RENの「自転車のススメ」<10>鈍行益田行き、2日目はちょっと寄り道 出雲大社や廃線跡、サイクルトレインで極楽旅
東京から島根県益田市まで、「青春18きっぷ」を使って2日間の鈍行旅。初日は17時間列車に乗り続け、東京から兵庫県豊岡市まで移動。夜が明けて、遥かなる乗り鉄の旅はまだ続きます。今日も元気に「出発進行!」
2日目はディーゼル車で山陰路へ

前夜に泊まったオバケが出そうなホテルは、フロントで「すみませーん!」と何度呼べどもスタッフは出てこず、鍵をカウンターに置いてチェックアウト。接客してくれた人は、もしかして幽霊だったのかもしれない…。電気をつけたまま、とても浅い睡眠となり完全に寝不足ですが、今日も楽しい乗り鉄の時間が始まります。
本日乗車の最初の列車は、豊岡駅を07:49発。乗り継ぎのダイヤの関係で少しゆっくりした朝となり、この時間なら駅の売店もオープンするので朝食を購入できます。助かりますね。
ホームにはキハ47が「ガラガラ…」とエンジン音を響かせて停まっています。
初日は電車に乗って電化区間を走ってきましたが、2日目はローカル色が濃い非電化区間からスタート。ディーゼル車で単線の山陰路に向け出発です。



旧型の鋼鉄製のボディはスプリングで支えられていて、「ポワンポワン」と揺れが収まらない。山陰本線は畑、林の中を進み、ますますローカル色を濃くする。
線路は段々と岩肌が目立つ海岸沿いに近づく。鉄道を敷くのに大変苦労しそうな地形だ。切り通しやトンネルで標高を稼ぎ、鎧駅と餘部駅の間、山陰本線の見所の1つである余部鉄橋に差し掛かる。
絶景の余部橋梁 鳥取を行く

赤い鉄橋と眼下の街並み、そして真っ青に広がる日本海という構図は、鉄道ファンで知らない人はいないかもしれません。
初代の橋は1912年(なんと!明治45年)に架けられ、98年間風雪に耐えてきました。長らく親しまれてきましたが、老朽化が進み2010年に鉄筋コンクリート橋に架け替えられました。ですが車内からの景色は「ハッとする高さの眺め」で、これは昔と変わりません。京都方面から乗車した際は、進行方向右側の窓がオススメです。是非、海側の席を確保してくださいね。
車内に響く「ギッギッ」と軋む音。ゆりかごの様な心地よさです。最高に気持ち良く、幸せな時間…。
9:58、景色が良いのであっという間に終点の鳥取駅に到着。
次は10:17発、3421k 米子行き「とっとりライナー」、高速運転に対応した121系に乗車します。
「おお!広い!」。グリーン車より広い足元。こんなに広いボックスシートがあるなんて! この車両に実際に乗らなければ、知ることができませんでしたね。初めての場所、初めての車両に乗る楽しさです。
高速化事業が完了した路線と車両は、電車と変わらないスピードで走ります。しかし米子駅には、定刻11:54から4分遅れで到着しました。
まさかの乗り遅れ…

ワンマンカー故の自動放送は、乗り換え案内の情報量の乏しさがネックです。そして、とっとりライナーの到着が遅れたせいか、ホームの電光掲示板では乗り継ぎ列車の案内が消えていました。
「ん?あれ?」と混乱…次の電車はこれで良いんだよな? ところが、キョロキョロしている間に向かいのホームの電車が無情にも出発。
「ええーそんなー(泣)」
まさかの乗車ミスが発生。

幸い、後続の特急列車「やくも」に乗車できます。しかし青春18きっぷの規約外となってしまうので、乗車券1140円と特急券1180円を車内で購入しました。合計で2320円は、青春18きっぷの1日乗り放題分とほぼ同額、悔しい…青春18きっぷのコストパフォーマンスが際立つぜ!
悔しさを噛みしめて乗車した「やくも」ですが、さすがは振り子式特急列車。カーブの内側に車体が倒れ、これまでの苦労は何だったのだろうというスピードで疾走し、13:35に出雲市駅へ到着しました。
自転車そのまま電車に乗って
出雲市といえば、出雲大社! 日本中の神様が集まる場所としておなじみですね。

