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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<73>フルーム、コンタドールの状態は? ダブルエースの真相は? ブエルタにまつわる注目の話題

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 ブエルタ・ア・エスパーニャ2014が開幕しました。例年以上の豪華な顔触れとなった今大会、どんな展開が待ち受けているでしょうか。序盤戦が進行中ということで、今回はブエルタ開幕前後に起こった注目の話題を集めました。レース結果や展開の分析は次回以降に触れるとして、今後の戦いに直結するかも知れない“あれやこれや”をまとめてみます。

静かな環境で再起を図ったフルーム

 ツール・ド・フランス第5ステージ、大会序盤のハイライトとされたパヴェ(石畳)区間を前に、度重なる落車トラブルで大会を去ったクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)。前日の第4ステージでも落車しており、両手首を負傷してのリタイヤで、後に骨折が判明した。

出走のサインに臨むクリストファー・フルーム(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第2ステージ)出走のサインに臨むクリストファー・フルーム(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第2ステージ)

 チームのデイヴィッド・ブレイルスフォードGM(ゼネラルマネージャー)をはじめとする首脳陣は、けがの影響を心配し、フルームのシーズン後半のスケジュールを慎重に検討していた。一方、当の本人はツールをリタイアした直後からブエルタでの復帰を宣言。その後のステージでリタイアしたライバルのアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)にも「ブエルタで会おう」とメッセージを送るなど、モチベーションに陰りは見られなかった。

 ツールで盛り上がるフランスを離れ、向かったのはアメリカ・カリフォルニア州。前々回の当コーナーでも触れた通り、温暖な気候のもとで休養と調整に励んだ。メディアに追いかけられることもなく、静かな環境でトレーニングを積むことができたのはプラスに働いていることだろう。ブエルタ開幕前のトレーニングで落車したとの情報もあるが、まずは大会序盤のステージを順調にこなしている。

どちらがエースかは選手に聞けば分かる?

 これまでのグランツールの歴史で、「ダブルエース態勢」にともなうチーム事情や選手間の確執、その他さまざまな事象は数知れず取り沙汰されてきた。記憶に新しいところでは、2009年のツール・ド・フランスに出場したアスタナにおけるコンタドールとランス・アームストロング、2012年のツールに出場したスカイ プロサイクリング(当時)におけるブラッドリー・ウィギンスとフルーム―など。見ているファンとしては話題に事欠かず、ちょっとしたハラハラドキドキが楽しかったりするものだが、当事者やチームメートにしてみれば緊張感に満ちた日々を送ることとなる。

 このブエルタでも、メンバー構成的にどちらがエースなのかが分かりにくいケースがいくつかある。いずれも、チームマネージャーに言わせれば「ダブルエースで臨み、ともに好リザルトをマークできればベストだ」とのこと。しかし実際のところ、いくら“2人のエース”に同等の実力があるにせよ、昨今のレースでともに総合上位へ送り込むのは至難の業である。

マイヨロホを着たアレハンドロ・バルベルデがスペイン海軍の強襲揚陸艦からスタート(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第3ステージ)マイヨロホを着たアレハンドロ・バルベルデがスペイン海軍の強襲揚陸艦からスタート(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第3ステージ)

 こうした場合、パワーバランスをはっきりさせるには選手のコメントを参考にするのが一番である。ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア)とアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)を据えるモビスター チームの場合、経験豊富なベテランのバルベルデが「エースはキンタナ」とかねがね口にしており、自身はアシストとして臨むと早くから宣言していた。

