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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<103>大クラッシュ、名将退任、ライセンス問題…激動の2015シーズン春の事件簿

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 春のクラシックシーズンが進行し、好調な選手やチームが徐々に見えてきました。その一方で、落車による有力選手の相次ぐ負傷離脱や、時代を築いた名将の退任、ドーピングに端を発したライセンス問題など、気がかりなニュースが次々と飛び込んできています。今後のプロトンの動向を占う意味も含めて、この春に起きているさまざまな“事件”をいま一度おさらいしていきます。

大クラッシュにより落車リタイアしたファビアン・カンチェッラーラ。腰椎を2カ所骨折し、クラシックシーズンの戦線から離脱した(E3 ハーレルベーク)<写真・砂田弓弦>大クラッシュにより落車リタイアしたファビアン・カンチェッラーラ。腰椎を2カ所骨折し、クラシックシーズンの戦線から離脱した(E3 ハーレルベーク)<写真・砂田弓弦>

カンチェッラーラが腰椎を骨折 残る春のクラシックは欠場

 “北のクラシック”前半戦の1つ、UCIワールドツアー「E3 ハーレルベーク」が3月27日にベルギー・フランドル地方で開催された。ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)は、この大会に過去3度優勝と相性抜群。3年ぶりの頂点を狙うべく、優勝候補の最右翼として臨んだが、序盤に起きたトラブルで転倒、骨折し、彼のクラシックシーズンはあっけなく幕を閉じた。

落車後に再び走り出したファビアン・カンチェッラーラ(E3 ハーレルベーケ2015)<写真・砂田弓弦>落車後に再び走り出したファビアン・カンチェッラーラ(E3 ハーレルベーケ2015)<写真・砂田弓弦>

 スタートから39km地点のパヴェ(石畳)区間・ハーフフークでメーン集団に落車が発生。ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・アルペシン)、ラルス・ボーム(オランダ、アスタナ プロチーム)ら有力選手が多く巻き込まれたこのクラッシュで、最も被害が大きかったのがカンチェッラーラだった。

 痛みに顔をゆがめながらも何とか再出走したものの、その後バイクを降り、チームカーへと乗り込んだカンチェッラーラ。落車直後はしきりに左手首を気にする仕草を見せていたが、診断の結果、腰椎を2カ所骨折していることが判明した。リタイア時、本人の口からチーム関係者に「クラシックシーズンは終わった」旨を告げていたとの報道もあったが、まさにその通りになってしまった。

腰椎を骨折したファビアン・カンチェッラーラのX線写真 ©TREK FACTORY RACING腰椎を骨折したファビアン・カンチェッラーラのX線写真 ©TREK FACTORY RACING

 手術は行わず、当面は回復に時間を充てることになるが、「ひとたび間違えばキャリアを脅かしかねないケガだ」と述べるなど、カンチェッラーラ自身も慎重に休養する姿勢を見せている。

 長きにわたり北のクラシックの主役として存在感を発揮してきたカンチェッラーラの戦線離脱。最大のライバルであるトム・ボーネン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)も、3月9日のパリ~ニース第1ステージでの落車で左肩を脱臼し、戦線を離れている。ビッグレースが控える北のクラシック後半戦は、2人の王者を欠いての戦いとなる。

ティンコフ・サクソがビャルヌ・リース氏との契約終了を発表

 ティンコフ・サクソを運営するティンコフスポーツA/S社は3月29日、チームマネージャーだったビャルヌ・リース氏との契約を終了すると発表した。

オレグ・ティンコフ氏(左)とビャルヌ・リース氏(ツアー・オブ・カタール2015)<写真・砂田弓弦>オレグ・ティンコフ氏(左)とビャルヌ・リース氏(ツアー・オブ・カタール2015)<写真・砂田弓弦>

 双方の合意のもとで契約を終了するとし、詳細は明かされていない。とはいえ、3月中旬のティレーノ~アドリアティコ開催時に、チームオーナーのオレグ・ティンコフ氏がリース氏の手腕に不満を抱いていると報道されるなど、両者の関係を危惧する見方は強まっていた。そして、3月22日のミラノ~サンレモ直前には、リース氏が「(チームで)積極的な活動をしていない」と発表。この頃にはすでにチームを離れていたと見られる。

