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つれづれイタリア~ノ<40>安全な場所はほとんどない? イタリアに巧妙な自転車泥棒や大規模な窃盗団が増加中

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名作映画「自転車泥棒」のポスター ©ENIC名作映画「自転車泥棒」のポスター ©ENIC

 「自転車泥棒」というイタリア映画をご存知でしょうか。1948年に公開されたヴィットリオ・デ・スィーカ監督の名作で、映画の歴史において必ずその名前が取り上げられるほどです。ストーリーは悲惨です。舞台は第二次世界大戦直後の貧しいイタリア・ローマ。9歳の主人公、ブルーノくんの父親の自転車が盗まれたことを巡って、様々な人間ドラマが巻き起こります。イタリアの戦後の悲惨さを語る、涙なしでは見られない映画です。

 この映画では、盗まれた父親の自転車をなかなか見つけることができません。あるおばさんが彼に告げたセリフが、私の頭に刷り込まれています。

 「すぐ見つからないと、無理よ。すでに分解され、売られているのでしょう」

 現在でも、日本を含め世界中で自転車の盗難が増加しています。読者の中で被害に遭った方がいるのではないでしょうか? 今回は、イタリアの自転車盗難事情を紹介することで、日本での防犯対策のヒントになればと思います。備えあれば憂いなし。

経済不況で自転車が売れて、盗難も急増

 ここ数年の世界的な経済不況の波は、イタリアの自転車業界に大きな影響を与えました。増税によるガソリン高(※)がもたらしたクルマ離れ、エコブームの影響、市街地からクルマを排除する政府の政策―などによって、イタリア各地で自転車の売れ行きが急伸したのです。それに伴って、急激に拡大した自転車市場を狙う盗難も急増しています。

※イタリアのガソリンレギュラーの全国平均価格(2014年11月現在)Sole24ore調べ
1リットル=1.72ユーロ(約251円)

 昨年、FIAB(イタリア自転車愛好家協会)が公開したデータによれば、イタリアで毎年盗まれる個人所有の自転車は32万件にのぼります。ですが実は、データには大きな問題があります。イタリア警察はちゃんとした統計データを集計していないので、全体像はまだ把握できていません。

 FIABが行ったアンケートによると、盗難届を出す人は20%にとどまっているというので、おそらく盗難件数はもっと多いはず。また一台当たりの平均価格を300ユーロ(1ユーロ=146円)とすれば、32万件で総額140億円以上の窃盗事件といえます。

巧妙になっている犯罪

 盗難の手口は巧妙になっているうえ、一人で実行するケースは少なくなり、専門知識のある犯罪グループが組織化されつつあります。FIABの調べによれば、安全な場所はほとんどないようです。病院の駐輪場、裁判所前、警察庁舎の前でも自転車が盗まれていくのです。

 イタリアで自転車盗難件数が多い都市のワースト3は、1位がトリノで1万8千台。ミラノとローマが1万台で続きます。日本の警視庁が発表した2013年の東京都内の自転車盗難被害認知件数は5万件です。大阪では約4万件、福岡はおよそ2万件。イタリアと比べて多いように見えますが、トリノの人口が90万人ということを考えると(東京都1330万人、大阪府880万人)、実際に被害に遭うリスクは日本よりイタリアの方が大きいかもしれません。

居場所や住所を公開するアプリに注意

イタリア国家警察は防犯を呼びかけ、パトロールや犯罪グループの摘発も強化している ©Polizia di Statoイタリア国家警察は防犯を呼びかけ、パトロールや犯罪グループの摘発も強化している ©Polizia di Stato

 イタリアの警察はインターネットをめぐる“ハイテク犯罪”について、特にソーシャルネットワークやアプリの使用をきっかけとする盗難被害について警告を促しています。フェイスブックやツイッターは人々のコミュニケーション手段として定着していますが、危険な盲点もあります。オンタイムで投稿することで、現在の居場所を晒すことになるからです。また自転車の写真をアップすると、所有している車種やパーツも公開されてしまいます。公開範囲を限定しておかないと、個人情報を不特定多数の人に知らせることになってしまいます。

 さらに、住所を簡単に割り出すこともできます。GPSを利用した人気のアプリ、StravaやGarmin Connectなどの使用方法を間違えると、知らないうちに住居を公開することになります。高級自転車を狙う泥棒にとっては願ってもない、空から降ってくる恵みのデータのようなものです。

 自転車店も狙われています。顧客に扮した泥棒たちが店を下見し、ターゲットを定めてから、深夜に動きます。盗難車を使って大胆に店のフェンスや扉を破り、5分以内に持ち去ります。

 警察は深夜のパトロールを増やし、怪しいワゴン車やトラックなどを発見すると、検問を行います。おかげで、摘発件数も増えています。

メーカー倉庫が狙われ大打撃

 最近になって、犯行グループの行動がエスカレートしてきました。自転車や関連パーツを作る大手企業の倉庫が被害を受けています。2014年に入ってからサドルメーカーのセッレ・サンマルコ、サイクルコンピューターのポラール、ロードバイクメーカーのウイリエール・トリエスティーナ、ホイールメーカーのウルサスなどが被害を受けました。

