キッチンもシャワーも備えた快適空間選手を守る“要塞” ツール・ド・フランスを戦う「イアム サイクリング」のチームバスに潜入

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 1年前にスイスで産声を上げた「イアム サイクリング」。UCI(国際自転車競技連合)で上から2番目のカテゴリー「プロコンチネンタルチーム」に属し、今回は主催者招待によって初めてのツール・ド・フランス参戦を果たした。7月19日、本格的な山岳ステージは2回目という第14ステージのゴール地点で、チームのパートナーシップやPRを担当するティボー・ホファーさん(Thibault Hofer)のクルマと記者のクルマが隣り合った。ホファーさんからその場でチームバスへの招待を受け、内部のすみずみまで取材する機会を得た。さらにレース後には、ホテルで仕事をするチームの様子をうかがった(カルカソンヌ 柄沢亜希)

通称「ミシェルズ・ルーム」と呼ばれるチームバス後方のブリーフィングルーム通称「ミシェルズ・ルーム」と呼ばれるチームバス後方のブリーフィングルーム

移動手段、交流の場…さまざまな役割

イアム サイクリングのチームバスイアム サイクリングのチームバス

 選手らと長旅をともにするチームバスは、長さ14mと特大サイズでありながら、山頂ゴールが設定される日にはチームカーやメディアの取材車両、主催者の隊列とともに狭い山頂エリアへと上ってくる。それはバスという移動手段にとどまらず、レースを走り終えた選手たちを温かく出迎え、守る重要な“要塞”にもなる。

 またスタート地点では、コールタイムまで選手が待機する控え室として各チームのバスが並び、そこがファンとの交流の場になったり、スポンサーが供給する新機材をお披露目する場所になったりと、さまざまな役割を果たす。

チームバスの前方には4人がけのシートやレース前の準備スペースがある。レース中はスタッフが中継を見ていたチームバスの前方には4人がけのシートやレース前の準備スペースがある。レース中はスタッフが中継を見ていた
ツール・ド・フランス2014の第1ステージ、英・リーズではスタート地に並ぶチームカーやバスの隊列を多くの観客が取り囲んだ(7月5日)ツール・ド・フランス2014の第1ステージ、英・リーズではスタート地に並ぶチームカーやバスの隊列を多くの観客が取り囲んだ(7月5日)

 バスの内部にはレース生活を支える機能がそろうが、中でもホファーさんが「特に重要」と指さしたのが、キッチンとシャワー・トイレだ。ちょうど取材時には、キッチンに立ったドライバーが、ゴール後に選手らが摂るリカバリーフードをせっせと準備している最中だった。

 このほか、バス前方には4人がけのシートやレース前の準備スペースを配置。水回りスペースをはさんで後方には、チーム創設者でありオーナーのミシェル・テタさん(Michel Thétaz)の名前をとった「ミシェルズ・ルーム」と呼ばれるブリーフィングルームが設けられ、それぞれに柔らかなシートが並ぶ。シートの下は大切な収納スペースで、食事用の容器や食材ストックなどがぎっしりと詰められていた。

広々とした台があり作業のしやすいキッチンでリカバリーフードの準備中。コーヒーマシンも設置されている広々とした台があり作業のしやすいキッチンでリカバリーフードの準備中。コーヒーマシンも設置されている
清潔なシャワールームには選手らが愛用しているであろうボディーソープなどが転がり、その香りが漂っていた清潔なシャワールームには選手らが愛用しているであろうボディーソープなどが転がり、その香りが漂っていた
シートの下の収納スペースシートの下の収納スペース

“秘密兵器”も装備

 チームバスにはまた、身体のコンディションを整えるための“秘密兵器”も備わる。まずひとつは、部分的に電極を貼って脚や腹部などに通電するコンパクトな「Compex」だ。レース前にはパフォーマンスを上げるため、レース後にはリラックスするために使われるという。

脚モードを選択中の「Compex」の操作画面脚モードを選択中の「Compex」の操作画面
バスに積載されていたクールダウンシステム。全重量は8kg程度。簡単に持ち運びができるバスに積載されていたクールダウンシステム。全重量は8kg程度。簡単に持ち運びができる
スポンサーのジュネーヴの地ビールを持つティボー・ホファーさんスポンサーのジュネーヴの地ビールを持つティボー・ホファーさん

 暑い日の山岳ステージを終えた後などに大活躍するのは、クールダウンシステムだ。氷と水をセットして、着圧エアーパットを脚に巻き、筋肉の速やかなクールダウンを促すというもの。「1セット20分のドレナージュを、0~10℃の幅で温度設定して使うんだ。寒い日は、このシステムはあまり人気がないね」とチームドクターのグレゴリー・オーノンさん(Gregory Ornon)が説明してくれた。

