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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<68>マイヨジョーヌでも攻撃的な姿勢を貫くニバリ ツール・ド・フランス第2週を総括

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 アルプスの山岳2連戦で総合争いが展開されたツール・ド・フランス第2週。前半10ステージに比べれば大きな波乱こそ見られなかったものの、今大会の形勢がくっきりと浮かび上がった印象でした。ここまでの戦いを分析し、最終決戦の地・ピレネー、そしてパリ・シャンゼリゼへと向かう第3週を占っていきます。

マイヨジョーヌのヴィンチェンツォ・ニバリが頂上ゴールを制覇(第13ステージ)マイヨジョーヌのヴィンチェンツォ・ニバリが頂上ゴールを制覇(第13ステージ)

ニバリは「ノーギフト」を徹底

 超級山岳シャンルースの頂上ゴールとなった第13ステージを制し、今大会3勝目を挙げた総合首位のヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)。続く第14ステージ、リズールの1級山岳頂上ゴールではステージ優勝こそならなかったが、ライバルたちとの総合タイム差を広げることに成功。総合2位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)に対し4分37秒差とした。ここまでの走りを見る限り、残る1週間は自身初のツール制覇に向けたカウントダウンの日々となりそうだ。もちろん、トラブルや大きなミスを犯さないことが前提になる。

 日を追うごとに強さが際立ち、淡々と走るその姿にいよいよ王者の風格が漂い始めたように感じる。とはいえ、リーダージャージを着て重要ステージに挑むのは、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャで実績があるもののツールでは初めての体験。レース後のインタビューでは、余裕とともに、どこかホッとしたような笑顔を見せる姿が印象的だ。

 だからなのか、コメントからも気の緩みは一切感じられない。「4分37秒差は少しのミスで簡単に逆転されてしまう。それがレースだ」と述べ、さらにリードが欲しいとの考えを示しており、今の地位を守ることだけに集中するつもりは毛頭ないようだ。

リードを広げるための攻撃的な走りを見せるヴィンチェンツォ・ニバリ(第14ステージ)リードを広げるための攻撃的な走りを見せるヴィンチェンツォ・ニバリ(第14ステージ)

 その証拠に、第3週でも「ノーギフト」を徹底する構えだ。リーダージャージを着る者はステージ優勝争いにおいて下位の選手に勝利を譲り、ジャージの保持に集中するケースが多いが、ニバリをはじめ、チームにその意思はないという。攻撃的姿勢を貫くことで、ツールの頂点をより確実なものにしようとする意識のようだ。

 ニバリが第2ステージで勝利してマイヨジョーヌを手に入れて以降、アスタナ プロチームはプロトンの中心に位置し続けてきた。レース全体をコントロールする時間が長いこともあり、アシスト選手たちは疲労を隠せずにいる。山岳アシストで、一時は総合2位に位置したヤコブ・フルサング(デンマーク)が第13ステージの下りで激しく落車。さらに少し体調を崩すなど、彼の走りが計算できない事態に陥った。

 それでも、チームには“運”も味方しているのか、日替わりでキーマンとなる山岳アシストが活躍している。フルサングが後退した第13ステージではタネル・カンゲルト(エストニア)、続く第14ステージではミケーレ・スカルポーニ(イタリア)がニバリの脇を固めた。また、平地系ライダーとされるマキシム・イグリンスキーやドミトリー・グルズジェフ(ともにカザフスタン)らもある程度の登坂力が見込めるだけに、第3週のピレネーステージでは前半から中盤にかけて長時間集団を牽引する姿が見られることだろう。

 アスタナの9人はいずれも、グランツールの総合優勝または上位経験、さらにはそのアシストを経験している選手で構成されているだけに、プレッシャーのかかる残り数ステージでも、過去の実績が大いに生かされることだろう。

ピレネーステージに賭けるバルベルデ

 総合2位のバルベルデにとっては、いよいよ“本番”を迎えることになる。かねがねピレネーステージでの活躍を期しており、6月には数あるツール前哨戦のなかでも、ピレネー山脈で開催されるルート・ドゥ・スッド(UCI2.1)を最終調整の場に選んだほどだ。

