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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<86>“スプリント王国”を築きアフリカ系チーム初のツール出場を狙う MTN・クベカ 2015年シーズン展望

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 前回からスタートした「2015年シーズン展望」。UCIワールドチーム、プロコンチネンタルチームを問わず、2015年のサイクルロードレースにおけるトップシーンで間違いなく目にするであろうチーム・選手たちをできるだけ多く紹介し、その戦力や方向性に触れていきます。今回はエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チーム スカイ)、テオ・ボス(オランダ、ベルキン プロサイクリング)らを中心とする大型補強で新しい歴史の扉を開こうとしているアフリカの雄、MTN・クベカです。

チームビルディングキャンプのため集まったMTN・キュベカの選手たち。強力な新加入選手たちの姿も ©MTN-QHUBEKAチームビルディングキャンプのため集まったMTN・キュベカの選手たち。強力な新加入選手たちの姿も ©MTN-QHUBEKA

大きく飛躍した2シーズン いよいよツール出場を“公約”した2015年へ

 メーンスポンサーのMTN社は、南アフリカ・ヨハネスブルグに本拠を構える通信事業会社。携帯電話を中心とし、グループ企業を含めアフリカ・中東全22カ国で展開する。セカンドスポンサーのクベカは、南アフリカ南東部に起源をもつングニ族の言葉で「続ける」「進歩」「前進」を意味する。歩く以外の移動手段を持たないこどもたちに自転車を贈り、通学の効率化や学業成績の向上、環境保護といった側面でのアプローチを行う団体だ。その取り組みは南アフリカにとどまらず、世界規模で展開されている。

 チームは両者の活動をアピールするだけでなく、さらにアフリカにおける自転車競技の普及やレベルアップを目指している。2008年のチーム創設からしばらくはサードカテゴリーにあたるコンチネンタル登録だったが、2013年シーズンからプロコンチネンタルチームに昇格。戦いの場をアフリカ大陸からヨーロッパへと移した。

2013年のミラノ~サンレモでゲラルト・ツィオレクが大きな勝利を挙げた<砂田弓弦撮影>2013年のミラノ~サンレモでゲラルト・ツィオレクが大きな勝利を挙げた<砂田弓弦撮影>

 アフリカ初のプロコンチネンタルチームとして大きな注目を集めたが、それが決して話題性だけではないことをシーズン早々に証明した。この年に加入したゲラルト・ツィオレク(ドイツ)がシーズン序盤から勝利を挙げると、3月のミラノ~サンレモでは冷雨の中で劇的なスプリント勝利。トップレベルで実績を積んだ選手たちが加入した中でも、いち早くチームの可能性と方向性に賛同したエーススプリンターの走りは、チーム関係者に勇気と希望を与える最高の結果を生んだ。

 以降、UCIワールドツアーを筆頭に多くの有名レースに参戦。将来的なグランツール出場を見据え、ツール・ド・フランスを主催するA.S.O.社やジロ・デ・イタリアを主催するRCSスポルト社との結びつきを強化していった。

 続く2014年は、ブエルタ・ア・エスパーニャで初のグランツール出場を果たす。ビッグレースでの勝利こそなかったものの、ツィオレクがミラノ~サンレモ9位、ヘント~ウェヴェルヘム17位、セルヒオ・パルディリャ(スペイン)がブエルタ総合17位とまずまずの結果を残した。ブエルタでは出場した9選手全員が完走を果たした。

 チームは11月20日に、2015年のプロコンチネンタルライセンスが無事更新されたことを発表。プロコンチネンタル昇格時に目標とした「3年目でのツール・ド・フランス出場」の“公約”の年、真価が問われるシーズンを迎える。悲願のツール出場に向けては、ストーブリーグにおいて大型補強を敢行。チームのコンセプトに賛同したビッグネームを次々に集めていった。

クラシックはボアッソンハーゲン、スプリントはボスらが中心

 2015年シーズンの所属選手として、現時点で確定しているのは22人。うち13人がアフリカ人選手だ。内訳は南アフリカ8人、エリトリア3人、ルワンダ、アルジェリアが各1人。有力なアフリカ人選手たちが次々に加わり、ヨーロッパやオーストラリアのライダーとのバランスが上手くとられている。選手たちは南アフリカ最大の都市ケープタウン近郊のステレンボッシュに集合し、同地のスパイヤー・ワインファームをベースに11月23日からチームビルディングキャンプに取り組んでいる。

クラシックのエースを務めるエドヴァルド・ボアッソンハーゲン。MTN・クベカ大型補強の最大の目玉だ<砂田弓弦撮影>クラシックのエースを務めるエドヴァルド・ボアッソンハーゲン。MTN・クベカ大型補強の最大の目玉だ<砂田弓弦撮影>

 新加入の8選手の中で、大きな期待を集めるのがエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)だ。今季は去就が注目され、いくつかのチームと交渉の席に就いたが、最終的にMTN・クベカ入りを決断。移籍発表記者会見まで行われ、多くのファンが彼の進路を歓迎した。チーム スカイ時代より年俸は下がるとみられているが、チームとしては破格のエース待遇を提示。本人もその熱意に応えるべく、活躍を誓う。まずはミラノ~サンレモや北のクラシックでの優勝を目指す。ここ数年は故障や落車負傷に見舞われる不運が多かったが、自らに合ったプログラムの下でレースをこなしていくことができそうだ。

