title banner

はらぺこサイクルキッチン<31>選手とシェフが語ったアスリートにとっての「食」 オンとオフの切り替えも大切

by 池田清子 / Sayako IKEDA
  • 一覧
ティム・アレン選手(左から2人目)を連れて私も初めて足を運んだ築地市場にて。ご好意でマグロの解体を見せていただき、この後はもちろん寿司を堪能しましたティム・アレン選手(左から2人目)を連れて私も初めて足を運んだ築地市場にて。ご好意でマグロの解体を見せていただき、この後はもちろん寿司を堪能しました

 米コロラド州から「シクロクロス東京」(2月7日、8日開催)の招待選手として来日したティム・アレン(Tim Allen、28)選手(FEEDBACK SPORTS)。アレン選手は以前から夫でMTBプロアスリートの池田祐樹と交流があり、今回は日本での希望を叶えるべく食のプチツアー(!?)を案内させてもらいました。そしてデンマークから来日されていたロードバイクチーム「ティンコフ・サクソ」のヘッドシェフ、ハンナ・グラントさん(Hannah Grant、32)にもお会いすることができました。選手、そしてシェフというそれぞれの立場から、アスリートにとっての「食」についてうかがってきました。

安全な食を求めて鶏や牛を飼う

 アレン選手は、2014年1月開催の全米シクロクロス選手権・シングルスピードで優勝、今年1月開催の同レースでは3位という成績をおさめた有力選手です。アレン選手は寿司が大好物。他にもヘルシーな日本食を大変気に入っていましたが、普段の食事について聞いてみると驚くべき意識の高さがうかがえました。

2月8日に行われたシクロクロス東京に招待選手として出場したティム・アレン選手。結果は8位でした(米山一輝撮影)2月8日に行われたシクロクロス東京に招待選手として出場したティム・アレン選手。結果は8位でした(米山一輝撮影)
「これ欲しい」と惚れ込んだはっぴ。残念ながら売り物ではなかったので、羽織らせてもらっていました。似合ってる!「これ欲しい」と惚れ込んだはっぴ。残念ながら売り物ではなかったので、羽織らせてもらっていました。似合ってる!
ティム・アレン選手人生初、サザエのつぼ焼き。納豆やローチキン(生の鶏肉)なども積極的に食していましたティム・アレン選手人生初、サザエのつぼ焼き。納豆やローチキン(生の鶏肉)なども積極的に食していました

 聞けば、「アスリートにとって食事(栄養)は非常に重要だと思う。僕は毎日卵を食べるのだけれど、安全な卵を手に入れるために庭で6羽鶏を飼い始めたよ。小さいけれど畑もあるから、ケールやトマトを栽培している。新鮮で安全なものは美味しいね」という本格っぷり。レースに対しては、「1週間前からクリームなどの乳製品は控えている。身体をクリーンにするためにね」と話し、続けて「レース前夜はノーマルなイタリアンパスタでカーボローディングしているよ」と教えてくれました。

 ただし大切な食事であるからこそ、規制を掛け過ぎないことも意識していました。「全てを完璧にやっている訳ではなくて、大好きなビールも飲むよ。神経質になり過ぎないように。身体に良くないと思って飲むと本当によくないし、上手くオンとオフを切り替えることでまた頑張れる。リラックスする時間はとても大事なんだ」

 「肉も積極的に食べるの?」と聞いてみると、「肉も魚も食べるよ。ただ、安全なものを手に入れる努力をしている。最近始めたのは、共同出資で牛を育てること」と驚きの答えが。「グラスフェドで(草を食べて)育てられる安全な肉をインターネットで探していて知ったんだ。数人で1頭の牛を買い、出荷後にいろんな部位をスライスして冷凍で送ってくれるシステム。どういう環境で牛が育てられているか、実際に牧場へも行って自分たちの牛に会ってきたよ。オーガニックショップで買うよりもリーズナブルだし、自分の目で確かめられるからより一層安心できる」

 20代という若さで、食材が「どういう環境で育ったか」というところまで目を向けていることに驚きました。

桧原村にある宿へ私たちも宿泊。食事や温泉、サービスに「全てがパーフェクト!」とティム・アレン選手桧原村にある宿へ私たちも宿泊。食事や温泉、サービスに「全てがパーフェクト!」とティム・アレン選手
日本酒の酒蔵見学にも。ティム・アレン選手は「本格的な日本酒を初めて味わえた」とお土産に購入していました日本酒の酒蔵見学にも。ティム・アレン選手は「本格的な日本酒を初めて味わえた」とお土産に購入していました
東京・奥多摩湖から檜原村までライドをしたティム・アレン選手(右)と池田祐樹。「素晴らしい景色だね!」とすっかり気に入ってくれました東京・奥多摩湖から檜原村までライドをしたティム・アレン選手(右)と池田祐樹。「素晴らしい景色だね!」とすっかり気に入ってくれました

「レースの朝は卵たっぷりオムレツ」の理由

自身の料理本「The Grand Tour Cookbook」を持つハンナ・グラントさんと。今年発売の英語版も楽しみにしています!自身の料理本「The Grand Tour Cookbook」を持つハンナ・グラントさんと。今年発売の英語版も楽しみにしています!

