トップ選手からコーチの道へ子どもたちを金メダルへ導くために 欧州で指導者研修に打ち込む小田島梨絵さん

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 9月下旬にスペイン・ポンフェラーダで開催されたUCIロード世界選手権。その期間中、小田島梨絵さん(旧姓・片山)は、広い会場を右へ左へと走り回っていた。彼女は元マウンテンバイク(MTB)クロスカントリー種目のプロ選手で、2012年のロンドンオリンピック出場の後に引退。2013年よりJOC(日本オリンピック委員会)のスポーツ指導者海外研修に参加し、現在はイタリアとスイスを拠点にコーチ研修に打ち込んでいる。(文・写真 田中苑子)

世界選手権でブラジルチームの補給を手伝う。明るい性格の小田島さんはブラジル人たちに慕われていた世界選手権でブラジルチームの補給を手伝う。明るい性格の小田島さんはブラジル人たちに慕われていた

ロンドン五輪を機に指導者へと転身

ジュニア女子のレースを終え、一緒にWCC合宿に参加した日本人選手のところに駆け寄るジュニア女子のレースを終え、一緒にWCC合宿に参加した日本人選手のところに駆け寄る

 小田島さんは大学在学中にサイクリングを楽しむ延長でMTBのレースに参戦し始め、次第に頭角を現した。そして大学院の自然科学研究科を卒業し、生物学のエキスパートとなる傍ら、自転車選手としての生活がスタートする。2004年にトレックジャパンとの契約でプロデビューすると、その後は引退する2012年までMTBクロスカントリー種目で全日本選手権9連覇という偉業を達成した。

 2008年の北京五輪では20位。2012年のロンドン五輪では、出場枠を獲得すべく欧州遠征を重ね、最後の最後に1枠を獲得。結果は前回と同じ20位だったが、このロンドン五輪への出場と、そこへ至るまでの経験が、その後の彼女を変えた。

 大学時代から、彼女の夢の1つは先生になることだった。そして五輪を経験して、スポーツの指導者になることを考え始めたという。

 「オリンピックって、やっぱり特殊なエネルギーがあって、人を引きつけて、巻き込まれた人みんなをポジティブにするようなところがあると思いました。ロンドンオリンピックを目標に努力した過程や、そこでの経験がすごく良く、オリンピックのもつスポーツの力に魅せられました」

 「以前から、高校生くらいの悩める子どもたちを育てたいという気持ちがあり、選手をやめたら先生になろうとも思っていたのですが、生物を教えて人間を育てるよりも、私はスポーツを教えて人間を育てたほうが、自分の経験を生かせるんじゃないかなと、オリンピックを終えてから思い始めました」

JOCの海外研修へ

WCCチームのホテルの食堂で、スタッフのスケジュールについて話し合う。少ないスタッフでたくさんの選手のサポートをするWCCチームのホテルの食堂で、スタッフのスケジュールについて話し合う。少ないスタッフでたくさんの選手のサポートをする

 JOCのスポーツ指導者海外研修は、現在、元プロ・ロードレーサーの福島晋一氏も参加している。「将来わが国のスポーツ界を担う指導者として育成する」ことを目標に、研修先や研修内容は基本的に参加者自身が決める。小田島さんの場合、引退した2012年の冬に本格的に研修を受けようと決意。ロード、MTB、BMX、シクロクロスなど全カテゴリーで強い選手を輩出するスイスのジュニア育成環境に強い関心があったため、研修先としてスイスを選び、人づてに紹介されたヴェロクラブ・モンテタマロが受け入れ先に決まった。

 そして「いままでコーチになろうと思って選手をしていたわけではないので、いきなりクラブチームでの研修だと不安だったから」と、研修に先駆けて、UCI(国際自転車競技連合)が行っているコーチ研修を、レベル1、レベル2、デプロマ(最終レベル)と2カ月半かけてすべて修了し、2013年の10月にチームに合流した。

 ふだんはヴェロクラブ・モンテタマロの練習に帯同する日々を送る小田島さん。チームは、アンダー19(才)、17、15、13、11と、年齢別にかなり細かく分かれたチームがあり、平日は学校が終わった夕方にチームの施設でスキル練習、週末はBMCレーシングカップというJシリーズのようなシリーズ戦を中心に転戦し、そのサポートをしているという。

