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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<89>カンチェッラーラは悲願のアルカンシエルに挑戦 トレック ファクトリーレーシング 2015年シーズン展望

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 2015シーズン展望、今回はトレック ファクトリーレーシングを紹介します。中心選手のファビアン・カンチェッラーラ(スイス)は、クラシックをはじめとするワンデーレース、特に悲願である世界選手権ロードの優勝を目指します。ほかにも別府史之やジュリアン・アレドンド(コロンビア)ら、14カ国からトップライダーが集結した“多国籍軍”の陣容に迫ります。

3度目のツール・デ・フランドル優勝をファビアン・カンチェッラーラ。来季はクラシックレースと世界選手権ロードに照準を定める<砂田弓弦撮影>3度目のツール・デ・フランドル優勝をファビアン・カンチェッラーラ。来季はクラシックレースと世界選手権ロードに照準を定める<砂田弓弦撮影>

ワンデーレースの勝利に集中するカンチェッラーラ

 トレック社初のロードレースのワークスチームとして2014年に活動をスタート。選手の意見を製品の研究・開発へ最大限に反映させることを目的とする。また、さまざまな国籍の選手を擁することで、チーム強化を図るとともに、同社のプロモーションに寄与させる狙いもある。トレックがかかわるレースやイベントにおいて、所属選手を出し惜しまない姿勢を貫いてきた。

 前身チームのレイディオシャック・レオパード時代から、チームの課題として挙がっていたのは、ベテラン選手がメンバーの多くを占め、若手とのバランスが上手くとれていない点だった。その意味で、2015年は大きな分岐点のシーズンとなる。

現役選手を引退し、チームコンサルタントの職に就いたイェンス・フォイクト氏 ©TREK現役選手を引退し、チームコンサルタントの職に就いたイェンス・フォイクト氏 ©TREK

 チームの功労者であるイェンス・フォイクト(ドイツ)が9月に現役を引退。また、かつてのツール王者アンディ・シュレク(ルクセンブルク)も度重なるけがでキャリアを終えた。アンディの兄であるフランク・シュレック、そしてカンチェッラーラを含め、主力選手同士で(移籍前の)チーム サクソバンク時代から結ばれていた強い絆を発揮することができなくなり、新たなチーム作りが急務となる。

 そうした中でキャプテンシーを強めているのは、やはりカンチェッラーラだ。彼中心のチームとして結成された経緯もあることから、より存在感を高めるシーズンにしたいところ。2014年シーズンの勝利数は2つにとどまったが、それはかつて隆盛を極めたタイムトライアルへの比重を落としたことによる。2015年もまた、クラシックレースをはじめとするワンデーレースでの勝利に集中する。

ゴール勝負にもつれ込んでも勝てるように進化を遂げたファビアン・カンチェッラーラ<砂田弓弦撮影>ゴール勝負にもつれ込んでも勝てるように進化を遂げたファビアン・カンチェッラーラ<砂田弓弦撮影>

 その意識は、走りにも顕著に表れる。かつては独走力を武器にパワーで押す走りが魅力だった一方で、他選手に粘られた末にゴール勝負に持ち込まれると不利に立たされることが多かった。ところが、近年はスプリントでライバルを蹴散らすシーンが増えてきた。2013年のパリ~ルーベ、2014年のツール・デ・フランドルの勝利は、スプリント強化が光ったレースでもあった。“苦手”のゴール前を克服したことにより、いかなるレース展開にも対応が可能に。これは、ライバルたちにとって大きな脅威になっている。

 目下の狙いは、世界選手権ロードでのマイヨ・アルカンシエル獲得。2015年はまず、春のクラシックで勝利量産といきたい。2連覇・通算4度目の優勝がかかるフランドルを筆頭に、勝てば7年ぶりの頂点となるミラノ~サンレモ、ライバルのトム・ボーネン(ベルギー、オメガファルマ・クイックステップ)と並ぶ4度目の制覇が期待されるパリ~ルーベと、ビッグレースが控える。その後のシーズン中盤は調整に充てて、秋に迎える“本番”で爆発を誓う。

 2015年3月に34歳となること、チームとの契約が2016年までであることなどから、引退の噂が出始めている。けいれんにより11位に沈んだ2014年世界選手権の後には、「アルカンシエルへのチャンスは2回残されている」との意味深な発言もあったとされ、キャリアのカウントダウンへの趣きが一層強まっている印象だ。乗り気だったアワーレコード挑戦も、UCIによるルール変更に不満を見せ、挑戦そのものを断念する意向。これからは、ロードレースのアルカンシエルだけを見据えることだろう。

アレドンドはグランツール上位を狙う

今年のジロ・デ・イタリア第18ステージ、山岳ジャージを着たジュリアン・アレドンドがグランツール初勝利を飾った<砂田弓弦撮影>今年のジロ・デ・イタリア第18ステージ、山岳ジャージを着たジュリアン・アレドンドがグランツール初勝利を飾った<砂田弓弦撮影>

