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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<83>プロライダーのオフシーズンの過ごし方 キリマンジャロ登山やアワーレコード挑戦も

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 11月に入り、サイクルロードレース界はオフシーズンを迎えています。1月から始まったシーズンは、クラシックレース、グランツール、世界選手権、そしてジャパンカップ、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムと、選手はもとより観る側にとっても休まることのなかった日々でした。一方で、レースがないこの時期、ロードレースの世界はどのように動いているのでしょうか。チームビルディングキャンプやアワーレコード挑戦といった、オフシーズン中の選手たちの過ごし方をご紹介します。

ティンコフ・サクソのチームビルディングキャンプで、アフリカ最高峰・キリマンジャロ登山に挑むアルベルト・コンタドール(左) ©Tinkoff-Saxoティンコフ・サクソのチームビルディングキャンプで、アフリカ最高峰・キリマンジャロ登山に挑むアルベルト・コンタドール(左) ©Tinkoff-Saxo

レース活動終了直後はノーライド

 世界のサイクルロードレースを追い続けて幾年にもなる筆者だが、レースファンになって間もない人や、この競技にさほど詳しくない人との話題で多く上がるのが「選手たちの冬場の過ごし方」。さらに言えば、「冬場ってレースはどうなっているの?」ということなのだが、何年とレースを追っている方々にも、案外この時期の動きは知られていないものだろう。

 落車負傷や体調不良などの選手を除き、多くの選手はブエルタ・ア・エスパーニャや直後の世界選手権後の9月下旬、またはジロ・デ・ロンバルディア後の10月上旬にシーズンを終える。一方で、最後の力を出し切るべく、ジャパンカップなどの期間まで走り続けるライダーも増えている。

 そこからオフシーズンが始まるわけだが、しばらくは“ノーライド”とする選手が多いようだ。ジャパンカップに出場したマルコ・マルカート(イタリア、キャノンデール)によると、「2週間は乗らない」とのこと。この時期はバカンスに出かけるなど、選手は思い思いの日々を過ごす。地元でのイベント出席や、ごくごくイージーなライドを伴う走行会、レクリエーション感覚でのマウンテンバイクライドなどに親しむ選手もいる。一方で、「しばらくはバイクを見たくない」なんて声も。いずれにせよ、レース活動からは離れ完全休養とし、心身のオーバーホールに充てる。

2010年12月に行われたリクイガス・ドイモ(当時)のトレーニングキャンプ。前所属チームのジャージを着用した選手も多い(砂田弓弦撮影)2010年12月に行われたリクイガス・ドイモ(当時)のトレーニングキャンプ。前所属チームのジャージを着用した選手も多い(砂田弓弦撮影)

 しばしの休養を経ると、いよいよ翌年のチーム陣容が固まる頃だ。翌シーズンの所属ライダー、スタッフのほとんどが揃って行われるチームビルディングキャンプが行われるが、近年は回数が増え、実施日も早まる傾向にある。多くのプロチームが11月には集まって、新たなメンバーとの顔合わせやチームの方向性を確認する作業をする。ここではライドよりも、ゲーム性の高いオリエンテーリングや自転車以外のスポーツによって、メンバー間の親睦を図ることに主眼を当てる。過去には軍事訓練を行ったチームもある。

 同じチームでありながら、トレーニングやレーススケジュールが選手によって大きく異なるため、年間数度しか顔を合わせないメンバーもいるこの世界。そうしたなかでも、同じ目標に向かって意思統一を図る場として、選手たちにとっては絶対に必要な機会なのだという。

 1回目のキャンプを終えると、本格的な乗り出しへ。この頃には翌シーズン使用するバイクが届き、テストライドも兼ねたトレーニングがスタートする。2~3時間の走行から徐々に時間を延ばしていき、長時間の走りに耐えられる体を作り上げる。

ファルネーゼヴィーニ・セッレイタリア(当時)が2012年12月に行ったトレーニングキャンプ。アピールの場として重要な位置付けだ(砂田弓弦撮影)ファルネーゼヴィーニ・セッレイタリア(当時)が2012年12月に行ったトレーニングキャンプ。アピールの場として重要な位置付けだ(砂田弓弦撮影)

 12月に入り、2回目のチームビルディングキャンプへ。ここでは、すでにトレーニングができる状態にあることを前提に、チームもメニューを組み立てる。ここでの走りでアピールができないと、主力メンバーとして扱ってもらえない可能性もある。選手によっては、「キャンプのための練習を実施するレベル」と述べるほど、準備と集中が必要なものだ。なお、チームによっては1月に開催するケースもあるようだ。

