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新設コースの見どころも紹介ツアー・オブ・ジャパン初開催を機に“自転車のまち”へ 三重県いなべ市の狙いと期待

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「ツアー・オブ・ジャパン2015」の第2ステージが行われる、いなべ市の日沖靖市長「ツアー・オブ・ジャパン2015」の第2ステージが行われる、いなべ市の日沖靖市長

 日本最大のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」(TOJ)で、今年の大会から三重県いなべ市を舞台とする「いなべステージ」が追加され、いよいよ5月19日に初開催される。山間地にある人口4万5000人ほどの同市が、国際レースの誘致に名乗りを上げた経緯とは? 日沖靖市長らいなべステージ開催のキーパーソンに話を聞くとともに、コースの見どころ、観戦ポイントを取材した。(レポート 浅野真則)

仕掛け人はアウトドア・プランナー

 いなべ市は三重県の最北端の内陸部、岐阜・滋賀との県境にある小さな町だ。鈴鹿山脈と養老山脈が交わるエリアにあり、地形は起伏に富んでいる。交通量はそれほど多くなく、自転車で走りやすい道も多いので、週末を中心に市内外からサイクリストが走りに来ている。

 しかしいなべ市は、これまで自転車による町おこしに積極的だったわけではない。日沖市長自身はアメリカンフットボールに取り組んできたアスリートであるものの、サイクリストではない。

Cyclistの取材に応じ、ツアー・オブ・ジャパンへの意気込みを語った、いなべ市の日沖靖市長 (写真・浅野真則)Cyclistの取材に応じ、ツアー・オブ・ジャパンへの意気込みを語った、いなべ市の日沖靖市長 (写真・浅野真則)

 「市民の大半にとって、『自転車=ママチャリ、生活の足』『自転車のレース=競輪』という認識だったし、私もそうだった」

 日沖市長の言葉が物語るように、自転車競技に対する市民の認知度は決して高くなかった。強いて言えば、副市長の吉野睦氏が、ブルべ(制限時間内に規定のチェックポイントを通過しながら200km以上の長距離を走るラリーライド)を楽しむ筋金入りのサイクリストであることが、市として唯一ともいえるスポーツサイクルとの接点だった。

 そんな目立たない自治体のいなべ市が、TOJを誘致することになったのは、TOJの南信州ステージ(長野県飯田市)や美濃ステージ(岐阜県美濃市)の立ち上げに関わった岐阜県在住のアウトドアプランナー、洞口健児氏の後押しがきっかけだった。

 洞口氏は、キャンプ場の設計、ソフト面を含めた運営のアドバイスを手がけており、10年ほど前にいなべ市内のキャンプ場の立ち上げに携わった。その後も運営面でアドバイザーとして関わっていたことから、いなべ市の立地や地形を熟知していた。

 「2014年を最後にTOJ奈良ステージが中止されることが決まっていて、TOJ運営側が奈良ステージに代わるステージを探していた。堺と美濃の両ステージの間にある候補地として、いなべ市なら地形的にもおもしろいコースができるのではないかと直感した」と洞口氏。そこで、日沖市長にTOJのステージ誘致を打診した。2013年冬のことだった。

日沖靖・いなべ市長らが視察したツアー・オブ・ジャパン2014 南信州ステージのスタートシーン =2014年5月21日、長野県飯田市 ©TOUR OF JAPAN 2014日沖靖・いなべ市長らが視察したツアー・オブ・ジャパン2014 南信州ステージのスタートシーン =2014年5月21日、長野県飯田市 ©TOUR OF JAPAN 2014

 洞口氏のコーディネートによって2014年5月21日、日沖市長と吉野副市長、それに市職員数人でTOJ南信州ステージを視察。公道を舞台に国際的な自転車ロードレースが行われ、市民だけでなく全国の自転車愛好家が訪れて熱狂的に応援するTOJのライブ感を体感した。

 「地理的条件、道路の整備状況、地形など、いなべ市には奈良ステージに代わってTOJ開催地になりうる条件が整っている――と洞口氏からお墨付きをもらった。手を挙げるなら今しかない、という強いプッシュを受け、TOJ誘致に名乗りを上げた」と日沖市長は振り返る。

田園風景と山岳 いなべの魅力を盛り込んだコース

 2014年の南信州ステージ後、大会誘致が具体的に動き出した。コースづくりは、自らもサイクリストである吉野副市長が中心になった。

 「自転車乗りの目線で見るいなべ市の魅力は、開けた田園地帯と山岳の要素が一度に味わえること。これは観戦者の立場からも言える」と吉野副市長。まずは10パターンほどのプランを作り、その中から交通規制の容易さや、コース沿道の住民や企業への影響などを考慮して、絞り込んでいった。

