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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<85>コンタドール、サガンの共闘でグランツールの頂点へ ティンコフ・サクソ 2015年シーズン展望

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 サイクルロードレースシーンはオフシーズンに入りましたが、選手たちは休養もそこそこに、少しずつトレーニングを再開する段階を迎えています。トップチームはいよいよ来シーズンの陣容を固め、来たるチームビルディングキャンプへの準備を本格化。そこで今回からしばらくは、新シーズンの展望をお届けします。メンバーが確定したチームから順次、2015年の戦いを展望していきます。まずは“ビッグチーム”へと変貌を遂げた、ティンコフ・サクソです。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014を制したアルベルト・コンタドール。来シーズンはジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの“ダブルツール”を狙うブエルタ・ア・エスパーニャ2014を制したアルベルト・コンタドール。来シーズンはジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの“ダブルツール”を狙う

コンタドールはジロとツールへ マイカの目標は?

2014年のブエルタ・ア・エスパーニャ表彰式で、総合優勝のアルベルト・コンタドールと喜び合うオレグ・ティンコフ氏2014年のブエルタ・ア・エスパーニャ表彰式で、総合優勝のアルベルト・コンタドールと喜び合うオレグ・ティンコフ氏

 2012年途中にロシアの投資会社「ティンコフ クレジットシステムバンク」がスポンサーに就いて以降、チームの資金繰りは一変。2014年シーズンを前に資産家オレグ・ティンコフ氏がチームを買収し、正式にオーナーとなったことで豊富な資金力を誇るチームとなった。

 ティンコフ氏は2016年までには「世界ナンバーワンのチームにしたい」との野望を宣言。「使えるお金には限りがある」とは述べているものの、選手保有・獲得のためなら一銭も惜しまないスタンスを見せる。その姿勢は、ときに関係者の誤解を招くこともあるが、一方で選手たちにとっては「競技に集中しやすい環境を作ってくれている」との声も聞かれる。“自転車愛”に満ちたティンコフ氏は、近年のロードレース界の勢力図を変えるほどの力を有していると言える。

 その恩恵を最も受けている選手は、やはりエースのアルベルト・コンタドール(スペイン)だろう。総合4位に終わった2013年ツール・ド・フランスでは、ティンコフ氏との確執が取りざたされたが、関係修復を果たした2014年は完全復活を遂げた。落車負傷でリタイアしたツールを除けば、出場したステージレースは総合優勝か同2位と、驚異的なアベレージ。特に右ひざのけがを押して出場したブエルタ・ア・エスパーニャでは、大会序盤から攻めに攻め、結果的に総合首位のマイヨロホを11日間守り抜いての優勝だった。

 コンタドールの2015年は、ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの“ダブルツール”がターゲット。ツールでは、6年ぶりの総合制覇を目指す。ジロとツールの連勝を狙った2011年(薬物違反により記録抹消)は、ジロで圧倒的な走りを見せたものの、ツールで失速。今回のチャレンジについても、「ジロがハードだが、好きなレースだし挑戦する価値はある」とコメント。ツールの戦い方については、ジロ後に考えるとしている。

 かつては山岳・TTともに高レベルにあったが、近年はTTの走りに陰りがみられる。一方で、まもなく32歳を迎えようとしている今でも登坂力や勝負勘はプロトン内で群を抜く。オールラウンダーよりはクライマーとしての趣が強くなった印象だが、その意味では、TTの距離が個人・チーム合わせ42kmと短いツールで本領発揮となる可能性が高い。第4ステージのパヴェ(石畳)区間が不安視されるが、大会終盤のアルプス4連戦に調子のピークを持っていくことができれば、ツール制覇が見えてくる。

2014年に飛躍を見せたラファウ・マイカ。来シーズンは2014年に飛躍を見せたラファウ・マイカ。来シーズンは

 コンタドールの“ダブルツール”挑戦により、動向が注目されるのがもう1人のグランツールレーサー、ラファウ・マイカ(ポーランド)。ジロ総合6位、大会直前に緊急招集されたツールでは、アシストから山岳賞狙いにシフトし、ステージ2勝とマイヨアポアを獲得する大活躍。直後の凱旋レースとなったツール・ド・ポローニュでも劇的な総合優勝を果たすなど、その存在が確立された1年となった。

 当初は「ジロ制覇が目標」と口にしていたが、状況が変わってきている。とはいえ、ティンコフ氏もスポーツディレクターのビャルネ・リース氏も、マイカにはグランツール制覇を狙わせるとしており、ブエルタ・ア・エスパーニャでエースを務めることが有力視される。山岳での強さはもとより、TTの走りが向上している点も見逃せない。ジロまたはツール参戦があるかも含め、来シーズンのレースプログラムに期待が膨らむ。