 こうして、1月のツアー・ダウンアンダー(オーストラリア)、ツール・ド・サンルイス(アルゼンチン)などでのシーズンインとなる。これらのレースに出場しない選手たちは、さらにキャンプに臨む場合もあり、その都度トレーニングのレベルが上がる傾向にある。

 多くの選手が、シーズン序盤の目標に3月のパリ~ニース(フランス)、ティレーノ~アドリアティコ(イタリア)、そして春のクラシックなどを挙げ、その先にはグランツールを見据える。それに到達するためには、オフシーズンをいかに正しく過ごすことにあるかが重要である。ファンもこの時期から流れを押さえておくと、シーズンがより楽しいものとなるはずだ。有力選手たちの動向はぜひ見逃さないでほしい。

ティンコフ・サクソがキャンプで目指すはキリマンジャロの頂

 このオフシーズン、先陣を切ってチームビルディングキャンプをスタートさせたのは、ティンコフ・サクソ。早々に30人の所属選手を確定させ、来シーズンに向けた動きを開始した。

チームビルディングキャンプ参加中のラファウ・マイカ(右から2人目) ©Tinkoff-Saxoチームビルディングキャンプ参加中のラファウ・マイカ(右から2人目) ©Tinkoff-Saxo

 チームを指揮するビャルネ・リース氏は、これまで数々のユニークなトレーニングを取り入れたことでおなじみだ。ここ数年は、エースのアルベルト・コンタドール(スペイン)の希望もありマリンスポーツに取り組んだが、今年は登山を実施した。その場所はなんとアフリカ最高峰・キリマンジャロ(標高5895m)だ。

 11月1日のスタートに向け、参加者はマチャメ・ゲート(タンザニア、標高1828m)に集合。この地域特有のスコールに見舞われる場面もあったようだが、誰1人遅れることなく集まり、安全にスタートを切ったという。

 その間、同国の有望選手が揃うアルーシャサイクリングクラブのメンバーとも交流。地元のガイドによる案内を受けながら、順調に歩みを進めている。1日あたり6~8時間歩き、最初の3日間で標高4600m地点まで上ったようだ。予定通りであれば、現地時間5日午前中には頂上へと到達する見通し。

アルベルト・コンタドールやペテル・サガンらが、タンザニアの選手らに囲まれ記念撮影 ©Tinkoff-Saxoアルベルト・コンタドールやペテル・サガンらが、タンザニアの選手らに囲まれ記念撮影 ©Tinkoff-Saxo

 このキャンプにはコンタドールを筆頭に、移籍加入となるペテル・サガン(スロバキア)、バイオロジカルパスポート異常値によりUCIとの係争が濃厚なロマン・クロイツィゲル(チェコ)ら全選手が参加している。スタッフも合わせると総勢80人の大所帯。宮島正典マッサーも参加中だ。

 ちなみに、全参加者費用の約20万ユーロ(約2841万円)は全額、チームオーナーのオレグ・ティンコフ氏のポケットマネーから支払われたのだとか。ティンコフ氏自身は仕事の都合で不参加とのことだが、数年前まで資金繰りに苦労していたチームとは思えない、見違えるほどの待遇だ。

アワーレコード更新へ 新たな挑戦者が続々登場か?

 10月30日、スイス・エーグルのUCIワールドサイクリングセンターヴェロドロームで、マティアス・ブランドレ(オーストリア、イアム サイクリング)がアワーレコードに挑戦した。9月18日にイェンス・フォイクト(ドイツ、トレック ファクトリーレーシング)が打ち立てた記録を737m上回る、51.852kmをマーク。新記録を樹立した。

アワーレコード新記録を樹立したマティアス・ブランドレ ©IAM Cyclingアワーレコード新記録を樹立したマティアス・ブランドレ ©IAM Cycling

 挑戦1週間前の23日に突如アワーレコード挑戦を表明したブランドレ。水面下で準備を行っていたとし、トレーニングでの感覚では52kmをマークできる手応えもあったという。

 実際のチャレンジでは、目標に向かって序盤からハイペースを維持。中盤までは順調に飛ばしたが、最後の15分でペースダウン。苦痛に顔を歪めながらも力走を続け、目指していた52kmには届かなかったものの、フォイクトの記録を大きく上回った。

