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日向涼子のサイクリングTalk<7>奇跡の一本松の前に現れた「希望のかけはし」 ツール・ド・三陸を開催する被災地のいま

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 6月30日、私は岩手・三陸沿岸の陸前高田市を自転車で走っていました。そこには、昨年までとは異なる三陸の姿がありました。

復興したカキの養殖イカダを望みながら海岸線を疾走復興したカキの養殖イカダを望みながら海岸線を疾走

 がれきの山は減り、全体的に茶色く感じられた風景には緑が増えました。みずみずしく茂ったクローバーの中には、ムラサキツメクサとシロツメクサが咲き乱れていました。白いエアドーム型の水耕栽培施設はその数を増やし、壮観な眺めに。思わず足をとめてしまったほどです。また、結婚式が挙げられる規模のホテルや、全国展開をするスーパーがオープンしたと聞き、私の頭には「復興」の二文字が鮮明に浮かんできました。

 しかし、それもつかの間。さらに自転車を走らせれば、多くの仮設住宅と、そこで生活している人たちの姿が今もありました。

今年もホストライダーを務めます

 陸前高田市を訪れたのは、東日本大震災の復興支援イベント「ツール・ド・三陸 サイクリングチャレンジ 2014 in りくぜんたかた・おおふなと」のコース試走と、開催を発表する記者会見に出席するためです。イベントは今年で3回目を迎え、11月2日の開催に向けてエントリーを受付中です。私は2年前の第1回大会から、ホストライダーを務めさせていただいています。

2012年の第1回大会のスタートシーン2012年の第1回大会のスタートシーン
2012年大会。コースには再建中の未舗装の道路もあり、みんなで押して歩きました2012年大会。コースには再建中の未舗装の道路もあり、みんなで押して歩きました
2013年大会のスタート前に記念撮影2013年大会のスタート前に記念撮影
2013年大会。市内の中心部にも、まだ木材がれきが積み上げられていました2013年大会。市内の中心部にも、まだ木材がれきが積み上げられていました
片山右京さん(前から2番目)をはじめグッド・チャリズム宣言プロジェクトの方々とコースを試走しました片山右京さん(前から2番目)をはじめグッド・チャリズム宣言プロジェクトの方々とコースを試走しました

 6月30日は、当イベントの応援団長である元F1レーサーの片山右京さんをはじめ、一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクトの方々と共にコースを巡りました。

 今回、現地で復興を感じたものの中で一番印象的だったのは、「奇跡の一本松」の前に建設された3kmにも及ぶ、まるで橋のように巨大なベルトコンベアでした。

見たこともない高さと規模でそびえ立つベルトコンベア見たこともない高さと規模でそびえ立つベルトコンベア

新たな未来を創造する橋梁

 このベルトコンベアは、宅地を造成するために切り開いた山から発生する大量の土砂を運び出し、浸水した市街地をかさ上げするための工事に利用されています。トラックで運搬するよりもスピードアップを図れるそうです。また、市内を走る工事車両を減らすことで、渋滞や交通事故のリスクを減らす狙いもあるのでしょう。

津波で浸水した市街地をかさ上げするために、ベルトコンベアで大量の土砂を運び込んでいます津波で浸水した市街地をかさ上げするために、ベルトコンベアで大量の土砂を運び込んでいます

 初めて見た時は、「震災からの復興」を象徴するモニュメントである一本松と、その一本松よりもはるかに高いベルトコンベアやクレーンに圧倒され、正直、違和感を覚えました。

 ですが、未だに「復興した」とは言えない状態が続いている被災地の現状を目の当たりにすると、それまでは無機質なものに感じたベルトコンベアが、「被災からの復旧」だけにとどまらない「新たな未来を創造する橋梁」のように見えました。

 後に、そのベルトコンベアが「希望のかけはし」と呼ばれていると知り、地元の方々にとっても未来を感じる存在なのかも知れないな、と思いました。

被災地の子どもたちに自転車の遊び場を

 試走翌日の7月1日には、戸羽太・陸前高田市長や右京さんとともに、市役所で「ツール・ド・三陸」開催を正式発表する記者会見に臨みました。

記者会見に臨んだ大会関係者。戸羽太・陸前高田市長(左から3人目)、片山右京さん(同4人目)とともに、私もホストライダーとして出席しました記者会見に臨んだ大会関係者。戸羽太・陸前高田市長(左から3人目)、片山右京さん(同4人目)とともに、私もホストライダーとして出席しました

 戸羽市長は、今年の大会を「陸前高田市産業まつり」と共催することを明らかにし、「今までの産業まつりは県内からの来場者が多かったが、今回の共催により県外の方にも陸前高田を知っていただき、市民と参加者の皆様の心をつなぐ良い機会にしたい」と意気込みを述べられました。

 右京さんは、大会当日は仕事の都合で参加出来ないそうですが、「子供たちが夢を心に描ける環境づくりを応援したいと思う」とエールを送ってくださいました。そして、イベント開催だけで満足せず、将来を担う子供たちが地元を誇りに思い、地域を過疎化させない努力が必要だと呼びかけました。

