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“自転車革命都市”ロンドン便り<8>ロンドン市が主導の自転車施策 自転車地図の無料配布や2万人規模のイベントも

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 ドスン、と分厚い包みが玄関のポストに届き「何か通販で買ったっけ?」と開けてビックリ。カラフルに色分けされたロンドンの自転車地図が十数冊入っていました。その1週間ほど前に、ロンドン交通局に電話で送付を頼んでいた地図でした。「タダでこんなに立派なものが!? ロンドン市は自転車に本気だな」と感銘を受けたのは、2002年頃のことでした。

最新版の地図を再び送付してもらったときの写真。地区ごとに分かれたロンドンの詳細な道路地図に、自転車レーンが整備されている道、自転車レーンはないけれどクルマが少なくて自転車で走りやすいおすすめの裏道などが塗り分けされています。自転車店の印もあるので、パンクしたときなどにも便利最新版の地図を再び送付してもらったときの写真。地区ごとに分かれたロンドンの詳細な道路地図に、自転車レーンが整備されている道、自転車レーンはないけれどクルマが少なくて自転車で走りやすいおすすめの裏道などが塗り分けされています。自転車店の印もあるので、パンクしたときなどにも便利

 ロンドン交通局のサイトを見ると、自転車地図はひとり6冊までなら無料でもらえると2014年現在は記載されています。ロンドン全市が14冊でカバーされています。もともとは自転車NGOの人たちが作っていた地図を、ケン・リヴィングストン前市長が採用。市の予算で市交通局が印刷・配布するようになったのだそうです。

 連載の第3回で、ロンドンの自転車革命の要素は3つに分けられるとご紹介しました。今回はその「(1)政治行政のイニシアチブ」について、自転車に乗る人のためのサービス面での具体例を用いて少し詳しくご紹介したいと思います。これが、同じ首都の東京と比較して、いまもっとも違うところだと思うからです。

市内でじわじわ浸透

2004年に撮影した、地下鉄構内に貼られていた「自転車に乗って健康になろう」と呼びかけるポスター。ロンドン市交通局のいわば自社広告。「地下鉄運営をする組織が自転車を推進するんだ!」と驚いた2004年に撮影した、地下鉄構内に貼られていた「自転車に乗って健康になろう」と呼びかけるポスター。ロンドン市交通局のいわば自社広告。「地下鉄運営をする組織が自転車を推進するんだ!」と驚いた

 わたしが、「ロンドンの政治や行政が本気で自転車をプッシュしたいと思っているのかも」と街角などで感じるようになったのは、2000年頃から。結果的に自転車促進の一助となった、クルマの混雑税制度(※1)が検討され始めた頃のことでした。そしてそれは、「自分が市長になったらロンドンの交通予算の1%を自転車の環境整備に充てる」と公約したリヴィングストン氏が市長に当選した年のこと。

 件の地図に続いて、ロンドン名物の地下鉄「チューブ」の中で「自転車に乗って健康になろう!」というポスターを見かけたり(東京で想像できますか?)、通勤のために自転車を購入すると自転車代が最大半額になる「サイクル・トゥ・ワーク制度(※2)」を知らせる雑誌広告などが増えてきました。

※1 都心の渋滞緩和、大気汚染緩和などを目的に2003年にスタートした制度。現在は都心の一定エリアに入るクルマは、バス・タクシー、身障者用車などを除き、配達の営業車などもすべて基本的に1日11.5ポンド(2000円)を支払わないといけない。エリア内居住者は割引が受けられるが、クルマを車庫から動かした日は必ず課金されるという厳しい制度になっている。
 
※2 厳密には、「通勤で使うことを条件に、被雇用者が雇用者に合計1000ポンド以内で希望の自転車とヘルメットなどの装備を購入してもらい、代金を12ヶ月か18ヶ月のローンで返済する。そのローン分は所得税控除できるので、結果的に自転車代が安くなったことになる」…という非常にややこしい仕組み。国税での施策なので、ロンドンだけでなく英国全土が対象。

具体策に登場した無料レッスン

市内の自転車レーンも、この10年のうちに次第に充実してきた。ここは以前はバスのみで自転車は通行禁止だったが、自転車も通れるように変わった市内の自転車レーンも、この10年のうちに次第に充実してきた。ここは以前はバスのみで自転車は通行禁止だったが、自転車も通れるように変わった

 当時のロンドンは、日本と違って自転車がとてもマイナーな存在でした。自転車が苦手な人が多かったことから、子どもはもちろん、大人向けの無料の自転車レッスンも区の補助で始まりました。

 レッスンは民間の自転車インストラクターが行い、その料金は区から支払われます。現在でも、区によって条件は多少違うものの、わたしが住む区で調べたところ、路上レッスン2回までは無料でした。完全な初心者向けには、路上レッスン前にさらに乗り方を教わることもできるとか。その際の自転車も無料で借りることができます(自分にも乗れるとわかるまで自転車を買いたくない人が多いため)。

 さらに2005年頃には、自転車通勤をしてみたいが自信がないという人のために、毎週金曜の朝、周辺の町からロンドン市中心部に向かうグループライドが立ち上げられ、インストラクターの先導で通勤するという無料プログラムまでありました。これはかなり気がきいているなぁと感心したものです。

