連載「ロンドン便り」執筆者が肉声で報告ロンドン“自転車革命”の原動力は人々の意識と行動 青木陽子さんが自活研セミナーで講演

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自転車活用推進研究会のセミナーとして開かれた青木陽子さんの講演「自転車革命『ロンドンは燃えている』最新版 ―オリンピック後の進捗について―」 =3月20日、東京・南青山の「OVE」自転車活用推進研究会のセミナーとして開かれた青木陽子さんの講演「自転車革命『ロンドンは燃えている』最新版 ―オリンピック後の進捗について―」 =3月20日、東京・南青山の「OVE」

 自転車利用推進の調査研究や政策提言を行うNPO法人「自転車活用推進研究会」(自活研)は3月20日、東京・南青山の「OVE」(オーブ)で定例セミナーを開き、当サイト「Cyclist」に連載「“自転車革命都市”ロンドン便り」を執筆している青木陽子さんが「自転車革命『ロンドンは燃えている』最新版 ―オリンピック後の進捗について―」をテーマに講演した。この中で青木さんは、ロンドンで進む自転車シティ化について「原動力となっているのは、一般の人々の社会をより良くしていこうという意識と行動」などと説明した。講演の要旨を、自活研の瀬戸圭祐理事によるレポートでお届けします。

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 ロンドンは、かつては自転車不毛の都市だったが、近年は自転車シティに生まれ変わりつつある。東京など日本の都市も参考にできる取り組みが増えており、さらなる進化を模索しているという。ロンドンで暮らす編集者・プランナー・ジャーナリストの青木陽子さんが日本へ一時帰国された機会に、その最新事情をうかがった。

注目される「ミニオランダ化」と「スーパーハイウェイ」

 具体的な事例として注目されるのは、ロンドンの3地区で進められている「街のミニオランダ化」の取り組みだ。自転車先進国のオランダを見習い、自転車にやさしい街づくりを目指している。

プロジェクターを使って説明する青木陽子さんプロジェクターを使って説明する青木陽子さん
自転車先進国オランダはシティサイクルの活用が進んでいる。子どもや動物、荷物を運べるカーゴ車もとても多い(写真・青木陽子)自転車先進国オランダはシティサイクルの活用が進んでいる。子どもや動物、荷物を運べるカーゴ車もとても多い(写真・青木陽子)

 例えば、寂れつつある街の中心商店街を、バスと自転車しか通れないよう規制して、シャッター街になりつつある通りに歩行者と自転車を呼び込む試みがある。市が商店街を活性化するため3千万ポンド(約54億円)の予算をつけて事業を進めることになり、その最初の施策として交通規制が2週間のトライアルで行われ、さまざまな議論が交わされた結果、取り組みの有効性が認識されたという。

 また、「サイクルスーパーハイウェイ」の建設計画も、各国から大きな注目を集めている。ただし、計画ルートの一部は未だ決まっていない。バッキンガム宮殿付近について管理者のロイヤルパークスから異議が出され、パブリックコメントが募集されるなどいまだ議論が行われているからだ。

2014年9月にロンドン市が発表した「自転車クロスレイル」(仮称:東西サイクルスーパーハイウェイ)の想像図。立体交差路にも隔離された自転車レーンができる ©GLA2014年9月にロンドン市が発表した「自転車クロスレイル」(仮称:東西サイクルスーパーハイウェイ)の想像図。立体交差路にも隔離された自転車レーンができる ©GLA

 サイクルスーパーハイウェイ計画自体にもビジネス界の一部がいまでも強く反対しているが、ユニリーバや大手携帯電話会社など約40社が賛同の意思を示しており、市民だけでなく企業などからも自転車行政の推進を求める声が上がっている。そこが日本との違いなのかもしれない。

サイクリストの間で育った「ルールを守る意識」

 ロンドンの自転車シティ化が進むにつれて、サイクリストの意識も顕著に変化してきた。元々イギリス人(というか欧州人)は歩行者の信号無視は当たり前との風潮がある。赤信号でもクルマが来ていなければ横断する光景は、あちこちで普通に見られ、同様に自転車も信号無視をするケースが多かった。特にスポーツバイクに乗るサイクリストは、信号無視は常識という感覚があったかもしれない。