 もう一人は、ロードバイクチーム「ティンコフ・サクソ」のヘッドシェフ、ハンナ・グラントさん。チームの食事を一手にまかされているシェフに会うということ自体が、私にとって胸の踊る出来事。聞きたいことが沢山ありました。

 特に、2014年5月からプラントベースの食事を中心に作り続けている私にとって、動物性を取り入れた食事には深い興味がありました。それに事前に観ていた、「レースの朝はたっぷりの卵を使ったオムレツ」というグラントさんの番組が印象に残っていたのです。

 故に、最初の質問は「なぜ肉や魚が選手に有効だと思う? 植物性だけの食事はどう思う?」ということ。グラントさんは、「ステージレースに入る前に特に多く肉を食べるわ」と答えてくれました。その理由として「レース中はとにかく脚を回すから、血液に酸素が必要。血液量を増やす目的で、マグロの赤身やラム肉、レバーといった鉄分が豊富な赤身の肉を用意するの。特にスプリンターやクライマー、タイムトライアルの時に有効ね」と詳しく教えてくれました。

 さらに、私が気になっていた卵については「選手それぞれ食べる量は異なるけれど、レース開始の3時間前に食べる卵のタンパク質も、長い時間お腹を満たしてくれる」とのこと。

「面白い演出ね!」とシメサバを前に写真を撮るハンナ・グラントさん「面白い演出ね!」とシメサバを前に写真を撮るハンナ・グラントさん
デザインに関してもハンナのコンセプト案が反映されているという「The Grand Tour Cookbook」デザインに関してもハンナのコンセプト案が反映されているという「The Grand Tour Cookbook」

 またグラントさんが出版した料理本「The Grand Tour Cookbook」(2013)には野菜がふんだんに使われたヘルシーな料理が多い印象もありました。「ステージレース中は、野菜をたくさん食べるわ。それもチームの方針の一つなの。レースで疲労した身体には、消化のいいものを摂ることが回復にもつながる」

サドルを下りたら白砂糖は厳禁!

 グラントさんに「私の夫の池田祐樹は9日間位のステージレースに参戦することもある」と説明すると、「それならレース中もマグロの刺身や鶏のレバーや胸肉が向いている。手に入るなら刺身が特にいいわね。消化にいいから。あと、野生の鹿や鳩もいいわよ。肉がリーン(低脂肪)でおすすめね」と紹介してくれました。そういえば、2014年のヤックアタックレースで祐樹さんがレースの中盤、標高が高い場所でしか生息しないヤックを使ったハンバーガーを食べたことをふと思い出しました。その土地のものを食べるということは、その環境に順応するエネルギーにもつながりそうですね。

「The Grand Tour Cookbook」の写真はハンナ・グラントさん自身が撮っているというのも驚き、刺激を受けました「The Grand Tour Cookbook」の写真はハンナ・グラントさん自身が撮っているというのも驚き、刺激を受けました

 グラントさんはまた、選手のために料理を作る人(奥さんや彼女など)にも気を配っていました。「チームの食に関する方針は、ドーピングに接触しないことを意識づけるためにも、しっかりと選手に伝えている。私生活では何が良くて、何が良くないかを知った上で行動することになるわね。私は料理を作る選手のパートナーが仕事や育児でどれだけ忙しいかも知っているから、例えば料理本のレシピはシンプルでおいしいものを載せている。必要に応じてうまくアレンジしてもらえれば、って思っているの」

 そのほかに選手に伝えている決まりごとがあるかどうかを尋ねると、「白砂糖は、バイクの上でしか摂らないこと!」だそうです。それは、精製されている砂糖は余分に摂ると脂肪としてお腹についてしまうし、血糖値が急激に上昇した後、今度は急激に下降する――するとまた血糖値を上げるために糖分が必要になるため。どうしても糖分が必要な時はメイプルシロップや蜂蜜が「Very good!」。こうして細部に渡って食とパフォーマンスの関係性を重視していることに、勝利への執念と選手が健康的に能力を発揮するための配慮を感じました。

「マグロの赤身はグッド」を参考に、休養日というタイミングでマグロを練り込んだ豆腐ハンバーグを作ってみました「マグロの赤身はグッド」を参考に、休養日というタイミングでマグロを練り込んだ豆腐ハンバーグを作ってみました

 最後に、「ハンナ自身が精力的に仕事をするコツは?」と聞くと「忙しくても合間を縫って、昼寝をすること。私が選手達によりよい環境を提供するためにも絶対に欠かせない。自分に余裕がなくなってしまうと、選手から話しかけられても『何か用!?』っていう態度になるじゃない? 少し休んで脳がスッキリすると、新しい料理を考えたりクリエイティブなこともできたりするから効率的よね」とチャーミングな笑顔を見せてくれました。

◇         ◇

 自分の役割をしっかりと果たすために「私には必要」と積極的に“休む”こともまた、素晴らしいことですね。アレン選手、グラントさんともに、オンとオフの切り替えを大事にしていることも、プロにとっては必要な要素の一つなのだと感じました。

 またお二人とも「日本食は素晴らしい」「ホスピタリティに感銘を受けた」とおっしゃっていて、私自身が日本の伝統文化や食の良さを再認識する場面もありました。意見や情報の交換を、今後も積極的に行っていきたいと思います。

池田清子池田清子(いけだ・さやこ)

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネージャー経験を生かし2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを開始、同秋結婚。平行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」にて情報配信中。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

グルメ ニュートリション はらぺこサイクルキッチン

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載