 重ねて、今シーズン2勝にとどまっているチーム状態や、過去に幾度となく不安視されたチームの運営資金の問題が契約終了の理由ではないことも明らかにしている。しかし、前述のティレーノ時には、ティンコフ氏がリース氏を含む数名の監督陣に、数台あるチームカーの乗車配置を変更するよう指示していたとの報道も。アルベルト・コンタドール(スペイン)とペテル・サガン(スロバキア)が1勝ずつしか挙げられていない今シーズンの戦況に、ティンコフ氏が満足していないのは確かなようだ。

アルベルト・コンタドール(先頭)に指示を送るビャルヌ・リース氏(ティレーノ~アドリアティコ2014)<写真・砂田弓弦>アルベルト・コンタドール(先頭)に指示を送るビャルヌ・リース氏(ティレーノ~アドリアティコ2014)<写真・砂田弓弦>

 これで思い出されるのが、ティンコフ氏がスポンサーとしてチームに参加した直後に迎えた2013年のツール・ド・フランス。不振に終わったコンタドールを非難するなどし、一度はティンコフ氏側のスポンサー離脱が発表された。しかし関係は修復され、スポンサー集めに苦心していたリース氏からチームの経営権を引き継ぐと、豊富な資金でビッグチームへと成長させた経緯がある。

 リース氏はツール・ド・フランス1996年大会の総合優勝者。1999年に現役を引退し、翌年以降、メモリーカード・ジャック&ジョーンズ、チームCSC、チーム サクソバンクと、現チームの基礎を築いてきた。引退後、禁止薬物EPOを現役当時に使用したことを告白しているが、指導者としては多くの選手を勝利に導き、その手腕は確かなものだった。

 コンタドールや、リース氏と同郷のデンマーク人ライダーらのように、リース氏を慕ってチームに参加している選手も多いことから、この一件で所属選手たちのモチベーションやチームの方向性が一変する可能性もある。また、2008年以降タイトルスポンサーを務めてきたデンマークの金融企業・サクソバンク社が、今シーズン限りでその地位を退くことも濃厚な情勢だ。

アスタナ プロチームのライセンス問題は4月2日にUCIが発表へ

 マキシムとワレンティンのイグリンスキー兄弟(カザフスタン)によるEPO使用など、所属選手による数件の禁止薬物使用を受け、国際自転車競技連合(UCI)からワールドチームライセンス剥奪を求められていたアスタナ プロチームだが、その決定が4月2日に下される見通しとなった。

 オランダ紙「デ・テレグラーフ」が最初に報じたもので、同紙はアスタナのワールドチームライセンスが剥奪され、それに伴うプロコンチネンタルチーム申請も却下されるであろうと伝えている。この報道の直後にUCIは声明を発表。デ・テレグラーフの報道を「誤解を招く内容」であるとしながら、4月2日にUCI内で開くライセンス委員会によって決定することは認めた。

2014年のツール・ド・フランス王者のヴィンチェンツォ・ニバリ。今シーズンのレース活動が心配される(ティレーノ~アドリアティコ2015)<写真・砂田弓弦>2014年のツール・ド・フランス王者のヴィンチェンツォ・ニバリ。今シーズンのレース活動が心配される(ティレーノ~アドリアティコ2015)<写真・砂田弓弦>

 ライセンス委員会には、アスタナのチーム関係者が召喚され、3人の委員からの質疑に応じる。アスタナ側は、このやり取りに10日間ほど要すると見ているようだが、それについてUCIの反応はない。いずれにせよ、数日中に処遇が決まるはずだ。

 ライセンスが剥奪された場合、アスタナは2段階下のコンチネンタルチームへ格下げとなる可能性もある。そうなれば、アスタナ側がスポーツ仲裁裁判所(CAS)へ仲裁を申し立てることは確実で、最終決定は先送りとなるだろう。

 この問題については、2月27日にUCIがアスタナのライセンス剥奪を求めるプレスリリースを発表していた。

ツール・デ・フランドル展望

 クラシックレースの中でもとりわけ歴史と伝統を誇る「モニュメント」の1つ、ツール・デ・フランドルが4月6日に開催される。開催地のベルギー・フランドル地方では「ロンド・ファン・フラーンデレン」の名で親しまれ、サイクルロードレース界で最も権威ある大会としてファンが熱狂する。