 2014年シーズン、グランツールでチームのハイライトとなったのは、アレドンドのジロ・デ・イタリア山岳賞獲得だ。ステージ1勝を含む快進撃は、UCIプロチーム所属1年目とは思えない堂々たる走りだった。

 2013年まではチームNIPPO・デローザ(当時)で走り、日本のUCIレースで大活躍するなど、われわれ日本のファンにとってもなじみのライダー。夏以降は調整が上手くいかず、ブエルタ・ア・エスパーニャでは途中リタイアとなってしまったが、凱旋レースとなった10月のジャパンカップでは5位と、一回り成長した姿を披露してくれた。2015年のターゲットは未定だが、グランツールについて「今後は総合成績を狙う」と明言しており、エースとしての上位進出に期待しても良さそうだ。

ツール・ド・フランスでは総合12位に入ったフランク・シュレック<砂田弓弦撮影>ツール・ド・フランスでは総合12位に入ったフランク・シュレック<砂田弓弦撮影>

 アレドンド同様、グランツールで力を発揮したいのはフランク・シュレク。薬物違反による出場停止が明け、本格復帰となった2014年はレース感覚を取り戻すための1年とした。大きなリザルトこそルクセンブルク選手権ロードの優勝だけだったが、ツール・ド・フランスでは総合12位と、実力の片鱗は見せた。かつての輝きを取り戻すことができるかどうか、見守りたい。

新加入のモレマは絶対的な総合エースへ

 現時点で加入が決まっているのは3選手。なかでもベルキン プロサイクリングチームから合流するバウケ・モレマ(オランダ)は、チームの弱点だったグランツールレーサーの穴を埋める存在となり、100点満点の補強と言えるだろう。

グランツールの山岳ステージで安定した結果を残せるバウケ・モレマ(先頭)が加入<砂田弓弦撮影>グランツールの山岳ステージで安定した結果を残せるバウケ・モレマ(先頭)が加入<砂田弓弦撮影>

 モレマは2011年ブエルタでの総合4位とポイント賞を獲得して以降、グランツールの総合トップ10常連の1人に。ツールでの最高成績は2013年の総合6位だ。彼の魅力は、山岳での安定感とアタックするタイミングの絶妙さ。スプリント力もあり、もつれた展開になるほど力を発揮する。3週間の長丁場だけではなく、1週間程度のステージレースやクラシックレースでも優勝争いができる。今後、アルデンヌクラシックでも優勝候補に名を連ねるはずだ。

 この移籍は、モレマ自身が国際色豊かなチーム入りを望んだことと、“絶対的エース”の座を約束されたことが大きいと言われている。アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)、クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)、ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)の「ビッグ4」に続く、第2グループに位置していることを自認しており、今後はそこからのステップアップを目指す構えだ。ビッグ4の一角を崩し、さらには自らが加わって「ビッグ5」を形成できるか。

総合エースを担うことになるバウケ・モレマ。タイムトライアルの改善が大きな課題だ<砂田弓弦撮影>総合エースを担うことになるバウケ・モレマ。タイムトライアルの改善が大きな課題だ<砂田弓弦撮影>

 課題はタイムトライアル。2014年のツール第20ステージ(54km個人TT)では140位と大失速し、総合成績が10位に沈む原因となった。その後出場したエネコ・ツアーでは、すでにトレックへの移籍が決まっていたこともあり、カンチェッラーラにTT指導を打診し、快諾を得た。カンチェッラーラもかねてからモレマのTTフォームに問題があることを指摘していたといい、2人が相思相愛の関係になっていることはきっとプラスに働くだろう。

 何より、モレマ加入によって、グランツールのTTステージで結果を求められていたカンチェッラーラの負担を減らす効果が見込めるとの声まであるほど。それだけ、グランツールでの結果が求められているチームだと言えよう。

 そのほか、チーム レイディオシャック(当時)時代以来5年ぶりの復帰となるヘルト・ステーヒマンス(ベルギー)と、マルコ・コレダーン(イタリア)がチームに加わる。

別府はプロ11年目のシーズンへ

 チームは現在、スペイン南部の街アリカンテでウインターキャンプ中。別府も参加し、順調に来シーズンへの調整を進めている。

2014年はジロとジャパンカップを目標に据えた別府史之。来季もビッグレースでの活躍が期待される<砂田弓弦撮影>2014年はジロとジャパンカップを目標に据えた別府史之。来季もビッグレースでの活躍が期待される<砂田弓弦撮影>

 別府は2015年でプロ11年目のシーズンとなる。2014年シーズンはジロ・デ・イタリアとジャパンカップを最大の目標に据えたが、来たる新シーズンのターゲットがどこになるのか、期待が膨らむ。キャリアを積み、円熟味が増した走りは、平坦・上り・スプリント・石畳のいずれにも対応可能。アシストとしての信頼度が高く、情熱的な走りでファンを魅了する。

