title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<104>ツール・デ・フランドル徹底検証 最も強かったクリツォフと決定力を欠いたテルプストラ

  • 一覧

 4月5日に行われたワンデーレース最高峰、ツール・デ・フランドルは“クラシックレースの王様”にふさわしい熱いレースとなりました。ファンの盛り上がりもさることながら、選手たちの高いモチベーションが見ている側にも伝わり、フランドルがどれだけ格式が高く、誰もが憧れるレースであるかを再認識させてくれました。今回はハイレベルな戦いになったフランドルを総括。レース内容から、いくつかのポイントを洗い出してみます。

ベルギーのファンたちは大熱狂。スタート地点の広場を人だかりが埋め尽くした(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>ベルギーのファンたちは大熱狂。スタート地点の広場を人だかりが埋め尽くした(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>

クリツォフの新境地 スプリントだけではないレース巧者

 19の登坂区間に加え、石畳の難所も含まれる264.2kmのレースにおいて、アレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)が最も強かった選手であることは間違いない。必ずしも「最も強かった選手=勝者」とならないのがサイクルロードレースの特徴でもあるが、北のクラシックにあっては個の力や自らレースを組み立てるセンスが問われることから、その日一番強かった選手が勝利にふさわしいとの見方はより一層強まった。

初優勝を飾ったアレクサンドル・クリツォフ。この日「最も強かった選手」だ(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>初優勝を飾ったアレクサンドル・クリツォフ。この日「最も強かった選手」だ(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>

 勝因をいくつか挙げたい。まずは「勝負勘」。残り28kmを残して飛び出したニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)をすかさずチェックしたことについて、レース後に「テルプストラを逃がしてはいけないと思った」と口にしている。結果的に、2人で逃げ切る形になった。

 北のクラシックシーズンに入り、テルプストラはほとんどのレースで勝負に絡む走りを見せている。いわば、テルプストラのアタックは勝負を左右する動きであると言える。メーン集団のペースが一瞬緩んだ隙を突いたこともあり、多くの選手がチェックを躊躇、または対応に遅れる格好となったが、クリツォフはそこを見逃さなかった。この辺りは、ルカ・パオリーニ(イタリア)以外のアシストが若干手薄であるチーム事情から、いい意味で自らのタイミングで動きやすい状況にあったことも一因かもしれない。

 続いて、ライバルとの「地脚」の差を挙げたい。筆者がクリツォフの強さを感じたポイントは2カ所ある。

スプリンターとして知られるアレクサンドル・クリツォフだが、上りで独走に持ち込みたいニキ・テルプストラに引けを取らなかった(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>スプリンターとして知られるアレクサンドル・クリツォフだが、上りで独走に持ち込みたいニキ・テルプストラに引けを取らなかった(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>

 1つ目は最後のセクションとなる2度目のパテルベルグ(251km地点)。スプリンターとして鳴らすクリツォフに対し、テルプストラはこの上りで仕掛け独走に持ち込みたいところだった。しかし、上りの入口でクリツォフがペースアップし、テルプストラのアタックを封じていたのである。この段階で、脚の差がはっきりしたと見えた。

 2つ目は最終局面。普段はチームのエーススプリンターとして、スプリントトレインに発射されることの多いクリツォフだが、今回のようにマッチレースになった際の走りが未知数だった。ところがふたを開けてみると、まるで逃げ巧者のような終盤の走り。ラスト1kmを切り、どちらが先にスプリントに出るかは、タイミングだけでなく「互いのマークをどうかいくぐるか」にかかってくる。自身へのマークが外れた瞬間に一気に踏み込むわけだが、クリツォフはテルプストラにそれを許さなかった。レース中継を録画していた方や、「J SPORTS LIVE+オンデマンド」の視聴環境がある方はもう一度見直してみてほしい。ラスト1kmを切ってからのクリツォフは、後ろについたテルプストラからほとんど目を離していないことが分かるはずだ。

追走を引き離すために脚を使いながらも、最後は盤石のスプリントで勝利を飾ったアレクサンドル・クリツォフ(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>追走を引き離すために脚を使いながらも、最後は盤石のスプリントで勝利を飾ったアレクサンドル・クリツォフ(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>

 実力、能力、コース適性がすべて噛み合わないと勝つことが難しいこのレースで、まさにそのすべてでライバルを凌駕したと言えるだろう。ちなみに、フランドル前に臨んだステージレース、デ・パンヌ3日間(UCI2.HC、3月31日~4月2日)でも、ステージ3勝(全4ステージ。最終日に2ステージ実施)で文句なしの総合優勝。1週間で5勝を挙げる驚異の数字をマークした。