 ゴール後は目標に届かなかったこともあり、悔しさを滲ませた。しかし、会場に詰めかけた観衆の盛り上がりや、UCI会長のブライアン・クックソン氏からの祝福を受けると笑顔に。1時間の孤独な戦いを振り返り、「すべてのペダルストロークが難しく、終盤にかけてより厳しいものとなった」とコメント。新記録への充実感とともに、アワーレコードがいかに困難なものなのかを述べた。

 トラックレース同様に、DHバーやディスクホイールといった空力効果のある機材使用が認められ、新時代を迎えたアワーレコード。ブランドレが目指したように、52kmという数字がいよいよ現実味を帯びてきた。次なる挑戦者は誰になるかに注目が集まるが、ブランドレの所属するイアム サイクリングのゼネラルマネージャーであるミシェル・テタス氏は、ブランドレの記録を破るライダーとしてブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム スカイ)を指名した。

アワーレコード挑戦に意欲的なブラッドリー・ウィギンス(砂田弓弦撮影)アワーレコード挑戦に意欲的なブラッドリー・ウィギンス(砂田弓弦撮影)

 そのウィギンスは、2015年7月または8月の挑戦に向けて会場選びを行っていると言われている。今のところ有力なのは、スペイン・マヨルカ島のパルマアリーナ。同島出身で、シドニー、北京両五輪のトラック・ポイントレース金メダリスト、現パルマアリーナ支配人のホアン・リャネラス氏とも合意に達しているようだ。

 ウィギンスにとってマヨルカ島は、別荘を所有する場所でもあり、9月のロード世界選手権個人タイムトライアルでの優勝後には、島内で祝勝会が開かれたというつながりをもつ。2016年リオ五輪までのキャリア計画の1つであるアワーレコードは、自身にとって思い入れの強い場所での開催が濃厚だ。

 ウィギンスのほか、テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)、トニー・マルティン(ドイツ、オメガファルマ・クイックステップ)らが将来的な挑戦を視野に入れているとされる。盛り上がりを見せるアワーレコードからも、まだまだ目が離せないだろう。

今週の爆走ライダー-マティアス・ブランドレ(オーストリア、イアム サイクリング)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 一躍全世界の注目を集めることとなったアワーレコード挑戦は、「ツアー・オブ・ブリテンでステージ2勝を挙げた時点で決意した」という。約1カ月半の準備で見事に結果を残した。

20歳という若さで2010年のジロ・デ・イタリアを完走したマティアス・ブランドレ(砂田弓弦撮影)20歳という若さで2010年のジロ・デ・イタリアを完走したマティアス・ブランドレ(砂田弓弦撮影)

 24歳ながら、プロキャリアは豊富。フートン・セルベット時代の2010年には、20歳でジロ・デ・イタリアを完走。当時は「過去30年間で最年少の完走者」として話題になった。ジェオックス・TMCとチーム名が変わった翌年には、ブエルタ・ア・エスパーニャでファンホセ・コーボ(スペイン)の総合優勝をアシスト。コーボとクリストファー・フルーム(イギリス、当時スカイ プロサイクリング)の熾烈な総合優勝争いのなか、平地牽引の大役を担った。

 2012年はチーム ネットアップ、2013年からは現チームと、プロコンチネンタルチームを渡り歩いてきたが、今シーズンは大きな信頼を勝ち取った1年になったという。ツール・ド・フランスを回避し、ブエルタ・ア・エスパーニャに向けて準備を進めていたが、急遽秋のクラシック組へ招集。エース、シルヴァン・シャヴァネル(フランス)から直々のアシスト指名を受けたのだ。GPウエストフランス・プルエーでシャヴァネルの優勝に貢献し、直後のブリテンでは鮮やかなアタックで2勝。走るたびに成長する姿を示してきた。

 今回のアワーレコードがキャリアのターニングポイントになるのではないかと問われ、「これまでと変わらずロードに集中する」と答えた彼。次の目標は、ツール2015のマイヨジョーヌだと宣言。オランダ・ユトレヒトで行われる第1ステージの個人TTでの勝利を狙う。

苦しみぬいて、イェンス・フォイクトの記録を上回ったマティアス・ブランドレ ©IAM Cycling苦しみぬいて、イェンス・フォイクトの記録を上回ったマティアス・ブランドレ ©IAM Cycling

 「永遠とはいかずとも、今だけでも歴史に名を刻むことができればそれで十分」と述べたアワーレコードを終え、ロードレーサーとしての新境地へと向かう。3度のTT国内チャンピオンに輝く、同国きってのルーラーの新境地はいかに。彼が魅せるサプライズには、無限の可能性が秘められている。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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