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つれづれイタリア~ノ<さいたま~の編>ニバリ、サガンらを通訳した2日間 さいたまクリテリウムの舞台裏でチャンピオンたちの素顔を見た!

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 みなさん、ボンジュール、じゃなくて、チャオ! 驚いた方もいらっしゃるかと思いますが、10月25日に行われた「2014ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」で、通訳として手伝いました。テレビや写真によく写っていた謎のスキンヘッドの外国人が、私です。契約を事前に口外できず、前回のコラムではハッキリと言えなくてすみませんでした。

ヴィンチェンツォ・ニバリ(前列左)やペテル・サガン(同右)の通訳を2日間に渡って務めたマルコ・ファヴァロさん(平澤尚威撮影)ヴィンチェンツォ・ニバリ(前列左)やペテル・サガン(同右)の通訳を2日間に渡って務めたマルコ・ファヴァロさん(平澤尚威撮影)

 夢のような2日間はあっという間に終わりました。なぜ「夢のよう」だったかというと、サイクルロードレースファンなら誰もが人生に一度は会いたいと思うようなチャンピオンたちの担当になったからです。

ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)

 ツール・ド・フランス2014総合優勝

ぺテル・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)

 ツール・ド・フランス2012~2014ポイント賞

ラファウ・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)

 ツール・ド・フランス2014山岳賞

クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)

 ツール・ド・フランス2013総合優勝

 通訳業務とはいえ、大会前日と当日はこの選手たちと共に生活したといっても過言ではありません。この2日間のなかで見た光景や、私が感じたことについて話したいと思います。

驚き! 選手たちの共通語は英語ではなかった。

 異なる国籍で異なる言語を話す選手たちは、互いにどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか。当然ながら英語だと思われがちですが、自転車競技はここが違います。

時差ボケのサガンを励ますニバリ。みんな国籍は違ってもイタリア語で会話しています(マルコ・ファヴァロ撮影)時差ボケのサガンを励ますニバリ。みんな国籍は違ってもイタリア語で会話しています(マルコ・ファヴァロ撮影)

 スロバキア出身のサガンも、ポーランド出身のマイカもイタリア語を話せます。英語圏育ちのフルームもイタリア語が驚くほど堪能で、繊細な言葉を選びます。

 その理由は簡単。ヨーロッパの中ではイタリアが気候的に恵まれていて、冬でも練習できます。そして自転車文化が深く浸透しているので、トスカーナを始め、ロンバルディア州、ヴェネト州では多くの選手たちが生活しています。しかし、そこで生活するうえでは、英語が全く通じないため、自ずとイタリア語が身に付きます。フルームもコモ湖周辺で3年間暮らしただけで、しっかりとイタリア語を吸収した素晴らしい才能の持ち主です。

 不思議なことに、さいたまクリテリウムはツール・ド・フランスの公式イベントでありながら、ほとんどイタリア語しか聞こえません。本当に面白い世界になっていました。

選手たちの素顔は?

 私は、選手たちがイベントに参加したり、テレビに出演したりするのに合わせて、ずっと行動を共にしていました。至近距離から彼らを見て、いろいろな言動に接したことで、一人ひとりの性格や行動パターンまでわかってきました。そこで言えることは、カメラの入らないところでも、チャンピオンたちはやはりチャンピオンだったということです。

ヴィンチェンツォ・ニバリ

くつろぐ選手たち(マルコ・ファヴァロ撮影)くつろぐ選手たち(マルコ・ファヴァロ撮影)

 ニバリは一番すごかったです。イベントの過密スケジュールと時差ぼけで疲れていたにもかかわらず、笑顔が絶えることはありませんでした。控え室では、時差に苦しんでいたサガンを励まし、フルームとマイカにずっと話かけたり、話題を作ったりしていました。その場を盛り上げようと一生懸命にみんなに話しかけていました。

 その性格の真面目さに加え、記憶力にも驚かされました。練習スケジュールは頭に打ち込んでいるかのようで、メディアに突然話かけられても、トレーニングキャンプなどの日程を正確に答えていました。

ペテル・サガン

 「破天荒」「わがまま」というイメージがついてしまっているサガンですが、そうではないようです。実は自分に対しても人に対しても着飾らず、正直であろうとする人だとわかりました。答えられない質問があると、八方美人にならないで正直に「わかりません」と答えられる人なのです。

ラファウ・マイカ

 ラファウ・マイカは、担当した4人のなかで最も低姿勢の選手でした。レーサーとして素晴らしい才能の持ち主で、ツールの山岳賞を獲得していても、天狗にはなってはない。自分の仕事は、キャプテンであるアルベルト・コンタドール(スペイン)を守り抜くことだということを忘れていません。