勝ちきれないエティックス・クイックステップ

 E3 ハーレルベーク、ヘント~ウェヴェルヘム、そしてフランドルと、3戦連続でチームトップの選手が2位に終わったエティックス・クイックステップ。2月下旬から始まった石畳系のレースでは、クールネ~ブリュッセル~クールネ(UCI1.1、3月1日)でマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が挙げた1勝にとどまっている。

終盤の上り区間で勝負を決められなかったニキ・テルプストラ(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>終盤の上り区間で勝負を決められなかったニキ・テルプストラ(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>

 スペシャリストがそろい、確実に優勝争いに絡む戦力を有しながら、あと一歩のところでレースを決めきれない印象だ。たびたび選手間の連携が疑問視されているが、その点の問題はないと筆者は見る。現在このチームに欠けているものは「決定力」だろう。

 カヴェンディッシュは元々チームのクラシック班には属しておらず、北のクラシックで絶対的エースのトム・ボーネン(ベルギー)は負傷で戦線離脱中。ゴール前での争いに勝てるスプリンターがいないため、数人での優勝争いになると、一気に不利になってしまうのだ。数的優位に立ちながら、ライバルに粘られた末に情勢が傾くケースが多くなっている。

 また、テルプストラやズデニェック・シュティバル(チェコ)らエースクラスのアタックが他のチームや選手から読まれている点も挙げられる。ここにも、マークを引きつけられるボーネンを欠く影響が出ているようだ。

 クリツォフとの一騎打ちに敗れたテルプストラだが、ラスト13kmのパテルベルグでアタックできなかった時点で2位狙いに切り替えたという見解が多い。後続を待つことで表彰台までも失うリスクは負わず、確実に上位に入る選択をしたようだ。優勝こそ逃したものの、本人もチームも結果に満足しているという。残すパリ~ルーベでは、チーム力で勝利をつかむことができるだろうか。

優勝候補筆頭トーマスは勝負に絡めず

 このところ好調だったゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)。優勝候補筆頭に挙げる声も多く、満を持して臨んだが優勝争いに絡むことができなかった。

優勝候補筆頭だったゲラント・トーマス(先頭)は厳しくマークされた(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>優勝候補筆頭だったゲラント・トーマス(先頭)は厳しくマークされた(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>

 チームは序盤からメーン集団をコントロールしたが、残り50kmを切ってペースが上がってくると、アシストが次々と脱落。残ったのはルーク・ロウ(イギリス)だけだった。それでも途中までは余裕のある走りに見えたが、テルプストラとクリツォフの動きに対応できず。マークが厳しく、終盤は集団を牽かされる場面も目立った。14位に終わり、「終盤は脚が残っていなかった」と敗戦の弁。

 ボーネンを欠くレースで、ベルギー国民の期待を集めたフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(BMCレーシングチーム)は3位。何とか表彰台の一角は確保した。本人が悔いたのは、やはり上位2人が抜け出した残り28kmの場面。アシストを多く残していたことで前を追うことができると判断したが、結果的に失敗に終わってしまった。

 最後のパテルベルグでヴァンアーヴルマートとともに追走グループを形成したペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)は、またしても最終局面で失速。今年は自らレースを動かしながらも、終盤をまとめられないケースが目立っている。来たるパリ~ルーベには、何としてもコンディションを合わせたいところだ。

ニュートラルサービスカーによる事故を謝罪

ニュートラルサービスカーに追突されたエフデジのチームカー(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>ニュートラルサービスカーに追突されたエフデジのチームカー(ツール・デ・フランドル2015)<写真・砂田弓弦>

 今回、ニュートラルサービスカーによる事故が2件起きた。逃げ集団の先頭を走っていたジェス・サージェント(ニュージーランド、トレック ファクトリーレーシング)が、左側を抜けようとした車両に接触され激しく落車。2件目は、エフデジのチームカーに追突し、チームスタッフを待っていたセバスティアン・シャヴァネル(フランス)が跳ね飛ばされ、リタイアとなっている。

 これに関し、ニュートラルサービスカーのスポンサーであるシマノ社がレース後に謝罪文を発表。原因の究明と、今後の対策に努めるとした。なお、2件ともドライバーはレース現場経験の豊富な人物だったことを明らかにしている。

 なお、サージェントは鎖骨骨折により数日中に手術に臨む。シャヴァネルは骨折は免れたものの、右大腿部を激しく打撲したことがチームから発表されている。

大混戦が予想されるパリ~ルーベ

 “クラシックの女王”パリ~ルーベが4月12日に行われる。北のクラシックの締めくくりとして行われるこのレースは、ツール・デ・フランドルと並びワンデーレースの最高峰の1つ。コースそのものは平坦基調だが、総延長52.7kmにも及ぶパヴェが登場。253.5kmで争われる今回は、27のパヴェセクションが待ち受ける。

パリ~ルーベ2015のコースプロフィール ©A.S.O.パリ~ルーベ2015のコースプロフィール ©A.S.O.

