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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<76>コンタドール総合Vの勝因とフルームの今後 ブエルタ・ア・エスパーニャ2014を総括

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 2014年最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャが14日に閉幕しました。世界中のロードレースファンを熱狂させたスペインでの3週間。その激しい総合優勝争いをいま一度振り返り、分析してみます。そして、次なるビッグレースは世界選手権。開幕を前に、有力選手たちの動向をしっかり押さえておきましょう。

タイムトライアルでリードを守りきり、総合優勝を決めたアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第21ステージ)<砂田弓弦撮影>タイムトライアルでリードを守りきり、総合優勝を決めたアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第21ステージ)<砂田弓弦撮影>

勝利への執念を見せたコンタドール

 今年のグランツールで最高の顔触れとも言われたブエルタは、期待通りの戦いとなった。それを演出したのは選手たちであり、まさに頂上決戦にふさわしいレースが展開された。

 前半の第9ステージの山岳で鋭いアタックをみせるなど、けがからの復帰戦とは思えない「まさかの快走」をみせてきたアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)は、その好調ぶりを見事に総合優勝へと結実させた。7月のツール・ド・フランスで喫した落車・骨折からの回復途上とあり、決して完調だったはずはないが、それでも勝利を収めて王者らしさを感じさせた。何より、総合優勝へ狙いを絞って以降、勝利にこだわる姿勢を崩すことはなかった。

 コンタドールの勝因を探ってみたい。なぜ、ツールでの負傷リタイアから約1カ月で勝利を収めるに至ったのか。

 レースを現地やテレビで観戦していた方は、コンタドールがフィジカル面で充実していたことを見て取れただろう。ツールを去ったのは第10ステージ。全行程の半分も走らずに大会を終えてしまったことで、それほど疲労は蓄積していなかったものと推察される。

コンタドールは山岳頂上ゴールでステージ2勝を挙げ、総合優勝を飾った(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第16ステージ)<砂田弓弦撮影>コンタドールは山岳頂上ゴールでステージ2勝を挙げ、総合優勝を飾った(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第16ステージ)<砂田弓弦撮影>

 至高のグランツールレーサーであるコンタドールは、例年、レース数を絞る傾向にある。それは3週間の戦いとなるグランツールでの勝利を目指し、体力の消耗を防ぎつつ調整を進めるための工夫だ。今季、コンタドールがブエルタより前に臨んだレースは、リタイアしたツールを含めて6大会。すべてステージレースであり、基本的に出場を望まないワンデーレースやクラシックは参戦していない。ツール総合優勝を狙うため、4月上旬のブエルタ・アル・パイス・ヴァスコ(バスク一周)以降は、6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネまで約2カ月間のブレイク期間があった。

 昨年のクリストファー・ホーナー(アメリカ、当時レイディオシャック・レオパード)にも当てはまるのだが、参戦する段階で「脚が残っている状態」であることは、ブエルタを制するうえで大きな要因を占めると筆者は見ている。ホーナーの場合は春に故障し、夏場のレースを回避した経緯があった。

 ここ数年、ツールとの連戦でブエルタを制した選手は存在しない。総合優勝しているのは、ジロ・デ・イタリアに臨んだ後に夏場は休養した選手、あるいはシーズンで唯一のグランツール出場がブエルタだった選手に限られている。それだけ選手たちにとって3週間の戦いは壮大であり、心身ともにすり減ることを示しているのだろう。何より、百戦錬磨のトッププロであっても、1、2月のシーズンインから秋まで走り続けることは相当なダメージとなるのが実態だ。

 レース展開に目を移そう。今大会のコンタドールは、第10ステージと早い段階でマイヨロホを手に入れたことが良い影響を与えたのではないか。

 一般論だが、リーダージャージを早々と獲得することは、総合優勝を狙う選手やチームにとって大きな負担になりがちだ。チームはメーン集団のコントロールを担い、重要局面ではエースを危険から守らなければならない。こうした動きがアシストの疲労につながり、勝負どころに臨むエースの動きを左右しかねない。

総合優勝の表彰でピストルポーズを見せるアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第21ステージ)<砂田弓弦撮影>総合優勝の表彰でピストルポーズを見せるアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第21ステージ)<砂田弓弦撮影>