 こうした新しいテクノロジーやメソッドの導入に積極的な姿勢は、チームの拠点となるスイス・ジュネーヴで、チームが大学病院のスポーツ部門と協力体制にあることにも表れている。ホファーさんは「私たちは選手と完璧な信頼関係を築き、彼らが必要とするものすべてを提供したいと考えています。若手への投資も惜しみません」と意欲的に語った。

チームバス後方のブリーフィングルームから前方を見た様子チームバス後方のブリーフィングルームから前方を見た様子

選手をサポートする万全のケア

マッサージをしながらの選手とのコミュニケーションは大切マッサージをしながらの選手とのコミュニケーションは大切

 イアムではさらに、マッサージャーやセラピストによる選手の身体コンディション調整がシーズンを通して行なわれている。チーム創立当初から活動に携わるマーク・ブロイさん(Marc Brohy)が実践しているのは、フィジカルセラピー、オステオパシー(カイロプラクティック)、アキュパンクチャー(鍼)の3つ。

 「フィジカルセラピーはヨーロッパ、オステオパシーはアメリカ、アキュパンクチャーは東洋で主に実施されている治療法。(イアムより以前に)この仕事を始めた最初の4年間はフィジカルセラピーだけをしていたのだけれど、それでは十分でないと感じていた。解決策を見つけたくて研究していくうちに、これだけのジャンルを扱うようになったんだ」

スイスチャンピオンのマルティン・エルミガー(右)と並んだマーク・ブロイさん。エルミガーは取材翌日の第15ステージでスタート直後からゴール手前まで大逃げを続けて敢闘賞を獲得したスイスチャンピオンのマルティン・エルミガー(右)と並んだマーク・ブロイさん。エルミガーは取材翌日の第15ステージでスタート直後からゴール手前まで大逃げを続けて敢闘賞を獲得した

 ブロイさんは主にツール・ド・フランスのようなステージレースのゴール後や、転倒など事故後の調整時にケアを行なう。施術時間はそれぞれ異なり、「10分のときもあれば、1時間かかるときもある。近くに住んでいる選手の中には、毎週のようにオフィスを訪ねてきては話をしていく人もいる。コミュニケーションは最も大切なことで、選手の悩みや状況を把握すると同時に、彼らのストレスを和らげる効果がある」と熱心に語った。

7月20日の第15ステージでジャック・バウアー(オーストラリア、ガーミン・シャープ)とともに大逃げをしたマルティン・エルミガー(左)7月20日の第15ステージでジャック・バウアー(オーストラリア、ガーミン・シャープ)とともに大逃げをしたマルティン・エルミガー(左)

 取材中に通りかかったスイスチャンピオンのマルティン・エルミガー(スイス)を見て、「そうだ、彼にもこれから調子を聞かないといけないんだ」と気を配っていたブロイさん。そんなスタッフの手厚いサポートもあって、エルミガーは翌7月20日の第15ステージで、スタート直後にジャック・バウアー(オーストラリア、ガーミン・シャープ)とともに飛び出し、全長220kmのステージのゴール直前までエスケープを続けた。観客を沸かせた大逃げに、エルミガーはこのステージの敢闘賞を受賞した。

モットーは「オープンであること」

 チームのモットーは「オープンであること」。ホファーさんは、「自分が活動を始めた時には、すでにランス・アームストロングを中心とするドーピング疑惑が浮上し、世間はロードレースに対して疑いのまなざしを向けていた。スイス人が一般的に保守的であることも知っている。そのため、チームが周囲に対してオープンに接することは欠かせない」と活動方針を語った。

XS、S、Mの各サイズの表彰用セットを背負ってゴールラインへ選手を迎えに行くティボー・ホファーさんXS、S、Mの各サイズの表彰用セットを背負ってゴールラインへ選手を迎えに行くティボー・ホファーさん
レース後にホテルで選手のバイクを洗車・メンテナンスするメカニックスタッフレース後にホテルで選手のバイクを洗車・メンテナンスするメカニックスタッフ

 また、ブロイさんはチームの特徴を「家族のようで、お互いにリスペクトがある」と評価する。それは「(オーナーの)ミシェルのパーソナリティーと同じだ」と続けた。

 最後にホファーさんは、「イアムの本業である金融業でも、クライシスを乗り越えてきた」と話し、まだ結果を出せていないツール・ド・フランスにおいて、残りのレースに全力で挑んでいく決意を力強く表明した。

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