 もちろん路上の自転車レーンもこの間にじわじわと増えていきました。最初は幅が狭かったり、いきなり消えたり現れたりと危ないレーンが多かったものが、年を追うごとに幅が広くペイントし直され、走りやすく変わってきたことも印象に残っています。

大規模ライドイベントと大型投資

 そしてここでまた勢いがついたと感じたのが、2007年に始まった、ロンドン都心の一部の道路を1日自転車専用にして市民に解放するイベント「ロンドン・フリーホイール」でした。バッキンガム宮殿の前やテムズ川沿いの道からクルマが消え、数万人単位の老若男女が自転車で練り走るさまは壮観。これもロンドン市が主催です。

「ライドロンドン」2007年にスタートし、2013年からは世界最大規模のセンチュリーライドとプロによるレースも加わって、2日間の大イベントになった(2010年撮影)「ライドロンドン」2007年にスタートし、2013年からは世界最大規模のセンチュリーライドとプロによるレースも加わって、2日間の大イベントになった(2010年撮影)

 このイベントは2013年からは「ライドロンドン」という名前に変更され、子どもも楽しめる都心のもののほかに、隣の県にまたがる160kmのセンチュリーライド、同じコースでプロによるUCIワンデーレース、クリテリウムなども追加され、2日間の自転車祭りに成長してきています。ロンドン市としては、2万人弱が参加するこのセンチュリー・ライドを、ロンドン・マラソンのように世界的な目玉イベントに育てていきたいようです。

 言わずもがな、すでに有名な公共自転車「バークレイズ・サイクルハイヤー」、スーパー自転車レーン「スーパー自転車レーン(サイクル・スーパー・ハイウェイ)」など大型の投資もありました。

まだ試験的に数箇所だけだが、ロンドンの路上に自転車用のポンプが登場し始めている。イタズラされにくい頑丈なつくり。これはぜひ増やしてほしい!まだ試験的に数箇所だけだが、ロンドンの路上に自転車用のポンプが登場し始めている。イタズラされにくい頑丈なつくり。これはぜひ増やしてほしい!
公共自転車「サイクルハイヤー」のICチップ入り鍵と附録の地図。自転車を借りられるステーションの位置が赤い丸印で表示されている公共自転車「サイクルハイヤー」のICチップ入り鍵と附録の地図。自転車を借りられるステーションの位置が赤い丸印で表示されている

『冬も自転車で頑張るガイド』の配布

「Catch up with the bicycle(自転車にハマろう)」という夏のキャンペーン。このポスターでは自転車のフレームが「フリーダム(自由)」という文字になっている「Catch up with the bicycle(自転車にハマろう)」という夏のキャンペーン。このポスターでは自転車のフレームが「フリーダム(自由)」という文字になっている

 ロンドンでのこの十数年を思い出せばまだまだ出てきます。自転車通勤をする人が目に見えて増えてきたゾ、という2008年頃の秋には、暖かい服装やライトなどをアドバイスする『冬も自転車で頑張るガイド』が無料で配布され、市の人間的な配慮を感じました。また夏のいい時期には、自転車の楽しさを伝えるポスターや動画のキャンペーン「Catch up with the bicycle」が2009年以来続いています。

 今年の冬は、クルマのドライバーと自転車ユーザー両方に、お互いの危険を避けるためのキャンペーン「安全のコツ」から、新たに抜粋ポスターが作成されました。市内の自転車店、自動車修理工場、タクシー会社、役所窓口などいろいろなところに貼られているのを見かけました。

夏にせっかく自転車通勤を始めた人たちが、冬を前にやめてしまわないように、適切な装備をすれば冬も快適であることなどを説明するリーフレット。地下鉄駅の窓口に置かれていた夏にせっかく自転車通勤を始めた人たちが、冬を前にやめてしまわないように、適切な装備をすれば冬も快適であることなどを説明するリーフレット。地下鉄駅の窓口に置かれていた
ロンドン市内のハックニー区が2014年に行っている安全キャンペーン。サイクリストには周囲のドライバーから見落とされないように、ドライバーには自転車を見落とさないように呼びかけているロンドン市内のハックニー区が2014年に行っている安全キャンペーン。サイクリストには周囲のドライバーから見落とされないように、ドライバーには自転車を見落とさないように呼びかけている
「安全のコツ」キャンペーンのポスター。これはクルマのドアを開けるときには自転車に気をつけようと呼びかけるもの。タクシーを呼ぶための窓口に貼ってあった「安全のコツ」キャンペーンのポスター。これはクルマのドアを開けるときには自転車に気をつけようと呼びかけるもの。タクシーを呼ぶための窓口に貼ってあった

■ロンドン交通局の動画「安全のコツ」(Driver and Cyclist Safety Tips)

◇         ◇

 ロンドンは自転車にとって走りやすい街とはまだまだ言いがたいし、やってほしいことも山盛りあるわけですが、こういった政治や行政からの思いのある働きかけを見るたび、少しは安心できるし、自分も自転車を増やすための一助になりたいと真摯に思うというものです。

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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