暦の「神無月」は、あちらこちらにいる神様が出雲に出掛けている月のことだそうです。ちなみにこのとき、出雲だけは「神在月」(かみありづき)と呼ぶとか。そんな神聖な場所に行かない訳にはいきません。もちろん自転車を使って! ひたすら列車による輪行ばかりしてきましたが、やっと自転車に乗りますよ(笑)
しかし、まさかの天候悪化。遠ざかっているようですが、雷も鳴っています。パラパラと降る雨…レインウエアに身を包んで自転車を組み立てます。
出雲大社の近くまでは、地元の鉄道会社である一畑電車に乗車。一畑電車は都心部では考えられない、電車に終日自転車を持ち込める「レール&サイクル」というサービスを提供しています。持ち込み料金は一律300円かかりますが、車内には自転車駐輪スペースが設けられ、固定用のゴムバンドが備え付けられています。



「おお、これはいい!」
サイクリストなら涙を流して喜びそうなサービスのおかげで、楽々、出雲大社駅へ到着。だが土砂降り…日頃の行いが悪いのか、神様に嫌われたのか?
趣のある旧大社駅から、線路跡を駆け抜ける

広い出雲大社を散策するのは、最終目的地に辿りつけない可能性が出てくるのでまたの機会に。雨の日はパンクのリスクも高くなりますし…。境内に向き一礼し、気をとりなおし「JR大社線」廃線跡を目指します。
参道を下って行くと、重厚な木造建築の「大社駅」が現れます。この駅舎は大正時代に建てられた2代目で、1990年に路線が廃止された後も、ホーム、線路、掲示板が当時のまま残されていて、ホームにはD51形蒸気機関車も。完全に時が止まっています。
そして出雲市駅~大社駅間の7.5km。かつて線路が敷いてあった跡は、自転車道として整備されています。比較的近年まで列車が走っていたので、道の脇にはホームや保安機器がそのまま残っています。鉄橋もほぼそのままです。



大粒の雨に打たれながら目を瞑る。ここを走っていたであろう汽車の音を想像すれば、短いながらの時間旅行…
『鉄分チャージ!』
タイムスリップしていて時間が無くなってきました(笑)。先を急ぎましょう。出雲市駅に戻り、再び自転車を輪行袋にパッキングします。
黄昏の山陰路 夕焼けの美しさに感動
出雲市駅から先は、運転本数がグッと減ります。特急列車を除けば、走るのは一日にわずか数本。本日中に益田へ着かなければいけません。16:14発の3457D、快速アクアライナーに乗車します。



寝不足に雨のライドが重なり、疲労度は高い…そこで、深い眠りのワープ航法。気がつけば17:48浜田駅へ到着です。
さて、最後の列車、益田行きの18:02発、353D各駅停車に乗車です。

「ちょっと大きなバスみたい…」
初めて乗車するキハ120形の可愛らしい姿に感動。ローカル線用に作られた車体は16mほどの長さで、通常のJR在来線の車両長20mに比べて小ぶりです。国鉄全盛時に作られた長いホームには不釣り合いな姿に、親近感が湧きます。
ですが、比較的新しい車両。運動性能は高く、海岸沿いのクネクネと連続したカーブと登坂をとても力強く走ります。
先ほどまでの雨が空気中の塵を落とし、田舎の空気をより澄んだものにしています。車内に乗車していても、その清々しい空気を感じるほどです。
そして夕刻。日本海に日が沈み、西の空が真っ赤に染まります。私がこれまで見たことのない美しい赤。都心部ではこんなに綺麗な夕陽は見られない! きっとここまで頑張って列車に乗ったご褒美でしょう。
ついに益田へ! 楽しい旅はまだまだ続くよ
人生で一番列車に乗車した2日間が、いよいよ終わりを迎えます。18:50、ついに、ついに島根県益田駅に到着しました。
「やっと着いた!」という感覚と、「終わってしまったか…」という気持ちが混ざる不思議な感覚です。
でも、まだ終わりではありません。翌日が「益田 I・NA・KAライド」本番! 列車の旅から自転車の旅へ。楽しい時間はまだ続くのです。
滑走路を疾走する驚きと喜び 「益田I・NA・KAライド」でネオ・田舎を堪能 →

数々のCM・雑誌・ファッションショーで活躍するトップモデル。08年より本格的にスポーツサイクルに乗り始める。毎月発行される自転車雑誌に見ない月はないというほどの“乗れるモデル”。日本マウンテンバイク協会公認インストラクター。特技はウィリー(映像を見る)。身長188cm、体重74kg。東京都在住。オフィシャルブログ「REN’s World」。取材のお問い合わせは info.studioren@gmail.com まで