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つれづれイタリア~ノ<38>イタリア最大のサイクリングイベント「レロイカ」で不正が発覚 おおらかなイタリア人も我慢の限界?

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 10月5日、トスカーナ州の中でももっとも美しい場所の一つ、キャンティ地方で「L’Eroica」(レロイカ)というサイクリングイベントが開催されました。レロイカは度々このコラムに登場しています(<28>豪華なエイドでおなかいっぱいになれるイタリアのグランフォンド)。何しろ、私は1960年代に生まれた人間ですから、小さい頃に見た自転車、服装、色などが脳裏に焼きついています。その当時のような光景が再現されるレロイカは、いつか参加してみたいイベントです。

イタリアの代表的なサイクリングイベント「レロイカ」。6千人を超える参加者が、レトロな自転車と服装でトスカーナ地方を駆け抜ける ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSDイタリアの代表的なサイクリングイベント「レロイカ」。6千人を超える参加者が、レトロな自転車と服装でトスカーナ地方を駆け抜ける ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD
バイクだけでなく、服装も装備も1987年以前のもの©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSDバイクだけでなく、服装も装備も1987年以前のもの©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD

 このイベントの参加資格は単純明快。1987年以前に作られたバイクと服装で参加することです。カーボンフレームやアルミフレームが主流となっている今の時代ですが、あえてそれは禁止されています。服装も装備も1987年以前のものを使うのがルール。またはそれらと同等のスペック、デザインのものであれば使用できます。もし該当しないものを使用する場合、参加はできますが完走賞がもらえません。

 イベントの光景を見ると、まるでタイムスリップしたような錯覚に陥ります。今年で18回目の開催を迎えたこの大会は、イタリアのもっとも代表的な秋のサイクリングイベントの一つに成長しました。昔の服装を身にまとった5600人以上のライダーたちと多くの観光客を呼び、国内外のメディアが取材に殺到します。

仮装とグルメ、そして“英雄”の道

 サイクリングイベントですのでタイムを争うことはなく、時間内に到着すれば完走賞がもらえるというシンプルなもの。午前5時以降ならいつでもスタートでき、制限時間も「夕方までにはゴールしてくださいね」といったおおらかな雰囲気です。なぜここまで人気があるのでしょうか。

 まずは、仮装パーティーに参加する楽しさがあると思います。イタリアでは伝統的にcarnevale(カーニバル)という祭りがあり、みんなが自慢の服装、自慢の自転車を披露するために集まっています。

会場を盛り上げるオーガナイザー ©Elisa Romano会場を盛り上げるオーガナイザー ©Elisa Romano
女性も大勢参加している ©Elisa Romano女性も大勢参加している ©Elisa Romano
ボランティアによる炊き出し ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSDボランティアによる炊き出し ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD

 第2の要素は、エイドステーション。トスカーナ地方のパン、サラミ、ソーセージ、トリッパ(モツ煮込み)、リボッリータ(トスカーナのスープ)、ヌテッラやワインなどが振る舞われます。

 でも一番の魅力はコースそのものです。キャンティ地方は、イタリア田園風景を代表するもので、映画、CMなどにもよく使われます。多くの政治家と有名人もこの周辺で別荘を所有しています。イギリス、アメリカをはじめ、南アフリカ、オーストラリアの不動産が農村をまるごと買い取り、リゾートにする動きも出てきています。

トスカーナ州のキャンティ地方の美しい景観のなかを参加者たちが走る ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSDトスカーナ州のキャンティ地方の美しい景観のなかを参加者たちが走る ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD

 さらにレロイカのコースがほとんど舗装されていない道路で行われます。これは「レロイカ」というネーミングの由来でもあります。イタリア語で「L’Eroica」は「ザ・英雄(的な大会)」を意味します。道路が舗装されていないだけでなく、アップダウンが厳しく、勾配が20%を超える激坂もあります。体力と経験に合わせられるよう、コースは4種類が設定されています。

38km  獲得標高 700m  難易度★
78km  獲得標高差 1877m 難易度★★
135km 獲得標高差 1782m 難易度★★★
209km 獲得標高差 3700m 難易度★★★★★

 このイベントの影響でアスファルトが敷かれるはずだった道路計画が中止され、ジロ・デ・イタリアも2010年にこのコースの一部を取り入れました。現在は道路看板も設置され、1年中コースを楽しむことができます。

自転車を降りて上るほどの坂も ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD自転車を降りて上るほどの坂も ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD
キャンティ地方では、道路標識のなかにレロイカのコース表示があるキャンティ地方では、道路標識のなかにレロイカのコース表示がある

イタリア人は不正に飽きた?