2014年のツール・ド・ランカウイではステージ4勝と大爆発したテオ・ボス(左)。補強の軸となったスプリンターだ<田中苑子撮影>2014年のツール・ド・ランカウイではステージ4勝と大爆発したテオ・ボス(左)。補強の軸となったスプリンターだ<田中苑子撮影>

 今回のチーム強化にあたり、ポイントとしたのはスプリント。その筆頭として早い段階で加入発表されたのがテオ・ボス(オランダ)だ。ボスの獲得には、ゼネラルマネージャーのダグラス・ライダー氏が自ら動いた。エーススプリンターの役割を確約してまで自分のチームに引き入れたかったのだという。

 チームは2015年からサーヴェロ社がバイクサプライヤーとなるが、ボスにとっては2010年にサーヴェロテストチームで走った経験から、慣れ親しんだバイクに乗れることもポイントだったようだ。

 また、リードアウト役としてタイラー・ファラー(アメリカ)とマシュー・ゴス(オーストラリア)が脇を固めることも、心強いに違いない。今シーズンまでガーミン・シャープで走ったファラーは、2011年ツール第3ステージ勝利をはじめ、全グランツールで勝利を経験。一時はマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファルマ・クイックステップ)とともに、スプリンターの双璧とまで言われた。近年は不調にあえぎ、チーム内でも不遇を味わったが、この移籍で新たな戦いに臨む。

 ゴスは2011年のミラノ~サンレモで優勝。同年の世界選手権では2位。ジロ通算2勝など、こちらもトップスプリンターとしての地位を築いた。2012年のグリーンエッジサイクリング(現オリカ・グリーンエッジ)創設時は、目玉の1人とされたものの、徐々に勝利から見放されてしまった。今年はグランツール出場はおろか、1勝も挙げられない悔しさを味わった。

2013年のティレーノ~アドリアティコでステージ優勝を挙げたマシュー・ゴス。アシストとなれば心強い<砂田弓弦撮影>2013年のティレーノ~アドリアティコでステージ優勝を挙げたマシュー・ゴス。アシストとなれば心強い<砂田弓弦撮影>
テオ・ボスのリードアウト役となるタイラー・ファラー。出場するレース次第ではエースも務めそうだ<砂田弓弦撮影>テオ・ボスのリードアウト役となるタイラー・ファラー。出場するレース次第ではエースも務めそうだ<砂田弓弦撮影>

 ファラー、ゴスともにコースレイアウトやレース展開次第では、エーススプリンター役を担うことも考えられる。この2人を上手く棲み分けさせられるかどうかも見ものだ。

 ボアッソンハーゲンを含め、スプリント力が高い選手がそろい、ビッグレースでは前半からメーン集団をコントロールする場面も増えそうだ。長距離牽引を得意とし、自在にペースを操ることのできるスティーヴン・カミングス(イギリス)がその役を引き受ける。

 2012年にMTN・クベカから鳴り物入りでプロデビューし、シーズン14勝(UCI非公式レースを含めると20勝)を挙げたレイナールト・イェンスファンレンスブルフ(南アフリカ)も、古巣に復帰する。チーム ジャイアント・シマノでは、マルセル・キッテルやジョン・デゲンコルプ(ともにドイツ)らの発射台を務めていたが、彼自身のスプリント力の高さも魅力。またクラシックや短距離TTでも実力を発揮するはずだ。

 2013年のツアー・オブ・ターキーで驚異的な登坂力を見せ、総合優勝(薬物違反者が出たことによる繰り上げ)を果たしたナトナエル・テウェルドメドヒン・ベルハネ(エリトリア)は、ステージレースで総合上位を狙う。山岳アシストとして数チームを渡り歩くセルジュ・パウエルス(ベルギー)は、ボスと同様、2009年に所属したサーヴェロテストチーム以来となるサーヴェロ社製バイクで戦う。

クライマーも充実 有望な若手アフリカンに注目

 新加入組に注目が集まりがちだが、残留を果たしたメンバーも実力者ぞろい。グランツールやステージレースの総合争いで計算ができたパルディリャの離脱は痛いが、次世代のアフリカンクライマーたちが控える。

若くして頭角を現したルイ・メインキーズ。2014年のブエルタでは、グランツールで活躍できる実力を証明した<砂田弓弦撮影>若くして頭角を現したルイ・メインキーズ。2014年のブエルタでは、グランツールで活躍できる実力を証明した<砂田弓弦撮影>

 2月に23歳になるルイ・メインキーズ(南アフリカ)は、ジュニア時代からアフリカやヨーロッパのさまざまなレースを制したホープ。2013年の世界選手権アンダー23ロードでは2位。トップを単独追走し、あわや逆転かと思わせる走りで強烈なインパクトを残した。今年のブエルタでは序盤のステージで苦しんだが、大会中盤に復調し、激坂頂上ゴールだった第14ステージでは5位。その他のステージでも総合上位陣と堂々と渡り合い、アタックを試みるなど、才能の片鱗を見せた。

