はらぺこサイクルキッチン<19>「スイーツはご褒美」 英国のMTB女王サリー・ビグハム選手に食生活をインタビュー

北米最大のMTBマラソンレース「レッドヴィル・トレイル100(Leadville Trail 100)」に夫・池田祐樹選手が参戦してきました。レースの2日前、祐樹選手と同じ「トピーク・エルゴンレーシングチーム」に所属するサリー・ビグハム選手(Sally Bigham)へ、レース前や当日の食事についてインタビューする機会がありました。ビグハム選手は2013年に引き続き今年も同レースを連覇。今年で5度目のイギリス・ナショナルチャンピオンで、昨年の「MTBマラソン世界選手権」2位でもあります。今回は、普段あまり明かされないトップアスリートの食事について、みなさまにお届けしたいと思います。
世界を代表する女性選手

ビグハム選手は1978年イギリス生まれ。大学生時代はクロスカントリーランニングの選手でしたが、2006年にMTBを始め、2009年に現在のチームに所属しました。今や世界を代表する女性選手で、過去に何度もUCI(国際自転車競技連合)世界ランキング1位に輝いています。
今回のレッドヴィル・トレイル100でビグハム選手がたたき出したタイムは7時間23分58秒、北米だけでなく世界中から強豪選手が集まり、男性を含めて1600人が出場したうち、圧倒の総合26位でした。
身長約165cm、体重52kg。プラスマイナス1~2kgの変動はあるものの、ほとんど安定しているので、「体重計にはあまり乗らないの」。モットーは、「The one who has the most fun wins!(最も楽しんだもの勝ち!)」だとか。


赤身肉が苦手 鉄分摂取に試行錯誤

好きな食べ物は寿司、グリーンカレー、バスマティーライスにキヌアを混ぜて炊いたもの、それにチョコレート。レース前日は、アイスクリームを食べることもあるそうですよ。毎日の厳しいトレーニングの後にも、「スイーツは気持ちを切り替えるご褒美」だそうです。インタビューの際にもオーガニックのチョコレートを持参していました。
ビグハム選手は10代の頃、赤身の肉が苦手になり食べることをやめました。動物性たんぱく質は、おもに大好きな魚と時々チキンから摂取していました。鉄分はタブレット状のサプリメントで補っていましたが、最近になって病気になりやすくなり血液検査をしたところ鉄分が不足していることが判ったそうです。
女性は特に、鉄分が不足しがち。改善のため、2013年10月頃からタブレットをやめてビーフなどの赤身肉をおよそ20年ぶりに食べることにしました。鉄分は、赤身の肉から摂った方が自然で、吸収しやすいのです。ただし、赤身肉はハンバーグやソーセージ、ハム、挽肉といったプロセス(加工)されたものでなく、カットしただけの「安心できる肉」を選んで食べるとのこと。ビグハム選手にとってのこの「頻繁ではないけれど、新たな試み」により、現在は鉄分の不足は改善されたそうです。
胃腸に負担をかけない食生活
日常的には、特にトレーニング前の朝と昼に炭水化物をよく摂り、夜はたんぱく質がメイン。ビグハム選手はグルテンの消化が苦手なため、グルテンフリーを実践しているそうです。食事作りは好きで、遠征先でもよくグルテンフリーパスタを作っています。レース2日前の夕食に作ったグルテンフリーパスタは、ズッキーニ、トマト、ルッコラ、玉ねぎ、パインナッツ、パルメザンチーズが入っています。具材たっぷりでおいしそうですね!
レース当日の朝は、オートミールがメイン。オートミールと一緒にバナナなどのフレッシュなフルーツ、レーズン、ウォールナッツ(クルミ)、チアシード、シナモン、アガベシロップを食します。「ポレンタ」というトウモロコシの粉でグルテンフリーのパンケーキを作ることもあり、それにブルーベリーを入れることもあるそうですよ。
ラクトースの分解は胃腸に負担がかかるため、乳製品は普段からあまり摂っていません。たいがいレースの3時間前から30分くらいかけて食べるそうですが、6時台など早朝スタートの場合はもう少し遅いことも。「それでもなるべく3時間前から食べることを心がけているわ」
固形の補給食は長時間レースに

レース中の補給についても教えてくれました。レッドヴィル・トレイル100は総距離160km、レース時間も7時間越えと長くなるため、ドリンクとジェルに、バナナ1本かエナジーバー、1~2個を食べるといいます。実際に、レースの折り返し地点のフィードを過ぎた彼女のバックポケットには、バナナが1本入っているのが見えました。そのほかのマラソンレースで4時間前後の走行時間の際は、ドリンクとジェルのみ。レース時間の長さによって、固形物を摂るか摂らないかを決めています。
レースの後のリカバリーは、「自分のルーティーンがあるわ」とビグハム選手。フィニッシュ直後に「Torq(トーク)」というブランドのリカバリードリンクを飲み、なるべく早くシャワー浴びて、グルテンフリーのパスタを食べるという流れだそうです。
今回のレースの翌日には、トピーク・エルゴンレーシングチームのメンバーを中心に食事会がありました。お寿司屋さんでビグハム選手は、メニューにあった大好きなタイカレーをチョイス。食べ過ぎを防止する目的でわざと遅く食べるため、カレーをお箸で食べていましたよ。そんな工夫ひとつにも、“アスリート魂”を垣間見た気がしました。
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ビグハム選手が2013年まで赤身の肉を食べてなかったこと、それでも輝かしい成績を残してきたことは興味深かったですし、特にアスリートは「アスリート貧血」と言われる程、鉄分が不足しやすいことを改めて思い起こしました。
貴重な時間を割いて包み隠さず教えてくれたサリー・ビグハム選手、そしてマネージャー、メカニックとして世界中のレースへ帯同し彼女を支えているパートナーのデイヴィッド・パッドフィールド氏(David Padfield)にも心から感謝します。ありがとうございました!

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネージャー経験を生かし2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを開始、同秋結婚。平行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」にて情報配信中。