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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<67>ニバリが快走、ビッグネームの相次ぐリタイア 波乱のツール・ド・フランス前半戦を総括

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 7月5日に開幕したツール・ド・フランスは第1週(正確には10日間)が終了しました。前半10ステージは、平坦ステージと中級山岳ステージが中心だったものの、大波乱が連続する事態に。総合優勝経験者やビッグネームが次々と大会を去りました。しかし、新チャンピオン誕生に向けて旅は続きます。そこで、ここまでの戦いをレース展開や選手のコメントを中心に分析し、後半11ステージに向けた観戦準備を進めていきましょう。

パヴェステージで予想を超える走りを見せたヴィンチェンツォ・ニバリ(第5ステージ)パヴェステージで予想を超える走りを見せたヴィンチェンツォ・ニバリ(第5ステージ)

ニバリは“第3の男”だったのか?

 グランツールの総合優勝争いにおける絶対条件として、「ミスを最小限に留めること」「トラブルを起こさない(巻き込まれない)こと」が挙げられる。前者は21日間のレースにおいて必ず訪れるといわれる“バッドデイ(極端な不調に陥る日)”をどのように乗り切るか。後者は落車やメカトラブルに遭遇しない、一種の“運”も含まれる。

一騎打ちとなったヴィンチェンツォ・ニバリ(左)とアルベルト・コンタドール(第8ステージ)一騎打ちとなったヴィンチェンツォ・ニバリ(左)とアルベルト・コンタドール(第8ステージ)

 そうした観点で見た場合、総合優勝候補で第9ステージまでにこの条件に当てはまっていたのは、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)とアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)の2人だけだった。そのほかは致命的とまではいかないとしても、大なり小なり何らかのアクシデントに見舞われていた。

 そして迎えた第10ステージで、衝撃の事態が発生した。コンタドールが激しく落車。多量の出血と、彼が見せた悲壮な表情に、多くのファンが目を覆いたくなったことだろう。それでも痛みに耐えて18kmを走ったものの、最後は涙ながらにリタイアを決意。第4、第5ステージで連続して落車・リタイアし、のちに手首の骨折が判明したクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)とそろって、今大会の“2強”がツールから去ってしまった。

 こうして、大きなトラブルなくレースを進めているのはニバリだけになった。ライバルが次々と大会を去る状況に「これもレースの一部」と淡々と受け止めている様子は、2010年ブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝を争っていたイゴール・アントン(スペイン、当時エウスカルテル・エウスカディ)が落車負傷でリタイアした際と同様だ。

 戦前、もっと言えばシーズン初めからフルームとコンタドールの存在が際立っていた。一方で、同レベルにあると見られていたニバリはシーズン序盤のパッとしない走りも相まって、この2人に続く選手との見方が強まっていった。今になってみれば、ツール前までの走りが不調によるものなのか、テスト的なレース運びだったのか、いまひとつハッキリしない。

 とはいえ、ニバリのコンディションのピークがツールにピッタリと合ったことは間違いない。ジェラルメ・ラ・モズレーヌの頂上ゴールを目指した第8ステージでは、コンタドールのアタックに反応した唯一のライダーであった。そして、第10ステージ最後の上りラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユでは、残り3kmで圧倒的なアタックを披露。石畳で予想以上の快走を見せた第5ステージでの貯金も含め、総合2位のリッチー・ポート(オーストラリア、チーム スカイ)から奪った2分23秒ものリードは、後半戦に向けて数字以上のアドバンテージといえよう。

 絶妙なのが、勝負に出るタイミングだ。有力選手が牽制しあうラスト2kmで飛び出した第2ステージしかり、最後の激坂でライバルを蹴散らした第10ステージしかり。意識的なのか勘なのかは本人以外知る由もないが、ベストタイミングで自らにGOサインを出し、“勝負師ニバリ”の本領を発揮している。

強力なアシスト陣をしたがえたヴィンチェンツォ・ニバリ(第9ステージ)強力なアシスト陣をしたがえたヴィンチェンツォ・ニバリ(第9ステージ)

 また他チームの間では、今大会のチーム力ナンバーワンはアスタナ プロチームという評判のようだ。確かに山岳アシストの充実度は高い。ここで、本コーナー第42回を見直していただきたい。この中にアスタナ快走のカギが隠されていると筆者は考えている。チームのスポーツディレクター、ジュゼッペ・マルティネッリ氏は昨年12月の段階で、ニバリを筆頭としたツールメンバー7人をすでに選考していたのだ。多少の入れ替えはあったものの、主要メンバーは予定通りツールに出場。いずれの選手もアシストとして十分に機能し、ニバリの戦いを大いに楽にしている。