レトロでかわいいサポートカー。載っているのもレトロな自転車 ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSDレトロでかわいいサポートカー。載っているのもレトロな自転車 ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD

 イベントの知名度が上がったことで、人気は国内に留まらず、海外にも飛び火し、今年は日本を含め、50カ国のライダーが参加しました。定員の5600人に対し、12000人の応募がありました。参加決定には抽選会が行われます。しかし、巧妙な不正によって参加するライダーが目立つようになりました。

主な不正の内容
・エイドステーションで出される食事をめがけて、かつての背番号をつけて参加する人
・スタートの時に規定のバイクで登場し、途中で最先端のロードバイクに乗り込み、ゴールの前でまたスタート時の自転車に乗る人
・途中の難関場所で、オートバイに乗った仲間の手助けを受ける人

この中にパトロールが混ざっているかも? ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSDこの中にパトロールが混ざっているかも? ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD

 基本的にイタリア人はおおらかで、ある程度のルール違反を見過ごす傾向にありますが、最近は傾向が一転しました。昨年から不正のエスカレートを重く見たオーガナイザーのジャンカルロ・ブロッチさんが対策に乗り出しました。コース上に、参加者のなかにパトロール隊を混ぜて配置したほか、フェイスブックの公式ページなどで不正行為を見かけた人に対し、情報提供を呼びかけることにしました。すると、次から次へ情報が寄せられました。

背番号を不正にコピーしたグループ ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD背番号を不正にコピーしたグループ ©2014 L’Eroica - Ciclismo d’Epoca SSD

 今年は行き過ぎた不正が発覚しました。参加者の1人が背番号をコピーして4人の友達に譲り、5人で参加することにしました。このケースはガゼッタ・デッロ・スポルトをはじめ、全国のテレビネットワークでも取り上げられ、騒動に発展しました。とはいえ、罰金や告発行為はありません。あくまでも牽制効果のために情報を公開したと、ブロッチさんは述べています。

 実はレースに限った話ではなく、割り込み、詐欺、破壊行為など日常生活の中で社会的ルールを守らない人が増えすぎて、イタリア人の多くが不正行為を見過ごせなくなりました。選挙でもこの動きが現れています。これまで口約束ばかりしてきた政治家に対し、国民が強く反発し、若いリーダーのマッテオ・レンツィ首相(40歳)の新政権が誕生しました。彼が訴えたのが「イタリアの精神的な再建」です。教育改革、腐敗した政治家の排除、官僚の権限規制などを、国民たちが強く支持しています。

不正ゼッケンの行方は…?

 さて、背番号を偽造した人たちはどうなったでしょうか。実は10月14日に、彼らは反省をしたようで、ある行動に出ました。フィレンツェ出身の自転車愛好家グループである彼らは、実名を公開した上で、偽装した背番号(1347)をネットオークションに出品しました。そして、落札された金額をイタリアのがん治療研究基金に充てるそうです。

◇         ◇

 ちなみに日本でも昨年から、日本版レロイカともいえる公式な姉妹大会「L’英雄 L’Eroica」が開催されています。「L’英雄」の主催者は「日本の自転車歴史を掘り起こして将来に繋げようと立ち上げました。来年の第3回大会も例年と同じく、富士河口湖町の癒しの里で5月16、17日に行われる予定です。世界遺産の富士山のすそ野をイタリアからのゲストサイクリストと一緒に楽しく走りましょう」と呼びかけています。今年5月に行われた第2回の様子をまとめたムービーが公開されていますので、ぜひ見てみてください。

文 マルコ・ファヴァロ

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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