 しかし今大会でのコンタドールは、けがからの復帰戦ならではの慎重さと、マイヨロホを守ろうという意識が、いい方向に噛み合っていた。骨折した右脚の状態もあってか、感覚に任せて攻撃を仕掛ける本来の走りとは少々違った様子が見られた。ライバルの動きをしっかりとチェックし、アタックは最小限の回数にとどめる。前回の当コーナーで「“手探りの走り”と的確な“読み”」と評した通り、ディフェンシブなスタイルで、これまでとは違うコンタドールを見たように思う。

 3週間をトータルで見通して走った結果が、総合優勝に体現された。勝利に対してどこまでも貪欲でありながら、自らが置かれた状況下でどのように走れば勝てるのかをしたたかに計算できる。31歳とベテランの域に達している彼だからこそ成し得た栄光であることは間違いないだろう。

総合2位に満足のフルーム 王座奪還に向けたシーズンオフへ

最終週は果敢なアタックを何度も見せたクリストファー・フルーム(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第18ステージ)<砂田弓弦撮影>最終週は果敢なアタックを何度も見せたクリストファー・フルーム(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第18ステージ)<砂田弓弦撮影>

 大会終盤でコンタドールと死闘を繰り広げたクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)。こちらもツールでの落車負傷の影響があり、本来の強さとは程遠い走りであったことは確かだ。それは本人も認めており、第2週までの苦戦から尻上がりに調子を上げていった点を収穫として挙げている。

 当初「昨年ツールを制したときのような強さは今のフルームにはない」と言ったコンタドールでさえ、マークする対象をアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)やホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)からフルームに切り替えたほど、ステージを追うごとに力強い走りが戻っていった。勝負どころでは集団前方を走ることが増え、アタックで多くのライバルを置き去りにした。本調子ではなかったものの、フルームらしさの片鱗は見せつけたと言えそうだ。それだけに大会前半の走りが惜しまれるが、本人は「後悔はない」とコメント。2015年シーズンに向けたウインタートレーニングの方向性が見えたことを喜んでいるという。

 今シーズンのフルームはいくつかのレースで苦しんだほか、喘息治療のための薬品使用によって思わぬ騒ぎに巻き込まれるなど、さまざまな面で浮き沈みが多いシーズンだった。2015年の王座奪還に向けてこの冬、どう立て直すかに注目していきたい。

未来に明るい光を灯した若手有望株の走り

 かつてブエルタは若手の登竜門的な位置づけでもあったが、近年はビッグネームが多数参戦し、コースの難易度も相まって、レースとしての進化が著しい。そうした中、今後に期待を抱かせる若い選手たちの走りも印象的だった。

勝負強い走りでステージ2勝を挙げたファビオ・アール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第14ステージ)<砂田弓弦撮影>勝負強い走りでステージ2勝を挙げたファビオ・アール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第14ステージ)<砂田弓弦撮影>

 コンタドール、フルーム、バルベルデ、ロドリゲスと続くトップ4の牙城を崩す勢いだったのは、ファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム)。総合3位となったジロを経て、積極性と勝負強さに磨きがかかったようだ。絶妙なアタックでステージ2勝。今年1年でグランツール3勝を挙げた。上位4選手が牽制する間隙を縫ってアタックを成功させた面もあるが、総合4位のロドリゲスとは1分23秒差。展開次第では逆転もあり得るタイム差だった。「ニバリ2世」とも言われる24歳は、これからグランツールの総合優勝争いに加わる選手となるだろう。

何度もアタックする姿が目立ったワレン・バルギル(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第15ステージ)<砂田弓弦撮影>何度もアタックする姿が目立ったワレン・バルギル(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第15ステージ)<砂田弓弦撮影>

 昨年ステージ2勝、今回も再三アタックを見せたワレン・バルギル(フランス、チーム ジャイアント・シマノ)は総合8位。ついに総合トップ10入りを果たした。こちらは弱冠22歳。今年のツールは、スプリンター主体のチーム方針によって出場がかなわず、悔しさを露わにしていたが、ブエルタでアピールに成功した。このところ活躍が続いているフランス勢から、また1人、グランツールで期待される選手が生まれた。

 同じフランス勢では、ロマン・シカール(チーム ヨーロッパカー)が総合13位に食い込んだ。2009年のロード世界選手権アンダー23で優勝。プロでの活躍が期待された「フレンチバスクの星」がいよいよ動き出した。

 そのほか、ステージ1勝を挙げ、一時は総合4位につけたウィナーアンドルー・アナコナ(コロンビア、ランプレ・メリダ)や、スプリントエースのジョン・デゲンコルブ(ドイツ、チーム ジャイアント・シマノ)のアシストとして長時間の集団牽引を担ったチャド・ハガ(アメリカ)など、総合上位以外でも評価に値する好走を見せる選手が多い大会だった。

