title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<90>フルームはツールの王座奪還へ ウィギンスは“有終の美”なるか チーム スカイ 2015年シーズン展望

  • 一覧

 2014年の「週刊サイクルワールド」は今回が最後となりました。1年間、ご愛読ありがとうございました。そして、2015年も引き続きどうぞよろしくお願いします。ここ数回にわたりお送りしている2015チーム展望ですが、今回は1年を締めくくるに相応しいチームとして、プロトン随一のビッグチーム「チーム スカイ」を紹介します。クリストファー・フルーム(イギリス)は2度目のツール・ド・フランス制覇、ブラッドリー・ウィギンス(イギリス)はパリ~ルーベ制覇とアワーレコード更新を目指します。

絶対的なエース、クリストファー・フルーム。ツール・ド・フランスの王者返り咲きが2015年の目標になる絶対的なエース、クリストファー・フルーム。ツール・ド・フランスの王者返り咲きが2015年の目標になる

フルームはツールに向けて“クライマー仕様”に

フルームがウィギンスをアシストしたツール・ド・フランス2012フルームがウィギンスをアシストしたツール・ド・フランス2012

2010年のチーム結成時(当時のチーム名はスカイ プロサイクリング)、その中心に立っていたのはウィギンスだった。「ウィギンスをツールの頂点へ」を合言葉に、彼を中心とした5年計画のチームビジョンを据えた。そのウィギンスは予定を大幅に早め、2012年に悲願のツール制覇を果たした。

 一方で、その頃にはフルームが新エースとして台頭。2011年ブエルタ・ア・エスパーニャでは、総合3位のウィギンスを差し置いて総合優勝争いを演じた。結果は総合2位だったが、チームの主軸となるには十分な実力を示した。以降、2人の関係性がたびたび取り沙汰され、ビッグレースのたびに「どちらがエースなのか?」といった見方が注目の的となっていた。

 結果的に、フルームが実力で絶対的エースの座を獲得。狙ったレースは逃さない抜群の集中力を見せるウィギンスだが、その分シーズンを通して好不調の波が激しく、首脳陣にとってその走りが計算しにくい部分があったことは事実だ。その点、フルームは寒さに弱いことや、過去に患った寄生虫による疾患への配慮さえ講じれば、常にハイレベルで走り続けられる面で、“チームの顔”となるのに相応しいと判断されたのである。

 そんな“2大巨頭”も2015年、ついにそれぞれの道を歩むときがやってくる。

ツール・ド・フランス2014の第4ステージで落車し、負傷したクリストファー・フルーム。翌第5ステージでも落車しリタイアしたツール・ド・フランス2014の第4ステージで落車し、負傷したクリストファー・フルーム。翌第5ステージでも落車しリタイアした

 2014年シーズンは苦しんだフルーム。ステージレースでの総合優勝は2つにとどまり、圧倒的な力を誇示した2013年と比較すると、物足りなさは否めなかった。UCI(国際自転車競技連合)に提出した喘息治療薬の使用許可手続きに問題があったとの指摘を受け、一時的に騒動に巻き込まれることもあった。さらに、6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージでの落車で走りのリズムが失われたのか、翌月のツール第5ステージで落車し負傷リタイアした。

 夏場以降は立て直しに取り組み、2015年シーズンを見据え臨んだブエルタで総合2位。終盤にかけて復調を感じさせ、ライバルにインパクトを与えることができた。充実した形で新シーズンを迎えられると、本人も手応えをつかんでいる。

 そして、来たるシーズンはツール王座の奪還を目指す。リードを築ける得意のタイムトライアルの総距離が短いことから、回避の可能性も囁かれたが、グランツールはツール1本に集中する見通しだ。山岳ステージに適応すべく、“クライマー仕様”の脚づくりにトライしたいとしている。

 この冬は、例年通り南アフリカでトレーニングを積み、12月上旬にオーストラリア・タスマニア島でリッチー・ポート(オーストラリア)とともにクリテリウムイベントに参加。スペイン・マヨルカ島でのウインターキャンプを経て、2月18日から23日までのルタ・デル・ソル(スペイン、UCI2.1)でシーズンイン。最大のライバル、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)も参戦を表明しており、2人のマッチアップが早くも実現する。

ウィギンスはパリ~ルーベ制覇とアワーレコード更新狙う

 グランツールにおけるチームリーダーの座をフルームに明け渡したウィギンスは、2015年シーズン中にロードレースから引退し、2016年リオ五輪でのトラック種目出場に向けた準備に入る。

 2014年はフルームのアシストとしてツール出場を目指したが、チーム事情もあり自らメンバー入りを辞退。目標を世界選手権ロードでの個人タイムトライアル優勝に切り替え、王者トニー・マルティン(ドイツ、オメガファルマ・クイックステップ)を撃破。圧巻の走りで自身ロード初のマイヨ・アルカンシエルを獲得した。

