ツール・ド・フランスで「イアム サイクリング」に帯同母として妻として情熱的に働くニュートリショニスト 選手の食を支えるマルティネッリさん

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息子のルカくんとラウラ・マルティネッリさん(7月18日、柄沢亜希撮影)息子のルカくんとラウラ・マルティネッリさん(7月18日、柄沢亜希撮影)

 21日間で3664kmを走り抜き、7月27日にパリで閉幕した「ツール・ド・フランス」。この世界最大の自転車レースには22チーム・198選手が出場し、それを支える関係者も膨大な数にのぼる。現地で取材をしていると、チームの中で女性スタッフが活躍する姿も見られた。UCI(国際自転車競技連合)プロコンチネンタルチームの「イアム サイクリング」(スイス)でニュートリショニスト(栄養士)を務めるラウラ・マルティネッリさん(Laura Martinelli)に、仕事への想いを聞いた。

異なるジャンルのプロたちがチームを支える

ツール・ド・フランスでは夜遅くまで仕事が続く(7月18日、柄沢亜希撮影)ツール・ド・フランスでは夜遅くまで仕事が続く

 イタリア・トレヴィーゾ出身のマルティネッリさんがイアム サイクリングにスタッフとして加わったのは2013年12月。それまではフリーランスのスポーツ専門ニュートリショニストとして、病院などで経験を重ねてきた。さまざまな種目のスポーツ選手を担当してきたが、特にトライアスロン、サイクリング、ランニングといったエンデュランススポーツが多かったという。

 ジロ・デ・イタリアはもちろん、ツール・ド・フランスもテレビでは観戦してはいたものの、これほど長期間にわたって移動し続ける環境で働くのは初めて。「自転車ロードレースは、ほかの競技スポーツと何が異なるか」をマルティネッリさんに問うと、「なんといってもチームを形作っているシステムには驚かされた」と返ってきた。

イアム サイクリングには合わせて3人の女性スタッフがいて、今大会ではマルティネッリさんを含め2人が帯同している(7月18日、柄沢亜希撮影)イアム サイクリングには合わせて3人の女性スタッフがいて、今大会ではマルティネッリさんを含め2人が帯同している

 「今回であれば、ツールに参戦している9人の選手のために、(自身をはじめ)異なるジャンルのプロフェッショナルが集まって協力し合っている。それって、ふつうは簡単にできることではない。加えて、出身地もそれぞれ。女性ということもなかなか難しいことだと思うわ」

おいしさも考えたメニューに「選手は喜んでくれる」

 マルティネッリさんの仕事の内容は大きく分けて3つ。まずは、選手の朝食とディナーの準備だ。毎ステージ後、ホテルに着いたらキッチンへ直行するという。特に、ホテル側が用意する食材・メニューになにも問題がないかどうか、事前確認も含めて周到にチェックし、調理師らの同意を得るために奔走する。

調味料系の「フードボックス」の中身が食事スペースに並べられていた(7月18日、柄沢亜希撮影)調味料系の「フードボックス」の中身が食事スペースに並べられていた

 2つ目は「フードボックス」の管理。チームにはフードボックスが2つあり、それぞれ選手がどこにいても快適で上質な食生活を送ることができるように配慮されている。ひとつはホテルの食事スペースに置かれ、ジャム、エクストラヴァージンオリーブオイル、シロップといったものを含む調味料系ボックス。もうひとつはアシスタントの部屋に置かれ、“いつものスナック”をマッサージとディナーの間など選手が求める時に手軽に摂れるという。

 そして3つ目は、チームに所属する24選手に個別に行なうテーラーメードの食事管理だ。どんな内容で行なうかは様々で、「選手自身から依頼があることもあれば、チームドクターの要請などほかの専門スタッフらと連携して実施する場合もある」とマルティネッリさん。例えば「クラッシュでケガを負った選手がリカバリーや体重調整を目的として行なうこともある」という。

「選手も喜んでくれる」というマルティネッリさんの“おいしい”リカバリーフード(7月18日、柄沢亜希撮影)「選手も喜んでくれる」というマルティネッリさんの“おいしい”リカバリーフード

 レース後に選手らが速やかに摂るリカバリードリンクやフードの用意も欠かせない。リカバリーのために重要な栄養素は「炭水化物、プロテイン(たんぱく質)、ナトリウム」。記者がイアム サイクリングのチームバスを訪れた際には、ハムやトマトが入った小麦サラダが食欲を誘う香りを漂わせていた。

「なにかフレッシュなもの」にはメロンが用意された(7月18日、柄沢亜希撮影)「なにかフレッシュなもの」にはメロンが用意された

 記者から見て「とてもおいしそうだった」と告げると、マルティネッリさんは、「選手も喜んでくれる。ヘルシーとおいしいさのいいとこ取りは、選手の脳にもいい影響があるわ。炭水化物は小麦を中心に、ほかにキヌアやジャガイモもよく使う。たんぱく質にはヒレ肉のハムやツナを、ナトリウムにはドライトマトなどがいいわね」と嬉しそうに話した。

 さらに、「激しいレースを終えて戻ってきた選手たちは食べ物を何も受け付けないことも多いので、なにかフレッシュなものも大切」と工夫している。話しをうかがった際には、カットされたばかりのみずみずしいメロンが用意されていた。

仕事での満足感が「よき母よき妻」の源に

 取材をした日、マルティネッリさんの両親と夫が2歳半のルカくんを連れて1週間の休暇に訪れていた。話を聞いている間も、ルカくんはママの横にくっついたりと甘えたい盛りだ。記者が目を細めてやりとりを見ていると、「こんなに長く離れるのは今回のツール・ド・フランスが初めて」とマルティネッリさんは少し寂しそうに話した。

 マルティネッリさんは、ベルギーを中心とするクラシックシーズンや数日間のステージレースなど「重要なレース」の際にチームに帯同する。これまでは、2~3日、10日、2週間あるいは週末だけといったように臨機応変にスケジュールを立ててきたという。

2013年12月からチームで働くラウラ・マルティネッリさん(7月18日、柄沢亜希撮影)2013年12月からチームで働くラウラ・マルティネッリさん

 家族の来訪について「私は彼らのことがとても恋しいし、ツールは長い。これが解決策ってところね」と合理的に説明するマルティネッリさん。しかし、同時に「家族がそばにいると分かっていても、仕事をする時はママにはなれないのがつらい」と葛藤も打ち明け、「仕事がなければこんなにハッピーにはなれないし、それを夫も息子も感じてくれている」と、家族の応援を受けて仕事に打ち込んでいることを誇らしそうに語った。

 「専門性を生かせるこの環境で働けることは、自分にとってベスト。ここでの満足感が、よき母、よき妻でいられるための源でもある。そんな私を家族は誇りに思ってくれているし、そうできるよう勇気づけてくれているわ。ある時、とても疲れて家に帰りたいと夫に電話で話したら『だめだよ、続けるんだ。そこにたどり着くためにずっと勉強をしてきたじゃないか。そんな君を誇りに思うよ』と言われたの。そこで、これまでで一番と言える仕事をしているってことを思い出したの」

 最後に、マルティネッリさんへこれからチャレンジしたいことを聞くと、「家庭・仕事の両方でベストを尽くすこと」という。家庭では特に「息子の成長の一瞬一瞬を見逃さないようにすること」、そして仕事では「スポーツニュートリションの知識を常に更新し続けていきたい。目の前の仕事に集中するだけではだめで、国外の学会や勉強会に積極的に参加したり、本やレポートを読んだりして、私が持つ情報、提供できる内容を新しくしていきたいと思っている」と熱心に語った。

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