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“自転車革命都市”ロンドン便り<13>自転車メンテナンスの“自炊”スペース「バイクキッチン」 ロンドンで高まるニーズ

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 自転車のメンテナンスの基礎を知りたい、あるいは自転車の修理を自分でできるようになりたいと思っていても、どこから何を見て始めればいいのかわからない、修理スタンドやさまざまな専用ツールを買うのはお金がかかる、自宅に自転車をいじるスペースがない――とあきらめてしまうことが多いのではないでしょうか。

「ザ・ロンドン・バイクキッチン」で催されたクリスマスパーティーの様子。左手前の女性が創業者のジェニー・グワズドウスキーさん「ザ・ロンドン・バイクキッチン」で催されたクリスマスパーティーの様子。左手前の女性が創業者のジェニー・グワズドウスキーさん
すっかりお洒落に変身したイーストロンドンの裏道にあるLBK。カリフォルニアでは、バイクキッチンのようなところがどんどん増えているというすっかりお洒落に変身したイーストロンドンの裏道にあるLBK。カリフォルニアでは、バイクキッチンのようなところがどんどん増えているという

 そんな人たちのために、修理スタンドとツール一式が揃ったスペースを時間借りできる、さらに常駐しているメカニックからアドバイスも受けられるというのが「バイクキッチン」のコンセプト。誰もがキッチンで「自炊」するように、自転車をいじれるようになろうというアイディアです。米・サンフランシスコでそんな非営利団体が活動しているという話をどこかで読んだことがありました。

 ロンドンや東京にもあったら使いたいのにと思って数年後。2012年3月、まさにそのロンドン版「ザ・ロンドン・バイクキッチン(LBK)」が誕生したのでした。わたしもすぐにメンバーになって、ホイール組みの集中講座に参加したり、何度かお世話になってきています。

出発点は子どもたちのライフスキル・トレーニング

「ザ・ロンドン・バイクキッチン」の創業者、ジェニー・グワズドウスキーさん「ザ・ロンドン・バイクキッチン」の創業者、ジェニー・グワズドウスキーさん

 ジェニー・グワズドウスキーさんは、ザ・ロンドン・バイクキッチンの創業者で共同ディレクター。カリフォルニアの大学を卒業後、母の故郷である日本で英語を教えているときに「ママチャリ」に出会い、サンフランシスコに戻ってバイクキッチンを知り、その後ロンドンに移った後、非営利団体としてLBKを起業しました。

 サンフランシスコでは、貧しいエリアの子どもたちに基礎的なライフスキル(日々の生活に役に立つ技術や教養)を教える仕事をしていたというジェニーさん。「ノートの取り方やエッセイの書き方を教えたり、編み物をみんなで編むとか。とくに手を使って何かを創ることを学んだとき、力のなかった子どもの目がパッと輝く瞬間が好きです。ああ自分がこの世にいる意味が少しはあるかなと嬉しくなります。それがわたしのモチベーション」と、教えてくれました。

壁には自転車のパーツの名称を示すイラストが。自転車のメンテナスを学ぶなら、何はともあれここから知らなければ壁には自転車のパーツの名称を示すイラストが。自転車のメンテナスを学ぶなら、何はともあれここから知らなければ
LBKのスタッフは手作りが大好き! LBKのロゴをアイロンプリントにして喜んでいるところLBKのスタッフは手作りが大好き! LBKのロゴをアイロンプリントにして喜んでいるところ

 とくに自転車修理技術は、子どもたちがすぐに使えるスキルなだけでなく、手に職をつけることにもなりうるので、「バイクキッチンの運営に強く興味をもった」とジェニーさん。カリフォルニアでは、バイクキッチンのようなところがどんどん増えて、いまはバイクオーブンにバイクチャーチ、バイカリー(バイク+ベーカリー)などがたくさんできているのだそうです。

