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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<75>コンタドールがブエルタ第2週で見せた巧みな走り フルームは「来年への準備」を強調

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 盛り上がりを見せるブエルタ・ア・エスパーニャは第2週が終了。山岳ステージが本格化し、総合優勝候補たちによる期待に違わぬ競演を楽しむことができました。さぁ、戦いはラスト1週。第2週目の戦いや有力選手たちの走りを分析しながら、第3週を展望していきます。

和やかに談笑するクリストファー・フルームとアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第12ステージ)和やかに談笑するクリストファー・フルームとアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第12ステージ)

“手探りの走り”と的確な“読み”が奏功するコンタドール

 まずは総合首位のマイヨロホを着るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)の走りから見ていこう。

 1回目の休息日明けとなった第10ステージ個人タイムトライアルで4位となり、マイヨロホに袖を通して以来、その座をキープし続ける。ツール・ド・フランスでの落車負傷の影響を感じさせない快走を連発している。

第10ステージの個人TT以降、マイヨロホをキープしているアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第13ステージ)第10ステージの個人TT以降、マイヨロホをキープしているアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第13ステージ)

 とはいえ、絶好調時の走りができているかと言えば、そうとは言い難い。アタックにいつものキレがあるわけではなく、ライバルを確実に置き去りにするほどの圧倒的なスピードではない。アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)やホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)といった、ゴール前でのスピードがある選手とのマッチアップでは、数秒のタイム差を付けられてしまうこともしばしば。それでも第2週目を終えて、総合2位のバルベルデに対して1分36秒のリード。少しずつ、ブエルタの頂点が見えるところまでやってきた。

 その要因として、2点挙げたい。1つ目は“手探り”の走りによって、無駄な動きが省かれていること。慎重に走っていると言うべきかもしれないが、あえて“手探り”という表現を用いたのは、本人が「1日1日を大切にしなくてはいけない」と現状を表現しているからだ。前述したように、絶好調であれば一発でレースを仕留めるだけの爆発力はあるだろう。しかし、けがなどでコンディションが読めない状況にあって、ただアタックを繰り返していては消耗してしまうだけである。ここまでの走りを見る限り、ベストタイミングでのアタックができなくても、レースの流れに合わせた攻守が生きている印象である。

バルベルデ、ロドリゲスとともに飛び出したコンタドール。後方のフルームを気にする様子が見てとれた(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第15ステージ)バルベルデ、ロドリゲスとともに飛び出したコンタドール。後方のフルームを気にする様子が見てとれた(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第15ステージ)

 もう1つは、ここへきてレース展開やライバルの動きなどの読みが合ってきていることが挙げられる。超級山岳コバドンガでの攻防となった第15ステージでは、自身を徹底マークするバルベルデやロドリゲスよりも、後方からマイペースで追い上げるクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)の様子を盛んに気にする様子が見て取れた。実際その通りだったとレース後に認め、フルームを引き離すためにバルベルデとロドリゲスとの協調を望んだとしている。同胞2選手からの同意が得られず、結局自らレースを展開することを余儀なくされ、ゴール前ではアタックを許す結果となったが、それ以上にフルームへのチェックの強化を重視した。

 それが実を結んだのが第16ステージ。チーム スカイが中盤以降にレースをコントロールしたおかげで、フルームのマークに集中できる展開だったこともあるだろう。終盤のフルームのアタックに難なく対応。その後しばらくはディフェンシブな走りを見せていたが、ラスト1kmで渾身のアタック。苦痛に顔を歪め、楽なレースではなかったようだが、調子が上がりつつあったフルームの動きに合わせた結果、それまで厳しいマークにあっていたバルベルデとロドリゲスも引き離す絶好の形となった。もちろん展開のアヤもあるが、勝負勘が冴えているところは見逃せないポイントだ。

集団コントロールにおいて高い評価を得ているティンコフ・サクソのトレイン(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第12ステージ)集団コントロールにおいて高い評価を得ているティンコフ・サクソのトレイン(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第12ステージ)

