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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<105>デゲンコルプら新世代のクラシックレーサーが躍動 ウィギンスは心残りなくトラック競技へ

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 4月12日に行われたパリ~ルーベをもって、2015年の“北のクラシック”は大きな盛り上がりのもと完結しました。7選手がゴール地、ルーベのヴェロドロームになだれ込む近年まれに見る大混戦でしたが、選手たちは牽制なしのスプリント勝負を繰り広げました。今回は石畳での戦いを終えた“勇者たち”の言葉から勝負を振り返るとともに、将来有望なクラシックレーサーたちにも目を向けます。

3月に行われたミラノ~サンレモに続いて、大きな勝利を挙げたジョン・デゲンコルプ(パリ~ルーベ2015)3月に行われたミラノ~サンレモに続いて、大きな勝利を挙げたジョン・デゲンコルプ(パリ~ルーベ2015)

スプリント勝利は「賭けでしかなかった」

 追走、集団牽引、スプリントと、あらゆる展開に対応し勝利を収めたジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・アルペシン)。グランツールでポイント賞を獲得するだけのスプリント力もさることながら、強力なアタックや独走力、短い上りであれば難なくこなす登坂力が、ここ数年の彼の評価を高めている。

ヴェロドロームでのスプリント勝負を制したジョン・デゲンコルプ(パリ~ルーベ2015)ヴェロドロームでのスプリント勝負を制したジョン・デゲンコルプ(パリ~ルーベ2015)

 このパリ~ルーベでは、残り50km以降メーン集団からのアタックが散発し、それを有力チームのアシストが捕まえにいくという流れが繰り返されていた。しかしデゲンコルプは、チームのエースであり優勝候補でもありながら、自らそうした動きに再三対応していた。脚を使いすぎる危険性もあったわけだが、「力のある選手のアタックに関しては、自分で止めにいくのがベストだと思っていた」とレース後に明かしている。改めて、彼のタフさを裏付けたポイントだと言えるだろう。

 先行したイヴ・ランパールト(ベルギー、エティックス・クイックステップ)、フレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)を追いかけるため、ラスト10kmでアタックして合流。ルーベのヴェロドロームを前に4選手に追いつかれた結果、7選手での優勝争いとなったことについては、「賭けでしかなかった。(7人がトラックでスプリントするような状況は)完全に特殊なシチュエーションだ。私はリスクを冒すことを望んでいなかった」と述べる。スプリント力からして誰もが有利と見たはずだが、それでも決して過信はせず、タイミングを見極めて勝負したことを強調する。

石のトロフィーを掲げ、仲間と勝利を喜び合うジョン・デゲンコルプ(パリ~ルーベ2015)石のトロフィーを掲げ、仲間と勝利を喜び合うジョン・デゲンコルプ(パリ~ルーベ2015)

 5度目のチャレンジでのルーベ制覇は、周到な準備の賜物だったようだ。これまでは落車やパンク、メカトラブルで苦戦を強いられてきたが、「初めてノートラブルでルーベに到達した」とコメントし、チームスタッフのバイク整備が完璧であったことに感謝した。また、「精神的な準備も必要だったが、ミラノ~サンレモからパリ~ルーベまでにいかに気持ちを切り替え、良い状態を作り上げるか。そこに最終的な違いが生まれる」と述べる。

 ミラノ~サンレモとの2冠を達成し、名実ともにトップレベルのクラシックライダーとなった背景には、心身のコントロールと周囲の努力があったことは見逃せない。

若手のランパールトが大健闘

 デゲンコルプのスプリントに屈した6選手だが、勝つためのトライを最後まで惜しまなかった走りは称えられるべきである。

 2位のズデニェック・シュティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)は、残り12kmで飛び出したランパールトの動きは完璧だったとして、「私にアタックするだけの脚が残っていなかった」ことを悔いた。残り30kmを前に仕掛けたブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム スカイ)に対応したことが消耗を招く要因となったという。それでも順位には満足しているといい、勝つために必要なのは「経験」だと言い切った。

ヴェロドロームでは、チームメートのために最後の力を振り絞ったイヴ・ランパールト(パリ~ルーベ2015)ヴェロドロームでは、チームメートのために最後の力を振り絞ったイヴ・ランパールト(パリ~ルーベ2015)