いなべステージのコースマップ ©ツアー・オブ・ジャパン組織委員会いなべステージのコースマップ ©ツアー・オブ・ジャパン組織委員会

 最終案が固まった後は、TOJ実行委員会に了承を得るとともに、説明会を開くなど地元の理解を求める作業を同時進行で進めていった。

 最大の課題について、吉野副市長は「公道で、しかも平日にレースを行うとなると、コース周辺で交通規制を行うため、住民生活や地元企業への影響を考慮しなければならない。いなべ市には多くの工場があり、平日の交通規制にご理解いただく必要があった」と振り返る。翌春にレースを実施するという短いタイムリミットの中で「地元の理解を得ることが一番大変だった」そうだ。

 さらに、ロードレースとして魅力的なコースを作成することにも頭を悩ませたという。例えば大会本部とスタートゴール地点は、周回コースの中に設けることにこだわり、そのためにコースの一部を公園の中に通すことになった。大規模に観戦できる拠点を設け、その周辺の公道でも観戦できるようにすることで、観客自身が好きなポイントに移動してレースを楽しめるようにするためだ。

 また、コースは県道中心のルートを設定。市内を縦貫する大動脈の国道は、周回コースに入る前に一度横切るだけにするなど、規制を最小限にとどめるよう工夫した。さらに、コース沿線にある工場やゴルフ場などの企業や、沿線住民には、説明会でTOJ開催の意義など説明し、必要に応じて迂回路を設けるなどして理解を得るよう努めたという。

いなべステージの高低図  ©ツアー・オブ・ジャパン組織委員会いなべステージの高低図  ©ツアー・オブ・ジャパン組織委員会

“飯田モデル”の踏襲で結果を残す

 ゼロから始まったTOJいなべステージの誘致は実り、レース開催にこぎつけた。大会を成功させるための課題について、日沖市長はどのように考えてきたのだろうか。

 「まずは『自転車=ママチャリ、自転車競技=競輪』という認識から脱却してもらい、ロードレースとは何か、TOJという国際レースがいなべ市にやってくる意味を広く知っていただくことが大切だ」

 TOJの知名度を向上させる活動も順調に進めてきた。市内のショッピングセンターではロードバイクや写真パネルを展示する企画展を開催。また、TOJいなべステージの記念ジャージも作成した。

 「少しずつ気運が盛り上がってきたが、まずは一度開催してみて、TOJとはどういうものかを知っていただき、少しずついなべ市が“自転車の町”として前進していけばいいと思っている」と日沖市長。

 一方で、いなべステージ開催を市長にプッシュした洞口氏は、「初年度から結果を出さなければいけない」と主張する。

 「飯田市の南信州ステージは、地元の理解や盛り上がり、レースとしての魅力など、“飯田モデル”とも言うべき前例となり、それが美濃ステージの実現へとつながっていった。いなべ市はコースというハード面では、ほかのステージ以上のポテンシャルを秘めている。いなべステージもそのモデルを継承すれば、初年度から結果を出せると思う」

国内外の選手が白熱のレースを繰り広げる=2014年5月21日、長野県飯田市 ©TOUR OF JAPAN 2014国内外の選手が白熱のレースを繰り広げる=2014年5月21日、長野県飯田市 ©TOUR OF JAPAN 2014

いなべ市を自転車の町にする「地域おこし協力隊」

 いなべ市ではTOJ誘致と並行して、自転車を活用した地域おこしの実現も目指している。その一つが「地域おこし協力隊」の募集だ。

 地域おこし協力隊とは、大都市圏から地方都市へUターン、Iターン、Jターンして移住し、得意分野を生かして地域おこしを実現することで地方都市の活性化を目指す制度だ。総務省が2009年から実施し、地方自治体が募った協力隊員に対し、総務省が報償費や活動費を支給する。

 いなべ市では昨年、自転車を生かした町づくりができる隊員を募集した。2015年度はいなべ市出身で愛知県在住の女性に委嘱。4月から活動を始めている。

 それ以外にも、市内の飲食店にバイクラックを用意し、市外から走りに来るサイクリストをもてなす体制作りを進めている。飲食店などへのサイクルラック設置は、2017年度までにのべ30店舗にまで増やすことを目標とし、市外からのサイクリストは2014年度の500人から毎年10%増を目指しているという。

 いなべ市の取り組みは、まだ始まったばかり。しかし、TOJ開催をきっかけに一歩ずつ着実に“自転車の町”としての歩みを進めている。将来的に、モデルになった飯田市と並び称される自転車の町になるか――。いなべ市の挑戦から目が離せない。