勾配が急な坂を上るペテル・サガンら(ツール・デ・フランドル2014)<写真・砂田弓弦>勾配が急な坂を上るペテル・サガンら(ツール・デ・フランドル2014)<写真・砂田弓弦>

 99回目となる今回は、ブルッヘからアウデナールデまでの264.2kmで争われる。登坂セクションは19、パヴェ(石畳)セクションは6となっているが、登坂セクションの中には石畳の箇所もあり、難所は数知れない。

 なかでも注目されるのは、コッペンベルグ、アウデ・クワレモント、パテルベルグの3つの急坂だ。

■コッペンベルグ(登坂距離600m、平均勾配11.6%、最大勾配22%)=219.6km地点
■アウデ・クワレモント(登坂距離2200m、平均勾配4%、最大勾配11.6%)=112.2km、209.6km、247.5kmの3度通過
■パテルベルグ(登坂距離360m、平均勾配12%、最大勾配20%)=213km、251kmの2度通過

 勾配が20%を超える箇所では、上りきれずに足をつく選手や、バイクを押して走って上る選手、それらの動きによって起こる大渋滞などで混乱が起こるポイントとしてもおなじみだ。

 レース展開を予想すれば、まず219km地点のコッペンベルグで本格的なメンバーの絞り込みが起こるだろう。数十人のメンバーがそのまま前を急ぐか、後方から追う選手たちが合流するかでその後の展開は変わる。

 ゴールまで残り16kmで迎える3回目のオウデ・クワレモント、最終セクションとして残り13kmで登場する2回目のパテルベルグは、確実に勝負を左右するポイントとなる。

“前哨戦”を制したゲラント・トーマスが優勝候補の一角を担う(E3 ハーレルベーケ2015)<写真・砂田弓弦>“前哨戦”を制したゲラント・トーマスが優勝候補の一角を担う(E3 ハーレルベーケ2015)<写真・砂田弓弦>

 ゴールまではおおむねフラットではあるが、急坂と石畳で集団の人数が徐々に絞られていくことから、単独での逃げ切り、または数人による優勝争いとなる可能性が高い。この春絶好調で、前哨戦といわれるE3 ハーレルベークで独走勝利を飾ったゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)が優勝候補の筆頭か。同レースで優勝争いを演じたズデニェック・シュティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)、安定して上位に食い込むセップ・ヴァンマルク(ベルギー、チーム ロットNL・ユンボ)が続く。数名によるスプリントになれば、デゲンコルプやサガン、アレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)が強力だ。ダークホースは、再三のアタックでレースを盛り上げるダニエル・オス(イタリア、BMCレーシングチーム)だ。

 カンチェッラーラとボーネンが欠場する今大会では、時代を担うであろうニューヒーローをしっかりと確かめよう。

今週の爆走ライダー-ラファエル・バルス(スペイン、ランプレ・メリダ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2015年シーズンに入り、ツアー・オブ・オマーン総合優勝、パリ~ニースとボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャではともに総合8位と上位フィニッシュを連発。ステージレース中心のプログラムで、オールラウンダーとしての資質をアピールし続けている。

 スペインではジュニア時代から注目された存在。アンダー23カテゴリー時代は自国のチームに所属し、国内レースをメーンに走りを磨いた。プロ入りは2010年。ルーキーイヤーからツール出場を勝ち取るなど、登坂力を武器に山岳での逃げやアシストを務めてきた。

総合優勝とステージ1勝を挙げ、総合系ライダーとしての実力を証明したラファエル・バルス(ツアー・オブ・オマーン2015)<写真・砂田弓弦>総合優勝とステージ1勝を挙げ、総合系ライダーとしての実力を証明したラファエル・バルス(ツアー・オブ・オマーン2015)<写真・砂田弓弦>

 フートン・セルベット、ジェオックス・TMC、ヴァカンソレイユ・DCMと、たびたびチームの解散に見舞われ、身の置き場を転々としてきたが、ようやく現チームに安住の地を見つけた印象だ。加入2年目の今年、総合エースとしての地位をものにするところまできた。

 何より、ベテランの存在感が大きいスペイン自転車界にとって、早くから期待を集めたホープの台頭は願ってもないことだった。彼にとっても、周囲にとっても、今シーズンがターニングポイントとなることは間違いない。

 今年で28歳、充実の時期に差し掛かっている。総合系ライダーとしての真価はいかに。ビッグレースが控えるこれからが本当の勝負だ。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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