世界選手権前哨戦 UCIワールドツアー北米2連戦結果

 UCIワールドツアーは、ブエルタ終盤戦と並行して北米2連戦が開催された。カナダ・ケベック州で開催されたグランプリ・シクリスト・ド・ケベック(9月12日)、グランプリ・シクリスト・ド・モントリオール(9月14日)は、今回初めて日本でテレビ中継され、注目度が一気にアップした。

2年ぶり2度目のグランプリ・シクリスト・ド・ケベック制覇を達成したサイモン・ゲランス。ゴール直前でトム・デュムランを逆転した<Photo: Orica-GreenEDGE>2年ぶり2度目のグランプリ・シクリスト・ド・ケベック制覇を達成したサイモン・ゲランス。ゴール直前でトム・デュムランを逆転した<Photo: Orica-GreenEDGE>

 レースは、サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が2連勝。大会創設から5年目で初めての連勝者となった。ケベックは、先に飛び出したトム・デュムラン(オランダ、チーム ジャイアント・シマノ)をゴール直前にかわして勝利。モントリオールは、アシストがトレインを形成しスプリント勝利へと持ち込んだ。いずれもゴール前は上り基調。得意とする上りでの加速で勝利を手繰り寄せた。

 難易度の高いアップダウンを含んだ周回コースで行われるとあって、間近に控えた世界選手権を見据えた有力選手たちが多数集結。さながら前哨戦の様相となった。その中で圧倒的な強さを発揮したゲランスは、一躍マイヨ・アルカンシエル候補の筆頭に名乗り出た。登坂力はもちろん、最近はピュアスプリンターとマッチアップできるほどスプリント力が高まっている点も見逃せない。

 両レースには新城幸也(チーム ヨーロッパカー)も出場。ケベックでは4人の逃げに乗り、しばしレース展開をリードした。この大会では山岳賞も争われ、逃げに乗った新城は有力候補となったが、最終的にデイヴィッド・タナー(オーストラリア、ティンコフ・サクソ)が獲得。新城は逃げ切りもかなわず、41秒差の69位でフィニッシュしている。なお、モントリオールは4分39秒遅れの84位。日本チームのエースとして臨む世界選手権に向け、最後の調整期間に突入する。

今週の爆走ライダー-アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 レースに出場すれば注目を一身に集め、その走りでファンを魅了する。アタック一発で世界を熱狂させられる、現在のプロトンで最も華のある選手だ。

 2007年のツール初制覇以来、この8年間でジロ1回、ツール2回、ブエルタ3回とグランツールを6度も制覇。このほかに、薬物陽性反応によって抹消されたジロとツールそれぞれ1回ずつの“幻の総合優勝”があり、本人は未だ優勝だと主張、それを信じるファンも多い。いずれにせよ、現役選手としてはプロトン最高のステージレーサーだ。

 実力もさることながら、人間性への評価も高い。チームメートの多くが「彼と出会えて良かった」と慕い、コンタドールをアシストしたいと望んでチームに加わる選手もいる。

 次世代育成にも力を注ぎ、ジュニアとアンダー23のチームを運営。スペイン国内のアマチュアレースでは、所属選手が次々と好成績を収めている。有望な若手の登場が望まれるスペイン自転車界だが、今まさに一時代を築いている自らの手で若手の底上げを図っているところだ。また、かつて脳腫瘍の一種である多孔性血管腫で生死の淵をさまよった経験から、「アルベルト・コンタドール財団」を立ち上げ、脳疾患患者の支援にも取り組んでいる。

穏やかな表情でインタビューを受けるアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第18ステージ)<砂田弓弦撮影>穏やかな表情でインタビューを受けるアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第18ステージ)<砂田弓弦撮影>

 レース内外での活動に幅を持たせることは相応の責任を伴うが、多くのファンを持つ自身にしかできないことを、ただただ真っ直ぐにやり遂げようとする姿勢こそが、彼の魅力なのだ。

 次なる夢は、同一年での“トリプルツール”達成だ。誰も成し遂げたことのない驚異の記録にチャレンジする日がやってくるのだろうか。彼なら、いつか本当にトライするかもしれない。そう思わせてくれるだけで、観る者を魅了してしまうのだから、コンタドールにはまだまだ老け込まれるわけにはいかないのである。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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