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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<99>エースとアシストの信頼関係 「チームスポーツ」を体現するスプリントトレインの魅力

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サイクルロードレースのチームスポーツとしての魅力を体現するスプリントトレイン(砂田弓弦撮影)<ツアー・ダウンアンダー2015>サイクルロードレースのチームスポーツとしての魅力を体現するスプリントトレイン(砂田弓弦撮影)<ツアー・ダウンアンダー2015>

 グランツールのスプリントステージや平坦系クラシックレースで、最終盤に必ずといっていいほど目にするスプリントトレイン。各チームが列をなして限界までスピードを上げていく光景は、レースの激しさと美しさを映す、サイクルロードレースの醍醐味でもあります。いかにしてエーススプリンターを好位置で発射し、勝利に導くか。「エースとアシスト」という関係は、選手同士の強い信頼関係に支えられているのです。

ボーネンの言葉がモチベーションに カヴ渾身のスプリント

 3月1日にベルギー、フランドル地方で開催されたクールネ~ブリュッセル~クールネ(UCI1.1)。毎年、前日のオムループ・ヘット・ニュースブラッド(UCI1.HC)に続き、石畳系セミクラシックの第2戦として行われるのが慣例だ。ただ、北のクラシックの特徴であるパヴェ(石畳)の悪路や短い急坂の比重が少なめであることから、近年はスプリンターズクラシックの趣が強まっている。今年は特に有力スプリンターが多数参戦。UCI1クラスながら、シーズン序盤の目標に掲げる選手も多いレースだ。

 混戦となったゴール前のロングストレート。残り200mからの絶妙なスプリントで、ゴールへ真っ先に飛び込んだのは、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ)だった。この大会3年ぶり2回目の勝利に、喜びを爆発させた。

チームメートのアシストを見事勝利に結びつけたマーク・カヴェンディッシュ(クールネ~ブリュッセル~クールネ2015) © Etixx - Quick-Step / Tim de Waeleチームメートのアシストを見事勝利に結びつけたマーク・カヴェンディッシュ(クールネ~ブリュッセル~クールネ2015) © Etixx - Quick-Step / Tim de Waele

 エティックス・クイックステップは、前日のオムループの終盤、4人の先頭集団のなかにトム・ボーネン、スティーン・ヴァンデンベルフ(ともにベルギー)、ニキ・テルプストラ(オランダ)の3人を送り込み、圧倒的優位な状況を作り出した。しかし作戦ミスから、ライバルチームで唯一残ったイアン・スタナード(イギリス、チーム スカイ)に敗れる大失態を演じてしまった。その雪辱戦となったクールネで、チームはカヴェンディッシュのスプリントに賭けた。

チームに勝利をもたらしたマーク・カヴェンディッシュ(クールネ~ブリュッセル~クールネ2015) © Etixx - Quick-Step / Tim de Waeleチームに勝利をもたらしたマーク・カヴェンディッシュ(クールネ~ブリュッセル~クールネ2015) © Etixx - Quick-Step / Tim de Waele

 カヴェンディッシュも、オムループでのチームの戦いぶりをテレビでチェックし、悔しさを募らせていた。クールネのレース前に「チームメートが私のために100%力を尽くすと約束してくれた」ことで、リベンジに向け気持ちを高めていたという。

 何よりカヴェンディッシュを勇気づけたのは、チームキャプテンであるボーネンが朝のチームバスで口にした、「今日はカヴ(カヴェンディッシュの愛称)のために走る」という言葉だった。

トレインから放たれたスプリンター ゴール後のコメントに注目

 アシストたちはエーススプリンターに思いを託し、エースはそれを力に変える。大きなプレッシャーの中で責任を果たすエースの姿は、「チームスポーツとしてのサイクルロードレース」の在り方を示している。それは、スプリントで勝利を収めたライダーの言動や行動から感じとることができる。