 スプリントでは、ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)が中心。2014年ジロではステージ2位が4回と、“セカンド・コレクター”の異名がついた。来シーズンこそ悲願のステージ優勝を果たしたい。ボーイとダニーのファンポッペル兄弟(オランダ)も期待のスプリンターだ。特に弟のダニーは、19歳で出場した2013年ツール第1ステージで3位に入る鮮烈なデビューを果たしており、そろそろ勝利を重ねていきたい。

 戦力の厚みを増す中堅や若手も揃っている。石畳ではかつてのフランドル王者スティーン・デヴォルデル(ベルギー)、山岳ではツールで5度のトップ10入りを果たしているアイマル・スベルディア(スペイン)らが控える。さらには、オールラウンダーのボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)、2014年ブエルタでステージ10位以内に6度入ったジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)ら、若手有望株も押さえておきたい。

MTBクロスカントリーのオーストラリア王者、ダン・マッコーネルがツアー・ダウンアンダーにスポット参戦する©TREKMTBクロスカントリーのオーストラリア王者、ダン・マッコーネルがツアー・ダウンアンダーにスポット参戦する©TREK

 なお、2015年1月20~25日に開催されるUCIワールドツアー初戦、ツアー・ダウンアンダーのメンバーも発表され、ニッツォーロ、コレダーン、エウジェニオ・アラファーチ(イタリア)、ローラン・ディディエ(ルクセンブルク)、ヘイデン・ルールストン(ニュージーランド)、カルヴィン・ワトソン(オーストラリア)に加え、マウンテンバイク・クロスカントリー種目のオーストラリア王者、ダン・マッコーネルがスポット参戦する。また、チームコンサルタントに就任したフォイクト氏のコーチ業デビューも予定されている。

トレック ファクトリーレーシング 2014-2015 選手動向

【残留】
エウジェニオ・アラファーチ(イタリア)
ジュリアン・アレドンド(コロンビア)
別府史之(日本)
マシュー・ブッシュ(アメリカ)
ファビアン・カンチェッラーラ(スイス)
スティーン・デヴォルデル(ベルギー)
ローラン・ディディエ(ルクセンブルク)
ファビオ・フェッリーネ(イタリア)
マルケル・イリサル(スペイン)
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)
ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)
ヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ)
グレゴリー・ラスト(スペイン)
ヘイデン・ルールストン(ニュージーランド)
フランク・シュレク(ルクセンブルク)
ジェス・サージェント(ニュージーランド)
ファビオアンドレトマス・シルヴェストレ(ポルトガル)
ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
ボーイ・ファンポッペル(オランダ)
ダニー・ファンポッペル(オランダ)
クリストフ・ヴァンデワッレ(ベルギー)
カルヴィン・ワトソン(オーストラリア)
リカルド・ツォイドル(オーストリア)
アイマル・スベルディア(スペイン)
【加入】
マルコ・コレダーン(イタリア) ←バルディアーニ・CSF
バウケ・モレマ(オランダ) ←ベルキン プロサイクリングチーム
ヘルト・ステーヒマンス(ベルギー) ←オメガファルマ・クイックステップ
【退団】
ダニロ・ホンド(ドイツ) →引退(スイス アンダー23コーチ就任)
ロベルト・キセルロウスキー(クロアチア) →ティンコフ・サクソ
アンディ・シュレク(ルクセンブルク) →引退
イェンス・フォイクト(ドイツ) →引退(チームコンサルタント職就任)

今週の爆走ライダー-マルケル・イリサル(スペイン、トレック ファクトリーレーシング)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 20歳で患った睾丸ガンで生死の境をさまよったとき、同じ病気で苦しんだランス・アームストロングの走りが励みだったという。当時のランスとの手紙のやり取りがきっかけで、2010年に彼が率いるチーム レイディオシャックの結成メンバーに。その後、ヒーローは薬物違反で永久追放となったが、イリサル自身はあるべき姿を追求し続けている。

2015年シーズンで35歳になるマルケル・イリサル。カンチェッラーラも信頼する平地アシストだ<砂田弓弦撮影>2015年シーズンで35歳になるマルケル・イリサル。カンチェッラーラも信頼する平地アシストだ<砂田弓弦撮影>

 バスク人として、同胞の誇りであったエウスカルテル・エウスカディでプロデビュー。それからの11年間は、アシストとして評価されてきた。パヴェ(石畳)を苦手とするスペイン選手が大多数を占める中、数少ないパヴェ巧者の1人。普段は、主にプロトンの平地牽引を任される。

 そうでありながら、ペースコントロールが苦手という一面もあるのだとか。ときに集団のペースを乱し、ひんしゅくを買うことも。過去には、ペースを上げすぎてルールストンに怒鳴られるシーンがテレビで大映しになったこともあった。それでも、実力でカンチェッラーラやスプリンターたちからの信頼を勝ち取っている。

 タレント揃いのチームを陰ながら支えるのは、経験豊富なアシストたちであることを見逃してはならない。引退するベテランが次々と現れるなか、2月に35歳を迎える。イリサルのような万能タイプの年長者が息長く走り続けることが、チームのためであり、ロードレース界全体のためでもあるのだ。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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