3年ぶりのパリ~ルーベで9位に入ったブラッドリー・ウィギンス3年ぶりのパリ~ルーベで9位に入ったブラッドリー・ウィギンス

 彼にとって残された目標は2つ。パリ~ルーベ制覇とアワーレコード更新だ。これらを実現させ、心残りなくトラックへと向かいたいとしている。

 パリ~ルーベは2014年、3年ぶりの参戦ながら9位と好走。優勝争いにも加わった。かねてから「一番好きなレース」と公言していたこともあり、まずはパヴェでの活躍を誓う。

 アワーレコードは6月または7月に実施の見通し。場所は、スペイン・マヨルカ島のパルマアリーナが有力視される。次々と挑戦を表明する選手が現れるアワーレコードだが、とりわけウィギンスの存在は突出している。現在の記録は10月にマティアス・ブランドレ(オーストリア、イアム サイクリング)がマークした51.852kmだが、一部ではウィギンスの力をもってすれば55kmに迫るのではないかとの見方もなされる。そのため、多くの選手がウィギンスより先に実施し、たった1日でもレコードホルダーとして名を残そうとしているとまで言われているほどだ。

2014年の世界選手権個人タイムトライアルで悲願のマイヨアルカンシエルを獲得したブラッドリー・ウィギンス(中央)2014年の世界選手権個人タイムトライアルで悲願のマイヨアルカンシエルを獲得したブラッドリー・ウィギンス(中央)

 また、アワーレコードに向けた調整としてジロ・デ・イタリアに出場するのではないかとの噂も挙がる。これは、バイクサプライヤーであるピナレロ社が熱望しているもので、同社の本拠・トレヴィーゾが第14ステージのスタート地であることも関係しているという。さらには、このステージが59.2kmの個人TTとあり、何としてもウィギンスを出場させて、力を示してほしいとの思いがあるようだ。チームは前向きな姿勢を見せており、あとは本人の判断が待たれる。

 ウィギンスはこの冬、チームのメーンスポンサーであるブリティッシュ・スカイ・ブロードキャスティング社と手を組み、若手育成を目的とする「チーム ウィギンス」を結成する。イギリスナショナルチームに名を連ねるトラック中距離種目の選手を集め、強化はもとより、トラック引退後のスムーズなロード転向の後押しも行う。アワーレコード挑戦後は自らもこのチームに移籍し、キャリア最後の挑戦となる予定のリオ五輪までの間、メンバーとの一体化を図る。

ライバルを知り尽くすロッシュ、エースの座を狙うケニッグ

 豊富な資金力を武器に、毎年ストーブリーグの主役となるこのチーム。今年もしっかりと実力者を揃えた。

コンタドールのアシストを務めたニコラ・ロッシュが、今度はフルームをサポートするコンタドールのアシストを務めたニコラ・ロッシュが、今度はフルームをサポートする

 早くからチーム スカイ入りが噂されていたのは、ニコラ・ロッシュ(アイルランド)とレオポルド・ケニッグ(チェコ)。2人ともに“予定通り”の加入となった。

 ロッシュは2013年から2シーズン、ティンコフ・サクソに所属。エースのコンタドールとの出会いがキャリアを大きく変えたと述べている。そのチームリーダーのもとを離れ、選んだのはこれまでのライバルチーム。移籍にあたり、「フルームを最大限アシストする」と宣言。フルームにとって、コンタドールを熟知するアシストの存在はプラスに働くだろう。

ツール総合7位に入るなど次世代のグランツールレーサーとして期待されるレオポルド・ケニッグ(左)ツール総合7位に入るなど次世代のグランツールレーサーとして期待されるレオポルド・ケニッグ(左)

 チーム ネットアップ・エンデューラから移籍のケニッグは、チーム飛躍のカギを握った選手でもあった。2013年ブエルタでは第8ステージを制し、総合9位。2014年はツール初出場を果たし、総合7位と大健闘した。チーム スカイとしては、フルームに続くグランツールレーサーの育成が急務。その座がほぼ約束されていたポートが本調子ではない現在、期待される選手の1人としてケニッグも名乗り出る。

 ラーシュペッテル・ヌールハウ(ノルウェー)は3年ぶりのチーム復帰。2年間所属したベルキン プロサイクリングチームでは、丘陵系のクラシックレースで活躍。アルデンヌクラシックではエースを務める可能性が高い。スプリンターのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)はキャノンデールから移籍。彼もリオ五輪でのトラック種目出場を目標としており、オムニアム(6種目の混成競技)では金メダル候補に名が挙がる。

 オメガファルマ・クイックステップから移籍するヴァウテル・プールス(オランダ)は山岳アシストとして、同じくアンドルー・フェン(イギリス)はスプリンターとして主力の座を狙う。

トーマス、ニエベらも活躍を誓う

 ツールでの活躍に目が奪われがちのチームだが、適材適所の選手配置が可能なだけのタレントはそろえている。

E3ハーレルベーケで3位に入ったゲラント・トーマス。石畳のクラシックで安定した強さを誇るE3ハーレルベーケで3位に入ったゲラント・トーマス。石畳のクラシックで安定した強さを誇る

