地元開催で日本勢がメダルを取るためには?「日本代表のプロチームを作りたい」 浅田顕ロード強化ヘッドコーチに聞く東京五輪への道

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 2020年の東京五輪開催が決まり、日本のスポーツ界ではさまざまな競技が「東京五輪でメダル」を合言葉に盛り上がりを見せている。現在、自転車競技のロードレース強化ヘッドコーチとして日本代表チームを率いる浅田顕監督に、東京五輪でメダルを獲得するための道筋を聞いた。

(聞き手 米山一輝/写真 シクリズムジャポン)

◇      ◇

オリンピックにまぐれはない

――どうすれば日本勢が東京五輪のロードレースでメダルを取れるでしょうか?

 「正直、メダルを取るなんて大それたことは言えないのが現状だと思います。オリンピックに関しては、まぐれはないので。ただ、トップ集団でゴールすれば、可能性がなくはないと思っています。いま新城幸也(チーム ヨーロッパカー)や別府史之と(トレック ファクトリーレーシング)いったトップ選手がいますけれど、前回のロンドン五輪では別府が先頭集団に乗りました。東京五輪でもそのようになる可能性はあります。ただ、いつまでも彼らに頼っていてはしょうがないので、これを機会に若い世代の底上げをどんどんしていかなければなりません」

 「まず考えなければいけないのは、オリンピックに出るであろう諸外国の連中と、普段から同じ土俵で戦っていなければ話にならない。UCI(国際自転車競技連盟)のワールドツアーに出場するレベルのチーム(トップカテゴリーのワールドチームと、その下のプロコンチネンタルチーム)に、日本の選手が何人いるかが勝負になってくると思います」

――選手の強化という面では、どういう方向性になりますか

 「個々の選手の力はもちろん必要ですが、日本自転車競技連盟としては、日本人がワールドツアーに参加できる組織を作る必要があると考えています。今は国内トップチームが横並びですが、そこから強い選手を集めて、日本の代表チームとして(ワールドチームかプロコンチで)プロ登録をして走る環境です」

 「今年はまずヨーロッパに日本代表チームの拠点を作ります。そこを使って夏の期間、各チームの強い選手を集めて、UCIヨーロッパツアーの1クラスのレースに参加したい。オリンピックに向けて日本の姿勢を示す必要がありますし、それは翌年以降のプロチーム結成へのアピール活動にもなります」

 「その次の目標として、日本代表のプロチームを作って、そこで成果を上げてオリンピック本戦を目指すわけですが、やっぱりお金がかかりますね。プロチームを立ち上げるのであれば、最低3億円はかかります」

世界のレベルで若手を育てる

――日本代表チームの、エリートより下の若い世代の活動はどうなっていきますか

 「ジュニアとU23は、UCIのネイションズカップと世界選手権を軸に活動していきます。U23の選手の場合は、国別のUCIランキングを上げるためのUCIポイントが必要ならば、場合によってはアジアツアーも回ります。ですがメーンはやっぱりヨーロッパでのネイションズカップですね。なぜネイションズカップかというと、レースのレベルが世界選につながっているんです。いくらアジアツアーを回って頑張ってUCIポイントを取ったとしても、実際の世界選とは違うんです」

――ポイント以上にU23の世界トップのレベルで走ることが目的

 「そうですね。そこで自分たちのレベルと比べて強化していくという考えです」

――それぞれの世代の目標は

 「ジュニアはまず、ネイションズカップでポイントを取ることが目標。この世代は昨年、ステージ優勝までしてくれて、成果はすごく出ていると思います。U23に関しては4年間あるんですけども、その4年のうちに世界選でトップ10に入る選手を輩出すること。そうすれば、ワールドツアーチームの目に留まると思います。世界選だけでなく、ネイションズカップでトップ10に入ることはすごく重要ですね」

――それで選手をワールドツアーのレベルに持っていく

 「そうですね。ただ、今はワールドツアーチームに入るのはすごく大変なことなんです。チャンスがなくて行けなくても、もし日本にプロコンチネンタルチームがあれば、そこで受け入れることが可能ですよね」

 「あと、プロチームって契約が不安定で、継続するのが難しい。契約先がないと、じゃあ引退しちゃおうとか、国内のコンチネンタルチーム(プロコンチより一つ下のカテゴリー)と契約しようかっていう流れになっちゃう。例えば土井雪広(チームUKYO)は、(2012年に)ワールドツアーをバリバリ走ったが、翌年に国内ツアーを走っている。そこまで下がってくる必要はないんです」

 「もしその間に日本人のためのプロコンチネンタルチームがあれば、まずそこに留まってもらって、これまでの経験なりをフィードバックしてもらって、それでまたチャンスがあればもう一度上に行けばいい。行けなければそこで引退して、スタッフやコーチに就任してもらいたい。それまでやってきた経験を、ちゃんとつなげてもらえる仕組みを作らないといけない」

目指すレベルが変わった

――昨年は世界選手権の代表は新城幸也、土井雪広、清水都貴(当時チーム ブリヂストンアンカー、2014年限りで引退)の3人で、日本チャンピオンは選ばれませんでした

 「今までのように完走できるかできないかというレベルなら、じゃあ全日本選手権で勝ったやつを連れて行こうよっていう話が成立するのですけれど、今はやっぱり『戦わなくちゃならない』んですよね」

2014世界選手権ロードの男子エリート日本代表。(前列左より)土井雪広、新城幸也、清水都貴(砂田弓弦撮影)2014世界選手権ロードの男子エリート日本代表。(前列左より)土井雪広、新城幸也、清水都貴(砂田弓弦撮影)