「5年後に続いていたら、賞に値するかも」

 ジェニーさんは、環境保護団体のマーケティングチームで働いていたときから、バイクキッチン起業の準備を始めました。半年間は収入がゼロでも暮らせるだけの資金を貯蓄。ちゃんとお給料がとれるようになったのは、結局、開業後1年近くたってからだったそうだけれど、ロンドンっ子からのニーズは高かったようで、さまざまな媒体に紹介されて評判になりました。

自転車推進NGOからの助成金100万円で購入したツール自転車推進NGOからの助成金100万円で購入したツール

 ロンドンの自転車利用を推進するNGOを対象とした助成金5000ポンド(およそ100万円)も獲得。「自転車修理ツールは高いので、助成は本当に助かりました」。

 2013年には、ロンドンで活躍する自転車関係のビジネスや活動に与えられる「ロンドン・サイクリング・アワード」を受賞しました。けれどジェニーさんはとても謙虚な人柄で、「まだまだ経営も厳しいし、もらうには数年早かったと思うんです。5年後にまだLBKが続いていたら、賞に値するかもしれないけれど」と口元を引き締めて語ってくれました。

講習、メンテ、アドバイス…会社帰りに立ち寄る女性も

LBKで予定されている講座スケジュール。メンテナンス基礎講座やホイール組み講座は2夜連続LBKで予定されている講座スケジュール。メンテナンス基礎講座やホイール組み講座は2夜連続

 さて肝心のLBKのサービス内容は、パークツールの頑丈な修理スタンドとツール使い放題・アドバイスもらい放題が1時間メンバー10ポンド(およそ2000円)、非メンバー12ポンド(2400円)。メンバーシップは年間10ポンド。また、自転車の基本的なメンテナンスのコースが60ポンド(1万2000円)。パーツを持ち込んで自転車をゼロから組み上げるコースが80ポンド(1万6000円)――といったところ。新品・中古のバイクパーツもたくさん揃っています。このところの円安でちょっと高く感じますが、ロンドンの感覚ではもう少し手頃だと思ってください。

 その場にいてアドバイスをしてくれるのは、ほかの自転車ショップでメカニックをやっている人などが多く、人を助けるのが好きなので夜だけLBKでボランティアをしているという人も。わたし自身は時間貸しサービスでディレイラーハンガーの曲がり修正とカーボンフォークコラムのカットをしたことがあります。また、2夜連続のホイール組みコースを受講したこともあります。あとは立ち寄ってタダの紅茶を飲むとか、メンバー割引でライトを買ったり、というところでしょうか。

2013年に、わたしがホイール組みを習ったときの様子。2夜連続の計6時間で60ポンドだった2013年に、わたしがホイール組みを習ったときの様子。2夜連続の計6時間で60ポンドだった

 LBKを利用している人には、自転車通勤をしている20~30代の人が多い印象です。女性の利用者もたくさん。趣味でピストを作るようなタイプの人ももちろんいますが、「毎日交通手段として使う“足”である自転車を自分で手入れして支出を抑えたい」、という堅実なニーズもあるのでしょう。

 リアキャリア付きの使い込んだ(はっきり言えばくたびれている)クロスバイクを修理スタンドにひっかけ、指導を受けながらハンガー曲がりの修正に取り組んでいる会社帰りの若い女性の姿には、家の補修などでもDIYが好きで楽しんでいるイギリス人の底力を見た気がしたものです。

黒いので見えにくいけれど、パンクしたチューブに切れ込みをたくさん入れて作った、ボリュームたっぷりのネックレス。これは真似したい!黒いので見えにくいけれど、パンクしたチューブに切れ込みをたくさん入れて作った、ボリュームたっぷりのネックレス。これは真似したい!
新品・中古のバイクパーツもたくさん揃っている。とくに古いタイプのパーツは格安新品・中古のバイクパーツもたくさん揃っている。とくに古いタイプのパーツは格安

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 しばらく前、東京にもバイクキッチンを作ろうとしている人がいるらしいと風の噂に聞いたことがあるのですが、いまのところできたという話は聞いていません。もしまだであれば、東京でもそろそろニーズが高まってきているような気がするのですが、どなたかいかがでしょうか?

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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