UCI最低重量制限には「納得していない」「素晴らしい自転車を開発する情熱を持った会社」 米トレックのジョン・バーク社長インタビュー

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 トレック・ジャパンが国内販売店向けに開催した展示会「TREK WORLD 2015 JAPAN」に、トレックUSA本社のジョン・バーク(John Burke)社長が来日した。トレックの戦略や新しい製品に関してのプレゼンテーション、さまざまなビジネスの対応、また早朝のライドなど忙しくスケジュールをこなす中で、報道陣向けのインタビューも行なわれた。これまで社長個人としてはあまりメディア向けに情報発信をしていなかったバーク社長に、さまざまな話を聞いた。(聞き手 米山一輝/写真 中尾亮弘)

『赤倉庫』から世界へ

 現在52歳のバーク社長が、初めて自転車に乗ったのは「4歳か5歳くらいの頃」。最初のバイクは赤いシュウィンで、ジャンプ台から自転車ごとゴミ箱に飛び込むような遊びをしていたという。父親であるディック・バーク氏がトレックを創業したのは1976年のことだ。

カタログなどで紹介される、トレック創業当時の写真カタログなどで紹介される、トレック創業当時の写真

 「もともと父は電気関係の仕事で、冷蔵庫やテレビなどの販売をしていたのですが、70年代のオイルショックを機に、本格的に自転車のビジネスを始めたのです。既存のバイクを販売することも考えていましたが、売りたいバイクがなく、自らバイクカンパニーを作りました。創業して今年で38年になりますが、私はトレックの成長を、黎明期からこの目で見ることができているので、そのことは自分にとってとてもプラスになっていますね」

 ウィンスコンシン州のウォータールー、現在は『赤倉庫』と呼ばれる倉庫で、わずか5人の従業員でトレックは始まった。ブランド名の『TREK=旅をする』の通り、当初はツーリングバイクを販売。最初の年に800台のバイクを売ることに成功する。バーク社長が入社したのは大学卒業後の1984年。会社は米国内で順調な成長をみせていた。

 「1988年にヨーロッパに進出し、スイス、ドイツ、英国で販売を始めました。当時は世界中でMTBブームが起こっていて、それに乗ってトレックも成長していきました。1991年にはトレック・ジャパンとして日本でもビジネスをスタートしました」

トレックワールドの期間中は、早朝に京都市郊外でのライドを楽しんだトレックワールドの期間中は、早朝に京都市郊外でのライドを楽しんだ

 ちなみにバーク社長が初めて来日したのは1988年で、これはパーツメーカーのシマノを訪れるためだった。日本市場進出においては当初から国内法人を立ち上げた。現在も年に数回の頻度で来日する。忙しいスケジュールの合間をぬって、大阪やトレック・ジャパンのある神戸の街などでバイクライドを楽しむこともあるそうだ。

 現在は世界70カ国で販売されているトレックだが、この成長を支える重要なポイントが、研究開発部門だ。2005年にエンジニアや工業デザイナーなど、より多くの人材を雇い入れて以降、トレックは研究開発に以前にもまして注力している。エモンダやドマーネなどの製品は、これらの結果として生まれたものだ。

エモンダ完成車「4.65kg」の衝撃

 「まずUCI(国際自転車競技連合)による、最低重量の制限というものにトレックは納得していないのです。ポイントは重量の数値ではなく、安全かどうかであるべきです」

 今年7月、ツール・ド・フランスの開幕を目前に、トレックは新しい軽量ロードバイクのシリーズ『エモンダ』を世界に向けて発表した。最軽量モデルは完成車で4.65kgと、UCIが規定する最低重量6.8kgを大きく下回る。実際にレースを走る際には、ウエイトを付けて規定重量以上にする必要があるのだ。

 「エモンダの開発は、自分たちが持ちうる技術を生かして、可能な限り軽量なバイクを作ることが目標でした。UCIの規則があるのはもちろんですが、それに沿った機材を使わなければならないのは、サイクリスト全体で見ればごく一部の人たちなのです」

 UCI規則に関係のない“世界中のほとんどのサイクリスト”に、より軽量でパフォーマンスの高いバイクを提供したいというのがトレックの考えだという。現行のUCI規則では重量以外にも、ロードバイクでのディスクブレーキの使用が認められておらず、バイクの形状にもさまざまな制限が設けられている。

 「規則があることで、われわれが新しい製品を開発することが妨げられ、それが自転車好きの人たちの楽しみを奪うことにもなってしまいます。私たちが規則をどうこうすることはできませんが、新しい技術が認められるということは、会社としては新たな開発が行なえるので重要なポイントです。UCIには安全性を一番に考えた上で、新しい技術も取り入れていってほしいですね」

完成車重量わずか4.65kgの「エモンダ SLR 10」完成車重量わずか4.65kgの「エモンダ SLR 10」

 30カ月を要して開発されたというエモンダは、非常に軽量に仕上げられながらも、超軽量バイクにありがちな、ライダーの体重制限などの但し書きは一切付けられない。また、トレックが謳う「生涯保証」も変わらず適用される。その上で4.65kgというエモンダの衝撃的な重量は、トレックからUCIに向けてのメッセージでもあるようだ。

片道30kmを毎日のように自転車通勤

 トレックは現在もウォータールーに本社を構える。開発や生産の拠点を集約した本社では、常に最良のバイクを作ることが追求されている。

 「ものすごい数のエンジニアが、日々新しい製品を開発しています。エモンダにしてもドマーネにしても、まず乗り味が素晴らしいのですが、これは偶然できたものではなく、エンジニアがしっかり色々計算した結果、こうすればこういう乗り心地になると裏付けた上で作られたものです。このように素晴らしい自転車を開発するという情熱を持った会社が、トレックなのです」

 ただ開発するだけではない。トレックには単純に自転車に乗ることが好きな人たちが集まっているという。ランチライドには300人の社員がライドに出かけ、また本社のすぐ近くには、会社が所有するマウンテンバイクのトレイルもあるという。

 「トレイルのコースを全部つなげると30kmにもなる。そんなトレイルを持っているバイクカンパニーは、他にはないでしょう?」とバーク社長は胸を張る。自身も自宅のあるマディソンからウォータールーまで、片道30km以上を毎日のように自転車に乗って通勤するという。

 唯一、冬の厳しい寒さだけが難点だというが、雪に覆われる1月・2月の寒さもまた、トレックのバイク開発における実直さにつながっていると感じられるのは、筆者だけだろうか。

トレックのストーリーや、魅力をもっと発信していきたい

 トレックは昨年、さまざまな角度からトレックというブランドを紹介する「ブランドブック」を世に送り出した。その中では、レース、開発、経営などに携わる人たちや、トレックの幅広い製品が、美しい写真と豊富なテキストで紹介されている。

 「今までのトレックは、良い製品を作ったり、販売店に対してしっかりサポートしたりという、そういうことはしっかりやってきたのですが、トレックというブランドを一般に向けて発信するというところが正直弱かった。あれだけのストーリーを世の中に送り出すというのは初めてのチャレンジでしたが、そういったことでトレックをもっと理解していただけますし、とても良い機会でした」

 この秋にはブランドブックの第2弾がリリースされる予定だ。この中ではトレックのスタッフやエンジニアなどの詳細なストーリーも盛り込まれるという。

 「現在、トレックの本社では、会社の見学をすることができるのですが、来られたほとんどの方が『すごい!』という風に思ってくださいます。来た人には分かるのですが、それは来た人にしか感じていただけません。今後はブランドブックを通じて、トレックのストーリーや、魅力をもっと発信していきたいと考えています」

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