 また、エティックス・クイックステップ勢では、ランパールトが大健闘の7位。2連覇を目指したニキ・テルプストラ(オランダ)は15位。アシスト陣が中盤以降レースをコントロールするなど、積極性が光った。絶対的エース、トム・ボーネン(ベルギー)を欠いた中での戦いを強いられたが、そのボーネンも34歳。いずれやってくる“脱ボーネン”の時を見据え、昨年の勝利に続き今回も1つのきっかけとしたいところだ。

 終盤に見せ場を作ったヴァンアーヴルマートは3位。ゴール後には悔し涙を流す様子もあったが、「表彰台の一角を確保できたことは満足」と話す。一緒に逃げたランパールトは良い走りだったと称えた一方で、デゲンコルプの合流を許したことで「勝つことは難しいと思った」と振り返った。その後、シュティバルが優勝争いに加わったことで、展開の変化を望んだようだが、誰もが消耗している中では上手くいかなかったようだ。

 なおヴァンアーヴルマートは、禁止行為である血液ドーピングの1つであるオゾン療法を行っていたクリス・メルテンス医師とのかかわりが指摘されており、近日中にベルギー自転車連盟の聴聞会に召喚される見通しだ。

選手たちが示したウィギンスへのリスペクト

 ロードレース界から事実上の引退を宣言し、最終レースをパリ~ルーベに定めたウィギンス。優勝を目指し、自身もチームも高いモチベーションでレースに臨んだが、結果は18位だった。

 ゴールまで残り33kmのパヴェ(石畳)、テンプレーヴ・トゥ・ムーラン・ド・ヴェルタン(セクター7、難易度2、距離500m)でのアタックは、勝負を左右する決定的な動きとなるかに見えた。しかし、後方から合流した選手との思惑が一致せず、逃げを決めるには至らなかった。

 序盤から中盤にかけてはメーン集団の後方を走り、パヴェでの集団分断のたびに後続集団に取り残されるなど心配なシーンがあったものの、彼なりの走りを貫き、一定の結果を残した点はさすがだ。

ロードレースのトップシーンにおける最後のレースを終えたブラッドリー・ウィギンス(パリ~ルーベ2015)ロードレースのトップシーンにおける最後のレースを終えたブラッドリー・ウィギンス(パリ~ルーベ2015)

 ゴール後には満足そうな表情を見せた。「良いパフォーマンスだったし、クラシックライダーとしての2年間の挑戦は素晴らしいものだった」と話す。何より、多くの選手がトップシーンでの走りを終えるウィギンスのもとに駆け寄り、祝福してくれたことがうれしかったという。これまで話をしたことがなかった選手や、ときに言い争うこともあった選手までもが声をかけてくれたというのは、彼がリスペクトされていたことの表れだ。

 2012年ツール・ド・フランスではイギリス人として初めて頂点に立ち、直後のロンドン五輪では個人タイムトライアルで金メダルを獲得。そのほかにも多くのレースで強いインパクトを残した。今後は“古巣”のトラック競技へと戻り、6月にはアワーレコード挑戦を予定。そして、キャリア最後となる2016年のリオ五輪ではチームパシュート(団体追抜)で同国史上最多タイの5個目の金メダル獲得を目指す。

互いに意識し合うデゲンコルプとクリツォフ

 パリ~ルーベにおいて過去10年間で7回にわたり優勝を分け合ったボーネンとファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)が今回、ともに負傷により欠場。絶対的な存在感を発揮する選手がいないなかで、ニューヒーローの誕生に期待が膨らんだレースでもあった。

 デゲンコルプはミラノ~サンレモでの優勝を合わせ、今後のクラシックレースを引っ張っていく選手として名乗りを挙げたと言えるだろう。さらに、似た脚質として見逃せないのがアレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)である。

前週のツール・ド・フランドルを制したアレクサンドル・クリツォフは10位に入った(パリ~ルーベ2015)前週のツール・ド・フランドルを制したアレクサンドル・クリツォフは10位に入った(パリ~ルーベ2015)

