登山者や地域社会と共存していくために東京のマウンテンバイク愛好者が「MTB利用自主ルールブック」を制作・配付

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 東京都西部の多摩地域に広がる自然公園地域で、マウンテンバイク(MTB)の乗り入れが禁止されるかも知れない―。都が2014年11月に公表した「東京都自然公園利用ルール(案)」の中に、MTBの利用禁止を示唆する表現が盛り込まれ、MTB愛好者の間で大きな議論が巻き起こりました。これを受けて東京都を中心に有志が集まって話し合い、MTB愛好者が他人に迷惑をかけず東京都の自然公園を永続的に利用できるようにと、小冊子「東京都自然公園MTB利用自主ルールブック」を制作して2月末に発行しました。制作メンバーの一人である佐藤真吾さんが、問題の経緯や、冊子制作の狙いと背景についてCyclistに寄稿してくれました。

MTB愛好者たちの有志が制作した「東京都自然公園MTB利用自主ルールブック」MTB愛好者たちの有志が制作した「東京都自然公園MTB利用自主ルールブック」

◇         ◇

都のルール案でMTBの記述は1項目だけ

 東京都環境局が昨年11月中旬に公表した「東京都自然公園利用ルール(案)」。そこには、「秩父多摩甲斐国立公園(東京都内)」「明治の森高尾国定公園」「都立高尾陣場自然公園」と、それらに接続する登山道に対してMTB乗り入れの自粛を促す文言が1項目だけ記載されていた。

マウンテンバイクを楽しむ方へ(オフロードでの車両走行を目的とする方)
18 マウンテンバイクは登山道へ乗り入れないようにしましょう
土壌・植生・歩道施設の損傷を防ぎ、また、歩行者に不安を与えないために
登山道へのマウンテンバイクの乗り入れはやめましょう。

「東京都自然公園利用ルール(案)」より

 ハイカー(軽登山者)や、山道をマラソンのように走るトレイルランナーに対する項目は複数あったものの、MTBに対する扱いはたった1項目で済まされてしまっていたのだ。私は、そんな現状に驚きと焦りを感じると同時に、どうしてこのような扱いになってしまったのか、きちんと過去を振りかえり、これからを創造すべきタイミングが来たのかもしれないと考えた。

 まもなく、東京都の案に不安を抱いた多くのMTB愛好者から、都に対してパブリックコメント(意見書)を提出する運動が起こった。その中には、2014年MTB全日本選手権クロスカントリーの男女チャンピオン、武井亨介選手と輿那嶺恵理選手も含まれていた。そして武井、輿那嶺両選手を中心に、MTB愛好者がまとまって行動すべきだと考えた有志が発起人となって11月22日、意見交換が活性化しやすいFacebook(フェイスブック)のサービス上に「東京都自然公園MTB利用ルール問題を話し合う場」(以下、話し合う場)というグループが作られた。

 グループの狙いは、「登山者、ハイカー、トレイルランナー、MTB愛好者、林業者、地域住民の方々が共存できるようなルールを考える場」という役割にあった。このフェイスブックのグループに対し、900人を超すMTB愛好者らが“いいね!”を押し、積極的な情報交換が繰り返された。そして、MTB愛好者側から自主的に共存へ取り組む姿勢をみせる証として、自主ルールブック制作が決まった。

MTB関係者の代表として都の会議に参加

 自主ルールの内容の検討が進むと、単にルールを作るだけの役割にとどまらず、MTBフィールドの利用環境維持に貢献する活動が必要との議論も行われ、やがて「東京都マウンテンバイク利用推進連絡協議会」(連絡協議会)としての活動に移行することになった。連絡協議会では12月末、東京都の行政担当者との窓口になる連絡協議会委員14人を立候補によって選出した。

 この中から、都環境局と連絡を取りあっていた中沢清氏(西多摩マウンテンバイク友の会会長、ナカザワジム代表)が、12月26日に開かれた「東京都自然公園利用ルール検討委員会」の3回目の会議にMTB関係者の代表として招聘された。都の公的な会議に参加できたことは、MTB関係者にとって大きな進展だったといえるだろう。

 こうした経緯を経て完成した自主ルールブックは、A5版で全16ページにも及び、マナーや各種ガイドライン、ハイカーとのすみ分けを図るためのゾーニングなど幅広いアイデアや考え方が盛り込まれた。「自然・人・地域とマウンテンバイクの共存のために」という趣旨のもと、東京都の自然公園に限らず、山を走る全てのマウンテンバイカーたちに、できれば守ってほしい「山を走るためのマナー」を明文化したものだ。

