産経新聞【My Life 前を向いて】より天国の息子に背中を押され「つらいときも楽しく」 笑顔咲かせる自転車紙芝居師

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紙芝居を披露するさるびあ亭かーこ。さん =東京都小金井市(滝口亜希撮影)紙芝居を披露するさるびあ亭かーこ。さん =東京都小金井市(滝口亜希撮影)

 親子体験講座に夏祭り、盆踊り…。人の集まる場所ならば、赤紫色の浴衣姿に自転車をひいて現れる。大人も子供もひきつける、屈託のない笑顔とともに。

 「らっしゃい、らっしゃい。紙芝居はいかがですかー」。6月1日、東京都小金井市でのイベント。紙芝居師、さるびあ亭かーこ。さん(45)の声につられ、親子連れが一組、また一組と集まり出した。自転車の荷台に据えられた“舞台”で始まったのは、食育紙芝居だ。

 「豚バラ肉には別名があるんです。分かる人ー」。手作りの紙芝居をめくると「3段バラ」「3枚肉」「3枚目」の文字と絵が現れた。一斉に子供たちの手が挙がる。答えは「3枚肉」。太鼓をたたき、「大正解!」と盛り上げた。

 「ふざけていても『なるほど』を持って帰ってもらいたいんです」。内気な子も手を挙げられるよう、クイズは分かりやすく。遠くから見えるよう、絵はカラフルに。そして、アドリブを楽しむ。10分ほどの作品にも、笑顔を咲かせる心遣いがちりばめられている。

10年以上入院の末

 「つらいときもこの人といると楽しくなれる。そういう存在でいたい」。原点にあるのは、17歳で亡くなった長男、航汰(こうた)さんの10年以上に及んだ入院生活だ。

 平成11年。ぜんそくで入院したはずの6歳の長男は、ベッドでけいれんしていた。「いつもウケを狙っていた子」だけに、思わず「何ふざけてんの」と声をかけた。急性脳症だった。

 2週間後に目を覚ましたが、頭以外はほぼ動かせず光も失った。呼吸器をつけ会話もままならない。「早く殺してくれ」と繰り返すようになった。パニックで舌の一部をかみ切ったことも。「一緒に死んじゃおっか」と泣く日々が続いた。

 「面白おかしく前向きに生きていこう」。そう思えたのは、同じ境遇の親たちと接し、「みんな頑張ってるんだ」と知ったからだ。漫画を音読し、ゲームは実況中継した。にぎやかな病室で会話の輪が広がった。

初披露で泣き笑い

 そんな中、紙芝居師のオーディションがあるのを知った。迷いもしたが、航汰さんは「プロになって僕の好きなものを買ってくれ」と背中を押してくれた。

 修業を経て、21年11月にデビューを果たす一方、航汰さんは容体が悪化。意識を失うたび「死に神に会ってきた」とおどけたが、17歳になった直後の翌年1月、息を引き取った。

 最期は医師と心臓マッサージをしながら17回数えたところで手を引っ込めた。「あ、抜け殻だ」。そう悟ったからだ。なじみの看護師らと遺体を清めた。人生の多くを過ごした病院。「10年かけてみんなで育ててくれた」と思っている。

 出棺前、修業で何度も何度も練習した「黄金バット」を披露した。初めて息子に見せる紙芝居。見せ場は黄金バットの高笑いだ。でも、涙が止まらない。会場に、泣き笑いが響いた。

 地元の東京都町田市を中心に活動を続け、昨年5月には笑い療法士の資格を取った。病院なども訪れる。

 「つらい中に面白いことがちょびっとあったから、面白い思い出にできたんだと思う。人生はつらいときも、ポジティブに。それを息子に学ばせてもらった」

 笑いを届けるために、自転車紙芝居は今日も行く。(産経新聞 滝口亜希)

MSN産経ニュースより)

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