山口和幸の「ツールに乾杯! 2014」<3>第一次世界大戦の激戦地を駆け抜けるプロトン ツールと共に国王、大統領が慰霊

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アルザスワインはなで肩のボトルが特徴 (山口和幸撮影)アルザスワインはなで肩のボトルが特徴

 ツール・ド・フランスは第8ステージでいよいよ山岳ステージに突入し、まずはボージュ山系へ。アルプスやピレネーのような超級カテゴリーの山岳はないが、中央山塊と同様に標高はそれほどでなくても一気に上る激坂がこつ然と出現する。そしてツール・ド・フランス101年の歴史を語れば、ピレネーのツールマレー峠が採用された1910年よりも早く、1905年に大会初の峠としてこのボージュ山系のバロンダルザスが採用されているのだ。

 Ballon d’Alsaceは「アルザスの気球」と訳されるように、ここはドイツ国境を有するアルザス地方だ。小学校の国語の教科書でドーデの「最後の授業」を読んだ人なら分かるように、ドイツとの普仏戦争に敗れたアルザス地方の学校ではフランス語が話せなくなるという、もの悲しい歴史を有する地である。

シュマンデダムで献花後にツール・ド・フランスを視察するフランスのオランド大統領 (©ASO)シュマンデダムで献花後にツール・ド・フランスを視察するフランスのオランド大統領 (©ASO)

 そんなアルザス地方を含むフランス北東部を2014年のツール・ド・フランスが訪問したのには極めて重要なメッセージが込められている。1914年の第一次世界大戦の開戦からちょうど100年目。ツール・ド・フランスを主催するASOは各地の自治体と共催して慰霊式を行っていくのである。

第6ステージはシュマンデダムを通過した (©ASO)第6ステージはシュマンデダムを通過した (©ASO)

 第5ステージのスタート地点となったイーペルはベルギー最大の激戦地で、スタート前には国王が英霊に言葉を送った。第6ステージの125km地点、シュマンデダムはドイツ軍と死闘を展開した古戦場。Chemin des Damesを直訳すれば「淑女たちの小径」となるのだが、現実は恐ろしい歴史の舞台だ。第7ステージの補給地点ベルダンはドイツ軍に壊滅的に破壊された町だという。

 このようにツール・ド・フランスの開催そのものが、まさに西洋の歴史をたどるものなのである。この世界最大の自転車レースの本質に触れたいなら、レース戦略や選手情報と同じくらいにヨーロッパの歩んできた歴史、もっといえば文化、宗教などを学んでみるとさらに興味深い事実に気づくはずだ。

第7ステージのサルドプレス(プレスセンター)はロレーヌ大学図書館 (山口和幸撮影)第7ステージのサルドプレス(プレスセンター)はロレーヌ大学図書館

 日本では祖国が空襲された第二次世界大戦の方が「戦争」のイメージが強いが、フランスではそれと同じ意味で第一次世界大戦の方がよく語られる。100年前のことなのですでに戦争経験者はいないはずだが、フランスのどんな村にも戦没者の名前を刻んだ慰霊碑があり、当時のことが語り継がれている。

 とりわけ若い男子が戦地に送り出され、帰らぬ人も多かったという悲劇を。1907年と08年の総合優勝者ルシアン・プチブルトン(フランス)、1909年のフランソワ・ファベール(ルクセンブルク)、1910年のオクタブ・ラピーズ(フランス)が出兵。二度と自転車レースに出場することなく、戦場の露と消えたという。

第8ステージのジェラールメール (山口和幸撮影)第8ステージのジェラールメール
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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