title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<71>ブエルタ、そして世界選手権へ 有力選手の動向とシーズン後半戦の展望

  • 一覧

 8月に入り、サイクルロードレースシーズンは後半戦へと突入しました。これからのビッグレースと言えば、グランツールの1つであるブエルタ・ア・エスパーニャ、そしてマイヨ・アルカンシエルをかけた戦いとなる世界選手権が挙げられます。そこで今回は、注目度が一気に高まるこの2レースを前に、予習も兼ねてツール・ド・フランス以後のレース結果とともに、頂点を目指す有力選手たちのスケジュールを押さえていきます。

ロード・トゥ・ブエルタ 7月下旬から8月上旬の主要レース

 ツールを終えた選手たちは、ポストツールクリテ(ヨーロッパ各地で行われる巡業クリテリウム)を転戦したり、自宅またはバカンスで休養と、思い思いの時間を過ごす。その一方で、UCIレースもさまざま開催されており、ツールメンバーから外れた選手やシーズン後半戦に照準を当てている選手たちが集う。有力どころがそろった主要レースを見ていこう。

全ステージで好成績をあげ総合優勝を果たしたジャンニ・メールスマン。照準は世界選手権だ(ツール・ド・ワロニー2014)<Photo:Omega Pharma-Quick step>全ステージで好成績をあげ総合優勝を果たしたジャンニ・メールスマン。照準は世界選手権だ(ツール・ド・ワロニー2014)<Photo:Omega Pharma-Quick step>

 7月26日から30日までの全5ステージで行われたツール・ド・ワロニー(ベルギー、UCI2.HC)は、スプリントステージのほか、4月のアルデンヌクラシックさながらの丘陵地帯も巡り、スピードレースでありながらハードなコース設定が特徴。レースは、第1~4ステージをすべて2位で終えたジャンニ・メールスマン(ベルギー、オメガファルマ・クイックステップ)が、第2ステージ以降リーダージャージを守りきり総合優勝。最終の第5ステージでは、スプリント勝利で優勝に華を添えた。メールスマンは、ブエルタを欠場予定で今年のグランツールはすべて回避。ベルギー代表の主力と見込まれる世界選手権に集中する。

クラシカ・サンセバスティアンを制したアレハンドロ・バルベルデ<Photo:Movistar team>クラシカ・サンセバスティアンを制したアレハンドロ・バルベルデ<Photo:Movistar team>

 ツール以後のUCIワールドツアーは、8月3日のクラシカ・サンセバスティアンで再開。スペイン・バスク自治州のサン・セバスティアンを舞台に行われるレースは、今年から山岳ポイントが増えた新コースで実施された。残り10kmで迎えた最後の上りで優勝争いのメンバーが絞られ、直後の下りでアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)がアタックに成功。独走態勢に持ち込み、2008年以来2度目の優勝を果たした。

 また、このレースではツール山岳賞争いに敗れたホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)も復活をアピールする走りを披露。最大勾配20%の上りで見せたアタックが、優勝争いを大きく動かすきっかけにもなった。バルベルデとバウケ・モレマ(オランダ、ベルキン プロサイクリングチーム)の先着を許したが、3位に入って表彰台は確保。来たるブエルタでは総合優勝を目指す1人となる。

母国開催のツール・ド・ポローニュを総合優勝で飾ったラファウ・マイカ<Photo:Tinkoff-Saxo>母国開催のツール・ド・ポローニュを総合優勝で飾ったラファウ・マイカ<Photo:Tinkoff-Saxo>

 ポーランドではツール・ド・ポローニュ(UCIワールドツアー)が8月3~10日に行われた。イタリア開幕だった昨年とは異なり、一部隣国のスロバキアへ入国したものの、ほぼ全行程がポーランド国内をめぐるステージ構成。この大会を盛り上げたのは、ツール山岳賞のラファウ・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)だ。一躍同国の英雄となった若きオールラウンダーが、国民の期待を一身に背負って総合優勝にチャレンジ。第5、6ステージの頂上ゴールをともに制覇してみせた。第5ステージは上りスプリントだったが、続く第6ステージではアタック一発でライバルを圧倒。大会全体を通しても、終始ティンコフ・サクソがメーン集団をコントロールするなど、「完全マイカシフト」を敷いての優勝だった。