 ゲラント・トーマス(イギリス)は、石畳系クラシックで優勝を狙う。2014年はE3ハーレルベーケ3位を筆頭に、あらゆるレースでトップ10入り。一方で、2016年からはグランツールに照準を当てるとしており、その足掛かりとしてステージレースでも結果を残し始めている。来たるシーズンは、より結果を求めた走りが見られるはずだ。

 ミケル・ニエベ(スペイン)は、移籍1年目からフルームの信頼を勝ち取り、アシストながら自らも上位を狙えるライダーに成長。ブエルタではフルームを支えながらも総合12位。今度は単独エースの役割を獲得できるか。

ジロ・デ・イタリア新人賞を目指すセバスティアン・エナオジロ・デ・イタリア新人賞を目指すセバスティアン・エナオ

 若手では、21歳のセバスティアン・エナオ(コロンビア)に注目したい。このほど、ジロの新人賞(マリアビアンカ)を狙うと宣言。2014年ジロではネオプロながら総合22位と、才能の片鱗は見せた。いとこのセルジオルイスも、ツール・ド・スイスのTTステージ試走中に事故に遭った際の負傷から復帰間近とあり、タッグを組んでの活躍を目指す。

 そのほか、山岳ステージの逃げで魅せるヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)、プロトンのリーダー的存在のベルンハルト・アイゼル(オーストリア)、山岳アシストで重責を担うダビ・ロペス(スペイン)らベテランも健在。ピーター・ケノー(イギリス)は、ポートらとともに、フルームのアシストに名を連ねられるか。ミラノ~サンレモ制覇を狙うスプリンターのベン・スイフト(イギリス)、2014年はけがに泣いたパヴェ巧者のイアン・スタナード(イギリス)も押さえておきたい。

■チーム スカイ 2014-2015 選手動向

【残留】
イアン・ボスウェル(アメリカ)
フィリップ・ダイグナン(アイルランド)
ネイサン・アール(オーストラリア)
ベルンハルト・アイゼル(オーストリア)
クリストファー・フルーム(イギリス)
セバスティアン・エナオ(コロンビア)
セルジオルイス・エナオ(コロンビア)
ピーター・ケノー(イギリス)
ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)
クリスティアン・クネース(ドイツ)
ダビ・ロペス(スペイン)
ミケル・ニエベ(スペイン)
ダニー・ペイト(アメリカ)
リッチー・ポート(オーストラリア)
サルヴァトーレ・プッチョ(イタリア)
ルーク・ロウ(イギリス)
カンスタンティン・シウツォウ(ベラルーシ)
イアン・スタナード(イギリス)
クリストファー・サットン(オーストラリア)
ベン・スイフト(イギリス)
ゲラント・トーマス(イギリス)
ブラッドリー・ウィギンス(イギリス)
ハビエル・サンディオ(スペイン)
【加入】
アンドルー・フェン(イギリス) ←オメガファルマ・クイックステップ
レオポルド・ケニッグ(チェコ) ←チーム ネットアップ・エンデューラ
ラーシュペッテル・ヌールハウ(ノルウェー) ←ベルキン プロサイクリングチーム
ヴァウテル・プールス(オランダ) ←オメガファルマ・クイックステップ
ニコラ・ロッシュ(アイルランド) ←ティンコフ・サクソ
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア) ←キャノンデール
【退団】
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー) →MTN・クベカ
ダリオ・カタルド(イタリア) →アスタナ プロチーム
ジョゼフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ) →チーム キャノンデール・ガーミン
ジョシュア・エドモンドソン(イギリス) →未定

今週の爆走ライダー-ピーター・ケノー(イギリス、チーム スカイ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2012年ロンドン五輪トラック・チームパシュートでイギリス代表がマークした3分52秒499は、当面破られることのない驚異的な記録といわれる。その一翼を担ったのがケノーとゲラント・トーマスだった。ケノーの金メダルは、出身地のマン島にとって100年ぶりの快挙。“マン島超特急”といわれる同島出身のマーク・カヴェンディッシュ(オメガファルマ・クイックステップ)に引けを取らない活躍度だ。

 フルームの右腕として走った前年に続こうと意気込んだ2014年。イギリス選手権ロードでは、チームメートとの争いを制しチャンピオンジャージを獲得。これでツール出場を確信したが、まさかの選考落ち。大きなショックを受けた。ツールが盛り上がる傍らでツアー・オブ・オーストリアに出場すると、第1ステージからリーダージャージを守りきっての総合優勝。「ツールに出場できない悔しさをすべてぶつけた」という走りだった。

イギリスチャンピオンジャージでブエルタ・ア・エスパーニャを走ったピーター・ケノー(右から2人目)イギリスチャンピオンジャージでブエルタ・ア・エスパーニャを走ったピーター・ケノー(右から2人目)

 新たなシーズンは、再びフルームらのグループに入ることが目標だ。脚質的にはワンデーレース向きと感じており、ステージレースではエースにこだわらず、アシストを務めることへの抵抗はないという。

 いくつもの喜びと悔しさを経験し、次なるステージへと足を踏み入れる。25歳と若く、進むべき道はこれから決める。多くの良きお手本に恵まれ、彼らに仕える日々は将来のステップアップに大きく役立つはずだ。

文 福光俊介、写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載