるレモンの香りに笑顔になる。すこし大きめサイズの「瀬戸田レモンケーキ 島ごころ」(1個220円)は、ゴロゴロ入ったレモンピールを楽しんで。購入者はコーヒーを無料で飲むことができる。
三角屋根が印象的な外観の「クレメント」の「瀬戸田レモンケーキ」(1個118円)は、半がけのレモンチョコに加え、アーモンドプードル入りがポイントだ。アーモンドプードルのおかげでクッキーのような香ばしい焼き菓子感が味わえる。
※金額の表記はすべて税込み価格です。
レモン畑の迷路で“冒険”

生口島を一周するコースは、それほど起伏のない30km弱の道のり。のんびりサイクリングを楽しむにはちょうどいい広さの島だ。また、島の北西に位置する高根島(こうねしま)に渡って周回してみるのもいい。遠くに橋や島影を望みながら、穏やかな海沿いを走る道は、心地よすぎるくらい快適だ。
※高根島は2015年5月15日まで終日、島内のトンネル拡張工事のため周回不可。以降日曜は通行可、そのほかの曜日では7月31日まで8:15~16:45の間は通行不可。(4月11日現在)
生口島へ戻り、海を見下ろすサイクリングロード「向島因島瀬戸田自転車道線」(県道466号)を見つけた。しまなみ海道サイクリングロードのメインのルートから外れるため、ちょっとした穴場だ。斜面に広がるレモン畑を横目に走っていると、ワイン畑の中を走ったドイツ西部の川沿いの道を思い出した。
また、サイクリングロードと交差するように幾本も延びる農道は、抜け道のようで冒険心をくすぐられた。試しに入ってみると、島の奥へどんどんと上っていく。見渡す限りのレモン畑は、圧巻だ。収穫時期を外れた4月の初めは、人もほとんどおらず、迷路の中にいるような不思議な気持ちになった。
ただし、農道のコンクリートの路面は凹凸があり、自転車で走るように整備されていないのが難点だ。「ちょっと危ないかな…」と思っていたところで、見事にパンクした。冒険、終了…。サイクリングロードを外れてレモン畑の抜け道を散策する場合は、覚悟の上お出かけください。