 なお、マイカは8月18~24日のUSAプロチャレンジ(アメリカ、UCI2.HC)をもって今シーズンを終える予定。総合6位となったジロ、そして大活躍のツールと、グランツールを連戦したこともあり、疲労を考慮しての判断のようだ。ツール直後にはチームと3年の契約延長を結び、グランツールでのエースの1人として首脳陣も評価。来シーズンの活躍に注目が集まる。

 ティンコフ・サクソの勢いはポーランドにとどまらず、デンマークでも躍動した。8月6~10日に開催されたツアー・オブ・デンマーク(UCI2.HC)で、プロ1年目のミケル・ヴァルグレンアンデルセン(デンマーク)が総合優勝。最終(第6)ステージで逃げ切った13人の集団に位置。ステージ順位こそ11位だったが、前日の個人タイムトライアル(15km)で6位と好走し、その貯金を生かして勝利した。また、チームメートのマヌエーレ・ボアーロ(イタリア)も第3ステージで独走勝利を挙げるなど、昨年までデンマーク籍だったチームの“準地元”でその強さを見せつけた。

ツアー・オブ・ユタで2連覇を達成したトム・ダニエルソン<Photo:Garmin Sharp>ツアー・オブ・ユタで2連覇を達成したトム・ダニエルソン<Photo:Garmin Sharp>

 アメリカでは、第4回目となるツアー・オブ・ユタ(UCI2.1)が8月4~10日に行われ、トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・シャープ)が総合優勝。2連覇を達成した。ダニエルソンは、大会最初の頂上ゴールだった第4ステージで2位に57秒差をつける圧勝。リーダージャージを手に入れると、その後は安定した走りでその差をキープした。

 ユタには、ブエルタでの活躍が有望視される選手たちも参戦。2連覇がかかるクリストファー・ホーナー(アメリカ、ランプレ・メリダ)は、ダニエルソンから52秒差の総合2位。昨年もけがからの復帰レースとしてユタを選び、その時も総合2位に入って、ブエルタでの快進撃につなげた。今年もその再現なるか。シーズン前半の活躍が光ったウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ベルキン プロサイクリングチーム)は総合5位。カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)は総合6位だったが、大会終盤の山岳ステージで2連勝。ともに小集団スプリントを制するなど、日を追うごとに調子を上げた。

ビッグネームもシーズン後半の動きを明らかに

 上記レースには出場していないものの、シーズン後半戦での活躍を目論む選手は多い。来季の契約が未定の選手にとっては、レースでの活躍が“就職活動”となる。また、結果が求められるビッグネームに関しては、スポットを当てるレースまでどのように過ごすかが重要だ。それでは、次々と明らかになった有力選手のスケジュールをチェックしていこう。

ジロ総合優勝のあとはレース数を絞ったナイロアレクサンデル・キンタナ(ジロ・デ・イタリア2014)<Photo:Movistar team>ジロ総合優勝のあとはレース数を絞ったナイロアレクサンデル・キンタナ(ジロ・デ・イタリア2014)<Photo:Movistar team>

 8月13~17日のブエルタ・ア・ブルゴス(スペイン、UCI2.HC)に臨むことを発表したのは、ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)。その後は、かねてからの予定通りブエルタに出場する。5月のジロ・デ・イタリアで総合優勝を果たした後はコロンビアへ帰国し、高地トレーニングを積んだ。レース数を絞っていることから現在の調子は未知数だが、ブルゴスでの走りである程度見ることができそうだ。ブエルタではジロとの“ダブル・ツール”がかかっており、チームとしてもバルベルデとの2枚看板で総合優勝を目指す構えだ。

ツールでは落車リタイアしたクリストファー・フルーム(右)。ブエルタに照準を合わせる(ツール・ド・フランス2014)<砂田弓弦撮影>ツールでは落車リタイアしたクリストファー・フルーム(右)。ブエルタに照準を合わせる(ツール・ド・フランス2014)<砂田弓弦撮影>

 そのブエルタで、キンタナと“2強”による争いを展開するであろうクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)。連覇のかかったツールでは第5ステージに落車負傷でリタイアしたが、アメリカ・カリフォルニア州へと場所を移してトレーニングを積んだ。表舞台には姿を現していないものの、アメリカのニュース番組にインタビュー出演したり、元選手のリーヴァイ・ライプハイマー氏とライドセッションを行うなど、順調に過ごしているものとみられる。ブエルタまで、どのように仕上げてくるだろうか。

