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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<97>2016年は大物の引退ラッシュか? コンタドール、ウィギンス、カンチェッラーラの美学に迫る

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 2015年シーズンはまだまだ序盤ではありますが、プロトンの歴史を築いてきたベテランたちが引退の時期を模索する姿に注目が集まっています。アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)、ブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム スカイ)、ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)。彼らの動向から見えてくるのは「力のあるうちに引退したい」という共通点。今回は引退を示唆するビッグネームたちの美学に迫ります。

引退時期が注目される(左から)ファビアン・カンチェッラーラ、アルベルト・コンタドール、ブラッドリー・ウィギンス引退時期が注目される(左から)ファビアン・カンチェッラーラ、アルベルト・コンタドール、ブラッドリー・ウィギンス

コンタドールは2016年に「ツールで勝って終わりたい」

 2月16日、スペイン・マドリード近郊のピントで行われた「アルベルト・コンタドール財団」のアンダー23とジュニアチームのプレゼンテーション。オーナーとして出席したコンタドールはその壇上、2016年シーズンをもって現役を引退すると発表した。

2014年はブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝を飾ったアルベルト・コンタドール2014年はブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝を飾ったアルベルト・コンタドール

 20歳代前半から台頭し、病気や薬物違反による資格停止を乗り越えながら、トップに君臨し続ける彼も32歳となり、ベテランの域に入っている。昨年あたりから彼の引退時期を探る動きが周囲で見られ始め、コンタドール本人は「少なくともあと2、3年は走り続けたい」といったコメントも残していた。

 ここ最近ではチームオーナーのオレグ・ティンコフ氏が、コンタドールが今シーズン限りで引退する可能性を示唆するなど、注目度がさらに増していった。そんな中での引退時期の発表は、自身のシーズンイン(2月18~22日のルタ・デル・ソルを予定)を前に、慌ただしくなりつつある身辺を整理する意味合いもあったと考えられる。

 キャリア最後のレースとなる可能性が高まっている2016年ツールは、前回総合優勝を果たした2009年を上回る仕上がりで臨みたいとしている。一方で、負傷など「何らかのトラブルがあった場合」に限り、2016年での引退を撤回する可能性もあるとした。その場合でも、翌年での引退か予定通りキャリア終了とするかを吟味するという。

アルベルト・コンタドールがツール・ド・フランスで2度目の総合優勝を飾ったのは2009年。それ以来となるツール制覇を目指すアルベルト・コンタドールがツール・ド・フランスで2度目の総合優勝を飾ったのは2009年。それ以来となるツール制覇を目指す

 コンタドールと現チームの契約は、今シーズンが最終年。ラストイヤーとなる2016年に向け、契約延長する可能性が高いと見られているようだ。まずは、今年最大の目標であるジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの“ダブル・ツール”達成が最優先。

ウィギンスの残すミッションは3つ

 2016年シーズンでの引退といえば、ウィギンスもその一人。4月のパリ~ルーベでロードのトップシーンからは撤退。リオ五輪での有終の美を目指し、古巣のトラックへと戻る。

ブラッドリー・ウィギンスは「一番好きなレース」というパリ~ルーベでの優勝を狙う(パリ~ルーベ2014)ブラッドリー・ウィギンスは「一番好きなレース」というパリ~ルーベでの優勝を狙う(パリ~ルーベ2014)

 彼が自らに課したミッションは3つ。1つ目はパリ~ルーベ制覇。ツール総合優勝、五輪と世界選手権では個人TTを制したウィギンスだが、かねてから「一番好きなレースはパリ~ルーベ」と口にしてきた。ルーベで勝者だけが手にできる、石のトロフィーを獲得し、最高の形でロードキャリアを完結させることができるか。

 2つ目はアワーレコードの更新。2月8日にローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が52.491kmの新記録を樹立。2月25日にはトーマス・デッケル(オランダ、前ガーミン・シャープ)が挑戦を予定しており、ターゲットタイムがさらに高まる可能性があるが、「ウィギンスがしばらく誰にも破られない記録をマークするだろう」というのが大方の予想だ。一部では55km到達も可能との声が挙がっているが、ウィギンス自身は慎重な姿勢を崩さない。なお実施は6月6日、ロンドン五輪でトラック競技の会場にもなった、リー・ヴァレー・ヴェロドロームが有力視されている。

2014年の世界選手権ロード個人タイムトライアルで悲願の初優勝を飾ったブラッドリー・ウィギンス。アワーレコード更新にも期待がかかる2014年の世界選手権ロード個人タイムトライアルで悲願の初優勝を飾ったブラッドリー・ウィギンス。アワーレコード更新にも期待がかかる

 そして、3つ目はもちろん、リオ五輪でのトラック金メダルだ。チームパシュート(団体追抜)に出場予定で、金メダル獲得となれば、2008年北京五輪以来の同種目制覇となる。五輪ではすでに7個のメダル(うち金メダル4個)を獲得し、かつての短距離種目の王者で同国の英雄クリス・ホイ氏と獲得数で並んでいる。そのホイ氏を上回る8個目のメダルを手に入れて、次世代へバトンタッチする見通しだ。

カンチェッラーラも引退時期を熟考中か

 コンタドール、ウィギンスと同様に、2016年シーズンでの引退が噂される1人にカンチェッラーラが挙げられている。現チーム発足時に3年という長期契約を結んだが、その当時で32歳。年齢と契約内容から、契約満了をもって引退するのではないかとの見方が広がっている。

2014年には通算3度目のツール・デ・フランドル優勝を果たしたファビアン・カンチェッラーラ2014年には通算3度目のツール・デ・フランドル優勝を果たしたファビアン・カンチェッラーラ

