産経ニュースWEST【関西の議論】より「自転車に乗らないように」新潟・加茂市長の文書に抗議1千件 全国の自治体では“規制”続々

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「自転車には、なるべく乗らないようにするのがよいと思います」。自転車利用をめぐり新潟県加茂市長が小中学生に配布した文書。同市には1千件以上の抗議が殺到した「自転車には、なるべく乗らないようにするのがよいと思います」。自転車利用をめぐり新潟県加茂市長が小中学生に配布した文書。同市には1千件以上の抗議が殺到した

 「自転車には、なるべく乗らないようにするのがよいと思います」。新潟県加茂市の小池清彦市長が10月、市内の小中学生に配布した文書が波紋を広げた。自転車禁止を強要したとも読め、市役所には「全くばかげた論理だ」などとの抗議が1千件以上寄せられた。ただ、こうした「お触れ」を出した背景には、自転車による対人事故の多発がある。全国の自治体が対策に頭を悩ませ、相次いで条例を設けて“規制”。大阪府堺市ではヘルメット着用を努力義務とし、同じ大阪の摂津市や寝屋川市が携帯電話を使いながら乗らないことなどを求めている。兵庫県は自転車を所有する人に保険加入を義務づける条例制定を計画中だ。自転車をめぐる状況は、加茂市長の文書が過激とはいえないほど深刻なのだ。

7年ぶりの自転車死亡事故

 8月19日午後5時ごろ、加茂市内の信号のない国道290号交差点で、中学2年の男子生徒(13)が自転車で帰宅中、ワゴン車に出合い頭にはねられ、搬送先の病院で死亡した。加茂市では、実に2007年以来となる自転車の絡んだ小中学生の死亡事故だった。

 小池市長は事態を重大に受け止めた。1995年の初当選以降、子供の安全対策として市内の小中学校にスクールバスを導入し、小中学生の通学は原則、バスか徒歩としていたからだ。

 今回の文書配布は、こうした経緯も背景にあった。

 小中学生に配布された文書はA4判2枚。小池市長の名で「自転車の事故を完全になくすために、一人ひとりが精いっぱい気を付けなければなりません」と前置きし、(1)自動車がたくさん通る中で自転車に乗ることは極めて危険(2)自転車には、なるべく乗らないようにするのがよい(3)なるべく徒歩かバスなどを利用するのがよい――とつづった。

 また、「どうしても自転車に乗らなければならないときは」として、ヘルメットの着用や交通ルールを守ること、暗くなってからの運転をやめることなどを求めている。

「非常識な提言」か

 小池市長の姿勢が明らかになると、〝異例の呼びかけ〟として注目を浴び、やがてネットを中心に批判が広がった。文書の撤回を市に要求する署名サイトが立ち上がり、10月中旬までに約1200筆の署名が集まった。

 このサイトを介し、市には「自動車社会のことしか考えない非常識な提言だ」「ルールを教えるのは大人の役割。その役割を放棄するのは間違っている」などの意見も寄せられた。これらを合わせ、市には約70件の電話やメールが寄せられたが、大半が文書の内容を批判するもので、賛同はごく一部だったという。

 これに対し、市は「決して、自転車に乗らないことを強制しているわけではない」。文書では「なるべく乗らないように」との表現にとどまっており、幾分、大げさに伝わっている面もあるという。

 「乗る、乗らないは本人や保護者の判断。乗るのであれば、どうすれば事故が起きないようにできるのかを考えてほしい」というのが真意だそうだ。

自転車が加害者にも

 加茂市では、小中学生の死亡事故が約7年ぶりの事態だったが、自転車が関係する事故は毎年、相当数が発生している。警察庁によると、昨年1年間、全国で12万1040件(前年比約1万1000件減)発生したが、これは交通事故全体の約2割。このうち死亡事故は603件だった。

 過去10年の傾向でみると、自動車やバイクとの事故は大幅に減ってきているものの、歩行者が絡む事故は2003年の2270件に対し、昨年は2605件と335件増加。自転車が被害者というよりは、加害者になる事故が多いことが想定される。

「自転車活用推進研究会」の小林成基理事長「自転車活用推進研究会」の小林成基理事長

 こうした状況に、専門家は警鐘を鳴らす。「『これくらい大丈夫だろう』と警察に届けていない利用者も多数いるとみられ、実際の事故数は統計を大きく上回る可能性がある」

 こう推測するのは、NPO法人「自転車活用推進研究会」(東京都品川区)の小林成基(しげき)理事長だ。

 2011年には警察庁が「自転車は車両であり、車道走行が原則」との通達を全国の自治体や警察に出した。一部の自治体では、自転車専用レーンを設置するなどの動きが進んでいる。

 しかし、小林理事長は「趣旨をうまく理解していない自治体もあるほか、『自転車は車両だ』との認識がすべての利用者に行き届いていないのが現状だ」と指摘する。

保険加入義務付けも

 小林理事長によると十数年前から、「健康によい」「交通費も不要で経済的」との理由で、自転車が見直されるようになった。高齢者が車の運転免許証を自主返納する制度が定着し、自転車にシフトする流れも強まった。

 2006年ごろには自転車の販売台数がピークに達し、「現在ブームは落ち着きを見せているが、高級な自転車が人気になるなど、ニーズは多様化している」(小林理事長)という。

 愛好者が増えるほど利用者の意識向上が重要になってくる。どうやって安全意識を高めることができるのか。全国の自治体では条例の制定などが進んでいる。

 自転車と部品の製造品出荷額のシェアが全国の5割以上を占める堺市。以前から、市内の全交通事故に占める自転車事故の割合が約3割前後で推移しており、「信号無視などのマナー違反も目立つようになった」(同市自転車まちづくり推進室)。

 このため同市は10月、自転車利用時のヘルメット着用を努力義務とする「自転車のまちづくり推進条例」を施行。全世代を対象にヘルメット着用を求めるもので、東京都、愛媛県、茨城県つくば市がそれぞれ定めているが、近畿では堺市が初めて。

 一方、兵庫県の井戸敏三知事は10月、自転車を所有する人に保険加入を義務づける独自の条例制定を目指すことを明らかにした。念頭にあるのは、自転車事故をめぐる高額賠償のケースだ。

 例えば、同じ兵庫県内では、神戸市で2008年に自転車の小学生と衝突した女性が重体となる事故が発生し、神戸地裁が昨年7月、保護者に約9500万円の損害賠償を命じている。

 県によると、県内の自転車保険の加入率は24%。自転車と歩行者の事故が県内で急増していることも踏まえ、「保険の加入促進のためには、義務化が最も効果的と判断した」(県交通安全室)という。

 小林理事長は「これまでは行政の対応が追いついていなかったが、今後、各地の自治体で条例作りが加速されるだろう」とみる。自治体の条例をチェックしながらサイクリングコースを検討する――。今後はこんな時代になるのだろうか。

産経ニュースWESTより)

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