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つれづれイタリア~ノ<34>マルコ・パンターニの死をめぐる再審請求 自殺説の裏にはデータ捏造があった?

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 8月2日、イタリア全国をふるわせたニュースがありました。イタリア屈指のスポーツ新聞、ガゼッタ・デッロ・スポルトの表紙を前触れもなく飾ったのは、今年のツール・ド・フランスを制覇したヴィンチェンツォ・ニバリではなく、1998年の総合優勝者である故マルコ・パンターニ。その見出しはショッキングなものでした。

 「PANTANI FU UCCISO(パンターニが殺された!)」

「パンターニが殺された」という見出しが新聞の1面を飾った「パンターニが殺された」という見出しが新聞の1面を飾った

 新聞を開いてみると、5ページに渡って異例の長さの記事が掲載されていました。この日から連日のように、イタリア全国の新聞やテレビ局が一斉にパンターニのニュースを伝え続けています。

自殺説と他殺説が囁かれた10年間

レーサーとしての実力だけでなく、人柄やファッションまで愛されたマルコ・パンターニ(砂田弓弦撮影、ジロ・デ・イタリア1998)レーサーとしての実力だけでなく、人柄やファッションまで愛されたマルコ・パンターニ(砂田弓弦撮影、ジロ・デ・イタリア1998)

 1998年にジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスのダブル総合優勝を飾ったパンターニは、イタリアでもっとも話題になるスポーツ選手だと言っても過言ではありません。彼の生き方、実績、レース運びの大胆さ、控えめで内向的な性格、こだわり、ファッション、そして謎に満ちた死に方は人々を魅了させ続けているからです。生前もヒーローでしたが、死後も人々の記憶から消えることはないのです。

 パンターニはいくつものカンツォーネ、漫画、書籍、映画の題材となり、記念館や、彼の名前をもつ道路もあります。パンターニの死亡記事はなぜいま、ここまでイタリア人の関心を集めているのか。長く報じられた「自殺説」を覆す新しい証拠が見つかったためです。

「オーバードーズ説」に猛反発

パンターニの死から10年が経った今年のジロ・デ・イタリアでは、彼に縁のある地をコースに組み込まれた(砂田弓弦撮影)パンターニの死から10年が経った今年のジロ・デ・イタリアでは、彼に縁のある地をコースに組み込まれた(砂田弓弦撮影)

 2004年2月14日、イタリア中部リミニ市のホテルの一室で死亡しているパンターニが見つかりました。34歳の若さでこの世を去りました。ドーピングスキャンダルの影響ですでにレースの世界こそ去っていましたが、国民的なヒーローが死亡したというニュースに、イタリア中が悲しみに包まれ、人々は高い関心を示しました。

 警察が現場検証を行った結果、死因はコカインのオーバードーズ(過剰摂取)だとされました。実際、翌年2005年に彼に薬物を売った2人の麻薬販売人が4年間の懲役という有罪判決を受けました。

 結果として、部屋で見つかった大量のコカインはゆるぎない物証とされ、マルコ・パンターニの死は単なるオーバードーズとして処理されたのです。これに対し、パンターニの親族だけではなく全国のマスコミも猛反発しました。

不自然な現場検証

 母のトニーナと各メディアが訴え続けたのは、捜査官が行った不自然な現場検証でした。報道関係者たちは警察が発表したデータとビデオを分析し、数多くの不自然な点を発見しました。しかし、当時のイタリアは第2次ベルルスコーニ内閣(2001-2005年)のまっただ中で、短い時間に結果が強く求められる風潮があり、当時の主任検察官が「自殺説」を支持しました。

 これに納得しなかった各メディアは、不自然な動きに疑問をもち続けてきました。ガゼッタ・デッロ・スポルトをはじめ、イタリア国営テレビ、民放のスカイチャンネルも、毎年パンターニの命日である2月14日になると、ドキュメンタリー映画や特集番組を放映しています。

パンターニの死亡についての再審請求を、メディアが一斉に報じたパンターニの死亡についての再審請求を、メディアが一斉に報じた

 そしていま再びパンターニが話題に上っているのは、2013年からの新しい動きがきっかけとなりました。スポーツを専門とするアントニオ・デ・レンスィス氏が率いる弁護団は、司法解剖と現場検証を再検証しました。検査官による数多くの不備を発見した結果、データの信憑性が強く問われています。弁護団は、パンターニは自殺ではなく誰かに殺害されたと考えざるを得ないと結論づけました。そして8月1日、リミニ検察庁に事件の再審請求を行った結果、それが始めて受理されました。

 弁護団は下記のように、不自然なポイントを指摘しています。

・死亡時に1人でいたとされているが、部屋に複数の人がいた形跡あり。
・部屋は不自然に散乱していた。
・警察は部屋全体の指紋収集を怠った。
・死亡したとされる時間と、改めてわかった死亡時間が異なる。
・注射できる麻薬の摂取量と実際に体内から検出された量は大きく異なる。
・パンターニはホテルに入った時に荷物はなかったのに、部屋に3人分の冬ジャケットが見つかった。
・遺体が発見された時の位置と解剖の検証には不自然な点があり、誰かが死体を移動した可能性ある。

 謎に包まれたままだったパンターニの死亡。9月に再審が始まる予定で、年末頃にその結果が出る見込みです。テレビ、ラジオ、新聞では弁護団から出された再審請求の情報が延々と放送され、イタリア中がかたずをのんで行方を見守っています。各メディアが悔やんでいるのは、当時、パンターニの命を誰も救えなかったこと。だからせめて、死亡の真相を知りたいと考えています。

文 マルコ・ファヴァロ

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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