 かつてのチームメートであるニキ・セレンセン氏(デンマーク、現ティンコフ・サクソ スポーツディレクター)、イェンス・フォイクト氏(ドイツ、現トレック ファクトリーレーシング チームコンサルタント)の昨シーズン限りでの引退を目の当たりに。盟友たちの引き際が、彼の心を動かしていることは事実のようだ。

ファビアン・カンチェッラーラ(先頭)やトム・ボーネン(左)らは引退を考える時期にさしかかっている(ツアー・オブ・カタール2015)ファビアン・カンチェッラーラ(先頭)やトム・ボーネン(左)らは引退を考える時期にさしかかっている(ツアー・オブ・カタール2015)

 引退の時期については明言を避けている。だが、「これからは私やベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チーム スカイ)、トム・ボーネン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)といった同世代が、その岐路に立たされることになる」とコメントするなど、熟考する段階に差し掛かっていることを示唆。

 アイゼルやボーネンは1980年、カンチェッラーラは1981年生まれ。ジュニア、アンダー23での活躍を経て、プロの世界で大成した選手が多い年代とされてきた。そんな“ゴールデンエイジ”たちにも、幕引きの決断が迫ってきているのである。

頂点に立った者だけが手にできる勲章

 コンタドールは「2016年のツールを勝って引退」。ウィギンスは「リオ五輪で金メダルを獲って引退」。カンチェッラーラは「力のあるうちに引退」。それぞれの言葉から、ある共通点が浮かんでくる。いずれもトップレベルのままキャリアの終着点を迎えようとしていることだ。

引退直前に迎えたツアー・ダウンアンダーでは総合3位だったカデル・エヴァンス氏引退直前に迎えたツアー・ダウンアンダーでは総合3位だったカデル・エヴァンス氏

 最近では、カデル・エヴァンス氏(オーストラリア、現BMC社アンバサダー)がレースで優勝争いができるレベルにあるまま引退を果たした。また、前述したセレンセン氏とフォイクト氏についてもカンチェッラーラに言わせれば「良い時期に引退を決断した」という。過去のケースでは、パオロ・ベッティーニ氏(イタリア、2008年引退)やオスカル・フレイレ氏(スペイン、2012年引退)といったかつての世界王者たちも、トップレベルのままキャリアを終えている。

 チームスポンサーに名乗り出る企業の減少や撤退が相次ぎ、プロとして長年走ってきた選手でも翌年の契約をつかめるかどうかは不透明な昨今のサイクルロードレース界。ビッグレースで好リザルトをマークした選手でさえ契約先が見つからず、そのままひっそりと引退するケースも見られる。

 「トップに君臨したまま引退」できるのはほんの一握り。もっとも、それこそが王者の証であり、彼らだけに認められた幕引きのスタイルでもある。選手自身は「弱くなっていく姿を見せたくない」というのが本音なのかもしれない。だが、観る者からすれば、一抹の寂しさとともに、選手の誰もが成せる決断でないことに、より魅せられていくのではないだろうか。

 全盛期を越え、力の衰えが否めない中でもアシストとして、さらにはチームの精神的支柱としてプロの世界に身を置く選手。はたまた強いうちに潔く引退を決断する選手。それぞれの在り方は、サイクルロードレースに限らず、スポーツの世界に共通する魅力の一端であると筆者は考えている。

今週の爆走ライダー-ドミニク・ローラン(カナダ、コフィディス ソリュシオンクレディ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ここでは、2015年から現役復帰を果たした選手を紹介しよう。

 ドミニク・ローラン、32歳。2009年から主戦場としていたヨーロッパでは勝利がなく、2013年シーズンをもって一度は引退を決意した。年齢と実績だけ見れば、異例の復帰と言えるかもしれない。

 サーヴェロ テストチーム、エフデジと渡り歩いた。エフデジでの最終年となる2013年は、次なる受け入れ先探しのために必死に走った。シーズン終盤のレース数を増やし、最終戦のツアー・オブ・北京まで全力で走り続けたが、移籍先は見つかず。引退状態となった2014年は、グランフォンドなどのイベントには参加したが、レース活動はゼロ。この年のツール・ド・フランスでは、ガーミン社のスタッフとしてVIP対応を担当していた。

 しかし、一度はレースシーンを去った彼を必要としていた選手が存在した。ナセル・ブアニ(フランス)だ。ローランをアシストに据えることを、コフィディス移籍の条件としたのだ。ローランにその話が舞い込んだのは5月のこと。ツールに向けた仕事に奔走していた時期ではあったが、すぐにトレーニングを再開。「フィジカル的にも問題なかった」と手ごたえをつかんだ。

1年間のブランクを経て現役復帰したドミニク・ローラン。ナセル・ブアニの指名で、スプリントトレインを牽引する(ツアー・オブ・カタール2015)1年間のブランクを経て現役復帰したドミニク・ローラン。ナセル・ブアニの指名で、スプリントトレインを牽引する(ツアー・オブ・カタール2015)

 若きエーススプリンターに慕われるベテランは、スプリントトレインの牽引役を任される。ジョフレ・スープ、ステーヴ・シェネル(ともにフランス)と、かつての仲間とも再会し、ブアニのためのホットラインも復活した。

 ツアー・オブ・カタールでは結果が残せず、「トレインがベストな状態になるまではもう少し時間がかかる」と分析。とはいえ、信頼関係は十分で「ミラノ~サンレモとツールが目標だ」と宣言する。「良くも悪くも最後はブアニ次第」と、エースの走りにも自信を見せる。

 昨年まで、開幕から10レース以内に勝利を収めてきたブアニだが、今年はここまで勝利を挙げられずにいる。苦戦気味のエースを支え、早々に勝利の美酒を味わうことが、ローランにとって「2回目のプロキャリア」最初の大仕事だ。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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