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“自転車革命都市”ロンドン便り<7>クルマvs自転車の最終戦争? 10年で3倍増の自転車は「もはや道路上のマイノリティではない」

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 これまでもお伝えしてきているように、急激なペースで自転車ユーザーが増えてきているロンドン。ついに市交通局も公にその数が「過去10年で3倍に増えた」という表現を使うようになりました。つい先日は新しい道路プラン、「自転車クロスレイル」の構想も発表されたばかりです。

9月3日にロンドン市が発表した「自転車クロスレイル」から、国会議事堂前の大きなラウンドアバウト周辺の想像図。自転車レーンを対面通行で中心側に持ってきているので、歩行者と自転車のラウンドアバウトからの出入りはややこしそう ©GLA9月3日にロンドン市が発表した「自転車クロスレイル」から、国会議事堂前の大きなラウンドアバウト周辺の想像図。自転車レーンを対面通行で中心側に持ってきているので、歩行者と自転車のラウンドアバウトからの出入りはややこしそう ©GLA

10年で1600億円相当の自転車予算

ロンドンの朝の自転車通勤風景。スピードに乗ったサイクリストが次々に自転車レーンを通過していくロンドンの朝の自転車通勤風景。スピードに乗ったサイクリストが次々に自転車レーンを通過していく

 2014年4月の調査では、ラッシュアワー時における都心の主要道路で通過車両のうち最高64%が自転車、テムズ川にかかる各橋で半数~62%ほどが自転車であることが判明。車両別分類でクルマやトラックを抜いてダントツで数が多いこともわかりました。都心の計測スポット164カ所の平均でも、およそ4台に1台が自転車だった(終日だと16%)ということです(Central London Cycling Censusより)。

 撮りたてホヤホヤ、9月22日朝の自転車通勤風景の動画をご覧ください。

 ロンドン市長ボリス・ジョンソン氏も、「もはや自転車は道路上の少数派ではない!」と、自身が今年発表した10年で1600億円相当の自転車予算の正当性を主張しています。

欧州最長の「自転車クロスレイル」プラン

9月3日にロンドン市が発表した「自転車クロスレイル」の想像図。いまは通るのも命がけな気分の立体交差路にも隔離された自転車レーンができるのは心強い ©GLA9月3日にロンドン市が発表した「自転車クロスレイル」の想像図。いまは通るのも命がけな気分の立体交差路にも隔離された自転車レーンができるのは心強い ©GLA
立体交差の想像図と近い地点から眺めた現在の様子。現在は自転車にとってあまり走りやすい状態ではないのでそれほど自転車交通量は多くない立体交差の想像図と近い地点から眺めた現在の様子。現在は自転車にとってあまり走りやすい状態ではないのでそれほど自転車交通量は多くない

 そしてその目玉として今月発表されたのが、隔離された自転車専用レーンとしてはヨーロッパ最長の約30kmという新しい道路プラン、通称「自転車クロスレイル」です。いまロンドンではクロスレイルという都心の地下を東西に貫く鉄道の大工事が進んでいるので、それに匹敵するインパクトのある自転車の道であるという意味でこのニックネームがつけられたのでしょう。

 自転車が対面通行になっていることや、交差箇所など細かな始末がまだ粗いようなので、自転車交通にふだんから意識のある人なら「あれっ、大丈夫かな」と思う部分もあるイメージ図ですが、それでもこれだけ大胆な敷設計画に、新聞、交通専門家、自転車NGO、交通ブロガーなどロンドンの“自転車交通御意見番”はまずは拍手で歓迎しました。

 とはいえロンドンの自転車乗りは、ボリス市長の自転車政策はいつも華々しく打ち上げられて報じられるものの、あれよあれよという間に尻つぼみでガッカリという苦い経験を重ねてきています。2009年に話題を振りまいたスーパー自転車レーンも、12本の予定がいまだに4本で、残りも着工目処がはっきりしないありさま。

 今回の自転車クロスレイルも発表された途端、ロンドンの下水道会社が先月発表した巨大下水パイプの敷設工事が始まると作ったばかりの自転車専用レーンのあたりを掘り返すことになり、税金が無駄になってしまうという指摘が。大きな拍手をした自転車界は、せっかくのこの気運が絶たれないようどうすべきか、しばし考えているような静けさです。

自転車通勤、気分は群れの中のイワシ

スーパー自転車レーン(サイクル・スーパー・ハイウェイ)の朝の風景。けっこうなハイペース!スーパー自転車レーン(サイクル・スーパー・ハイウェイ)の朝の風景。けっこうなハイペース!

 わたしも久しぶりに朝8時台の通勤ラッシュのロンドンを走ってみたのですが、信号待ちで作られた自転車集団の中に入ってしまうと、まるでロードレースのプロトンの中、あるいは群れの中のイワシ気分。“群れ”が流れるときの平均スピードは時速20~25kmと速めなのが現在のロンドンの特徴です(これは今後下降するでしょう)。

 仲間に囲まれているのでクルマのドライバーに見落とされる不安感が小さい一方で、線を引いただけの自転車レーンからはみ出しがちな自転車にイラついて空ぶかしする業務用バンがいたり、自転車の流れが途切れず左折できないとホーンをけたたましく鳴らす超高級車がいたり、自転車に敵意丸出しのドライバーが増えているのも現実です。

 正義がどこにあるかはともかく、交通問題などに考えを巡らせることもないドライバーからすれば、急に自転車がウジャウジャワラワラと増え、その中には頼りなげな自転車通勤初心者もいれば、気分だけメッセンジャーな乱暴なサイクリストもいるので、イラつく気持ちはわかります。

向かうは「歩行者>自転車>クルマ」という交通文化

信号待ちで自転車が列の先頭に出ようとするので(それは推奨されている)、こんな状態に。自転車の数が一定以上多くなれば、レーンを分けるのは必須なのかもしれない信号待ちで自転車が列の先頭に出ようとするので(それは推奨されている)、こんな状態に。自転車の数が一定以上多くなれば、レーンを分けるのは必須なのかもしれない

 ロードバイクの仲間からは、郊外にクラブライドに出かけた際に危険を感じたという話も後を絶ちません。郊外の富裕層の年配男性のクルマに邪魔だと怒鳴られたり、建設作業車のドライバーがニヤニヤしながらわざとセンターラインを越えて脅してきたり。こういうことが気のせいでなく増えてきているのを見ると、「クルマvs自転車の最終戦争」状態に入ってきているのかなと思うこともあります。

 「戦争」などと物騒で嫌な表現ですが、自転車という歴史のある乗り物が新しい交通モードを作り出していることに対して、イギリス社会がどう受け入れて活用していくのか、いままさに分水嶺を越える胸突き八丁にあるような気がしています。この流れならば、この先確実に自転車が勝つでしょう。とはいえクルマがなくなるわけでももちろんなく、「歩行者>自転車>クルマ」という交通文化ができていくのだと思います。

 その日までわたしたち自転車乗りは、クルマに殺されないよう注意しつつ、仲間をさらに増やし、行政や政治やマスコミやNGOに意見や支持を届け、日々この過酷な都市をサバイバルすべし――ロンドンの自転車乗りひとりひとりが社会的活動家に見える今日このごろです。

(文・写真 青木陽子 / Yoko Aoki )

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「Blue Room」を更新中。

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