 われわれが特に優勝シーンを目にすることの多いカヴェンディッシュや、マルセル・キッテル(ドイツ、チーム ジャイアント・アルペシン)らの場合、ガッツポーズでゴールラインを通過すると、まずアシストと喜びを分かち合う。無数のカメラマンやジャーナリストに囲まれていたとしても、後方でゴールするアシストたちを待ち、彼らを抱き寄せるシーンが見られる。

スプリントで勝利を挙げ、チームメートと喜びを分かち合うマルセル・キッテル(ツアー・ダウンアンダー2015)<砂田弓弦撮影>スプリントで勝利を挙げ、チームメートと喜びを分かち合うマルセル・キッテル(ツアー・ダウンアンダー2015)<砂田弓弦撮影>

 その後のインタビューや記者会見でも、彼らは自らの優勝よりも先にチームへの感謝を口にすることがほとんどだ。カヴェンディッシュが口癖のようにコメントするのは、「今日のチームはスーパーだった!」。アシスト陣が苦戦してしまい、自らのスプリント勝負が難しいものになったとしても、「勝利」というミッションを果たした時、彼は必ずチームメートを称える。

 一方、敗れた選手たちも勝者同様にアシストへの感謝を述べ、時には勝てなかったことを謝罪するケースも。ゴール直後に悔しさのあまり冷静さを失ってしまったとしても、気持ちを切り替えた後はチームメートへの配慮を見せる。クールネで3位となったエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チーム スカイ)は、終盤にメーン集団の主導権を握り好ポジションへと送り込んでくれたリードアウトマン(アシスト)を称えることを忘れなかった。

 ゴール争いの激しい勝負を終えたスプリンターたちは、極度の興奮状態となり、勝っても負けても絶叫する様子が見受けられる。しかしそれは“戦う男”の姿であり、ひとたび血の気が引けば、1人の人間としての表情に戻っていくのである。

エースの勝利に涙するアシストも

 サイクルロードレースは「犠牲のスポーツ」とも言われる。現代のレースシーンにおいては、自らを犠牲にしたアシストなくして勝負は成り立たない。

 スプリント勝負を狙うチームであれば、レース序盤から中盤にかけて数人をメーン集団のコントロールに送り込む。これは、チームとして「ゴールスプリントに参戦する意思」を表明する意味合いが強い。集団コントロールに加わらずゴールスプリントに参戦することは、“ルール上では”問題ないものの、規律と秩序を重んじるプロトンにおいて、心象が良いとは言えない。

レース終盤は各チームのトレインが形成され集団内のポジションが活発化する(ツアー・オブ・オマーン2015)<砂田弓弦撮影>レース終盤は各チームのトレインが形成され集団内のポジションが活発化する(ツアー・オブ・オマーン2015)<砂田弓弦撮影>

 レース終盤、スプリンターチームはトレイン形成と集団内のポジション確保に力を注ぐ。ラスト20kmを切ってからその動きは活発化し、どのチームが主導権を握り、何人のアシストを最終局面まで残せるかが勝負のカギを握る。長い距離をハイスピードで牽引できる選手がいるチームほど有利で、ラスト1kmの時点で3~4人アシストが残っていれば、勝機が一気に高まる。そして、最後の約200mでエーススプリンターを発射し、ゴールを委ねることとなる。

 主要レースは1チーム8~9人で構成されるが、スプリントに全力を注ぐチームであれば、エーススプリンターを除く全選手がアシストを務める場合もある。脚質によって各自役割が振り分けられるが、一定のペースで長時間走ることのできる選手が牽引役、スプリンター系のスピードマンが発射台となることが基本だ。

信頼関係の強い(右から)マーク・レンショーとマーク・カヴェンディッシュ(ティレーノ・アドリアティコ2014)<砂田弓弦撮影>信頼関係の強い(右から)マーク・レンショーとマーク・カヴェンディッシュ(ティレーノ・アドリアティコ2014)<砂田弓弦撮影>