 クリツォフは優勝したツール・デ・フランドルに注力しており、ルーベでは厳しいレースになることを自ら予想していたが、それでも10位とまとめた。すでにツールでのマイヨヴェール(ポイント賞)獲得を見据えており、ルーベでの活躍は来シーズン以降のお楽しみといったところのよう。実際のところ、互いの走りっぷりを意識している様子で、デゲンコルプは「いつかマッチスプリントで勝負する日が来ると思う」と述べているほどだ。

 ともにピュアスプリンターほどのスピードはないが、展開が目まぐるしいクラシックレースやアップダウンの多いコースで実力を発揮する。アタックの巧さも魅力で、かねてからのスプリント力と合わせ、“スプリンター・パンチャー”と新たな表現で彼らの脚質を称する海外メディアも出てきている。

 また「ポスト・ボーネン」を待ち望んでいたクラシックレースの本場、ベルギーのファンにとっては、今回のフランドルとルーベは大収穫だったといえそうだ。フランドルでは21歳のティシュ・ブノート(ロット・ソウダル)が5位、ルーベではランパールトが7位。ともにネオプロ(U23カテゴリーからの昇格1年目)での快走とあって、13年前のボーネンの姿に重ね合わせた人も多いことだろう。当時ネオプロだったボーネンは、初のルーベで3位に入り、その後の礎を築いた。早くから期待され、今回6位とついに殻を破ったイェンス・クークレール(オリカ・グリーンエッジ)も含め、今後世代交代に拍車がかかる可能性が高まってきている。

アムステル・ゴールドレース展望

 北のクラシックが終わり、春のクラシックシリーズは後半戦へ。丘陵地帯が舞台となり、その初戦としてアムステル・ゴールドレース(オランダ)が4月19日に開催される。

最後のカウベルグでアタックを決めたフィリップ・ジルベールが優勝した(アムステル・ゴールドレース2014)最後のカウベルグでアタックを決めたフィリップ・ジルベールが優勝した(アムステル・ゴールドレース2014)

 立て続けに訪れる急坂とコーナーがレースの難易度を高める。今回は34カ所の上りが用意され、獲得標高は4000mを超える。注目はカウベルグ(登坂距離1.2km、平均勾配5.8%、最大勾配12%)。4回通過するが、最後の1回はゴール直前の勝負どころだ。ここをクリアすると、あとはゴールまで1.8kmの平坦路。昨年はフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)がカウベルグでアタックを成功させ、独走勝利を挙げた。

 ジルベールのほか、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)、ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、エティックス・クイックステップ)らが軸となってレースが展開すると予想される。地元期待のトム・ドゥムラン(チーム ジャイアント・アルペシン)やバウケ・モレマ(トレック ファクトリーレーシング)、今シーズン好調のトニー・ガロパン(フランス、ロット・ソウダル)あたりも勝機をうかがう。

今週の爆走ライダー-マルティン・エルミガー(スイス、イアム サイクリング)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 36歳の大ベテランがこの春、快走を連発している。フランドルで10位に入ると、続くルーベでは5位。

 自身初めてとなったパリ~ルーベでの優勝争い。最終盤は先頭集団を必死で追った。その甲斐あって、ラスト1.5kmで合流。一緒に前を目指したラルス・ボーム(オランダ、アスタナ プロチーム)、クークレールに感謝した。ゴールスプリントでは力尽きてしまったが、「これ以上は望めない」大満足の結果だった。

 平坦での走りを得意とし、かつては石畳系のレースでは上位を食い込むこともあった。近年は逃げやアシストで堅実な走りを見せ、チームからの信頼度も高い。今年は当初、シルヴァン・シャヴァネル(フランス)のアシスト予定だったが、精彩を欠いたエースに代わって上位を狙った。

北のクラシックで自身最高のパフォーマンスを示したスイスチャンピオンのマルティン・エルミガー(ツール・デ・フランドル2015)北のクラシックで自身最高のパフォーマンスを示したスイスチャンピオンのマルティン・エルミガー(ツール・デ・フランドル2015)

 スイス人ライダーと言えば、真っ先にカンチェッラーラの名が挙がるが、同国ロードレース王者の回数ではエルミガーが上を行く。4度のチャンピオンジャージ獲得は、第一人者として相応しい数字だ。

 キャリア最高のクラシックシーズンを経て、これからはステージレースでのアシスト業務が控える。長年の経験に裏打ちされた確かな走りは、若い選手が多いチームに活力を与えることだろう。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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