総合2位のアレハンドロ・バルベルデはピレネー決戦での活躍を期す(第13ステージ)総合2位のアレハンドロ・バルベルデはピレネー決戦での活躍を期す(第13ステージ)

 第14ステージでは、最終局面でティボー・ピノ(フランス、エフデジ ポワン エフエル)の前輪と接触。ディレーラー破損により、総合上位陣の争いから後退してしまった。体調とは別の面で“バッド・デイ”を迎えてしまったが、気を取り直してラスト1週を戦う。

 第2週までの走りを見るに、ニバリとの力の差は歴然としている。第3週に調子のピークをどのように持っていくのかは、見どころの1つとなりそうだ。実際のところ、好調のニバリを振り切って勝利することは困難だろう。ステージ優勝にチャレンジするのか、はたまた第一の目標である「パリでの総合表彰台確保」という現実路線のもとにピレネーを戦うのかは、興味深いポイントでもある。

総合表彰台に直結するマイヨブラン争い

 盛り上がりを増しているのが、新人賞のマイヨブラン争いだ。総合3位のロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)と、同4位ピノとの差は16秒。ともに1990年生まれのフレンチクライマーによる戦いは、白い新人賞ジャージとともに総合表彰台ゲットに向けた争いともなる。

 アルプスステージでの走りはほぼ互角だった。一度スイッチが入ると「前へ、前へ」のスタイルのバルデ、かたや一瞬のアタックでチャンスをつかむスタイルのピノ。同じ若手クライマーでも、その走り方は異なる。

総合3位のロマン・バルデ(右)と同4位のティボー・ピノ。2人のフランス人選手が新人賞と表彰台を争う(第14ステージ)総合3位のロマン・バルデ(右)と同4位のティボー・ピノ。2人のフランス人選手が新人賞と表彰台を争う(第14ステージ)

 フランス人選手にとって久々の総合表彰台がかかっており、熱狂が予想されるこの戦い。勝敗を分ける可能性を秘めたいくつかのポイントを押さえておこう。

 まずはダウンヒル。バルデには、チームメイトでマウンテンバイク出身、“難コースのスペシャリスト”であるジャンクリストフ・ペロー(フランス)が味方する。ともに総合上位につけ関係性が疑問視されるが、第14ステージではコンビプレーで下りを攻めた。細身のクライマーにありがちな「ダウンヒル下手」の心配は、バルデには無用のようだ。一方で、ピノは昨シーズン「ダウンヒル恐怖症」がクローズアップされたように、下りを苦手とする。昨年ほど致命的な遅れは喫しないまでも、中切れしかけるシーンがこのツールでも見られている。休息日明けの第16ステージ、超級山岳ポール・ド・パレスの頂上からゴールへのダウンヒルが運命を分けるかもしれない。

ロマン・バルデはシャンゼリゼの表彰台までマイヨブランを守り抜きたい(第14ステージ)ロマン・バルデはシャンゼリゼの表彰台までマイヨブランを守り抜きたい(第14ステージ)

 次にアシストの人数。アージェードゥーゼール ラモンディアルは、第14ステージで数選手をメーン集団前方に送り込み、レースを組み立てた。ここへきてアシストがそろいはじめたことは、バルデにとっては心強い。エフデジ ポワン エフエルは、早々にピノを単騎にしてしまうことが多いのが気がかり。ピノは1人でもレースを展開できる選手であることが救いだが、この差が今後の戦いに影響することも大いに考えらえる。

 最後はTT能力。第20ステージには54kmの長距離個人タイムトライアルが待ち受ける。過去の実績に照らし合わせると、TT能力はピノがバルデを圧倒している。今回のTTコースは、アップダウンが特徴の1つに挙げられるが、今シーズンのピノは同様のTTステージでトップ10入りを連発。ブエルタ・アル・パイス・ヴァスコ(バスク一周)、ツール・ド・ロマンディ、ツール・ド・スイスと、いずれも好走したことは見逃せない。反対にバルデは、まるでTTを避けているかのようなレースプログラムとなっており、主だったリザルトが残っていない。総合15位に入った昨年のツールでは、第11ステージの個人TTでトップから4分40秒差の118位。いささか心配なデータである。