 サイクルロードレースの魅力の1つに、「アシスト向き」の選手が存在することが挙げられる。純粋な実力では優勝争いが難しい選手でも、ひとたびアシストの任務が与えられると高い能力を発揮する。スプリントで言えば、カヴェンディッシュの発射台として名高いマーク・レンショー(オーストラリア)がその代表格。アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)を支えるラースユティング・バク(デンマーク)や、今シーズンから新天地で走るスティーヴン・カミングス(イギリス、MTN・クベカ)らは牽引役として評価が高い。

 勝利を量産するようなビッグスプリンターであれば、自らの目にかなった選手の加入を望み、オフシーズンにはその選手の獲得をチームに要望することはよくある話。また、自身の移籍交渉時に、強固な信頼関係にある選手たちの同時加入を条件にするケースも数多い。

 これらはグランツールの総合成績を狙うライダーにも見られるが、それ以上に、スプリンターにまつわる話題として挙げられることが多い。なぜならスプリントトレインは、ピースを1つでも失えば再構築を余儀なくされる繊細なもの。スプリンターにとって、勝手知ったる仲間がいるかどうかは死活問題なのだ。

 また、アシスト選手たちもエースとの関係が濃密になればなるほど、「この選手を勝たせたい!」との思いを強くする。重要なレースでエースが勝利すると、涙を流すアシストも少なくない。与えられた任務をまっとうし、残るチームメートやエースにその後を託す選手の気持ちはいかばかりか。ゴールラインを越えた先で、エースが笑顔で待っていたとあれば、高ぶる感情を抑えられなくなるのも無理はない。

 エースの勝利はチームの勝利。この目標のために、選手たちは走り続ける。そこに、サイクルロードレースのロマンがあり、彼らの人間模様を見ることができるのである。

今週の爆走ライダー-トム・ヴァンアスブロック(ベルギー、チーム ロットNL・ユンボ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 カヴェンディッシュが勝利し、アレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)、ヴィヴィアーニと実績豊富な選手たちが表彰台を占めたクールネ~ブリュッセル~クールネ。彼らに追随し、あと一歩まで迫ったが惜しくも届かなかった。

2014年はUCIヨーロッパツアー総合優勝を果たしたトム・ヴァンアスブロック Photo: http://www.cyclingmoments.com2014年はUCIヨーロッパツアー総合優勝を果たしたトム・ヴァンアスブロック Photo: http://www.cyclingmoments.com

 昨年まで3年間、ベルギーの育成チームであるトップスポルト ヴラーンデレン・バロワーズに所属。2012年に世界選手権アンダー23ロードレースで銅メダルを獲得して評価を上げると、昨年はシーズンを通して上位入賞を繰り返し、UCIヨーロッパツアーで総合優勝。鳴り物入りで現チームへ加入した選手だ。

 スプリンターとしての実力はもちろんのこと、環境の変化に対する適応力も高そうだ。「チームは素晴らしい雰囲気で、充実したサポートや最高の機材がそろっていて完璧だ」と印象を述べる。クールネ4位という快走の理由に、チームメートとの連携が上手くとれたことを挙げた。

クールネ~ブリュッセル~クールネで4位に入ったトム・ヴァンアスブロック(左)。ゴール後はチームメートに感謝の気持ちを表した © Team LottoNL-Jumboクールネ~ブリュッセル~クールネで4位に入ったトム・ヴァンアスブロック(左)。ゴール後はチームメートに感謝の気持ちを表した © Team LottoNL-Jumbo

 クールネの上位3選手との差は経験の違いにあると自ら分析。「毎年、次なるレベルに到達しようとしている」と話し、今後の飛躍を誓う。新スポンサーを迎えて新たな船出を迎えたチームにとっても、勝利を計算できるエーススプリンター候補の台頭は喜ばしいことだろう。

 ミラノ~サンレモ、ヘント~ウェヴェルヘムといったクラシックにも出場を予定している。そんなビッグレースでさえも「ひょっとしたら…」と思わせる24歳が、そう遠くないうちにわれわれを驚かせてくれるかもしれない。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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