 イタリアに限った問題ではありません。2月にロンドンで行われた「ロンドンバイクショー」でキャノンデール、サーベロ、ジャイアントなどが、スイスでは6月1日にスコットの倉庫も被害に遭いました(被害総額は100万スイスフラン=約1億2千万円)。防犯システムをショートさせる巧妙な手口が多いので、内部に詳しい人物が関与しているのではないかと懸念されています。関係者から聞いた話ですが、日本のサイクルモードでも自転車が盗まれたそうです。

プロ・アマのレーサーを狙った犯行

 2013年の暮れ、ミラノ北部ウズマテ・ヴェラーテ市に構えるランプレ・メリダの倉庫から自転車18台とサポートカーが盗まれ、「ここまで来たか!」と業界内に激震が走りました。フィレンツェで行われたロード世界選手権男子エリートに出場したロシア・ナショナルチームも被害に遭うなど、プロチームを狙う犯行も増えています。

 犯罪はさらに一般人のレーサーに向き始めました。昨年からヒルクライム練習中のレーサーを狙う盗難事件が報告されています。窃盗団は一人で黙々と上るサイクリストに的を定め、ナイフで威嚇をしてから自転車を奪います。抵抗すると、暴行を受ける可能性があります。警察は、集団で走行するようにと注意を呼びかけています。

もっとも手ごわいのは外国からの窃盗団

トリノ警察が無料で配布している防犯対策ブックトリノ警察が無料で配布している防犯対策ブック

 イタリア警察はエスカレートしている犯行を重く見て、パトロールを強化するとともに、一般市民への啓発パンフレットも作成しています。警察の分析によると、犯人像は3種類にわけられます。

1.スリルを求める若者
2.職業泥棒
3.北アフリカ、東ヨーロッパ出身の組織的な窃盗団

 若者たちは違法な行為をしていると知りながら、スリルを味わいたいがため犯行に及びます。基本的に盗まれた自転車は近所に乗り捨てられます。

 職業泥棒は、定職を持たず生計のために盗みを行います。ターゲットは自転車だけではなく、手当たり次第に手を伸ばします。盗品は地域のノミの市で売りさばかれることが多いので、比較的に見つけやすい面もあります。

 ところが、3番目の窃盗団は近年、最も脅威となっている存在です。犯行を全国に広げていて、その目的はネットによる転売です。3~5人のグループで行動することが特徴で、盗んだ大量の自転車はクルマに載せ、分解して貨物船に積んで外国へと輸送。モロッコやチュニジアを経由して東ヨーロッパにたどり着きます。こうして、ウクライナやルーマニアを拠点とする違法なネットサイトで転売されていきます。

 イタリア警察が、ジェノヴァやトスカーナ州の主要な港を巡回して犯行グループの摘発に乗り出した結果、逮捕者が増えました。しかし残念ながら、犯行に及んでいるのはほとんどが外国人なので、日を追うごとに移民に対するイタリア人の目が厳しくなる結果を招いています。

イタリアにも防犯登録制度が誕生

 FIABは、まず一人一人の防犯意識を高めるように促しています。そのため、各地でシンポジウムを行い、パンフレットや、おもしろおかしいビデオを作成するなどしています。

 一人でできる防犯対策は、次のような取り組みが考えられます。

二重ロックはもちろん、取り外せるパーツをフレームと固定することも重要 ©FIAB Onlus二重ロックはもちろん、取り外せるパーツをフレームと固定することも重要 ©FIAB Onlus

 まずは、犯行を面倒くさく感じさせるような防犯対策です。鍵を二重にし、サドルとホイールはフレームに固定。さらにフレームをフェンスに固定します。

 次にインターネットの活用。2012年に誕生した自転車盗難報告サイト「rubbici.it」では、情報の共有の重要性が訴えられています。イタリアの街は大きくないので、盗難が報告された自転車は目に付きやすい。

 最後に、警察への届け出。盗難に遭った際は、すぐに警察に届け出てほしいのです。そうすることで、警察も素早く動き、盗みを働きにくくなります。

 今までイタリアには自転車の防犯登録制度がなかったのですが、日本に倣って、各自治体が防犯登録の導入に乗り出しています。

 一部の都市では、警察が自ら「おとり作戦」を実施しています。駅前やショッピングセンターで泥棒のターゲットとなる自転車を放置し、犯行に及んだ人を現行犯で逮捕します。警察の発表によると、フィレンツェ市内だけで、今年10月まで116人が逮捕されました。残念ながらほとんどがルーマニアやモロッコからの移民でした。

イタリアでの緊急連絡先は?

 イタリアやヨーロッパで自転車を楽しんでもらいたいものですが、同時に防犯意識を高めておく必要があります。何か起こった場合、下記の電話番号にすぐ連絡してください。

イタリア国家警察(カラビニエーリ):113
EU共通緊急通報用電話番号:112
在伊日本大使館:(+39)-06-487-991

 ちなみに、私も数年前に東京でロードバイクが盗まれました。56cmのあの大きなアルミフレームに誰が乗れるのでしょう。心の中で静かに、泥棒がどこかでつかまるようにと願いました。

文 マルコ・ファヴァロ

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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