 将来が約束されている彼らの戦いは、今後幾年と続くであろうライバル関係の序章に過ぎない。

第20ステージは個人TTでの最終決戦

 休息日明けのピレネー3連戦を終えると、1日挟んで今大会唯一の個人タイムトライアルステージを迎える。第20ステージとあって、泣いても笑っても最後の戦いとなる(最終の第21ステージは、おおよそパレード走行となり、シャンゼリゼでのステージ優勝争いのみ)。

 前述のとおり、アップダウンが大きな特徴となるコースレイアウト。それをおおよそ4回繰り返すことになる。54kmと近年にも増して長距離であるため、ペース配分も重要視される部分だ。途中、2度の中間計測ポイントが設けられるが、ゴールと合わせ順位とタイム差が目まぐるしく変化することだろう。

独走逃げ切りでステージ優勝を挙げたトニー・マルティン(第9ステージ)独走逃げ切りでステージ優勝を挙げたトニー・マルティン(第9ステージ)

 優勝候補の筆頭は、TT世界チャンピオンのトニー・マルティン(ドイツ、オメガファルマ・クイックステップ)。第9ステージで鮮やかな逃げ切り勝利を挙げるなど好調だ。昨年の第11ステージでは、落車による傷を多数抱えながらも気迫の走りで勝利をつかんだが、今回は大きなトラブルなくステージをこなしている。後続とのタイム差はもとより、54kmをどれほどの平均速度で走破するのかに注目が集まる。

 総合上位陣にとっては、運命の1日となる。順位が大きくシャッフルされる可能性があるからだ。

 総合5位につけるティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)や、同6位のペローといったTTを得意とする選手にとっては、ライバルに対し1~2分差を逆転することは十分に可能だ。状況次第では、総合表彰台の確保も見えてくる。

 タイムトライアル能力の向上が見られるバルベルデ、ピノの粘りにも期待したい。バルベルデは今年のスペインTTチャンピオンでもあり、今回のようなアップダウンは望むところだ。ピノは前述のとおり、バルデとともに新人賞のマイヨブランと総合表彰台を懸けた戦いとなる。

 そしてニバリは、この54kmがウイニングライドとなるのか。ここ数年はタイムトライアルでの安定感があり、大きく取りこぼすことは考えにくい。第3週を順調にクリアしてこのステージに臨むとなれば、ゴール時に彼がどのようなリアクションを見せるのかも見ものだ。

今週の爆走ライダー-アンドリー・グリフコ(ウクライナ、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 彼にとって7回目のツールは、大きな不安に満ちたなかで日々が進む。

 今大会唯一のウクライナ人ライダーとしてツールに臨むが、17日に祖国で起きたマレーシア航空機の墜落事故には大いに心を痛めたという。そして、混沌とする現在のウクライナ情勢に向けて、走りを通じて平和へのメッセージを発信し続けることを強く誓った。

アンドリー・グリフコ(中央)はウクライナ人選手として「平和へのメッセージ」を込めて走る(第15ステージ)アンドリー・グリフコ(中央)はウクライナ人選手として「平和へのメッセージ」を込めて走る(第15ステージ)

 今年3月にロシアに編入されたクリミア半島内陸部のシンフェロポリ出身。両親と妹が今も生活をしているという地元は、2月のウクライナ騒乱で武装集団に占拠され、未だ危険にさらされた状態だ。

 ツール期間中に受けたフランス・レキップ紙の取材では、「家族のことを思うと、自転車に集中することが困難だ」と打ち明けた。それでも、「平和へのメッセージを運ぶために、ツールを戦い続ける」と前を向く。

 そんな彼に課された使命は、「ヴィンチェンツォ(・ニバリ)のために尽くすこと」。そして、「ツールに私の存在を示すこと」。

 エースをアシストする自らの走りが祖国の希望となると信じ、彼はツールを走り続ける。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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