街を走る自転車が急増したロンドンでは、サイクリストの間で交通ルールを遵守する意識も高まった(写真・青木陽子)街を走る自転車が急増したロンドンでは、サイクリストの間で交通ルールを遵守する意識も高まった(写真・青木陽子)

しかし自転車利用者が増え、自転車シティ化が進むにつれて、ルールを守ろうという自覚がしっかりと育ち始め、今では大半の自転車がちゃんと信号を守るようになった。歩行者の信号無視の状況は変わらないが、自転車に乗る人達が「ルールを守る道路ユーザーでありたい」と意識するようになった意義は大きい。日本人もぜひ見習いたいところだ。

 反面、自転車シティ化に反対する勢力もある。最右翼はロンドンタクシードライバー協会だ。タクシードライバーは自転車に対しての反感が大きいようで、アイコンタクトをすればしばしば睨まれ、幅寄せされることもある。協会の事務局長はラジオのインタビューで「ロンドンのサイクリストはISIS(イスラム過激派組織)の戦闘員みたいなものだ」と発言し、非難を浴びた。

ロンドンの自転車事情について熱く語りかける青木陽子さんロンドンの自転車事情について熱く語りかける青木陽子さん
クルマとのトラブルを避けるには、路上でのコミュニケーションが欠かせないクルマとのトラブルを避けるには、路上でのコミュニケーションが欠かせない

 タクシードライバーがサイクリストに反目する背景には、英国で自転車ブームを担っている層に経済的余裕のある人が比較的多いため、エリートだとか、環境意識の高い人々だという偏見ややっかみがあるともいわれている。

 しかし、そんな流れが変わる兆しも見え始めた。サイクリストはクルマを手放す傾向があり、自転車に乗らない時にはタクシーを利用する比率が高いとの認識が、タクシードライバーの中で生まれてきたという。もっと理解が進めば、自転車シティ化による交通環境の改善がタクシーにもメリットをもたらすと分かってもらえるかもしれない。

ヘルメットがなくても安全な自転車社会とは

 ヘルメット着用義務の法制化については、イギリスでもこれまで何度か議論が盛り上がってきた。昨年も、有名な元自転車レーサーのクリス・ボードマン氏が、BBC(英国放送協会)のTV番組でヘルメットを着用しないで自転車に乗り、物議を醸した。ボードマン氏には批判が相次いだが、もしかすると本人は議論を起こすことが狙いだったのかもしれない。彼の主張は「ヘルメットや目立つウェアを着用しなくても、安全に安心して走行できる自転車社会を作ることが大切」という事なのだ。

ヘルメットを着けず、街を歩いているままの服装であえて番組出演したボードマン氏(左)と、彼から安全の注意を学ぶ女性アナウンサー(画像はBBC番組公式フェイスブックページより)ヘルメットを着けず、街を歩いているままの服装であえて番組出演したボードマン氏(左)と、彼から安全の注意を学ぶ女性アナウンサー(画像はBBC番組公式フェイスブックページより)

 「ヘルメット着用義務化は自転車利用者を減らす事につながる」というデータもあるという。イギリスがオランダのような自転車先進国家となれば、医療費の削減などにより今後20年間で3.5兆円の社会的コストの削減となるという試算があるが、ヘルメット義務化で自転車利用者が減れば元の木阿弥だ―といった意見もあるそうだ。

小さな「win」を積み重ね大きな成功へ

 自転車シティの更なる進化に向けて歩み続けるロンドン。その原動力となっているのは「People Power」、つまり一般の人々の、社会をより良くしていこうという意識と行動だ。自転車利用者は団結するとともに、自転車に乗らない人々からも理解を得るべく行動する姿勢が大切だという。また、一気呵成に推し進めるのではなく、議論を繰り返し、小さな「Win」を少しずつ積み重ねていることも成功に結びついている。

 そのような活動を推進する組織のひとつがLCC(London Cycling Campaign)だ。日本の自活研のような組織だが、メンバー数は1万2000人と自活研の20倍以上に及ぶ。自転車市民組織としては、英国全土に7万人近いメンバーを持つ自転車NGOのCTC(Cyclists’ Touring Club)とともに、世界最大級だという。

 青木さんの講演内容は、日本の都市が自転車の活用を進めるためにも参考になることばかりだった。私たち自活研も、東京をはじめ日本の都市の自転車シティ化を目指してさらに活動を盛り上げていきたい。

(レポート:自転車活用推進研究会理事 瀬戸圭祐)

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