 その他グランツール路線では、ロマン・クロイツィゲル(チェコ)が戦力となるのかもポイントだ。クロイツィゲルはアスタナ プロチーム時代の2012年に記録されたバイオロジカルパスポートに異常値が見られていることから、UCI(国際自転車競技連合)が2年間の出場停止を求めている。チェコ自転車競技連盟はクロイツィゲルを無罪としたことから、現状ではレース出場は可能だが、UCIがCAS(スポーツ仲裁裁判所)へ上訴することは確実。問題なくクラシックやグランツールでエースを務められるか、はたまたシーズン途中の出場停止となってしまうのかは、CASの裁定次第となる。

コンタドールの脇を固めるサガン、バッソ 充実の新加入選手

 ティンコフ・サクソは、今年のストーブリーグ(移籍市場)において最も成功を収めたチームといえよう。キャノンデールからペテル・サガン(スロバキア)、イヴァン・バッソ(イタリア)ら、トレック ファクトリーレーシングからはロベルト・キセルロウスキー(クロアチア)と、実力と実績を兼ね備えた選手たちが加わる。

 チームにとって、クラシック路線の強化が急務となっていたようだが、それに見合う選手としてティンコフ氏が熱望したのがサガンだった。今シーズンでキャノンデールとの契約が終了することを見越し、昨年秋からサガンへのアプローチを開始。移籍に関しさまざまな噂が挙がっていたが、実際のところはチーム、ひいてはティンコフ氏とサガンとは相思相愛の関係にあったという。まずは、春のクラシックが目標。ミラノ~サンレモの初制覇を狙うほか、E3ハーレルベーケ、ヘント~ウェヴェルヘム、ツール・デ・フランドル、パリ~ルーベと、北のクラシック4連勝の可能性も十分だ。

クラシックでエースを務めるぺテル・サガン。グランツールでコンタドールをアシストする場面も見られそうだクラシックでエースを務めるぺテル・サガン。グランツールでコンタドールをアシストする場面も見られそうだ

 また、サガンにとってはツールのポイント賞、マイヨヴェール4連覇もかかる。総合優勝を狙うコンタドールとの関係性が気になるが、リクイガス時代にヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、現アスタナ プロチーム)と共闘した経験を強調。自らのポイント賞を狙いつつ、要所ではコンタドールをアシストする構えだ。チームTTでの走りも計算できるだけに、ツール第9ステージ(28km)ではキーマンとなるはずだ。

山岳アシストとしての役割を期待されるイヴァン・バッソ山岳アシストとしての役割を期待されるイヴァン・バッソ

 バッソは9年ぶりにリース氏の下に復帰。近年はグランツールで不振が続いていることもあり、進退をかけての移籍と見ることができる。コンタドール、マイカらの存在から、自身がアシストに回ることは織り込み済み。山岳アシストとしてこれまでの経験を活かすことがミッションであり、まずはジロでコンタドールを支えることになる。

 キセルロウスキーは2010年、2014年と2度のジロ総合10位の実績を誇る。ステージレースでは安定してトップ10に入る総合力があり、アルデンヌクラシックでも上位を狙える存在。総合エースとしても、アシストとしても、チームの底上げの一端を担うことができる選手だ。

アシスト組や将来有望株にも注目

 今年のツールでは、コンタドールの途中リタイア後に見せたアシストたちの奮起が大きな感動を生んだ。前述のマイカの快進撃を筆頭に、マイケル・ロジャース(オーストラリア)の逃げ切り勝利など、チームとして戦力が高いことを証明した。

 続くブエルタでは、山岳アシストが手薄だと言われながらも多くの局面でレースをコントロール。ペースの上げ下げや、絶妙なポジショニングはプロトン内随一との評価もあったほどだ。

 グランツールに向けては、ロジャースのほか、コンタドールの右腕として名高いヘスス・エルナンデス(スペイン)、セルジオ・パウリーニョ(ポルトガル)、クリスアンカー・ソレンセン(デンマーク)、オリヴァー・ツァウグ(スイス)といったベテランが山岳アシストとして控える。ここ2年間チームを支えたニコラ・ロッシュ(アイルランド)の移籍は痛手だが、イヴァン・ロヴニー(ロシア)らの台頭もあり、戦力ダウンの心配はない。