 BMCレーシングチームを引っ張るのは、こちらもベテランのサムエル・サンチェス(スペイン)とカデル・エヴァンス(オーストラリア)。この2人、ジロではエヴァンスがエース、サンチェスがアシストを務めたが、ブエルタでは役割が逆になる予定だという。と言いつつも、現地ジャーナリストは開幕時の両選手について「現状で調子が良いのはエヴァンス」と報じるなど、どちらが最終的に総合エースを務めるのかは予測できないのが実情のようだ。両者のグランツール時の傾向として、前半ステージで強さを見せるのがエヴァンス、ステージを追うごとに味を見せるのがサンチェスといったところ。さぁ今回はどうなるか。ちなみに、混戦の上りスプリントとなった第3ステージは、エヴァンス、サンチェスともにトップと同タイムでゴールした。エヴァンスがステージ6位、サンチェスは12位。ともに好調な様子だ。

コンタドールは「常に集団前方を走りたい」

 年々、複雑さと刺激を増しているようなグランツールのコース設定。これに対応すべく、各チームが危険回避の意識を高めていることは、レースを見ているファンなら誰もが感じていることだろう。スプリントステージでありながら、終盤に総合系チームがプロトンの主導権を握っているケースなど、数年前ならば考えにくい状況が起きている。

右ひざのテーピングが目立つが、痛みなく走れているというアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第2ステージ)右ひざのテーピングが目立つが、痛みなく走れているというアルベルト・コンタドール(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第2ステージ)

 ツールでの落車負傷を克服し、ブエルタ序盤で元気な姿を見せるコンタドール。右ひざに貼られたテーピングが痛々しいが、走りはいたって順調のようだ。本人も毎ステージ後、「痛みが出ないことがうれしい」と口にし、痛む場面を強いて挙げるとすれば「アイシングのときだけ」と述べるほどの余裕を見せる。

 今大会は総合成績は狙わず、第3週目でのステージ優勝を視野に入れているという。とはいえ、序盤ステージから姿を表さない日はないと言えるほど、随所でしっかりとした動きを見せる。前述のような危険回避が必要な局面では、1人ないし2人のアシストとともに集団前方をキープ。第3ステージの上りスプリント時には、ベストポジションを確保し、勝ちに行くのかと思わせる積極的な姿勢を見せた。

 こうした動きは、本人に言うところの「常に前方を走っていたい」との意識が働いているからのようだ。危険を避ける意味合いが大きいのだろうが、彼自身のレーススタイルによる部分もあるはず。これまで何度も「戦える状態になければレースには出ない」と口にしてきたコンタドールだけに、予想をはるかに上回る走りを見せる可能性もあるだろう。

 コンタドールの前方キープの姿勢を「過剰なまでの危険回避意識」と批判するライバルもいる。今後のステージでどんな走りを展開するかが焦点となる。

マシューズの上りスプリントを元世界チャンピオンが大絶賛

 第3ステージの上りスプリントを制したマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)。最終局面では、最初に飛び出したジャンパオロ・カルーゾ(イタリア、チーム カチューシャ)を追うことを一度は諦めたものの、ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)とフルームが追走したことで、自身にチャンスが巡ってきたとレース後に語った。特に、マーティンの動きに合わせたことが奏功したとも。

上りスプリントで今大会初勝利を挙げたマイケル・マシューズ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第3ステージ)上りスプリントで今大会初勝利を挙げたマイケル・マシューズ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014第3ステージ)

 このクレバーな走りを大絶賛したのが、過去3度の世界選手権ロードレース覇者のオスカル・フレイレ氏。今回、地元ラジオ局のコメンテーターを務めるフレイレ氏は、かつてラボバンクでチームメートだった若きスプリンターの走りに賛辞を送っている。

 「大集団スプリントで勝利することは難しいケースも多いが、今日のような上りスプリントをさせれば右に出る者はいない」とフレイレ氏。自身も混戦のスプリントをモノにすることが多かっただけに、その言葉には説得力がある。

 当初、グランツールはツール・ド・フランスの出場しか予定されていなかったというマシューズ。そのツールでは開幕直前の落車負傷でスタートすることなく現地を去ったが、「思いがけず出場することになった」というジロとブエルタで快走。このほど、チームと2年の契約延長に合意するなど、よりレースに集中できる環境を確保した。いまやチームの勝ち頭として、チームメートやスタッフから全幅の信頼を寄せられている。