 ブエルタでフルームとの共闘があるのかどうか、注目が集まっていたブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム スカイ)は、欠場する見通しであることが明らかになった。その代わり、9月に行われるツアー・オブ・ブリテンで総合2連覇を目指す。当面の目標は、ブリテンとその後の世界選手権。個人タイムトライアルでのマイヨ・アルカンシエル奪取を視野に入れる。昨年、ブリテンから世界選手権までの流れが良かったことで、今年も同様のスケジュールを組むことを決めたようだ。

 ツール総合優勝のヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)は、ポストツールクリテの全日程を終え、各所での報告会に臨んでいるという。このほど、イタリア・トスカーナ州でファンクラブイベントに出席し、大きな祝福を受けた。今後、チームの拠点であるカザフスタンへと移動し、大統領との謁見などが控える。9月の世界選手権では、イタリア代表のエースを務める予定。本番に向けた準備は、多忙なスケジュールの合間を縫って進めているようで、8月31日のGPウエストフランス・プルエーでのレース復帰が見込まれている。

 最後に、ツールで負傷リタイアとなった2人の大物について。

右肩を負傷したマーク・カヴェンディッシュ。ブエルタ出場はコンディション次第だ(ツール・ド・フランス2014)<砂田弓弦撮影>右肩を負傷したマーク・カヴェンディッシュ。ブエルタ出場はコンディション次第だ(ツール・ド・フランス2014)<砂田弓弦撮影>

 第1ステージのゴール前でクラッシュしたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファルマ・クイックステップ)は、傷めた肩が順調に回復。いよいよレースへと復帰する。8月13日のツール・ド・ラン(フランス、UCI2.1)に臨むことになっており、ブエルタ出場については、このレースの出来いかんとなることがカヴェンディッシュ本人の口から明かされている。

 第10ステージの落車で脛骨を骨折したアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)は、本人とチーム首脳陣との意思統一がなされておらず、今後のスケジュールは不透明だ。コンタドールはスポークスマンを通じ、「勝てる状況にない限り、レースには復帰しない」とコメント。一方で、チームのスポーツディレクターであるビャルネ・リース氏は「ブエルタ出場の可能性はある」と発言。一部では、コンタドールがイタリアでトレーニングを再開しているとの情報も挙がっている。この先の動きに注目したい。

今週の爆走ライダー-ロベルト・ヘーシンク(オランダ、ベルキン プロサイクリングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2014年シーズンは、重度の不整脈など心臓疾患で引退を余儀なくされる選手が後を絶たない。自転車界の大きな損失となったのは、過去2回シクロクロスで世界王者となったニールス・アルベルト(ベルギー)の引退。これから時代を築こうという選手たちから、その可能性や夢をも奪ってしまう残酷な現実は、選手にとっても、ファンにとってもつらいという言葉だけでは形容することが難しい。

 この4月、ヘーシンクは自らが不整脈に苦しんでいることを明かし、手術する決意を固めた。その症状は2008年から出ていたというが、幸い手術をすれば復帰できる程度のものだったという。年に1度出るかどうかの症状のための手術は、万が一レース時に出てはいけないという予防の意味もあった。前向きに臨んだ手術は成功に終わり、6月には高地トレーニングできるまでに回復した。

以前から不整脈の症状があったというロベルト・ヘーシンク。手術を乗り越え再起を期す(ツール・ド・フランス2013)<砂田弓弦撮影>以前から不整脈の症状があったというロベルト・ヘーシンク。手術を乗り越え再起を期す(ツール・ド・フランス2013)<砂田弓弦撮影>

 ツールでのレース復帰は叶わなかったが、ツール・ド・ポローニュでは山岳ステージでアタックを見せるなど、元気な走りを取り戻した。総合8位。大会後は「体調に問題ないことが一番だ」と述べ、再起へと立ち上がった。

 7月に行ったトレーニングキャンプには家族を帯同させ、ハードなトレーニングとともにリラックスできる環境を作るなど、チームも最大限配慮。出場が濃厚なブエルタに向けても準備はまずまずのようだ。

 「今年のブエルタはどうか分からないが、2015年のツールでは総合優勝争いをしたい」というヘーシンク。これまで、体調不良や落車でチャンスをフイにすることもあったが、それ以上に得てきた成功のイメージを取り戻したいところだ。

 選手生命の危機を乗り越えてスタートするキャリアの第2章では、どんなサクセスストーリーが待ち受けているのだろうか。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載