 それぞれのセクションには5段階の難易度が設定されており、最高の5つ星は18番アーレンベルグ(158km地点、距離2.4km)、10番モンス・アン・ペヴェル(204.5km地点、距離3km)、4番カルフール・ド・ラルブル(236.5km地点、距離2.1km)の3カ所。

 アーレンベルグを前にゴールスプリントさながらの位置取りが見られ、このセクターで先頭から遅れたりトラブルに見舞われたりすると、勝負することすら難しくなる。優勝候補がパンクやメカトラブルで足止めを食うことが幾度となく起こっている。モンス・アン・ペヴェル、カルフール・ド・ラルブルでは優勝争いに直結する動きが見られるだろう。

 前回は残り10kmを切ってからも11選手が優勝争いに生き残った。ボーネンやファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)が欠場する今回も、大混戦のレースになるのは必至。

昨年は独走で優勝を飾ったニキ・テルプストラ(パリ~ルーベ2014)<写真・砂田弓弦>昨年は独走で優勝を飾ったニキ・テルプストラ(パリ~ルーベ2014)<写真・砂田弓弦>

 2連覇を狙うテルプストラは、シュティバル、スティーン・ヴァンデンベルフ(ベルギー)らとチーム力で勝利を狙う。一瞬のアタックで、ライバルを寄せつけず独走に持ち込めるかがカギ。

 クリツォフはフランドルとの2連勝なるか。スプリントで対抗できるのは、ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・アルペシン)くらいか。本調子であればサガンも負けないが、レース終盤の息切れが不安だ。

 フランドルで悔しい結果に終わったヴァンアーヴルマートは今度こそ勝利をつかみたい。BMC勢は独走力のあるダニエル・オス(イタリア)も好調だ。ユルヘン・ルーランツ、イェンス・デビュッシェール(ともにベルギー)のコンビネーションが生きるロット・ソウダル勢も伏兵的存在。アンドレ・グライペル(ドイツ)が強力アシストとなるだろう。

 そして、ブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム スカイ)にとっては、事実上のロード界引退レースとなる。自身が後継者として指名したトーマスとともに、ゴール地ルーベのヴェロドロームを目指す。一時代を築いた男の有終の美をしっかりと目に焼き付けよう。

今週の爆走ライダー-アンヘル・ビシオソ(スペイン、チーム カチューシャ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 華麗な復活劇だ。地元スペインで4月4日に開催されたGPミゲル・インドゥライン(UCI1.1)で逃げ切って優勝。現在開催中のブエルタ・シクリスタ・アル・パイス・バスコ(UCIワールドツアー)の前哨戦を制した彼だが、少し前まではこれだけの走りができるようになるとは、誰も思っていなかったことだろう。

大けがからの復帰を果たしたアンヘル・ビシオソ(ティレーノ~アドリアティコ2015)<写真・砂田弓弦>大けがからの復帰を果たしたアンヘル・ビシオソ(ティレーノ~アドリアティコ2015)<写真・砂田弓弦>
手術後のリハビリ中のアンヘル・ビシオソ ©Team Katusha手術後のリハビリ中のアンヘル・ビシオソ ©Team Katusha

 昨年のジロ・デ・イタリア第6ステージ。終盤にラウンドアバウト(円形交差点)で起きた数十人規模のクラッシュは、多くの選手・チームにとってその後の戦術変更を余儀なくされる大きな出来事だった。同国の仲間であるホアキン・ロドリゲスも負傷し大会を去る原因となったが、最も被害が大きかったのがビシオソだった。大腿骨の骨折により、3時間半にも及ぶ整復手術。自他ともに「キャリアの終わり」を感じる瞬間だった。

 11カ月経った今、彼はプロトンにいる。元来スプリントに自信があり、小集団でのゴール争いをモノにすることが得意だったが、そのスタイルも失われていなかった。

 4月13日に38歳となる。年齢を考えれば、ジロでの大けがで引退を決断していても不思議ではなかったが、復帰早々強さを発揮したところを見ると、まだまだ戦う気は満々のようだ。ここ数年はロドリゲスのアシストを務めているが、この勝利を機に自分のために走る機会が増えてくるかもしれない。衰えを知らないベテランは、ここにも存在しているのである。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

UCIワールドツアー 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載