山口和幸の「ツールに乾杯! 2014」<7>最初の山岳スペシャリスト、クリストフにまつわる伝説 新しくできた銅像はイマイチ

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サントマリー・ド・カンパンにはいつもサイクリストがいっぱいだサントマリー・ド・カンパンにはいつもサイクリストがいっぱいだ

 ツール・ド・フランスのコースを先行しているとき、何度も立ち寄ったことがあるのに必ずクルマを止めなければいけない気がする場所がある。たとえば第16ステージで通過したポルテダスペット峠の下り坂。ここにはバルセロナ五輪の金メダリスト、イタリアのファビオ・カザルテッリが1995年の大会でクラッシュ死したことを悼む石碑がある。今から19年前はノーヘルがあたりまえの時代だった。

 そして第18ステージにも。標高2115mのツールマレー峠のアプローチにあるサントマリー・ド・カンパンという村だ。1913年、前年の総合2位ウジェーヌ・クリストフがツールマレー峠の下りでフロントフォークを欠損。14kmの道のりを歩いてサントマリー・ド・カンパンにたどり着き、鍛冶屋に飛び込むと溶接道具を借りて折れたフォークを直したという伝説だ。

サントマリー・ド・カンパンにあるかつての鍛冶屋サントマリー・ド・カンパンにあるかつての鍛冶屋

 だからサントマリー・ド・カンパンを通過するときは、いつものように現存する当時の鍛冶屋の前で立ち止まってしまう。おそらくツールマレー峠を目指す一般サイクリストが、この小さな村で足を止めるのは過去の伝説に敬意を表するための作法のような気もする。

 クリストフがフロントフォークを溶接した鍛冶屋を探すのは簡単だ。カンパンの町からツールマレー峠を目指し、サントマリー・ド・カンパン村に入ったことを示す標識が出たら、道路の左にある。現在は民家となっていて、数年前にはちっちゃい子供がいたみたいだが、今はだれかが住んでいる気配はなかった。

道路に面した壁には史実を刻んだプレートがある道路に面した壁には史実を刻んだプレートがある
ふもとから上ってきたときは村の入口を示すこの看板が鍛冶屋の目印ふもとから上ってきたときは村の入口を示すこの看板が鍛冶屋の目印
ツールマレーから下ってきたときは村の出口を示す看板のすぐ横にあるツールマレーから下ってきたときは村の出口を示す看板のすぐ横にある
ツールマレー峠のアプローチには1kmごとに標高や勾配値を示す看板があるツールマレー峠のアプローチには1kmごとに標高や勾配値を示す看板がある

 自転車で2〜3分上ると教会や広場のあるT字路に出る。そこを右折すればいよいよツールマレー峠への過酷な上り坂が始まる。かつて、ここにクリストフの往時を思わせる何かがないかなと探してみたが、民家の居間に当時の模様を再現した写真(再現したといってもその写真そのものが相当古い)が飾ってあるだけだった。クリストフの一部始終を目撃していたのは1人の記者だけで、カメラマンは居合わせていなかったようだ。

 2014年にこの村を訪ねてみると、いつものようにサイクリストが思い思いにたたずみ、そしてクリストフの大きな銅像ができあがっていた。右手のフロントフォークを高々と掲げ、左手にトンカチを誇らしげに握りしめていた。

クリストフ像が立派すぎる…クリストフ像が立派すぎる…

 ボクが書き記したクリストフとはちょっとイメージが違うなと感じた。彼は自転車競技の歴史の中で初めて登場した山岳スペシャリストであると同時に、悲劇の主人公であり、涙を浮かべながら鉄の棒を溶接していたはずなのに。

 この伝説の翌年、1915年から1918年までは第一次世界大戦で中断するが、再開した1919年に初めてマイヨジョーヌが制定され、そしてそれを史上初めて着用したのもクリストフだ。さらには総合2位に30分差をつけながら、最後から2番目のステージでフロントフォークを折ってしまい、2時間という致命的な遅れを取ってマイヨジョーヌを手放すことを余儀なくされたのもクリストフだ。

 だから銅像はフロントフォークを高々と掲げてはいけないのである。まったく。

山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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