 ちなみに、前々回の当コーナーでコンタドールの集団内での位置取りについて触れたが、これに関連して、このブエルタにおけるティンコフ・サクソの集団コントロールは群を抜いているという評価が選手・関係者から挙がっているという。重要な局面に差し掛かると、決まってダニエーレ・ベンナーティ、マッテーオ・トザットのベテランイタリア人選手らがコンタドールを前方へと引き上げるが、そのタイミングやプロトン全体の統率力などは、他チームを凌駕しているそうだ。山岳でのアシストではライバルチームに劣ると見られていたが、ベンナーティらがここでも健闘。いま最も乗りに乗っているチームであることは間違いなさそうだ。

フルームは来シーズンを見据えた走りにシフト?

 いよいよエンジンがかかってきた感のあるフルーム。第16ステージでは、ブエルタのみならず現在のサイクルロードレース界における“2強”が自身とコンタドールであることを示すかのような走りを披露した。こちらもツールでの落車負傷の影響があり、コンディションは完璧とは言えないが、大会序盤の苦戦を思えば復調傾向であることは確かだ。

第1週に比べ復調の兆しを見せているクリストファー・フルーム(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第15ステージ)第1週に比べ復調の兆しを見せているクリストファー・フルーム(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第15ステージ)

 そんな彼だが、ブエルタ参戦の理由を問われ、「このグランツール(ブエルタ)を逃すと、半年以上ビッグレースから遠ざかることになってしまう。冬場のトレーニングに向けた足がかりとしてブエルタに臨んでいる」とコメント。この発言の真意は定かではないが、今回は体調的に総合優勝は難しいと考えているのかもしれない。もっとも、「結果を追い求めないわけではないが、それよりも来年への心身の準備をしたい」とも。ここでの走りは、ウインタートレーニングへのアプローチを模索する意味合いが込められているのだろう。

 第2週を終えて総合3位につけるフルームは、コンタドールとのタイム差1分39秒。逆転が不可能なタイム差ではない。ワンチャンスで大逆転もあり得るポジションに位置しているが、まずは総合2位バルベルデとの3秒差を縮めることが現実的なところか。いずれにせよ、あと数回は彼の攻撃的な走りが見られることだろう。

「キリスト教巡礼地を巡る旅」のゴールへ 第3週展望

 スペイン北部へと舞台を移したブエルタ第2週目からは、キリスト教巡礼路としてユネスコ世界遺産にも登録される「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」におおよそ沿ったルートが採用されてきた。そして残すはあと1週。閉幕地、ガリシア州サンティアゴ・デ・コンポステーラまでのカウントダウンが始まる。

 休息日明けの第17ステージは、今大会最後のスプリントステージ。山岳で耐えに耐えたスプリンターにとってはアピールするラストチャンスだ。ポイント賞ジャージのプントスをジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・シマノ)が着用しているが、彼を除くスプリンターの多くが、このステージ後に大会を離脱することも考えられる。

 第18ステージからは山岳3連戦。泣いても笑ってもここで勝負が決定づけられる。総合争いにおいてポイントとされているのが第20ステージ。超級山岳アンカレス峠が最後の砦となる。序盤からアップダウンが連続し、中盤以降2級、3級、1級とカテゴリー山岳が続く。そして、迎えるは登坂距離12.7km、平均勾配8.7%のアンカレスだ。

第20ステージで登場する超級山岳アンカレス。2012年はホアキン・ロドリゲスが制した(ブエルタ・ア・エスパーニャ2012)第20ステージで登場する超級山岳アンカレス。2012年はホアキン・ロドリゲスが制した(ブエルタ・ア・エスパーニャ2012)

 上り始めて3.5kmほど進んだところで最大勾配18%区間となる。以降は10%前後で推移するが、ラスト4kmを切って緩斜面ゾーンが出てくるなど、勾配は一定しない。ゴール前で再び急斜面を迎えるが、激坂と言うには若干物足りない印象。2012年大会の第14ステージでは、ロドリゲス、コンタドール、バルベルデが死闘を繰り広げているが、このときはステージ優勝のロドリゲスからコンタドール、バルベルデまでがそれぞれ5秒、13秒の差。よほど圧倒しない限り、このステージだけで総合タイム差を逆転するのは難しい。