 アスタナのゼネラルマネージャーで、チームの絶対的存在であるアレクサンドル・ヴィノクロフ氏が、シーズン前半のニバリたちの不甲斐ない走りに対し、手紙を通じて叱責したとの話題が持ち上がった。これに関して、ヴィノクロフ氏は「叱責などしていない。メディアが話を誇張しすぎだ」とコメント。それでも、奮起を促したのは事実のようで、今大会ここまでの選手たちの走りは、ヴィノクロフ氏に背中を押さた効果があるのかもしれない。

有力選手たちは総合表彰台が現実的な目標に

 ここまでのニバリの走りに、ライバルたちはさまざま考えを巡らせているようだ。多くの選手が「総合優勝」ではなく、一段階レベルを下げて「総合表彰台確保」を現実的な目標に据えているのが実情である。

 総合2位のポートは、思いがけずめぐってきたチャンスを喜ぶ。今シーズンはジロ・デ・イタリアでエースを務める予定だったが、体調不良により戦線離脱。ジロ出場が叶わず、ツールでのフルームのアシストに専念する方針だった。しかし、第5ステージでフルームがレースを退くと、チームはすぐにポートをエースに据える“プランB”を発動。ポート自身もそれに応える好走を見せている。

 ポートがグランツールで総合争いができるだけの実力を持ち合わせていることは、誰もが知るところ。それでもポートは、「一生に一度あるかないかのチャンスだと思っている」と気を引き締める。残り2週間の戦いにあたっては、やはり総合表彰台確保を目標としている。

それぞれ総合2位、3位で折り返したリッチー・ポート(左)とアレハンドロ・バルベルデ(第8ステージ)それぞれ総合2位、3位で折り返したリッチー・ポート(左)とアレハンドロ・バルベルデ(第8ステージ)

 ニバリから2分47秒差の総合3位につけるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)も、かねてから総合表彰台を目標としてきた。「まずは初のツール表彰台」を念頭に置いて走る。第5ステージで落車に見舞われたほか、ここまでの山岳ステージでも特段インパクトのある走りは見せていないが、それでも総合3位に位置する安定感を発揮している。実績・経験はライバルをしのぐだけに、この先もトラブルがなければ尻上がりに調子を上げていくことだろう。狙いを定めるのは、第3週のピレネー山岳だ。

調子を上げてきたティボー・ピノ。総合表彰台を狙える位置につけている(第10ステージ)調子を上げてきたティボー・ピノ。総合表彰台を狙える位置につけている(第10ステージ)

 一方、今回は若手有望株の“出世大会”になるかもしれない。23歳のロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)は、ニバリから3分1秒差の総合4位と好位置に付けている。また、ここへきて調子を上げているティボー・ピノ(フランス、エフデジ ポワン エフエル)は3分47秒差の総合6位。ともに総合3位のバルベルデからは1分以内の差とあり、総合表彰台をうかがえるポジションだ。まだ気が早いが、若きフレンチクライマーたちがパリ・シャンゼリゼのポディウムで、トップ3の表彰を受けるとなれば、ホスト国フランスにとっては勝利に匹敵する喜びとなるだろう。

 同じく若手のティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)は総合7位で大会を折り返す。こちらも落車に苦しんだ大会前半だったが、残る2週間での復調に期待したい。

山岳賞はロドリゲスvsヴォクレールか

 ここで、総合争いから目を転じて、各賞ジャージの争いにも触れておこう。

ポイント賞争いはペテル・サガン(左)が圧倒的リード。着実にポイントを積み重ねている(第7ステージ)ポイント賞争いはペテル・サガン(左)が圧倒的リード。着実にポイントを積み重ねている(第7ステージ)

 まず、ポイント賞のマイヨヴェールは、ペテル・サガン(スロバキア、キャノンデール)が圧倒。287ポイントで、2位のブライアン・コカール(フランス、チーム ヨーロッパカー)に131ポイント差をつけている。中間スプリントポイント、ゴールともに確実に上位に入る得意の戦法で、ポイントを着実に積み重ねてきた。

 もちろん絶対はないが、これまでの戦いぶりを見れば、リタイアなどがない限りマイヨヴェール3連覇は濃厚だ。それでも今大会未勝利とあり、残るステージでは勝利をより意識していくことだろう。

一気にポイントを稼ぎ山岳賞トップに浮上したホアキン・ロドリゲス(第10ステージ)一気にポイントを稼ぎ山岳賞トップに浮上したホアキン・ロドリゲス(第10ステージ)