◇         ◇

【観戦ポイント】公園周辺~山岳賞ポイント付近がオススメ

 いなべステージは、日本でも数少ないナローゲージの鉄道が走る三岐鉄道北勢線の終着駅・阿下喜駅前から5月19日午前9時にパレード走行がスタート。駅前の阿下喜商店街を経て国道306・365号を横断し、県道107号へ。藤原町川合の伊吹山を望む田園地帯でリアルスタートとなる。

三岐鉄道北勢線の阿下喜(あげき)駅前がスタート地点 (写真・浅野真則)三岐鉄道北勢線の阿下喜(あげき)駅前がスタート地点 (写真・浅野真則)
リアルスタートはこの辺りで切られる (写真・浅野真則)リアルスタートはこの辺りで切られる (写真・浅野真則)

 リアルスタート以降、上川原橋で周回コースに入る。上川原橋付近は、遠くに伊吹山を望むコース随一の観戦ポイントのひとつだ。ここからフィニッシュ地点や大会本部があるいなべ市農業公園までは緩やかな上り基調が続く。開けた田園風景から、標高が高まるに従って山岳コースを思わせる風景になる。このあたりは沿道のほぼ全域に歩道があり、観戦場所を移動することも可能だ。

上川原橋付近 (写真・浅野真則)上川原橋付近 (写真・浅野真則)
農業公園内のゴールライン付近 (写真・浅野真則)農業公園内のゴールライン付近 (写真・浅野真則)

 農業公園内では、フィニッシュラインを超えてすぐジェットコースターのように下り、再び上りに入る。コース最高の勾配は公園内の上りにあり、選手たちにとってはアタックの仕掛けどころのひとつとなりそう。このあたりがベストな観戦ポイントとなりそうだ。

 公園を抜けて県道606号に入ると、少し勾配はゆるむものの、山岳賞ポイントへ向けてしばらく上りが続く。山岳賞ポイント付近には高台からコースを見下ろせる公園があり、ここも人気の観戦ポイントとなることが予想される。

 山岳賞ポイントを過ぎると、コースは一変して下り基調となる。京ヶ野ゴルフ場までの集落を抜ける道は、ワインディングを抜けるハイスピードバトルが楽しめそうなコースプロフィールだが、観戦スペースにはあまり適さないかもしれない。

農林公園内の急坂区間 (写真・浅野真則)農林公園内の急坂区間 (写真・浅野真則)
BC付近の上り坂 (写真・浅野真則)BC付近の上り坂 (写真・浅野真則)
周回コースの中盤にあるヘアピンカーブ (写真・浅野真則)周回コースの中盤にあるヘアピンカーブ (写真・浅野真則)

 ゴルフ場を過ぎ、西部変電所の先で右折すると、コース幅が一気に狭くなり、その先には選手泣かせの鋭角のヘアピンカーブが現れる。この地点は木立の中にあり、路面も少し荒れ気味で、雨のレースとなった場合は落社などで一波乱起こる可能性もありそうだ。

 鋭角のヘアピンカーブを抜けると、田園風景が広がるエリアへ戻り、再び上川原橋へ。右手に曲がると再び農業公園への上りとなる。

記念ジャージは販売&ふるさと納税で入手可能

TOJいなべステージ開催記念オリジナルジャージのデザインTOJいなべステージ開催記念オリジナルジャージのデザイン

 TOJいなべステージ開催を記念し、オリジナルジャージが制作された。

 胴や背中の中央部には、新緑の5月といなべ市をイメージしたストライプグリーンがあしらわれ、背中のストライプはいなべステージへと向かっている。世界からいなべに一流選手が集結することを象徴している。

 また、背面の大会ロゴは、鈴鹿山脈の主要な山岳を舞台に、あるいは背景に繰り広げられるTOJいなべステージと、サイクルツーリズム活性を目指すいなべ市を表現しているという。

 開催記念ジャージは、ふるさと納税の特典(ジャージ、ウインドブレーカー、いなべステージ前日のレセプション参加権)として選べるほか、会場での販売も行われる。

■東京・日本橋でパブリックビューイング開催

今中大介さん(左)と絹代さん今中大介さん(左)と絹代さん

 いなべステージ初開催を記念して、東京・日本橋の三重県アンテナショップ「三重テラス」で19日午前9時から、パブリックビューイングによるレース観戦会が開催される。元ロードレース選手の今中大介さんが解説し、サイクルライフナビゲーターの絹代さんも一緒に観戦。また午後6時からは絹代さんによるトークイベント「健康に!美容に!もっとサイクルライフを楽しもう」も開催される。いずれも参加無料(トークイベントは申し込みが必要)。
 
イベントの詳細(5月16日掲載)

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