 私は、今年の「ツール・ド・三陸」は、幅広い層にイベントを楽しんでいただける点が一番のアピールポイントだと思っています。

 まず、戸羽市長から紹介された「陸前高田市産業まつり」との共催が、昨年までとは大きく変化する点です。このまつりは市内外から1万人を超える人が集まる一大イベントで、会場ではギュッと凝縮された陸前高田の魅力を味わうことが出来るそうです。

「陸前高田市産業まつり」では、たくさんの地元の幸が販売されます(写真は2013年)「陸前高田市産業まつり」では、たくさんの地元の幸が販売されます(写真は2013年)
大勢の来場者でにぎわう「陸前高田市産業まつり」(写真は2013年)大勢の来場者でにぎわう「陸前高田市産業まつり」(写真は2013年)

 まだ自転車に乗れないくらい小さなお子さんには、「被災地の子どもたちに自転車の遊び場をつくろう!」というテーマのもとに宮城県石巻市で活動している「Chainring Project for Kids」が、今年も子供自転車教室を開催。遊びやスポーツ、サイクリングなど様々な自転車の楽しみ方を教えてくれます。

大会の「特別名誉ライダー」として出場するグレッグ・レモンさん(写真は2013年大会)大会の「特別名誉ライダー」として出場するグレッグ・レモンさん(写真は2013年)

 体力に自信のない方や家族でのんびり走りたい方のためには、距離が短いファミリーコースが設定されています。こちらのコースは、広田湾に出来た「かき小屋」がエイドステーションとなっており、そこでとれたての牡蠣が提供される予定です。

 また、ツール・ド・フランスで3度の個人総合優勝を果たした“伝説のサイクリスト”グレッグ・レモンさんが、昨年に続いて今年も参加を表明されました。彼に会えることを楽しみにしている方も多いことと思います。

地元の方々に学んだ人の強さ、優しさ

 実際に東日本大震災の被災地へ足を運ぶと、テレビなどで与えられた情報では得られないものを自分の肌で感じることが出来ます。自分の目で見て、感じて、それを伝え、忘れないことも、個人に出来る「復興支援」の第一歩ではないでしょうか。

「ツール・ド・三陸」のエイドステーション。ここでは地元特産のおやき「めぐ海(み)焼き」が提供されていました(2013年)「ツール・ド・三陸」のエイドステーション。ここでは地元特産のおやき「めぐ海(み)焼き」が提供されていました(2013年)

 昨年の大会では、ヒルクライムレースで出会った知人の女性がツール・ド・三陸に出場してくださり、エイドステーションで私の姿を見つけるなり、瞳を潤ませながら思いがけない言葉をかけてくれました。

 「ツール・ド・三陸を開いてくれてありがとう」

 その涙と感謝の言葉に驚いた私は、彼女が何を見て、感じたのか、詳しくは聞けませんでしたが、訴えかけるような眼差しからは被災地に対する思いがひしひしと伝わってきました。そして、レースで力強く走る姿とは違った一面を垣間見て、彼女のことをもっと尊敬するようになりました。

 また大会で走行中、沿道から「頑張って!」「来てくれてありがとう!」と地元の方々からたくさんの応援をいただきました。「私が被災したら、このように他人の応援が出来るだろうか」と自分自身に問いかける中で、人の強さや優しさを学びました。

ゴール直前でライダーを待ち構える大応援団。地元の方々に加え、先にゴールした参加者も駆けつけます(写真は2013年)ゴール直前でライダーを待ち構える大応援団。地元の方々に加え、先にゴールした参加者も駆けつけます(写真は2013年)
住民が用意した大漁旗が道路いっぱいに掲げられ、参加者を励ましてくれました(写真は2013年)住民が用意した大漁旗が道路いっぱいに掲げられ、参加者を励ましてくれました(写真は2013年)

自転車をきっかけに通い合う心

大会の応援団長を務める片山右京さんは、情熱やアイデアで私たちを支えてくださる頼もしい存在です大会の応援団長を務める片山右京さんは、情熱やアイデアで私たちを支えてくださる頼もしい存在です

 自転車は、歩くよりも遠くへ行くことができ、車に乗っていては気づかないような発見があります。特に「ツール・ド・三陸」はレースではなくサイクリングイベントです。コースの距離も適度に設定され、スピードや時間を気にせず、自分のペースで街並みを見ることが出来ます。

 自転車イベントといえばレースで自分を追い込むことが多かった私にとって、「ツール・ド・三陸」は、大好きな自転車をきっかけに人の心が通い合うことを教えてくれた、とても大切なイベントです。

 今年もホストライダーとして参加者のみなさんをお迎えできること、そして地元の方々とふれあえることを嬉しく思っています。また、いまの三陸を走り、感じたことを聞かせていただきたいと、その日を楽しみにしています。(日向涼子)

被災地の復興を支えるために、「ツール・ド・三陸」へぜひご参加ください!被災地の復興を支えるために、「ツール・ド・三陸」へぜひご参加ください!

日向 涼子 日向 涼子(ひなた・りょうこ)

企業広告を中心に活動するモデル。食への関心が高く、アスリートフードマイスター・食生活アドバイザー・フードアナリストの資格を持つ。2010年よりロードバイクに親しみ、ヒルクライム大会やロードレース、サイクリングイベントへ多数出場。自転車雑誌「ファンライド」で『銀輪レディの素』を連載中。ブログ『自転車でシャンパンファイトへの道』( http://ameblo.jp/champagne-hinata/ )

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