 山岳賞のマイヨ・アポア争いは、これから熾烈を極めることとなる。現在、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)が51ポイントでトップ。トマ・ヴォクレール(フランス、チーム ヨーロッパカー)が34ポイントで続く。2人は走りの中で山岳賞獲得を狙う明確な意思を示している。

 今後は超級山岳頂上ゴールも待ち受けるが、逃げ集団に乗ってポイント獲得を繰り返す方が賢明だ。その観点で見ると、中盤に1級・超級山岳が連続する第17ステージ(7月19日)がカギとなるだろう。

コンタドール落車の詳細

 第10ステージで落車負傷によりリタイアとなったコンタドールだが、徐々にその経緯が明らかになっている。

 テレビ放送では落車後の様子だけが映っていたが、2度の落車に見舞われていたことをチームメートや関係者が証言した。1度目の落車は、ジャージのポケットに手を伸ばしていた際に、道路のくぼみか穴でバランスを崩したのが原因。そこではニコラ・ロッシュ(アイルランド)のバイクを受け取って集団復帰を試みたが、1km先でまたも落車。どうやらこの2回目の落車が致命的だったものとみられる。

 2回目の落車は、手が雨に濡れ、バイクのハンドルを上手く操作できなかったことが理由として挙げられている。しかし、メーン集団で起こった1回目の落車を目撃した選手は多いものの、2回目は目撃証言が少ないようだ。

“レース中にスマホ”の珍事

“珍事”を起こしたルカ・パオリーニ(第2ステージ)“珍事”を起こしたルカ・パオリーニ(第2ステージ)

 第8ステージでは、ルカ・パオリーニ(イタリア、チーム カチューシャ)がレース中にスマートフォンを操作したとして、UCIからペナルティを科される珍事が起きた。UCI規則2.2.024で「レース中の選手による無線通信・遠隔通信は禁止(チーム無線は可)」とされており、それに抵触すると判断された。

 パオリーニは、「スタート前にジャージのポケットに入れたスマートフォンの存在を忘れていた」と弁明。彼はこの件を逆手に取り、第10ステージ後のロドリゲスとのTwitterでのやり取りで、スマートフォンの絵文字を大量入力し、自身の失態を笑い話へと持っていったようだ。

今週の爆走ライダー-トニー・ガロパン(フランス、ロット・ベリソル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 漠然と「マイヨジョーヌが狙えるかもしれない」との思いでメーン集団から飛び出した第9ステージ。トニー・ガロパンのレースは予想もできない展開を見せ、まさに夢が現実へと転化していった。

 メーン集団から約5分先行したグループは終盤、ガロパンのための協調体制が敷かれた。チーム ヨーロッパカー、アージェードゥゼール ラモンディアル、コフィディス ソリュシオンクレディの選手たちが必死にペースメイク。そして極めつけは、2年間チームメートだったファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)までもがガロパンのマイヨジョーヌ獲得をアシストしたことだ。フランス革命・建国を祝う「フランス国民祭」を前に、自国に栄光のジャージをもたらした。

フランス革命記念日に、マイヨジョーヌを着て走ったトニー・ガロパン(第10ステージ)フランス革命記念日に、マイヨジョーヌを着て走ったトニー・ガロパン(第10ステージ)

 父のジョエル氏は、1980年ツールでヨープ・ズートメルク(オランダ)の総合優勝をアシストした経験を持つ元プロライダー。また、おじのアラン氏はトレック ファクトリーレーシングのスタッフを務めるという自転車一家に育った。アラン氏のもとで2年間走り、今シーズンから現チーム入り。ゼネラルマネージャーのマルク・セルジャン氏が、クラシック要員として彼の獲得を熱望したのだという。

マイヨジョーヌ着用を決めたトニー・ガロパンは、フィアンセのマリオン・ルッスと喜び合った(第9ステージ)マイヨジョーヌ着用を決めたトニー・ガロパンは、フィアンセのマリオン・ルッスと喜び合った(第9ステージ)

 マイヨジョーヌ獲得を決めたミュルーズのゴール地点には、フィアンセのマリオン・ルッスさんが待ち受け、ともに喜びに浸った。マリオンさんもロット・ベリソルレディースチームの主力選手。このツールでは敢闘賞のポディウムガールを務めており、立場は違えど一緒にシャンゼリゼを目指している。

 第10ステージではリーダージャージを1日で手放すことになったが、レース中はその名誉をまとい、可能な限りの粘りを見せた。本人も手放すことは想定内だったという。それでも、今後長く続くであろうキャリアにおいて、ハイライトの1つになることは間違いないだろう。

 夢のような日々を経て、また新たな戦いが始まる。将来を嘱望される彼の未来はいかなるものになるだろうか。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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