 最大勾配15%を超えるカストロベ峠を終盤に2度通過する第18ステージ、ラスト15.5km地点の2級山岳モンテ・ファロ峠がキーとなる第19ステージと合わせ、3日間を一括りにした戦い方が求められそうだ。

 そして、サンティアゴ・デ・コンポステーラへと到着する第21ステージでは、10年ぶりに個人TTで大会が締めくくられる。距離は9.7kmと短いが、総合上位陣のタイム差が僅差であれば予断を許さない展開となる。ゴール地のカテドラル(大聖堂)前は石畳の参拝路となっており、最後の最後まで気を抜くことはできない。

 第2週目を終えた段階でのタイム差は、首位コンタドールから、総合2位バルベルデ1分36秒、同3位フルーム1分39秒、同4位ロドリゲス2分29秒。総合優勝争いは、実質的にこの4人に絞られたと見て良さそうだ。また、3分38秒遅れで総合5位のファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム)の健闘も光る。総合6位以下とは3分近い差があることから、後続にとらわれず、自身の上を行く“ビッグ4”の一角を崩すくらいのチャレンジを期待したい。

今週の爆走ライダー-ミケル・ヴァルグレンアンデルセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ティンコフ・サクソのスポーツディレクターで、デンマーク自転車界の至宝でもあるビャルネ・リース氏は、指導者となって以来その眼力の正確さも評価されている。近年では、ラファウ・マイカ(ポーランド)を2011年のシーズン途中にチームへ加入させ、そのままグランツールライダーへと育て上げたことが挙げられる。

ビャルネ・リース氏が惚れ込んだ、ミケル・ヴァルグレンアンデルセン(ツアー・ダウンアンダー2014)ビャルネ・リース氏が惚れ込んだ、ミケル・ヴァルグレンアンデルセン(ツアー・ダウンアンダー2014)

 そんなリース氏が次に惚れ込んだのが、ヴァルグレンアンデルセンである。アンダー23カテゴリー時代は、リエージュ~バストーニュ~リエージュU23で2012年、2013年と2連覇。2度とも圧勝劇を演じている。2013年はほかにも多くのレースを制し、今シーズンのティンコフ・サクソ入りは半ば既定路線でもあった。

 今シーズンは、プロ1年目ながらデンマーク選手権ロードを制し、8月にはツアー・オブ・デンマークで総合優勝。第5ステージの個人TTで得た貯金を生かし、翌日の最終ステージで大人数の逃げに潜り込んで勝利をたぐり寄せた。総合優勝を懸けての逃げ集団の牽引は圧巻だったという。

 出場を勝ち取った現在のブエルタでも、堂々とプロトンを牽引している。赤のデンマークチャンピオンジャージが一見マイヨロホと見間違えてしまうが、それだけインパクトのある走りを見せている証拠。リーダーチームとして、今大会随一のプロトンコントロールを見せるティンコフ・サクソを支える存在だ。

プロ1年目の弱冠22歳ながら、多くの大舞台でレース経験を積んでいるヴァルグレンアンデルセン(アムステルゴールドレース2014)プロ1年目の弱冠22歳ながら、多くの大舞台でレース経験を積んでいるヴァルグレンアンデルセン(アムステルゴールドレース2014)

 将来はグランツールでの総合成績を目指したいという彼。デンマークをはじめとした北欧勢は、男女ともにアンダー23やジュニアカテゴリーの強化が世界トップクラス。その“第一期生”とも言われるヴァルグレンアンデルセンに向けられる期待は大きい。彼の走りのひとつひとつが、未来ある後輩たちのモデルケースとなるはずだ。ブエルタで果たそうとしているプロキャリア最初の大仕事は、まもなく完遂する。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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