パイオニア「ポタナビ」開発物語<上>「使って面白い」技術にこだわり

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アジア最大級の家電見本市「CEATEC」でも試作品が披露され、注目を集めた=2011年10月、千葉市美浜区の幕張メッセアジア最大級の家電見本市「CEATEC」でも試作品が披露され、注目を集めた=2011年10月、千葉市美浜区の幕張メッセ

 環境意識や健康志向の高まりで、空前の自転車ブームが巻き起こっている。東日本大震災後、通勤の手段として見直されているほか、ちょっとよその街へ遠出する「ポタリング」という言葉も耳にする。そんな中、日本の電機メーカーが自転車のハイテク化を後押しし始めた。3月末に発売されたパイオニアの自転車専用ナビゲーション「potter navi(ポタナビ)」は、テレビ事業の撤退で、成長分野への進出を託されたテレビ技術者たちが、再起をかけて生み出した力作だ。

 パイオニアには、社員が自由に新規事業のアイデアを提案できる「イノ玉(イノベーションの玉子)」制度がある。2009年に撤退を表明したテレビ事業に替わる新事業を見つけるため、「イノ玉」に対する経営陣の期待は膨らむばかりだった。

自転車好きが集まって

 そんな中、事業開発課の碓井純一課長をはじめ、自転車好きの5人が集まり始まったのが自転車ナビのプロジェクトだ。テレビ事業に関わっていた碓井課長らのチームは「テレビ事業撤退」のリベンジを果たそうと意欲を燃やしていた。

 「地図を立体表示しよう」「走行中の景色を撮影できるカメラを搭載してはどうか」。持てる技術を盛り込んだ超高級自転車ナビの構想がどんどん膨らんでいった。そして、とんとん拍子で計画がまとまり、1年半という異例のスピードで10年、事業化を判断する執行会議にまでこぎ着けた。

 ところが、役員らを前に胸を張ってプレゼンテーションした碓井課長らの自信はもろくも打ち砕かれた。ある役員から「これは本当に顧客目線なのか」という強烈なひと言を浴びせられたからだ。

 その執行会議で計画の出し直しを要求されて以来、開発チームはいばらの道を歩む。ある役員からは「普通じゃ、ここまで待ってもらえないよ」と、せかされる場面もあった。とはいえ、こうした経営陣からのプレッシャーも、この事業に対する社内の期待の大きさの裏返しであることは、碓井課長らにも痛いほど分かっていた。

 「顧客目線」を知るために、マーケティング部門の担当者を交えて企画を練り直した。「手軽に自転車を楽しみたい」とするカジュアル層をターゲットに絞ることを決めた。そうなると、ヘビーユーザーが好むような高機能は必要ない。カジュアル層に必要な機能だけに絞ることで、できるだけコストダウンを図った。

「使って面白い」技術を詰め込む

 こうして固まったコンセプトが、製品名にも使用された「ポタリング」だ。ポタリングとは、英語で「ぶらつく」という意味だ。散歩感覚で自転車を楽しむことを念頭に置き、開発を進める方針にかじを切ったのだ。

 「顧客が求めるものとパイオニアらしさを両立させることに苦労した」と碓井課長は振り返る。役員が口にした「顧客目線」の重要性は十分理解しているつもりだった。一方で、自分たちの持てる技術を商品に詰め込むことが、技術力で世界を驚かせてきた「パイオニアらしさ」であるとも思えた。

自転車のハンドル部分に台座を装備すれば、あとはワンタッチでポタナビを設置することができる(パイオニア提供)自転車のハンドル部分に台座を装備すれば、あとはワンタッチでポタナビを設置することができる(パイオニア提供)

 しかし、「技術が高ければ売れる」という日本の電機業界が信じてきた神話は、もはや崩壊した。コスト競争力にたけた韓国や台湾の企業は「顧客が望む商品を安く」提供することで、日本メーカーを追い越していった。碓井課長が直面する課題は、日本の電機業界が抱える問題の縮図でもあった。

 開発チームがこの問題を乗り越え、商品開発に大きく前進したのは「使って面白い商品」にこだわることを決めた時だった。薄型テレビの色彩を鮮やかにみせる独自技術を打ち出し、プラズマテレビで先駆けたパイオニアの技術力の根底には「エンターテインメント」を追求する企業風土があったことを思い起こした。「使って面白い」技術を世の中に提供することが、「パイオニア(開拓者)」の原点であると考えた。

ネットと連携 カーナビの技術生かす

 新商品には使って面白い技術を詰め込んだ。最大の特徴は、携帯電話回線を使った通信機能だ。NTTドコモの通信網を利用して、天気や近くの人気スポットなどさまざまな情報を自動的に受信する。カーナビの開発チームが、NTTドコモと交渉を重ねていたことが幸いし、通信技術をポタナビにも転用することができた。すべてがうまく回り始めた。

 インターネットと連携し、走ったコースや距離なども、自動に通信、あらかじめ登録されている専用サイト「サイクルラボ」に記録され、情報を管理できる。

 メーンのナビ画面では、GPS(衛星利用測位システム)で、自車の位置を表示。「ちょっとそこの角を曲がってみようか」と自由に道路を選べる自転車ならではの楽しみを優先し、目的地を案内する際には、目的地と自車位置を結ぶラインが地図上に表示されるだけというシンプルなシステムを採用した。

地道に販売ルートを拡大

 流通網の開拓も大きな課題だった。自転車業界での販売ルートは皆無で、業界の商慣習すら分からなかったからだ。

 薄利多売をビジネスモデルとする家電メーカーの参入に、自転車業界からは「サイクルコンピューターの値下げ合戦につながるのでは」という拒否反応もあった。それでも直接、自転車代理店を回り、地道に営業を重ね、販売ルートを広げている。

 パイオニアの小谷進社長は昨年10月の商品発表記者会見で「最低でも売上高100億円規模にしないと成功といえない」と述べ、テレビに代わる成長事業への期待をにじませた。15年度までに年間100億円の売り上げを達成するという目標に向けて、開発チームの挑戦はこれからも続く。

パイオニアの「potter navi(ポタナビ)」
ナビゲーション機能を搭載した世界初のサイクルコンピューター。本体のほか、車輪の回転数を感知するセンサーや設置部品が付属し、想定価格は3万9900円。NTTドコモの回線を利用した通信料は2年間無料。有効期限後は、月額数百円で継続的に利用できるとしている。自転車に乗って数キロ~数十キロを散策したいという需要を狙う。インターネットと連動し、テレビ番組で紹介された注目スポットや観光地などの名勝旧跡などを案内する機能も持つ。

SankeiBizより)
<下>“ゆるさ”が売り、顧客の声を反映

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