UCIとのコネクションも強化

初めての世界選手権を走り終えた梶原悠未と抱き合う。WCCの合宿中は小田島さんが練習に帯同していた初めての世界選手権を走り終えた梶原悠未と抱き合う。WCCの合宿中は小田島さんが練習に帯同していた

 UCIでコーチ研修を受けたことで、UCIやUCIのトレーニング機関であるワールドサイクリングセンター(以下WCC)と強いつながりができた。今年、世界選手権の直前に、WCCが初めて実施したジュニア女子選手対象の4週間のトレーニングには、小田島さんの働きかけによって坂口聖香(日本体育大学)と梶原悠未(筑波大学付属坂戸高校)が参加。世界選手権では坂口が13位、梶原が18位という好成績を残した。自転車競技歴が1年半という梶原はレース後、「合宿で教えてもらったことがそのままレースで生かせました!」と、小田島さんと抱き合って笑顔を見せた。

 「UCIやWCCといいつながりができてきています。日本の自転車競技連盟のためにも、誰かがコネクションがあったほうがいいと思うので、チャンスがあるときはこっちの活動も積極的に参加しています」

ロードレースを終えた坂口聖香(左)と梶原悠未(右)。2人は1カ月以上におよぶ欧州滞在で多くのことを学んだロードレースを終えた坂口聖香(左)と梶原悠未(右)。2人は1カ月以上におよぶ欧州滞在で多くのことを学んだ

 ポンフェラーダでのロード世界選手権では、WCCはアフリカ諸国など、出身国のサポートが得られない選手を、駆け込み寺のごとくサポートしていた。困っている選手なら誰でも受け入れる体制があり、小田島さんは、多国籍で様々な言葉が行き交うなかでスタッフとして働いていた。

 大会が始まるとWCCのチームに、ブラジルナショナルチームが合流。気がつけば数十人の大所帯となった。選手たちがレースにストレスなく向き合える環境を作るのがスタッフの役目であり、どのチームにおいてもその仕事は単純なものではない。小田島さんも目の回るような多忙なスケジュールで動き回り、挙げ句の果てにはブラジル人の女子選手のわがままに頭を悩ませるような状態。でも、このような環境から学ぶことは多い。研修生活で一番苦労しているのは言葉や文化の違いだと話すが、「困ってはいるけれど、楽しんでいることでもあるんです」と笑う。

試走に向かうブラジル人の女子選手と小田島梨絵さん試走に向かうブラジル人の女子選手と小田島梨絵さん
WCCチームのメカニックと話す。このときは洗濯用石鹸を探していたWCCチームのメカニックと話す。このときは洗濯用石鹸を探していた

帰国後の青写真

 「日本へ帰ってからは、子どもたちを中心に、スポーツを通じた人間育成を一番やりたい。ヨーロッパの子どもたちのマウンテンバイクレースには、ゲーム性があり、そのなかでスキルを磨く障害物競走みたいな取り組みがいっぱいあります。日本のマウンテンバイクイベントでもそのようなコースを作らせてもらって、子どものうちにスキルを身につけて、ジュニアくらいになったときは、もうスキルは問題なく、あとは体力をつけるだけという状態にできたら、もっと強い日本人選手が生まれるんじゃないかなと、そんなことを考えています。

WCCの大きなバンを運転する。何でもオールマイティにこなすことが自転車チームのスタッフには求められるWCCの大きなバンを運転する。何でもオールマイティにこなすことが自転車チームのスタッフには求められる

 強い日本に関心があるし、若い世代に興味がある。子どもたちへの指導を通じて、それが金メダルにつながったらいいと思います。世界の頂点にいけなかったのが、自分のやり残したことであり、自転車界に残っている理由でもあると思うから」

 小田島さんの研修期間の残りはあと1年。今後もヴェロクラブ・モンテタマロでの研修を励みながら、UCIやWCCのトレーニングや研修にも積極的に参加していきたい―と話す。彼女の“研修”は、形式にとらわれたものではない。強い好奇心と軽いフットワークを生かして、世界とのコネクションを築きながら、生きた現場で指導者としての技量を磨く毎日を送っている。

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