サムライ気分になった(左から)サガン、ニバリ、マイカ(マルコ・ファヴァロ撮影)サムライ気分になった(左から)サガン、ニバリ、マイカ(マルコ・ファヴァロ撮影)

クリストファー・フルーム

 フルームは気さくで、好奇心に燃える男でした。レースで感じたこと、来年のレースの予定、トレーニング方法など、みんなからその知恵を借りつつ情報交換をしていました。彼は来年どのグランツールに出るか、まだ迷っているようです。

フルームがニバリに質問「ダブルツールは大変?」

レース前も情報交換する選手たち(マルコ・ファヴァロ撮影)レース前も情報交換する選手たち(マルコ・ファヴァロ撮影)

 所属チームが違っても、選手たちは情報交換をしたり、悩み事や不安を話し合ったりしています。ここで、前夜祭前の立ち話の一部を紹介します。ニバリとフルームには、ここでみなさんに紹介する許可を得ていますよ。

フルーム「ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの両方に出場するのは、やっぱり大変かなぁ。経験ある?」

ニバリ「あるよ。大変だった。ツールには2008、2009、2012、2014年に出たけれど、ジロと両方は2008年だけ。でも当時はまだ若かった。アレハンドロ・バルベルデがマイヨジョーヌを着たし、キム・キルシェン、ファン・ホセ・コーボも強かった。シュテファン・シューマッハーとリカルド・リッコも強かったしなぁ(苦笑)※注 その年のチームメートはロマン・クロイツィゲルだった。アンディ・シュレックも速かった」(2008年の出来事を鮮明に思い出すニバリはすごい!!)

※ 2008年のツールではドーピング発覚が相次ぎました。サウニエル・ドゥバル=スコットのリッコがCERA(持続性エリスロポエチン受容体活性化剤)と呼ばれるドーピング物質の陽性反応が出たため、チームは大会を撤退。さらに、10月にはステファン・シューマッハー(ゲロルシュタイナー)とレオナルド・ピエーポリ(サウニエル・ドゥバル=スコット)のドーピングも発覚。ニバリはそれを皮肉ったのです。

フルーム「じゃ、やめたほうがいい?」

ニバリ「ジロとブエルタのコンビネーションのほうがいいと思う。2010年にやった時には、イヴァン(・バッソ)がジロで総合優勝して、僕は3位で、それからブエルタに勝った。昨年はジロに勝って、ブエルタも勝てそうだった。でも、(クリストファー・)ホーナーがいたからなぁ」

フルーム「ホーナーは確かに強かったなぁ」

ニバリ「すごかったよ。上りでいつもダンシングだったろう!? でも、もしダブルでグランツールに出たいなら、練習だけでなくやはり集中力が必要。切らしたら終わり」

ニバリ(左)とフルーム(右)。グランツールではなかなか一緒に撮れない記念写真(マルコ・ファヴァロ撮影)ニバリ(左)とフルーム(右)。グランツールではなかなか一緒に撮れない記念写真(マルコ・ファヴァロ撮影)

フルーム「ブエルタとジロに勝った時に、何かが変わった?」

ニバリ「変わった、変わった。ツールに優勝してから、もっと変わったよ。精神的にすごく変わった。自信がついた。イタリアでも(周囲の環境が)変わったよ」

フルーム「イタリアで? どういう意味?」

ニバリ「ジロはイタリアで人気があるけれど、ツールに優勝すると、自転車ファンだけでなく一般人も興味を抱くようになる。今、みんな僕の名前を知っている。イギリスでもそうだったでしょ?」

フルーム「うん。たしかに」

ニバリ「だって、イタリア人として最後にツールで総合優勝したのが、マルコ・パンターニ。それ以来だから、すごく話題になった。ツールで優勝すると、メディア効果がすごいんだよ」

 さらに話はレース以外にも広がりました。

ニバリ「フルームはイギリス人だったっけ?」

フルーム「いや、ケニア国籍」

※フルームは2008年にケニアからイギリスに国籍を変更しています。しかし本人としては、いまもケニア国籍という意識が強いのでしょうか。

ニバリ「あ! ケニアだったね! そういえば、2011年にバカンスでケニアに行ったよ。サファリをした。ものすごく楽しかった」

フルーム「サファリはいいね。高くなかった?」

ニバリ「最初は高かったけれど、現地ガイドに案内されて、途中でもっと安い宿を探してくれた。1泊100ドルぐらい。夜は電気供給が止まるから、真っ黒な夜の中で、遠くからライオンと野生動物の鳴き声しか聞こえない。感動した」

 そんな調子で話は続きました。もっともっと聞けたら…と願ったのですが、レースやイベントの時間になると選手たちは会場に向かい、興味深い会話も途切れてしまいます。とにかく素晴らしい時間でした。来年も通訳として参加できたら、また皆さんとこのような感動を共有したいと思っています。

文 マルコ・ファヴァロ

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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