東京都自然公園MTB利用自主ルールの要旨

■山に行く前に準備すべきもの
◇自分の体を守るもの(ヘルメット、グローブ、笛、絆創膏、水など)
◇遭難を防ぐもの(地図、コンパス、携帯電話、明るいライトなど)
◇保険への加入
■山に行く前に身につけておくべき知識と技術
◇救急救命の講習を受けておく
◇まずはMTBスクールや初心者向けツアーに参加する
◇山中のルートの詳細をインターネットに公開しない
■山での行動のガイドライン
◇自分を守るために
・家族や友人に行動予定を知らせる
・入山届けが必要な山では届け出る
・2~4人くらいのグループで入山する
・事故が発生した際は救助に全力を尽くし、通報する
◇ハイカーの安全のために
・登山道では歩行者優先
・歩行者とすれ違うときは自転車から降りて待機
・狭い場所での追い抜きは避け、一声かけて抜かせてもらう
・歩行者の傷病者を発見した場合も、手当てや通報に協力する
◇登山道を保護するために
・整備された登山道の外には絶対に出ない
・タイヤを滑らせたり、階段をMTBで下りたり、土を崩したりしない
・雨や雪が降った後は山を走らない
・タイヤを空転させない
・同じルートを1日に何度も反復しない
◇MTBのイメージアップのために
・積極的なあいさつを心がける
・山の中で自転車を停める際は、邪魔にならないよう注意する
・登山道修繕などの活動に積極的に参加する
・勝手に登山道を改造しない
◇ハイカーとのすみ分けを図るための利用自粛
・高尾山、陣場山周辺の登山道には乗り入れない
・御岳山のケーブルカーの利用は原則として控える
・午前の早い時間に入山し、遅くとも午後4時には下山していること
・行楽シーズンなど他の利用者が多い時期の利用は避ける

 この冊子のデジタルPDF版は、「東京都マウンテンバイク利用推進連絡協議会(仮称)」のウェブサイトからダウンロードできる。

冊子配付イベントに60人が参集

連絡協議会委員の第1回ミーティング =2015年1月15日、東京都瑞穂町社会福祉協議会ふれあいセンター連絡協議会委員の第1回ミーティング =2015年1月15日、東京都瑞穂町社会福祉協議会ふれあいセンター

 しかし、ルールブックができたところで、まだ問題は山積み状態だ。ルールブックはどのように配布するのが効果的なのか? 今後、連絡協議会の活動をどう進めていくべきか? 日本各地で起きているMTBに関する問題や現状を共有できないか? 連絡協議会委員が初めて集まった第1回ミーティングは、そのような検討課題をリストアップするところからスタートした。

 そして3月4日、東京都あきる野市のマウンテンバイク体験コースに併設されたパンプトラック(坂やこぶが連続するオフロードの周回路)で、自主ルールブックの配布イベントを開催した。この日参集した自転車業界関係者や一般ライダーら約60人には、ルールブックが作られた主旨や、東京都の自然公園利用ルール策定の進捗状況などを詳しく説明した。

NPO法人「ふるさとの森づくりセンター」浅原俊宏さんが参加者にメッセージを送った(鈴木英之撮影)NPO法人「ふるさとの森づくりセンター」浅原俊宏さんが参加者にメッセージを送った(鈴木英之撮影)

 この日、連絡協議会委員でプロMTBライダーの池田祐樹選手は、アメリカと日本のトレイル環境のギャップに驚愕し、日本での環境整備に取り組む決意を表明した。またNPO法人「ふるさとの森づくりセンター」の浅原俊宏理事長は、MTB側だけの意見ではなく、地域住民の方々の視点を捉えることの重要性に改めて訴えた。

西多摩のパンクトラック。MTBが地域や自然と共存できるスタイルの成功事例といえる西多摩のパンクトラック。MTBが地域や自然と共存できるスタイルの成功事例といえる

 自主ルールブック配布イベントをパンプトラックで開催したことにも、意図があった。この地は、西多摩マウンテンバイク友の会の活動場所で、「あきる野菅生の森づくり協議会」によるボランティアMTB体験コースとパンプトラックがコンパクトに詰まった、自然環境とMTBが共存するためのモデルケースだからだ。いわば、人と自然と地域とMTBが共存できる環境を体感してもらう狙いがあった。

 その狙い通り、参加者たちはそれぞれMTBに乗り、土の上で走るMTB本来の楽しみ方を満喫し、また自然環境と共存する大切さを感じていたようだった。

本物のMTBシーン創造へ

 続く週末の3月7、8日には、より多くの方たちに自主ルールブックを読んでもらうために、自由参加型のイベント「東京都MTB自主ルールブック・デ・サイクリング!」を実施した。

連絡協議会委員では最年少・15歳の小西碧さんがサイクルショップ「ガラージュ高井戸」へ自主ルールブックを手渡した連絡協議会委員では最年少・15歳の小西碧さんがサイクルショップ「ガラージュ高井戸」へ自主ルールブックを手渡した

 4日の配布イベントに参加したサイクルショップを中心に、自主ルールブックを店頭に置いているショップを訪ねて、必要な数を受け取り、友達やライド仲間へ配布する様子をFacebookの「連絡協議会」ページに写真付きで公開し、ルールブックの浸透を図るという取り組みだ。そのプロセスを通じて、MTB界の横の連携を深めていく狙いがあった。

 こうして、自主ルールブックの配布作業はひと段落しつつある。しかし、ただ自主ルールブックを多くの人に手渡すだけでは、人と自然と地域の間に起こる諸問題を解決することに直結しない。また、東京都の自然公園以外の地域で同様の問題が起こった場合、どのように対応すべきかという大きな課題が残されたままだ。

 今回発足した連絡協議会は、まだまだ成熟した組織体とは言えず、力を発揮できるかどうか試される試練が続くことになることだろう。しかし、次世代に本物のMTBシーンを残したいという魂だけは、決して沈下させたくない。スタートラインに立たせたもらった以上、自然と人と地域とMTBが共存できる仕組みに真面目に取り組んでいきたい。

(文・東京都マウンテンバイク利用推進連絡協議会委員 佐藤真吾)

3月4日の自主ルールブック配付イベントに集まったMTB愛好者の有志一同3月4日の自主ルールブック配付イベントに集まったMTB愛好者の有志一同

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