ティンコフ・サクソのトレインティンコフ・サクソのトレイン

 平地系ライダーでは、40歳を迎えたマッテーオ・トザット(イタリア)が健在。ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)とともに、トレインの統率役を担う。スプリントステージのほか、春のクラシックでも抜群のテクニックを見せるか。新加入のマチェイ・ボドナル(ポーランド)も含め、サガンにとっては心強い存在だ。世界選手権で見せ場を作ったマッティ・ブレシェル、スプリント力も高いミケル・モルコフ(ともにデンマーク)も信頼度の高い選手。

 ツアー・オブ・デンマークを制し、ブエルタでも活躍したミケル・ヴァルグレンアンデルセン(デンマーク)、ジロ第17ステージ3位のジェイ・マッカーシー(オーストラリア)、3月にチーム加入のエドワード・ベルトラン(コロンビア)は、いずれもリース氏が惚れ込んだ若手有望株。将来性十分の選手たちも押さえておきたい。

ティンコフ・サクソ 2014-2015 選手動向

【残留】
エドワード・ベルトラン(コロンビア)
ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)
マヌエーレ・ボアーロ(イタリア)
マッティ・ブレシェル(デンマーク)
アルベルト・コンタドール(スペイン)
イェスパー・ハンセン(デンマーク)
ヘスス・エルナンデス(スペイン)
クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)
ミハエル・コーラ(スロバキア)
ロマン・クロイツィゲル(チェコ)
ラファウ・マイカ(ポーランド)
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア)
ミケル・モルコフ(デンマーク)
セルジオ・パウリーニョ(ポルトガル)
エフゲーニ・ペトロフ(ロシア)
ブルーノ・ピレス(ポルトガル)
パヴェウ・ポリャンスキー(ポーランド)
マイケル・ロジャース(オーストラリア)
イヴァン・ロヴニー(ロシア)
クリスアンカー・ソレンセン(デンマーク)
マッテーオ・トザット(イタリア)
ニコライ・トルソフ(ロシア)
ミケル・ヴァルグレンアンデルセン(デンマーク)
オリヴァー・ツァウグ(スイス)
【加入】
イヴァン・バッソ(イタリア) ←キャノンデール
マチェイ・ボドナル(ポーランド) ←キャノンデール
パヴェル・ブルット(ロシア) ←チーム カチューシャ
ロベルト・キセルロウスキー(クロアチア) ←トレック ファクトリーレーシング
ユライ・サガン(スロバキア) ←キャノンデール
ペテル・サガン(スロバキア) ←キャノンデール
【退団】
カールステン・クローン(オランダ) →引退
マルコ・クンプ(スロベニア) →アドリアモービル
ニコラ・ロッシュ(アイルランド) →チーム スカイ
ニキ・ソレンセン(デンマーク) →引退
ローリー・サザーランド(オーストラリア) →モビスター チーム

今週の爆走ライダー-ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、ティンコフ・サクソ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 均整のとれた体格に甘いマスク、“イケメン”として日本で多くのファンを獲得するイタリアン。ツール2勝、ジロ3勝、ブエルタ6勝とグランツールすべてで勝利を経験し、2007年にはブエルタで、2008年にはジロでポイント賞を獲得。そのスプリント力は、長きにわたって隆盛を極めたマリオ・チポッリーニでさえ世代交代を実感せざるを得ないほどだったという。

 近年は自身のスピードに衰えがあることを直視。2013年の現チーム加入時には、役割の変更を快く受け入れた。

 キャリアの転機を迎えルーラー寄りとなった脚質は、長距離の集団コントロールを可能にし、ここぞという場面でのポジショニングやスピードアップのきっかけを作る。真骨頂を発揮したのは、2013年のツール第13ステージ。ロジャースやトザットとともに横風区間で急加速。エースのコンタドールを引き連れての約30kmの逃走劇は、ライバルたちを苦しめたばかりか、その後の波乱さえ予感させる名場面となった。

ティンコフ・サクソの牽引役として高く評価されるダニエーレ・ベンナーティ(左)ティンコフ・サクソの牽引役として高く評価されるダニエーレ・ベンナーティ(左)

 今年のブエルタでも集団内での巧さが光り、コンタドールの総合優勝に貢献。自身の再評価にもつなげた。特に昨今のレースにおいては、危険回避が重要視されるが、状況を読み取る勘に長けたベンナーティの存在こそが、チームを支えていると言えるだろう。

 かつてのように、スプリント勝負に絡むことは減った。それでも、自らの立ち位置を理解し、役割を全うする姿は若い選手の手本となる。2016年までの契約を提示したチームが絶大な信頼を寄せるには、それなりの理由がある。来シーズン、彼の見せる巧みさから、その魅力を感じてとってみてほしい。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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