若手を育てつつ頂点を目指す29歳「世界のレベルをしっかり把握できた」 トライアル世界一を目指す寺井一希インタビュー

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 自転車のトライアル競技は、コース内の障害物を足を着くことなく通過していくもので、自転車でジャンプをしたり飛び降りたりするアクションが見物だ。その日本の第一人者、寺井一希は昨年の世界選手権で3位に入賞。世界チャンピオンの証し・アルカンシェルを目指している。しかし今年8月31日〜9月6日かけて行われたMTB・トライアル世界選手権ノルウェー・リレハンメル大会では、予選落ちという残念な結果となった。世界選手権の感想や、トライアル競技の魅力と現状、そして次の大会へ意気込みを語ってもらった。(インタビュー 中尾亮弘 / 写真 中尾亮弘、JBTA)

国内トライアル界ではトップのテクニックを持つ寺井一希国内トライアル界ではトップのテクニックを持つ寺井一希

 世界にはUCIとBIUと二つのトライアル競技主催団体があり、日本は今までBIUのトライアルがメーンだったが、2012年から国内の新団体JBTA(日本自転車トライアル協会)が発足し、UCI-JCFに加盟した。寺井はBIUとは異なるUCIの競技ルールにおいて、20インチクラスで2012~14年度にかけて連覇を継続中。26インチクラスも2014年に制覇し、国内では敵無しの存在だ。世界選手権は2012年の6位、13年は上位のドーピング判定により繰り上がりの3位という快挙を達成。しかし今年の世界選手権では予選12位で決勝に上がれずに終わってしまった。

世界選手権のコースを走る寺井一希世界選手権のコースを走る寺井一希(写真・JBTA)

 ――今年の世界選手権に参加しての感想は?

 「一番感じたのは、海外選手の若手の急成長です。また、その勢いある波に乗り遅れ、パワーやテクニックの面でも出遅れた事を痛感しました。『去年感じた手応え』が、自惚れになっていたんだと思います。日本のトライアルのレベルは低く、世界へはいつでも挑戦者。必死にならなければ、すぐに置いていかれる環境にいる事をつくづく感じました」

26インチクラスの小松龍一世界選手権に出場した26インチクラスの小松龍一(写真・JBTA)
世界選手権のコースを観察するトライアル・ナショナルチーム世界選手権のコースを観察するトライアル・ナショナルチーム(写真・JBTA)
ウィメンクラスの水野真美世界選手権に出場したウィメンクラスの水野真美(写真・JBTA)

 ――繰り上がりで3位なった2013年の世界選手権の印象は?

 「去年は割と調子が良く、表彰台圏内を走っていました。しかし、ちょっと空回りして無駄なペナルティが1点、2点…テープが切れて5点となって、そのせいで同点結果だったものの競技内容で4位となりました。その後、3位だったベニート・ロスがまさかのドーピンク違反で失格となり、繰り上がりの3位。でも1点違えばもともと3位になれていたはずなので、悔やまれる大会でした」

 ――自転車トライアル競技における世界選手権エリート3位は日本人初ですね

 「あんまり実感はないですよね、棚ぼた過ぎて(笑)」

 ――2009年のBIUバイクトライアル世界選手権でも優勝されました

 「その時も、チャンプが脚を怪我してリタイアしての優勝でした。棚ぼたに縁があるのかなと」

昨年のトライアル世界選手権で繰り上がり3位、今年は惜しくも予選落ちとなった寺井一希昨年のトライアル世界選手権で繰り上がり3位、今年は惜しくも予選落ちとなった寺井一希

 ――競技歴は?

 「5歳の時に始めて、9歳で国内のBJU(現BCJ)のタイトルを取り始めました。特別昇格して年上の選手と競っていたので、なかなか勝つのは難しかった。中学一年生から海外のBIUレースに参戦して、エリートに上がるまでは年齢別のチャンピオンを取っていました。今年29歳で、今も継続して海外遠征を続けています」

 ――トライアルの面白さは?

