title banner

つれづれイタリア~ノ<39>変わりゆくイタリアのスポーツ界 自転車競技の補助金拡大、サッカーは大幅カット

  • 一覧
イタリアでは、サッカーへの補助金がカットされるという戦後初の出来事が大きな話題に<吉澤良太撮影=2013年6月、ブラジル>イタリアでは、サッカーへの補助金がカットされるという戦後初の出来事が大きな話題に<吉澤良太撮影=2013年6月、ブラジル>

 ジャパンカップ、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム、サイクルモード、ツール・ド・沖縄、国体などなどレースやサイクリングイベントが続き、日本の秋はまさに自転車の季節です。さて、今回は久しぶりにイタリアの話に戻ります。実は前代未聞のことが起こりました。先月、10月28日にイタリアオリンピック委員会が2015年予算を決め、なんと!戦後初めてサッカーに対する予算が大幅にカットされました。連日、大騒ぎになっていますが、何があったのでしょう。

スポーツ界全体を支えるイタリアオリンピック委員会

イタリアオリンピック委員会(CONI)のロゴイタリアオリンピック委員会(CONI)のロゴ

 イタリアオリンピック委員会(以下CONI=Comitato Olimpico Nazionale Italiano)はイタリアのスポーツ界に大きな影響力を持つ組織です。1914年に誕生し、今年で100年の歴史を迎えました。その活動範囲は広く、五輪に出場する選手への経済的なサポートだけでなく、イタリアのスポーツ全体をサポートする役割を担っています。

 CONIはイタリア文化財・文化活動省(Ministero per i Beni e le Attività Culturali)のもとで活動しています。会長はジョヴァンニ・マラゴ氏(フットサル及びカヌー選手)。毎年10月にCONIが、認定された各競技連盟や強化選手たちに与えられた予算を割り当てる作業に入ります。61の競技、約9万5000チーム(会員1100万人)がその恩恵を受けていて、予算はオリンピックで活躍するためだけでなく、各競技の全体的な強化のために使われます。

サッカーの一人勝ち時代は終わった

アテネオリンピックで金メダルを獲得したパオロ・ベッティーニ(イタリア)は、翌2005年のレースに金色のバイク、ヘルメットシューズで出場した<砂田弓弦撮影>アテネオリンピックで金メダルを獲得したパオロ・ベッティーニ(イタリア)は、翌2005年のレースに金色のバイク、ヘルメットシューズで出場した<砂田弓弦撮影>

 連載第32回「スポンサーになるならサッカーよりも自転車レース!」でも触れましたが、スポンサーに限らずイタリア人の意識はずいぶん変化しています。「サッカーだけが保護されすぎて、不平等だ」と訴える声は年々高まってきていました。

 実は、2014年度まではスポーツ予算の中からサッカーに割り当てる補助金は予算の18%に決まっていました。2014年度予算は4億1000万ユーロ(約582億円)だったので、サッカーに割り当てた金額は6850万ユーロ(約96億円)になりました。

 しかし、経済危機の影響による予算カットと急激なスポンサー離れの影響で、他のスポーツの代表者が声を荒げ、CONIも対策に乗り出さざるを得ませんでした。平等な割当基準を設けるため、2013年に改革委員会が立ち上げられ、新しい評価基準が決められました。これによって、下記の基準を満たした競技は優先的にサポートされます。

・オリンピックで成果を出した競技
・成長が期待されている競技
・社会的に浸透している競技

 結果は驚くようなものでした。2015年度は卓球、水泳、ゴルフ、バレーボール、自転車競技、人気がほとんどない野球でさえ予算アップとなりました。ほとんどの競技がプラスに転じたにも関わらず、オリンピックで結果を残していないサッカーは今回の新基準では“一人負け”状態で39%の大幅な予算カットとなりました。カット幅は2500万ユーロ(35億円)。

2015年度イタリアオリンピック委員会予算割当

予算アップ率順位 競技 2015年度予算(予算総額順位)
1. 28.56%  卓球  1,551,437ユーロ
2. 27.40%  ゴルフ  1,332,626ユーロ
3. 27.30%  ハンドボール  1,464,329ユーロ
4. 26.14%  バドミントン  1,465,435ユーロ
5. 25.29%  トライアスロン  1,228,571ユーロ
6. 25.14%  テニス  3,456,418ユーロ
7. 23.60%  バレーボール  3,825,970ユーロ
8. 22.47%  ラグビー  2,696,933ユーロ
9. 22.33%  柔道、空手  4,392,825ユーロ(5位)
10. 22.08%  水泳  5,762,693ユーロ(3位)
11. 21.95%  バスケットボール  3,688,296ユーロ
12. 21.90%  ボクシング  3,216,611ユーロ
13. 19.35%  体操  6,116,730ユーロ(2位)
14. 15.44%  自転車競技  4,587,062ユーロ(4位)
15. 12.84%  スカッシュ  569,796ユーロ
16. 10.31%  パラリンピック競技  1,070,000ユーロ
(中略)
52. 2.86%  野球  2,004,549ユーロ
61.-39.99%  サッカー  37,533,754ユーロ(1位)

 補助金大幅カットの知らせを受け、サッカー連盟会長は非難の声をあげ、CONIを脱退する可能性もあると言及。しかし、サッカーは依然として国民的なスポーツですし、サッカーくじ、放映権、国から支給された特別補助金という豊かな資金源もあります。しかし、他のスポーツへの資金の分配を求める声もたくさんあり、意外にも多くのファンは冷静にニュースを見守り、逆に新基準を歓迎する人は少なくありません。

自転車競技が覆い隠したサッカードーピング問題

1998年のツール・ド・フランスでは、ドーピング問題で加熱するマスコミの取材に対し、選手たちがストライキを起こした<砂田弓弦撮影>1998年のツール・ド・フランスでは、ドーピング問題で加熱するマスコミの取材に対し、選手たちがストライキを起こした<砂田弓弦撮影>

 1998年にマルコ・パンターニが優勝したツール・ド・フランスでは、ドーピングスキャンダルが勃発しました。18人の選手から禁止薬物であるエリスロポエチン(EPO)が検出されるなど、前代未聞のドーピング問題が自転車競技に暗い影を落とし、現在もドーピングの話になれば、メディアが真っ先に自転車競技を指さします。

 しかし、同じ年に、イタリアのサッカーにもドーピングの嵐が吹き荒れていました。セリエA所属チーム「カリアリ」の現監督、ズデネク・ゼーマン氏によれば、1998年にはサッカー界にも禁止薬物がはびこっていたそうです。EPO、成長ホルモンなどが使用されていました。

 サッカー界にも逮捕者が出ましたが、自転車競技のスキャンダルがなければ、サッカーに捜査官のメスが深く入っていただろうと公言しています。結局「サッカーを救うために自転車競技が犠牲になった」と思う人も少なくないのです。

 イタリアのスポーツ改革は始まったばかりです。成果が出るのは、2020年の東京オリンピックだと思います。さて、イタリアのスポーツはどう変わるのか、楽しみにしています。

文 マルコ・ファヴァロ

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

この記事のタグ

つれづれイタリア~ノ

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

サイクリストTV

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載