ホーナーは悔しさを払拭する6時間のライドへ

 チームが加盟するアンチ・ドーピング任意団体MPCCが定めるコルチゾール基準値を下回ったとして、2連覇のかかったブエルタのスタートラインに着くことができなかったクリストファー・ホーナー(アメリカ、ランプレ・メリダ)。大会の開幕地、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ入りしていながら、無念のチーム離脱となった。

欠場によってブエルタ連覇の夢が潰えたクリストファー・ホーナー(ツール・ド・フランス2014)欠場によってブエルタ連覇の夢が潰えたクリストファー・ホーナー(ツール・ド・フランス2014)

 その悔しさを晴らすだめだったのだろうか、開幕前日の22日、1人アンダルシアでのライドへと出かけた。チームプレゼンテーションを控えたメンバーは2時間のライド後、昼食をとり、シエスタを過ごしたが、ホーナーだけは宿舎には戻らなかったのだという。チームスタッフも、この日現地入りした他のスタッフを空港までピックアップに出かけるなど、それぞれが大会の幕開けに向けて準備を進めていた。

 一向に戻らないホーナー。結局、帰ってきたのは現地時間17時頃。約6時間のライドを行っていたのだとか。

 チームを離れたホーナーは、妻のスペイン入りを待って、地中海沿岸の街・デニアにある自宅で数日過ごしたのち、アメリカに帰国するという。レース復帰は未定だが、2015年シーズンも現役続行は濃厚。ひとまず現チームからのオファーを待つ構えで、チームも前向きに検討したいとしている。

 一方、ホーナーに代わって急遽スペイン入りしたヴァレリオ・コンティ(イタリア)だが、実は「いつ呼ばれてもいいように荷物の準備をしていた」のだそう。周囲の目には予期せぬ形でのブエルタ参戦となったが、こうした用意周到な姿勢は21歳の若手ライダーらしからぬ落ち着きぶりといえる。今年のツアー・オブ・ジャパンでも来日し、その際にチームを率いたブルーノ・ヴィチーノ氏お気に入りの選手。実力はもとより、人間性の面でも将来有望といえるだろう。

今週の爆走ライダー-ベン・ヘルマンス(ベルギー、BMCレーシングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 BMCレーシングがグランツールと並んで重要視する8月のアメリカでのレース、ツアー・オブ・ユタ(UCI2.1、8月4~10日)とUSAプロチャレンジ(UCI2.HC、8月18~24日)。アメリカ資本のチームとして、ホームレースで結果を残すことが求められた。

 USAプロチャレンジではエースのティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)が2連覇。この勝利を強力援護したのは、今シーズンからチームに加入したヘルマンスだった。アシストをしながらも総合9位と上々のリザルト。ユタではエヴァンスのステージ2勝を支え、自身も総合4位をマークした。

今年から所属するBMCレーシングチームで存在感を示しているベン・ヘルマンス今年から所属するBMCレーシングチームで存在感を示しているベン・ヘルマンス

 何より、ステージレースの総合争いができることを証明する2レースでもあった。これまで好成績を挙げたレースはワンデーレースが多かったが、今回のアメリカシリーズでは超級山岳でも非凡な走りを披露。選手層の厚いチームにさらなる山岳巧者が加わった印象だ。

 昨年まで4年間所属していたレイディオシャック・レオパードでは、大きな期待を受けながらも出場レースに恵まれず、その力を思うように発揮できない日々が続いた。環境を一新した現チームで少しずつ、存在感を示しつつある。

 ブエルタを控えたトップ選手たちに混じり、リーダージャージを獲得したブエルタ・ア・ブルゴスから5年。アメリカでの走りをきっかけに飛躍を遂げる可能性が膨らんでいる。シーズン後半に期待しても良さそうだ。

 どのような脚質のライダーを目指すのか、彼が今後どのような道を歩むかに注目していてほしい。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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