 「正直、苦しい事の方が多い。トライアルは複数の選手が同じ時間帯に走る事はなく、コース1つにつき1人のライダーしか走れない。成績はトータルの争いだけれど、戦いは一人で歯を食いしばって黙々とやることになります。だから、競技特有の苦しさを乗り越えても、なかなかピンとこない。レース結果を見て最後に実感が出ますね。また、コースを走るイメージと失敗したときのリカバリーが出来ているかどうかで、自分の上達が分かりやすいです」

トライアル競技では高い所が飛び降りるシーンもトライアル競技では高い所が飛び降りるシーンも

 ――トライアル独特のバランス感覚の養い方は?

 「同じようなシチュエーションで数をこなしていても、上手くならない。いろんな場所で走ることが上達のコツだと思います。みんな自分の好きな状況でしか練習しないから、自分の嫌いな場面をいかにこなすかが上達の秘訣かな。高い所が苦手な人は、平地と同じ精度で動けることが大事。練習すれば上達します。ただ、小さな足場でも全力で跳べるとか、訓練が必要にはなりますね」

 ――練習場所は?

 「今だと山の沢に入ります。この時季は涼しいです。沢だとコケが生えていて滑り易いので、自分のバイクコントロールの精度を確認しやすい」

一緒に練習するよう若手選手に呼びかけ、指導している一緒に練習するよう若手選手に呼びかけ、指導している
昨年の遠征費用を作る為に作成されたチャリティーTシャツ昨年の遠征費用を作る為に作成されたチャリティーTシャツ

 ――日本のトライアルの現状は?

 「今までのBIUのルールとUCIのルールとの違いに馴染めない人もいます。ペダルの接触が駄目とか。両方合わせれば競技者人口はそれなりにいると思いますが、実際はどちらかの大会しか出ない人もいるので、寂しいですね。仲が悪いとは思わないですし、それぞれのルールには良い部分も悪い部分もあるので、楽しくやっていけばいいのになと思います」

 ――お正月のテレビ番組に出演されましたね。その時の反応は?

 「全国放送に出演すると知名度は上がりますね。いろんな人から『見たよ』と言われるのは嬉しいです」

 ――トライアル競技が認知されるためには?

 「トライアルは、狭い場所でもセクションの見映えがあるのが良いところですね。トライアルの大会は、まだ告知力が小さいので観客は少ないです。大会があるから見に行くというより、『通りすがりで大会があったら見てみよう』という状況だと思います。また日本人の国民性か、近い場所で開催されても見に行かない人が多い気がします。海外だと、すごい田舎で大会が開かれていても、街でご飯を食べていると『走ってただろう、家から近いから見に行ったよ』と言われることが多いのですが、日本ではそれがない感じがします。もっと告知ができたら、足を運ぶ人も多くなると思いますが、今の大会事務局は競技運営で手一杯ですから」

 ――小さい子供でトライアルをやりたい人がいたら?

 「自分は、自転車に乗る事は何でもトライアルに役立つと思っています。ちょっとした凹凸や坂道を上り下りするだけで楽しい。もっと上達したいと考えてから、専用の自転車を購入すればいいのです。荒れ地を走るのが基本で、岩を登ったりするだけがこの競技の特色ではありません。いきなりそこから始めると、楽しくないのでやめてしまう。みんなで集まって『あの坂をどこまで登れる?』くらいの取り組みが長続きできますね」

 ――競技の練習環境は?

 「正直、そういう環境はないので、自分がコツコツ作りたいと考えます。自分がレースで覚えて得たものは、なるべく人に伝わるようにはしてます。練習会をしようとする場合、仲のいい選手同士で住む場所が離れていると『場所はどうしよう?』と揉めますね。今回は関東寄りだけど、次はそっちにしようとか、こうして場が増えるといいです。今年は仕事(アルバイトの運送業)が忙しくて練習時間が確保しづらかった」

寺井一希寺井一希

 ――来年の目標は?
 「今年の世界選は予選落ちしましたが、正直、悔しくはなかったですよね。各国の若手が力をつけ、中堅の選手と競ってレベルアップをしている姿をみると、日本では有り得ない光景なので羨ましく思いました。そして日本の若手にも頑張ってもらいたいものです。自分が今年一年間やってきた努力では、とても決勝では走れないと思いました。初めて決勝をまじまじ見ることができ、世界のレベルをしっかり把握できたので、次の世界選手権への一年間、また頑張りたいと思っています」

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