 「新城が一度、世界選で9位になって(2010年)、昨年もワールドツアーのアムステルゴールドレースで10位になった。トップ集団に残れる力があるんですよ。そういう選手がいて、その選手をどうサポートするか、どうアシストするかを考えたら、ただ完走しそうという選手を何人連れていってもしょうがないんです」

 「具体的に言うと、まずは世界選なので、位置取りがすごく大切なんです。土井はまだプロの世界に顔がきくので、『わりいな』みたいな感じでいける。次に、ペースが上がって位置取りを維持する必要があるときに、世界選の上りのスピードだと清水しかいないんです。前に残ったら、最後の2周は新城の勝負ですよね。あとは一人で行ってらっしゃいと、そういうところまでの展開を考えて選びました。日本チャンピオンを、日本チャンピオンだから選ばないといけないということは、これからも考えられないと思う」

――ただ、結果は残念なものになりました

 「それはもう(新城)本人の問題ですね。コンディショニングも所属チームと一緒にやれれば良かったのですが、彼が走ってきたレースは世界選に向けてのレースではなかったですね。世界選の上位に残れている選手というのは、そこにそれなりの準備をして、集中してきている選手ばかりだと思うんですよ。やはり世界一のレースだけあって、そんなに簡単じゃない。トップ集団に残れる可能性のある選手しか残れないわけです」

 「新城はその可能性がある選手。日本人がトップ集団に残ると想定できたことは、今までとレベルが全然違う。そういう新しい段階に入ってきている」

日本人全体での団結が必要

――ただ、新城選手に続く世代が不安ということもあります

 「とにかくチャンスを増やして、どんどん選手を入れて回していくしかないですね。100人チャレンジして、残るのは1人でも2人でもいいんです。その頻度を高めていって、年に2人くらいプロになれる可能性のある選手が出てきてくれるだけで、全然違うと思います」

――チャンスを増やすのがナショナルチームと

 「本当に大きな役割ですね」

――ナショナルチームのスタッフも世代交代が進んでいます

U23ナショナルチームでの欧州遠征で、レース前に選手に声をかける浅田監督(田中苑子撮影)U23ナショナルチームでの欧州遠征で、レース前に選手に声をかける浅田監督(田中苑子撮影)

 「徐々に入れ替わってきています。今までは連盟の中にインターナショナルな人がいなかったのですが、今はスタッフ、コーチ陣も含めて、単独で世界中どこに行っても動けます。ヨーロッパだと、イタリアに行けば大門宏さん(NIPPO・ヴィーニファンティーニ・デローザ監督)に頼れるし、ベルギーに行ったら橋川健くん(チャンピオンシステム監督)に頼れるし、フランスに行ったら自分が強いですから」

 「もちろん今までの方々の功績も大切ですし、そういう土台があって今がある。そこでわれわれがやらなくちゃいけないのは、もう一つ上の段階、より国際的な活動をするのが役割だと考えています」

――これからの課題はどういったものでしょうか

 「日本人全体で何とかしたいなという気持ちは、ある程度固まりつつあると思うんですよね。今のように5~6チームがヨーロッパ遠征に行って、バラバラにUCI2クラスのレースを走っている状態では、UCIポイントが全然取れない。そういうことをしていても、全く意味がないと思います」

 「必要なのは、強い選手を集めること。国内は国内で盛り上がることは大切ですが、やはり世界で戦うためには、強いのを集めて勝負していかなくてはなりません。戦争に行くのに弱い兵隊を連れて行ってもしょうがないわけですから、そこはやっぱり団結していく必要はありますよね」

戦闘的なヤツに出てきてほしい

――団結するにしても、お金の問題は避けて通れません

 「まあ、誰かが集めてくるしかないですね。ただそれは、うち(浅田氏が代表を務めるエキップアサダ)が正直できなかったことなので。なんで今うちがプロチームをやっていないかと言えば、お金が集められないからです。5~6千万は集められると思うんですが、でもやっぱり3.5億集めないとプロコンチネンタルチームはできないですよね」

 「うちはコンチネンタルチームをやるつもりは一切ありません。横並びを一つ増やすだけになりますから。それならジュニアとU23のチームを作る方がよっぽど役に立つと思ったので、今のエカーズを始めたんです」

――現在のジュニア、U23の選手をご覧になっていて、どういった課題を感じますか

 「まず体力が足りないですね。基礎体力がない。練習したら強くなるじゃないですか。きつい練習をして、休んだら、強くなっていく。そういう循環が、一時期より少ない気がしますね」

――それは日本人全体の問題でしょうか

 「そうだと思います。体力測定でも筋力がないですし、筋肉量も少ない。スポーツをやる人の基本的な体力が、ずいぶん落ちている印象です。あと、やっぱり気持ちが大人しいというか、何が何でもというのがないですね。がまん強い選手が少ない。ただ、全くゼロではない。何が何でも、という選手だと『戦って』くれますね」

 「U23のネイションズカップなんかに行くと、みんな狂気じみているんですよ。そこはもう、プロになりたい、絶対にプロになってやるという連中が集まってやっているので、位置取りにしろ展開にしろ、やっぱり凄いですよ。本当にある種の“戦争”ですよね。そこに入っていけるくらい戦闘的なヤツが出てきてほしいですね」

――そういう選手を見つけていかないといけない

 「そうですね。そして『この選手は強くなるぞ』という選手がいれば、そこに強化を集中していくべきだと思いますね」

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