 同じくブエルタでグランツールデビューを果たしたメルハウィ・クドゥスゲブレメドヒン(エリトリア)は、弱冠20歳。ヨーロッパのトップチームも獲得を望んだ、将来を嘱望される1人だ。同国の先輩でもあるダニエル・テクレハイマノットギルマジオンとともに、エリトリアのレベルを大きく引き上げている存在だ。

 ブエルタのスプリントステージで2度トップ10入りし、ツィオレクと並ぶレベルにまで成長したクリスティアン・スバラーリ(イタリア)は、強力な新加入組に何とか割って入りたい。このチームで6年目を迎えるエイドリアン・ニヨンシュチは、ルワンダ自転車界の希望と言われている。同国の英雄は、2015年もヨーロッパを舞台に活躍を誓う。

MTN・クベカ 2014-2015 選手動向

【残留】
ゲラルト・ツィオレク(ドイツ)
ニコラ・ドゥーガル(南アフリカ)
ジャック・イェンスファンレンスブルフ(南アフリカ)
ソンゲゾ・ジム(南アフリカ)
メルハウィ・クドゥスゲブレメドヒン(エリトリア)
ルイ・メインキーズ(南アフリカ)
エイドリアン・ニヨンシュチ(ルワンダ)
ユーセフ・レグイグイ(アルジェリア)
クリスティアン・スバラーリ(イタリア)
アンドレアス・スタウフ(ドイツ)
ダニエル・テクレハイマノットギルマジオン(エリトリア)
ジェイロバート・トムソン(南アフリカ)
ヨハン・ファンジル(南アフリカ)
ヤコブス・フェンター(南アフリカ)
【加入】
ナトナエル・テウェルドメドヒン・ベルハネ(エリトリア) ←チーム ヨーロッパカー
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー) ←チーム スカイ
テオ・ボス(オランダ) ←ベルキン プロサイクリングチーム
スティーヴン・カミングス(イギリス) ←BMCレーシングチーム
タイラー・ファラー(アメリカ) ←ガーミン・シャープ
マシュー・ゴス(オーストラリア) ←オリカ・グリーンエッジ
レイナールト・イェンスファンレンスブルフ(南アフリカ) ←チーム ジャイアント・シマノ
セルジュ・パウエルス(ベルギー) ←オメガファルマ・クイックステップ
【退団】
フレカルシ・デベサイアブルハ(エリトリア) →エリート2(無所属)
ツガブ・ゲブレマリアムグルマイ(エチオピア) →ランプレ・メリダ
リヌス・ゲルデマン(ドイツ) →クルトエナジー プロサイクリング
イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア) →マルセイユ13・KTM
セルヒオ・パルディリャ(スペイン) →カハルラル・セグロスRGA
ブラッドリー・ポトヒーター(南アフリカ) →エリート2(無所属)
マルティン・ライマー(ドイツ) →LKT チームブランデンブルグ
デニス・ファンニーケルク(南アフリカ) →未定
マルティン・ヴェスマン(南アフリカ) →未定

今週の爆走ライダー-テオ・ボス(オランダ、ベルキン プロサイクリング)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 トラック短距離種目で、ジュニア時代から圧倒的な強さを発揮した。エリートカテゴリー入り後もスプリント種目で3度、1kmTT・ケイリンでそれぞれ1度ずつマイヨ・アルカンシエルを獲得。2004年アテネ五輪ではスプリントで銀メダルと、数々の栄冠に輝いてきた。当時はたびたび来日して国際競輪に参戦。その実力と甘いマスクは、テレビや雑誌で特集が組まれるほどだった。

 転機は2008年。それまで群を抜いていたスピードに陰りが見られた。前年のレースで落車負傷したことが尾を引いてしまったのだ。無冠に終わった彼が選んだ道は、ロードでの再起だった。

ロードに転向してから、少しずつ適応して結果を残してきたテオ・ボス。新チームではエースとしての活躍が期待される<田中苑子撮影>ロードに転向してから、少しずつ適応して結果を残してきたテオ・ボス。新チームではエースとしての活躍が期待される<田中苑子撮影>

 2009年のロードデビュー以降は、レース距離やゴールスプリントでのポジショニング、山岳コースなど、不慣れな要素に苦しみながらも1つ1つ課題をクリアしてきた。不運もあり、グランツール出場は2度に留まっているが、次第に大きなレースで勝利を挙げられるようにもなった。トラックで培った脚は、一度トップスピードに乗せればロード界随一。MTN・クベカ入りする2015年からは、エーススプリンターとして力を見せることができるはずだ。

 オランダではボスに対し、2016年リオ五輪に向けてトラック復帰が打診されているという。チームパシュートかオムニアムでの出場が検討されており、MTN・クベカ側も理解を示している。あとは本人の判断次第だ。

 まずはツールでのステージ優勝が目標となるが、その先にはトラックでの五輪出場という可能性も見えてきた。ロードとトラックの両立はあるのか。彼にとって新たな競技キャリアが、幕を開けようとしている。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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