日向涼子のサイクリングTalk<10>「ただいま!」と感じられる大会へ 被災地の復興を共に考えた「ツール・ド・三陸」
「ただいま! 今年もよろしくね」

岩手県の三陸海岸で11月2日に開催された「第3回 ツール・ド・三陸 サイクリングチャレンジ2014 in りくぜんたかた・おおふなと」。そのゼッケンには、参加者が思い思いのメッセージを書き込むことになっています。私は今年、三陸の地を訪れた時に感じた「ただいま」という気持ちを書いて走りました。
私は新潟生まれ・新潟育ちで、東北出身者ではありません。でも、このイベントには手作り感といいますか、他のイベントにはない独特のあたたかい雰囲気があって、回を重ねるごとに地元の方とのふれあいが深くなっていきます。私が第1回大会からホストライダーを務めていることもあって、自然に「ただいま」という言葉が浮かんだのだと思います。
参加者も、地元の声援も増えた第3回大会
ツール・ド・三陸は、東日本大震災によって甚大な被害を被った東北地方・三陸エリアの復興と町づくりを、環境にやさしく健康的な自転車イベントの開催を通じて応援しながら、地域振興と広域観光の推進を継続的にサポートしていくことを目的とし、今年で3回目の開催を迎えました。

1年目は参加者400人の小規模なイベントとしてスタートし、その時は「年を追うごとに風化してしまうのではないか」と懸念していました。しかし2年目には倍以上の900人に。3年目の今年は、第1回を開催した時に「いつかは…」と目標にしていた1000人を超え、なんと1100人のエントリーがありました。
今年の大会には昨年に引き続き、ツール・ド・フランスで3度の個人総合優勝を果たしたグレッグ・レモンさんが特別名誉ライダーとして出場し、さらにハンドバイクの元世界チャンピオンであるグレッグ・ホッケンスミスさんも参加してくださいました。
また、今年は陸前高田市の一大イベントである『産業まつり』と共催になったことから、自転車イベントとは関わりが薄い地元の人達もトークショーを聞きに来てくださいました。



実際に大会のコースを走っても、明らかに地元の声援が増えているのを感じました。
ここまで読むと、地元から受け入れられ、大きく成長しているイベントだと感じるかもしれません。いえ、気のせいではなく、確実に成長しているのだと思います。
ただ、予想以上の急成長に、私たちスタッフ側がついていけなかった点もありました。
ホストライダーの理想は“身近に話せる存在”
例えば、会場となった中学校の仮設グラウンドは水はけが悪く、前日の雨でぬかるんだ状態のまま大会当日を迎えました。そのため急きょ、スタート地点が変更されたのですが、養生やアナウンスが足りなかったため、スタート時に多少の混乱があり、参加者の皆様にはご不便をおかけしてしまいました。
1年目から参加している方は、「随分、イベントとして成長したね!」と言ってくださいますが、今年が初めての参加であったり、様々なイベントに出られている方には、気になる点も多かったことでしょう。それでも、どなたも優しく、「手作り感があっていいよね」と前置きしながら、改善すべきポイントを教えてくださいました。その中には、言葉は柔らかくても、耳が痛い意見もありましたが、それらもありがたいと思っています。



私はツール・ド・三陸のホストライダーとして、「こうありたいな」という理想像を持っています。
それは、参加者と地元の方々をつなぐ身近な存在でありたいということ。どんどん話しかけたいし、話しかけられたい。その中で、感じたことを話してくれたら、すごく嬉しく思います。


復興のあり方を考えさせられるイベント
参加者からは「がれきの山だった数年前の景色も悲しかったけれど、今回は工業地のように感じました。それについて、日向さんはどのように感じますか?」と、復興について意見を求められたこともありました。

その言葉は、以前、『希望のかけはし』と書いた、「奇跡の一本松」の前に建設された巨大なベルトコンベアのことだろうと、すぐにピンときましたが、同時に、「答えにくいな」とも感じました。復興については、近しい人と意見を交わすことはあっても、初対面の人から聞かれたことはなかったからです。
いきなりの質問にドギマギしながらも、おおよそ次のようにお答えしました。
「未来を担う若者たちにとって、土台なくして何かを生み出すことは難しいと思います。課題を先送りすることは出来ませんし、新しいものを築き上げるために、私たち大人が若者のためにすべき必要なことのひとつだと私は考えます」
一息ついて相手の様子を伺うと、肯定するでも否定するでもなく、「ふむ…」という反応でした。
私の意見には賛否両論あるかもしれません。でも、さまざまな意見を喚起することは、このイベントの目的のひとつでもあります。被災地を走るツール・ド・三陸は、否が応でも復興について考えさせられるイベントなのです。
「年に1回、この地を訪れるきっかけがある」
昨年の大会から参加しているタレントの山田玲奈さんは、「1年経つのはあっという間。でも、ツール・ド・三陸のおかげで、少なくとも年に1回はこの地を訪れるきっかけがある。風化させないという意味でも、復興の様子が分かるこのイベントはずっと続いて欲しい」と語りました。また、参加者からも同様の意見が聞かれました。
地元の方からは、「1年目は訳のわからないイベントだなぁ…と怪訝に思っていたけれど、今年はいつやるんだ?って、開催のお知らせを楽しみにしていたよ」と、率直ながらもあたたかい言葉をかけていただきましたし、大会実行委員長の吉田正紀さんは、「過疎化している中で、サイクルジャージはカラフルな色をしているだろう? いろんな色が街を走るだけで、みんな明るい気持ちになれるんだよ」と、大会への想いを明かしてくださいました。


もちろん、これら肯定的な意見がすべてではないと思います。コースを走っていると、いまだ仮設住宅で暮らす人達の姿があり、私たちが想像する以上に過酷な現実があるのだと感じます。
それでも、大会を開催し続けていくことで、少しでも心寄り添えたら…。ツール・ド・三陸が、震災を忘れない・風化させないために地元と参加者がふれあう場となり、また、未来のために何が出来るかを共に考える場になってほしい―。



私が三陸の地に「ただいま」と感じたように、参加者の方々にも親しみを感じてもらえたらいいなと思いますし、また、地元の人達からは「おかえり」と迎えてもらえるようなイベントにしていけたらと考えています。 (日向涼子)

企業広告を中心に活動するモデル。食への関心が高く、アスリートフードマイスター・食生活アドバイザー・フードアナリストの資格を持つ。2010年よりロードバイクに親しみ、ヒルクライム大会やロードレース、サイクリングイベントへ多数出場。自転車雑誌「ファンライド」で『銀輪レディの素』を連載中。ブログ『自転車でシャンパンファイトへの道』( http://ameblo.jp/champagne-hinata/ )